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飛驒の怪談
幽BOOKS
新編綺堂怪奇名作選
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コメント・書評 |
京極夏彦の香りもほのかに漂う、時系列的にはこちらの方が遥か昔に誕生した怪奇小説です。
つきこ
Jun 29, 2008 5:15:48 PM
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評価 ( ★マーク )
★★★
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岡本綺堂。とっくの昔にお亡くなりになった方です。本書はそんな綺堂の幻の長編小説と、単行本未収録の珍しい戯曲および怪談実話をまとめたアンソロジーです。表題作も初出は昔むかし、なんと大正二年です。
にもかかわらず、文章がとても読みやすい。時の試練に耐える文章とはこういうものかと目が覚めるようでした。言葉遣いは当然古いのですが、その古さがかえって新鮮。「怪物」に「えてもの」なんてルビを振られると、かえってワクワクします。日本語はこんなにも豊かだったのかと思う、平凡な人生を歩んでいたら絶対に出逢うことのない非常用漢字のオンパレード(注:ルビ有り)に目が眩みます。九十年前の人に向けて書かれた怪談話。さて現代にもその怖さは通じるのでしょうか。
幻の長編小説の舞台は山深い飛騨、時代は大正。続発する猟奇事件の背後に暗躍する謎の妖怪「やまわろ」。妖艶な美女をめぐるロマンスとサスペンス。そして結末に至って明かされる、壮大にして奇想天外な歴史秘話とは。
というあらすじですが、サスペンスと銘打つだけあって「半七捕物帳」の著者らしい顔ものぞきます。飛騨といういかにも日本的な舞台を用意しながらも、そこに繰り広げられるのは、近代精神溢れたびっくりするほど奔放な物語。単なる怪異譚に見せかけて、民俗学や謎解きや制御不能な恋心など、読者を楽しませる要素をたっぷり盛り込んで、見たこともない怪奇小説の一丁あがりとなりました。
そして、名文とか美文とか。その意味するところをしかと説明できるわけではありませんが、多くの文章家が綺堂の文章を美文と賞賛するのもしかり。「…やまわろなるものの正体はそもどんなであったか」ベベン!と、時に脳内で講談風BGMが勝手に鳴り響き、そんなリズムを産み出す物語世界に魅了されました。とまで書けば誉め過ぎかもしれませんが、90年前に書かれたものが、こんなにもエンターテイメント性溢れていることが、何よりも驚きでした。
ただ読了後、胸に去来するのは一抹の淋しさ。怪物を産み出すものは何なのか。九十年を経た現代にも十分その怖さが通じるなんて、時の流れは何だったのか。暗然たる思いがします。
名作「木曾の旅人」の戯曲版「影」も併録し、雰囲気を盛り上げてくれる挿画は何と月岡芳年と、大変贅沢な一冊です。とはいえ2300円という値段が…。もうちょっと安ければおすすめしやすかった。そこがネックとなって星三つなのですが、でも掌編がおまけについてきます。(おまけという言い方は語弊がありますが)掌編ですよ?怪談の。そこに付加価値を認める読者もきっといるに違いない。
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