コメント・書評 |
昔、昔、ヨコハマのお話
つきこ
Sep 6, 2008 9:54:51 AM
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評価 ( ★マーク )
★★★★
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タイトルが表す通り、イトウという人物の恋の顛末を綴った物語です。ですが、恋バナに終始するお話でもありません。
物語の始まりは現代の横浜から。冴えない私立中学教師久保耕平が、屋根裏の旅行鞄の中で眠っていた古い手記を発見し、廃部寸前の郷土部の活動を盛り上げようと画策したことから始まります。続いて登場するのが元モデルにして人気劇画「ビースト海峡」の原作者田中シゲル、イトウの孫の娘です。ところで明治維新後間もない日本で、通訳として活躍した青年イトウの恋の相手は英国人旅行家I・B。「日本奥地紀行」を著したイザベラ・バードに想を得た人物です。耕平とシゲル、イトウとI・Bという時代を違えた二組の男女を登場させ、いきなり明治の昔に飛んでもついて来られないだろう現代人への配慮が行き届き、手記を読み進む形で現代と過去を繋ぎます。
母親ほども年が違う、人種が違う、階級が違う。そんな二人に恋が芽生えるとは何と不可解な。けれど年齢や容姿といった外見的要素を越え、その人のもつ公平さとか高潔さやユーモア。そんなものに惹かれることもまた起こり得るのかもしれないと、時代も何もかも違う二組の男女を通じて浮かび上がらせる手法が周到です。
畢竟、恋とは不可解なもの。そうなるとは思わなかったのに、こうなってしまった。そんな不可解さとともに生きるのも人生。そして不可解さのうちでも最たるものの恋を描きながら、ただ幸福なばかりでもない人生で不可解さと共に生きることを、手記が教えてくれる、物語が教えてくれる。”娘、おまえは誰のようにもなる必要はない。おまえ自身の不可思議な人生を生きるのだ”その言葉に辿りついた時救済を感じるのは、きっと娘に限らないと思います。
僕なんかが頑張ったところでどうせと、やる気のなさ全開だった郷土部員赤堀くんが、彼自身の人生を歩み始める姿。彼に限らず各人が、誰のものでもない自分の人生を生きる姿には、お約束とはいえ心励まされます。
そういえばイトウのフルネームは伊藤亀吉なのですが、「日本奥地紀行」に登場するのは伊藤鶴吉。著者のユーモアはこんなところにも生きてます。
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