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収録作品一覧
パン屋再襲撃 | 9-36 | |
---|---|---|
象の消滅 | 37-70 | |
ファミリー・アフェア | 71-122 |
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紙の本
主人公はいずれも「僕」。粒ぞろいの短編集
2001/01/21 12:21
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投稿者:白井道也 - この投稿者のレビュー一覧を見る
6つの短編が収録されている。
表題作の『パン屋再襲撃』は、夜中に空腹に耐えられなくなった「僕」と妻が、パン屋を襲おうとする物語。“再”襲撃なのは、「僕」がかつてパン屋を襲撃したことがあるから。引け目な「僕」とは対照的に、妻が乗り気なのが印象的。金がないわけではない。なのに、深夜営業のレストランなどには行かず、パン屋を襲おうとする。その姿は倫理的ですらあるし、その感触が、コミカルで不可思議な雰囲気を産んでいる。
『象の消滅』は、町の象舎から象が消えてしまったことが奇妙に心に残ってる「僕」の話。象の消滅事件の謎めいた雰囲気と、それとは対照的な理路整然とした記述(例えば随所に現れる時刻の数字や、箇条書き)のバランスが面白い。
『ファミリー・アフェア』は、村上春樹には珍しい家族ドラマ。「僕」が妹の婚約者と会い、彼を受け入れていくまでを描く。とはいえ、筆使いは決してセンチでもメロウでもなく、淡々としている。いつも以上に春樹的なジョークを言う「僕」の姿が、兄としての「僕」の違和案を現わしている佳作。
『双子と沈んだ太陽』は、双子の姉妹と別れた「僕」の喪失感を描く。この双子——それぞれ208と209という番号のついたトレーナーを着ていた——は、『1973年のピンボール』に登場していた双子である。
『ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界』は、風が強く吹いた日にガールフレンドが「僕」の家に来てカキ鍋を作る話。何気ない光景に分単位の時刻が紛れ込み、異様な感触を産んでいる。タイトルが秀逸。
『ねじまき鳥と火曜日の女たち』は、平穏に過していた「僕」の火曜日をいろんな女たちが刺激する物語。ねじまき鳥は、ネジを巻くような泣き声を出す。ねじまき鳥の反復性と、女たちの突発性。その中で、「僕」は一日を過し、日々を過し続ける。
主人公はいずれも「僕」だが、バリエーションは豊富な作品群。いずれも短編ながら確かな読み応えがあり、粒ぞろいだと言える。