コメント・書評 |
心に静かな余韻が残る短編集
T.O.
Sep 21, 2006 1:29:35 AM
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評価 ( ★マーク )
★★★★★
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読み終えた後、心に静かな余韻が残る短編集。4つの短編のいずれも、「僕」という一人称で語られ、「僕」がこれまでに出会ったり、今も付き合っている女性とのラブ・ストーリーが描かれます。ラブ・ストーリーといっても、話は、「僕」が彼女と出会ったころの思い出を語るものであったり、「僕」の前から姿を消した女性の話であったりして、その語り口はあくまでも静かなトーンとなっています。もっとも、「僕」がその女性や、その女性と出会えたことを大切に思う気持ちは、その静かな語り口からも、切々と伝わってきます。なので、必ずしもハッピーエンディングではない話が多いのですが、そんな話も、しみじみとした切なさは感じられても、暗く落ち込む話とはならず、読後感は悪くありません。 4つの短編のうち、とりわけ「ケンジントンにささげる花束」と「九月の四分の一」とが印象的でした。前者は、このBK1の書評でも紹介されていましたが、おりしも今年「惑星から降格」して話題となった「冥王星」の話が冒頭に出てきます。その「冥王星」が発見される1年前の1929年にイギリスに渡った日本人男性とイギリス人女性との、第二次世界大戦を背景に貫かれた純愛話と、「僕」と恋人との微妙な関係とが、「冥王星」発見のエピソードを絡めて描かれます。ほのぼのと暖かい話です。作中で作者は、「冥王星の存在する宇宙と存在しない宇宙」と対比させて書いていますが、たとえ「惑星から降格」した今でも、作者に言わせれば、「冥王星は変わらず存在する宇宙」ということになるのでしょうね。「冥王星」が、「発見」されて70数年を経て再び話題になったまさに今年、この作品を読むと感慨深いものがあります。 表題作である「九月の四分の一」も印象深い作品です。「世界一美しい広場」とヴィクトル・ユゴーが評したブリュッセルのグランプラスで「僕」が出会った「彼女」と過ごした六日間。彼女との距離を縮めたくて、それでも縮めると何かが壊れそうな気がして躊躇して過ごした六日間。十三年後、再びグランプラスを訪れた「僕」が、その彼女と過ごした六日間を回想します。二人が気遣った、その「壊れそうな何か」というのは、お互いの関係だけではなくて、二人ともがそれぞれ心の中に抱えている「何か」でもあって、そんな微妙な気持ちで互いに過ごした六日間でした。そんな二人の細やかな気遣いの様子を描きながら、他方で、「何しろ実存主義的な恋」なのだから、「要するに発展も破綻もしにくいものである」などという軽い揶揄的な表現もあって、その気遣いを深刻に見せまいとする二人の様子が伺われて、うまいな、と感心させられました。どういう意味なのだろう、と当初から気になっていたタイトルの「九月の四分の一」の意味するところも最後に分かって、さらにこの作品を印象深いものにしました。 |
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