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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2006.2
- 出版社: 紀伊國屋書店
- サイズ:20cm/262p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-314-00999-3
紙の本
脳のなかの倫理 脳倫理学序説
脳科学の未来は人間に何をもたらすか? 記憶を良くし、「賢い」脳を創り、脳の中の思想や信条が覗かれる時代が間近に迫る。傑出した実験神経科学者がその是非を問う、刺激に満ちた脳...
脳のなかの倫理 脳倫理学序説
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商品説明
脳科学の未来は人間に何をもたらすか? 記憶を良くし、「賢い」脳を創り、脳の中の思想や信条が覗かれる時代が間近に迫る。傑出した実験神経科学者がその是非を問う、刺激に満ちた脳倫理学の本。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
マイケル・S.ガザニガ
- 略歴
- 〈マイケル・S.ガザニガ〉ダートマス大学のデイヴィッド・T・マクラフリン特別教授、同大学認知神経科学センター長。大統領生命倫理評議会のメンバー。著書に「社会的脳」など。
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紙の本
脳は「信じたがる」ものか
2006/06/23 09:46
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本の内容は大きく二つの視点にわかれているといってよいだろう。一つは「脳死判定」や「受精卵の遺伝子診断」のように、現代の科学であらわになってきた新しい倫理の問題に脳科学の立場から最新の知見を提供すること。二つ目は倫理そのものについて、脳の神経活動の面から説明できる部分があるかどうかを検討すること。
本書全体の八割は前者にあてられている。脳の科学に興味を持っている読者にはそれほど新しい情報が提供されているわけでもない感じがするが、これまでそういう情報を得る機会が少なかった人には整理されているので考える良い材料になるかもしれない。例えば『被告側の弁護士は、クライアントの脳画像から一画素分でもいいから異常を見つけたがっている。』『脳に異常があれば本人に行為の責任はない』というのは昨今の日本での殺傷事件にもあてはまる言葉であるが、どこまでこの論理で判断できるのかを考える科学的な現在の状況を知ることができる。科学者側からの意見であるが、直感的、感情的な反応についても考慮して書かれているので、議論のポイントはわかりやすい。
後者の部分は著者の専門分野にも関わるところでもあり、あてられたページ数は少ないが今後の展開も興味深く、示唆に富む内容である。
著者は左脳、右脳の研究で有名な実験神経科学者で、邦訳もされている「社会的脳」(青土社 1987)では「人間の脳は、多数の独立した機能のモジュール(心理システム)が連合の形をとって共存して働くように構成されている。」という概念を、実験を丁寧に説明しながら解き明かしてくれた。モジュールごとに機能している脳を統合する働きも脳の中にはあり、その統合機能がときとしては「辻褄あわせ」の奇妙な理屈を作り出したりもするのである。そういった知見の延長線上に、本書では「脳の解釈装置」「信じたがる脳」「脳は信念を作り出さずにはいられない」などの言葉を用い、人間の脳の中に「信念」が作り出される仕組みがある、との考えを展開する。
脳が特定の「信念」を作り出しているかどうかは別としても、脳の中に「信念」を保持し、高い優先順位をそれにあたえている機構があるだろう、ということは充分考えられる。「信念を作り出す」かどうかは今後の研究を待つ部分がまだまだあると思うが、信念・価値観・倫理などという、人間が「絶対」と思い込むものがどのようにして脳の中に定着するのか、し続けるのかについての理解が進めば、さまざまな衝突を解決する方法にもまた新たな展開が望めるかもしれない。その一方、「その機構を悪用されて信念を操作されてはかなわない」という恐れも感じないわけではない。そういうものこそきちんと社会的に、倫理的に規制を考えねばならないだろう。
著者自身の立場は大変楽観的なように思われる。現実の生命倫理問題についても、「これまでも人類は正しい判断を選択してきた」といい、「(脳の中に)人類共通の倫理が存在するという立場に立って努力を」と書いている。このあたりは著者とは異なる意見もあるだろう。私自身は「生き残れる範囲での正しい判断をして来たからこそこれまでまだ地球は残っているが、これからも正しい判断ができるとは言い切れない」と思うし、「人類共通の倫理が存在しないと実験的に証明された場合の事も考えて努力を進めなければならない」と思う。
ともあれ、著者の提起した問題はこれからのこの分野に新しい視点を持ち込むものとして重要なものになるのは間違いないと思う。科学の進展に遅れないよう、議論も進展していかなくてはならない。後半部だけでも一読をお勧めしたい。
紙の本
内容紹介
2005/12/27 17:55
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紀伊国屋書店 - この投稿者のレビュー一覧を見る
脳倫理学(Neuroethics)とは
「人間の脳を治療することや、脳を強化することの是非を論ずる哲学の一分野」(『ニューヨークタイムス』より)
*****
罪を犯す前の「犯意」でもって逮捕されるSF映画『マイノリティ・リポート』が現実のものとして見えてきた! 記憶を良くする薬の開発、運動能力を高める遺伝子操作、「賢い」脳を創る試みが進行中で、法廷での証人の発言に脳指紋法が使われる——未来はバラ色?それとも悪夢の社会か?
脳のなかの思想や信条を読み取ることも射程に入ってきた現在——脳科学の新時代における倫理と道徳をめぐる問題を、世界を代表する神経科学者ガザニガが考察する。2001年より米国「大統領生命倫理評議会」のメンバーとなって考えてきた著者ならではの迫真の内容で、新しい分野「脳倫理学」が直面する重大な課題を浮き彫りにし、読者へ考える材料を提供する。
*****
<著者紹介>
マイケル・S. ガザニガ(Michael S. Gazzaniga)
ダートマス大学卒業(1961年)、カリフォルニア工科大学心理生物学でPh.D(1964年 )。現在、ダートマス大学のデイヴィッド・T.マクラフリン特別教授で、同大学認知神経科学センター長。2001年より大統領生命倫理評議会のメンバーを務める。米国芸術科学アカデミー会員。米国心理学会の次期会長。左脳と右脳の研究で世界的に知られる。著書に『社会的脳』(邦訳:青土社)、『二つの脳と一つの心』(邦訳:ミネルヴァ書房)、『Cognitive Neurosciences Ⅲ』『The New Cognitive Neurosciences』などがある。
紙の本
生命倫理をもっともっと考えよう
2006/06/03 09:28
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:未来自由 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近注目している、といっても注目していることは多いのだが、「脳科学」と「生命倫理」問題がある。特に「生命倫理」の問題では、脳死問題や遺伝子研究問題など人間の生と死に関わることに関心をもっている。「生命倫理」の問題は、倫理よりも、利益と直結した研究が先行する現実に危惧を抱いている。
本書は、脳神経科学の最先端といわれている著者が、脳科学の現在と倫理問題を論じている。副題に「脳倫理学序説」とあるように、「生命倫理」の中でもとくに「脳」に関する倫理への問題提起と著者の見解を示したものである。
「胚はいつから人になるのか」の論稿にもっとも注目した。「脳が持続的に活動できるようになるのは、受精後だいたい23週頃から」という。しかし、著者は言う。「胎児がいつから人になるかという問題には、脳神経科学の理屈が通用しないのだ」という。これは、まったくそのとおりだと思う。
「連続性」を考えれば受精直後が人の誕生と考えられる。ところが、「一卵性双生児は、一個の受精卵が何らかの理由によりふたつに分裂したために生まれるもので、この分裂が起きるのは、通常、受精後14日以内である。ひとりの人間が、ふたりの人間になるわけだ。さらに奇妙なことに、ふたつに分かれた受精卵が再び合わさって、ひとつの受精卵に戻る場合がある」という。で、受精の瞬間に『個人』の独自性が生まれているとは考えがたいと著者はいう。
なかなか興味深い視点が示されており、こうした論議もあるのだと知るうえでは参考になる。しかし、著者の主張には納得できがたいことが多々ある。あまりにも機械的であったり、観念的であったりする。
科学と人間の問題で「たしかに私たちは、核爆弾の恐ろしさを知りながら、いまだに作り続けている。だが、現実を眺めてみてほしい。研究室からはプラスの成果が生まれるほうが圧倒的に多く、おかしな用途が考え出されるケースはごくわずかである」という。そして、「歴史を振り返れば、常軌を逸した現象は繰り返し現われてきた」「その一方で、人間がそれらを取り除いてきたのもまた事実である」という。だから、どんな研究も「大勢に影響はない」という。
脳の中にある倫理がいつも働くから大丈夫なんだという。これには唖然とする。誤っても後でちゃんと修正されるから大丈夫なんだという。悲劇は取り返せないことに思いが至っていないのではないか!
「たしかに私たちは原爆を作った。だが、二度と使わないという不退転の決意を固めてもいる」。だから大丈夫なんだともいう。まってくれ!先の文章で「いまだに作り続けている」と言ったではないか!
参考になることも多いけれど、問題を多く抱えた書でもあった。脳の中に倫理があるという不十分な認識が、現実の社会的な矛盾を十分に理解できない要因だろう。人間の認識は現実の反映であり、先に脳に組み込まれた倫理が働くという著者の主張は逆転した観念である。