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無限の天才
夭逝の数学者・ラマヌジャン
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内容説明
19世紀末南インドに生まれた天才数学者ラマヌジャン。数学研究に没頭し、独学で数多くの公式を発見。本書は彼と彼を認めて英国へ呼び寄せ共同研究をした英国の大数学者ハーディ、二人の天才を描いた感動的な評伝である。
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コメント・書評 |
天才、男、友情、女、嫁姑、文明、戦争
松浦晋也
Nov 26, 2003 7:39:00 PM
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評価 ( ★マーク )
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これは一人の天才の物語である。その名はシュリーニヴァーサ・ラマヌジャン。1887年に南インドのクンバコナムに生まれた彼は、厳密な証明を旨とする西洋の数学とは独立して、恐ろしく奇妙な、しかし確かに天才の技としか思えない巧妙にして美しい数学研究を展開し、32歳で夭折した。
これは2人の男の物語である。ラマヌジャンと、ゴッドフリー・ハロルド・ハーディ。1913年、ハーディは35歳にしてすでに著名な数学者だった。ケンブリッジ大学に在籍していたハーディは、自分の才能を証明してくれる人を求めるラマヌジャンからの手紙を受け取る。その才能を見抜いたハーディは、万難を排してラマヌジャンをイギリスに呼びよせる。彼は、直感に頼ったラマヌジャンの研究に厳密な証明を与え、同時に過去数世紀の西洋数学の成果をラマヌジャンに伝える。ラマヌジャンはハーディの期待に応え、2人の共同論文が次々に生み出されるが、ついに2人の間に学問上の尊敬以上の友情が芽生えることはなかった。
これは2人の女性の物語である。ラマヌジャンの母であるコーマラタンマルと妻のジャーナキ。コーマラタンマルは息子を溺愛し、息子のためになら何でもした。それは同時にラマヌジャンを母として支配しようとすることであり、その妻もコーマラタンマルが選んだのである。選ばれたジャーナキは、夫となる男の顔すら知らぬまま13歳で嫁ぎ、コーマラタンマルの下で過酷な生活を強いられる。彼女らは、ラマヌジャンを挟んで激しい嫁姑の戦いを繰り広げる。ラマヌジャンが結核による死の床についた時でさえ、その諍いが止むことはなかった。唯一にして無二の天才は、死を目前にしてすら、共に愛する2人の女性の確執に苦悩しなければならなかったのである。
と、同時にこれは2つの文化とひとつの戦争の物語でもある。湿度の高いモンスーン気候で発達し、厳密なカースト制度を持つ南インドの文化と生活習慣。そして、低湿度で冷涼な気候の中で発達したイギリス貴族の文化。 戒律を破ってまで渡英したラマヌジャンは、どうしてもイギリスになじむことができない。プライバシー尊重を基本原理とするイギリス貴族の対人関係は、より人々が密着している南インドのバラモン出身の彼にとってよそよそしく感じるばかりだ。 孤独感の中でラマヌジャンは必死になって食生活におけるバラモンの戒律を守ろうとする。しかし食事のすべてを母に頼っていた彼は、満足な料理の技能を持ち合わせていなかった。折悪しく第一次世界大戦が始まり、ドイツのUボートによる通商破壊作戦が、イギリス-インド間の物流を寸断する。ただでさえ逼迫する食料事情の中で戒律にこだわるラマヌジャンは栄養失調の坂道を転がり落ちていき、やがて結核を病んでしまう。
天才、男、友情、女、嫁姑、文明、戦争——これだけそろって面白くないはずがない。数学にのみならず、科学全般に興味を持つ人にとって、本書はどんな小説よりもすばらしいエンタテインメントとなるだろう。 著者は本文中で、いくつかラマヌジャンの研究をわかりやすく紹介している。紹介される数式はどれも謎めいていて魅惑的で、しかも確かにただのでたらめではなく何か堅固な数学的実体の現れと感じられるものだ。彼のノートに残された数式は、今もなお未解明の謎を含んでおり研究が続いているという。 おそらく真のエンタテインメントはそれらの数式の中にこそあるのだろう。天才ならざる我々は、本書でその片鱗に触れることしかできない。数学の才能を持ち合わせていないことが非常にくやしく思えるほど面白い一冊である。
(松浦晋也/ノンフィクション・ライター)
関連書
『ある数学者の生涯と弁明』 G.H.ハーディ/C.P.スノー著 シュプリンガー・フェアラーク東京
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