コメント・書評 |
出会いと喪失
久我忍
Mar 1, 2008 10:46:27 PM
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評価 ( ★マーク )
★★★★
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表紙買いした一冊ではあるけれど、いい買い物だったと思える本。文体も読みやすくさらりと読めるが内容は決して軽くはない。悲劇もあれば本文では語られない戦いの過去もある。それでも本作の読後感が温かく感じられるのは、「救い」があったからだろう。
主人公の「私」はある冬の日に、身投げしようとしているセリアという少女を助け、何故か結果的にレーイと名乗る不思議な青年に命を助けられることになる。 レーイは徹底的な秘密主義を貫いていた。だが新聞に掲載された美術的価値の高い手鏡と櫛を自分のものだと言い張る老婆や、歌姫パレオロッタとの係わりによって主人公はレーイが老いることなく、見かけよりもとても長く生きていること、そして人ならざる不思議な力を持っていることを察する。 だがそれでも、二人の関係に変化はなく、やはりレーイは気まぐれに主人公の家を訪れてはお茶を要求した挙句、お茶の淹れ方を学んだ方がいいなどと憎まれ口を叩く。この関係の維持が、お互いを信頼した結果のものならばそれはレーイにとっても主人公にとっても幸運だっただろう。だがこの時点では、二人の間にあったのは信頼ではなく壁のようなものだった。関係が変わらないのは必要以上に互いのことを詮索せず、上辺だけのつきあいだったが故だ。 だがトゥリスという少女の登場によりこの関係に変化が生じる。
「彼は私の友人だ」
上辺だけの付き合いを続けていたと思うことはあれど、けれど見捨てることが出来る筈もない知り合いという立ち居地から明らかな友情へと。 主人公はレーイとの出会いによって一つの喪失を経験すると同時に、一つの失い難いものを得た。けれどそれはレーイにとっても同じだろう。友人だと、断言できる関係というのは容易く得られるものではないし、老いることがないために人々を遠ざけ、一箇所に定住することを避けていたレーイには普通の人々よりも手に入れることが難しいものだ。 二人が失ったものはとても大きい。 だがレーイを助けた温かい光は、その主はきっと、この結末を心より喜んでいるのだろうと思う。そしてその救いの存在こそが、私がこの作品を好きな理由なのだろう。
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