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ヒトラー・マネー
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コメント・書評 |
ナチス・ドイツが行ったポンド紙幣偽造作戦の全貌
ブルース
Mar 11, 2008 10:10:17 PM
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評価 ( ★マーク )
★★★★
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ナチス・ドイツが、イギリスのポンド紙幣の偽造を組織的に行ったことはあまり知られていない。本書は、アメリカの経済ジャーナリストが、秘密のベールに包まれていた偽札作戦の全貌を、多年の資料収集を積み重ねて明らかにした注目作である。
本書の読みどころの一つは、この偽札作戦がディーテール豊かに描かれていることである。前半では、ナチス親衛隊が組織的に偽札を造るうえで必要な機密保持のために、強制収容所に収監されている職人たち(印刷工・機械工・インク工など)を選抜するところから始まり、いかにして精巧な偽札を造れるようになったかが辿られている。 この中で印象に残るのが、この作戦の責任者であるナチス親衛隊のベンルンハルト・クルーガー大尉が囚人たちの創意工夫を引き出して高品質の偽札を造ることを可能にした労務管理体制を築き上げた過程である。著者によれば、ベンルンハルトは、囚人たちの意欲を引き出すために、まず彼らに充分な食事を与え、衣住についても優遇し、見下した言葉遣いをしないように気を配ったという。これは、簡単なことであるように思えるが、ユダヤ人絶滅を図る強制収容所では、露見すれば死刑に処せられる恐れのある「肝の据わった」行為であった。つまり、ベンルンハルト大尉は、体を張って職人囚人たちの安全を図ったことになり、それが囚人たちにも伝わって、ポンド偽造作戦は動き始めたという。これらの囚人たちによって造られたポンド紙幣は、専門家にも容易に見極めることが難しい程の出来栄えで、闇ルートに乗ってイギリス国内やその勢力圏に大量に入り込むと、英国経済は打撃を受け、後に大英帝国が没落する大きな要因となったという。
本書のもう一つの読みどころは、ポンド偽造に対するイギリスの対応の仕方やドイツ通貨マルクの偽造に着手する有無についてアメリカや英国の政権内部で激しい対立があったことが明らかにされていることである。 ナチス親衛隊によるポンド偽造作戦が、かくも大きな成果を収めた裏には、イギリス銀行の対応の甘さがあったと著者は指摘している。ポンド紙幣は非常に精巧に造られており、事実上偽造は不可能とイギリス銀行は思っており、数々の有益な警告にも耳を貸さなかったという。これは、イギリスにとって取り返しのつかない失策になったことは言うまでも無い。 他方、イギリスやアメリカでもドイツ通貨マルクの偽造が検討されており、結局モラルに反することや有効性が期待きでないことなどから見送られている。この中には、経済学者のケイインズ(反対派)、アメリカの文豪ジョン・スタインベック(推進派)などの意外な著名人が名を連ねている。
本書は、このように今まで充分には知られていなかったポンド紙幣偽造作戦を白日のもとに明らかにしており、貴重な知見を提供している。 ただ、難を言えば、ポンド紙幣偽造作戦に心ならずも従事させられた強制収容所の囚人たちの複雑な心のうちがあまり描かれておらず、読後感を弱めていることである。ナチス・ドイツを利する作戦に使役される一方、この作戦が続く限りは命が保障された囚人たちのアンビバレントな心のうちは察するに余りある。こうした彼らの苦悩にもう少し筆を割いていれば、本書はより一層の衝撃をもって読者に迫って来たであろうと惜しまれる。
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