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文壇アイドル論  文春文庫

文壇アイドル論(文藝春秋) 斎藤 美奈子著
税込価格: ¥660 (本体 : ¥629)
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出版 : 文藝春秋
サイズ : 16cm / 318p
ISBN : 4-16-771708-5
発行年月 : 2006.10
利用対象 : 一般

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コメント・書評

なっとくの1冊
T.O.
Nov 22, 2006 1:17:25 AM
評価 ( マーク )
★★★★★

 単行本で出たときから評判になっていたこの本ですが、文庫本化を機に手にしました。取り上げられているのは、いずれも80年代から90年代に一躍ブームを巻き起こした、村上春樹、俵万智、吉本ばなな、林真理子、上野千鶴子、立花隆、村上龍、田中康夫の面々。斎藤美奈子の、いつもながらの鋭い指摘と歯に衣を着せない明快な論調は、この本でも健在で、読んでいて心地よかったです。しょっぱなから、村上春樹が提供する「ハルキランド」はゲーセン(ゲームセンター)であるとの比喩にまず興味を引かれ、吉本ばななの作品をコバルト文庫のそれになぞらえるという分析に、なるほど両者の読者層には共通点があるかもしれないなと納得させられ、上野千鶴子は「『フェミニズムの旗手』ではなく、遅れてきた『リブの闘士』である」との指摘には、言い得て妙だとうなずかされながら読み進みました。後に進むほど面白さは増し、立花隆の箇所は「おおっ」と身を乗り出す感じ。そして最後の田中康夫については、まさに見事な分析だったと思います。
 立花隆については、同じく田中角栄についてのルポルタージュをモノにして注目されたルポライター児玉隆也を紹介し、児玉隆也のルポの仕方、すなわち「自ら現場に足を踏みいれ」、「地を這うような取材」をし、「対象の匂いを伝えようとする」やり方と、立花隆の手法、つまり「大量の人員と経費を投入して真正面から対象に攻め入る」方式とを比較した分析にはじまります。そして、その手法の違いが、二人の書く文章にも差となってあらわれるとの指摘のもとに、それぞれの田中角栄に関するルポルタージュの引用へと続きます。以前読んだ、立花隆の元秘書、佐々木千賀子の『立花隆秘書日記』もふっと思い出して、立花流の取材方法はいかにもそうであったな、と納得しつつ読みました。この章はさらに立花隆その後の活躍に触れ、彼を必要とした時代の背景を分析し、その立花隆をしての限界、ウィークポイントにも言及があって、読み応えのある一章となっています。
 田中康夫については、彼のデビュー作『なんとなく、クリスタル』の分析をベースに展開します。つまりこの作品は、ルポっぽい「本編」で漫才のボケに当たる部分を担当する語り手と、批評っぽい「注」でツッコミを担当する語り手という二人の語り手が内包されていること、そして「注」の語り手が、「本文」の語り手に対して茶々を入れてからかっているとの指摘です。なるほど、と思われる指摘で、はるか昔に読んでいまひとつピンとこなかった『なんとなく、クリスタル』の位置づけ、というか、作者の意図というかが、これでようやく納得できたように思いました。
 この本は、斎藤美奈子の視点の確かさ、鋭い洞察力がいかんなく発揮された優れた批評集だと思います。彼女の分析を読むと、ここに挙げられたそれぞれの人について、自分がそれらの作品を、なぜあの時はあんなに熱中して読んだのに今は読まなくなったのか、とか、なぜこれまでまったく手に取る気にならなかったのか、とか、あるいは、なぜ小説よりもエッセイの方を好んで読んできたのか、などなど、それぞれ思い当たるところがあり、納得した気分になりました。このような斎藤美奈子の鋭い指摘が、彼女の勢いのある文章や、思い切りのいい言葉遣い、時に示される「やんちゃな」表現や辛辣さとうまく融合しており、楽しんで読むことができた1冊でした。
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