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商品説明
婿入り先から追い出され、職を失い、すがった相手は神は神でも人に仇なす厄病神。時は幕末、動乱の世に、貧乏旗本・彦四郎の選んだ真実の生きる道とは? 『小説新潮』連載を単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
浅田 次郎
- 略歴
- 〈浅田次郎〉1951年東京都生まれ。中央大学杉並高校卒業。「地下鉄に乗って」で吉川英治文学新人賞、「鉄道員」で直木賞、「壬生義士伝」で柴田錬三郎賞を受賞。著書に「天切り松闇がたり」など。
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紙の本
「律義者じゃあねえ、江戸っ子だ。」
2005/10/26 14:01
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
浅田作品の中には、いくつか「超常現象」を扱ったものがある。「メトロに乗って」や「鉄道屋」、「椿山課長の七日間」等に代表されるそれらは、ひときわ印象に残る素晴らしい作品であった。それからやはり浅田作品は時代物。「天切り松闇語り」や「壬生義士伝」は押しも押されぬ浅田作品の代表格だ。そして本作品「憑神」。その両方の要素を携えた作品なのである。そういう意味では、浅田作品では初の試みとなるのではないかと思う。期待度100%で物語に入った。
時は幕末。十五代将軍徳川慶喜が大政を奉還し、侍達が末期の声を上げ始めた江戸の町が舞台。由緒正しき御徒士、別所家の次男彦四郎が物語りの主人公となる。幼少の頃から文武に秀でていた彦四郎は、二十四の歳に上役井上家に婿養子として迎えられる。無事後継ぎも産まれたのだが、祖父の奸智に合い絶縁とされてしまうのだ。
やり切れぬ思いに酒が深まり、思わず転げ落ちた川縁に見つけたのは、小さな祠だった。その祠に手を合わせる彦四郎。ところが、その祠に奉られていたのは悪神だったのだ。次々と現れ、災厄をもたらす神達。彦四郎はその度に我が身のツキの無さを憂い、それでも何とかやり過ごすのだが。段々と、真理に目覚めていく。これは一体、我が身の不運だけの問題なのだろうか。神が自分を選んだのは、ただ偶然にも自分が手を合わせたからだけなのだろうか・・・。そして、世の中は大きく動いていく。最後にその命さえかけて望んだ、彦四郎の最期の決心とは。
作中とても気になった言葉が一つ。「勝負で大事なのは勝ち負けじゃねえ。勝ちっぷり負けっぷりだ。」そう、今の世の中。勝ちっぷり、負けっぷりを間違えてやしないだろうか。利でも欲でもない。己が信念の為だけに天晴れな負け戦に向かう時。侍はかくも格好良いものなのか。
ああ・・・胸が熱い。
紙の本
だらしない男が主人公、っていうのは児童小説だろうと時代小説だろうと、私は嫌ですね。でも、そういう話を好む人が多いのも事実
2007/05/30 20:49
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
知人は「浅田次郎は面白い」と言うんですが、私にはピンときません。『天切り松闇がたり』なども、彼女は絶賛するんですが、私には全く合わない。ま、躓きは『蒼穹の昴』だったかなあ、あの語り口がどうもいけない。登場人物の会話にリアリティがなくて・・・。でも、それだって文句を言うのは私だけで、世の中の評価は高い。
ま、自分と世の人々の評価にギャップがあると気にはなる。で、時たま「実際はどーなのよ」と読み返しをしたくなります。で、たまたま図書館の書架で目に付いたのが、これ。まず、タイトルがいい。なんていうか坂東真砂子の本みたい。しかも、ちょっと見では私の大嫌いな変な語りがありません。とりあえず読むか、っていうことになりました。
ちなみに、装画は浅野隆広。ふむふむ、いつものキレはないかなあ。そういえば、装幀にしても、新潮社装幀室の仕事の割には「古い」感じ。モダンさはゼロ。なんていうか、浅田次郎の小説そのものじゃあないかなあ、なんて思ったりもします。もしかすると文庫のほうがデザイン的にはいいかも・・・
主人公は別所彦四郎、32歳。深川元町の御徒士屋敷の離れに、年老いた母と暮らしています。母屋には、跡取である兄・左兵衛夫妻が暮らしています。彦四郎、実は24歳の時、小十人組頭三百俵高の井上軍兵衛が家に婿入りしています。妻は八重といい、当時16歳。市太郎という息子まで設け、夫婦仲は決して悪くはありません。
ところが、自ら起こした喧嘩のせいで、愛する妻と六つになる子供を井上に家に残し、離縁されてしまいます。ま、そこには深い理由があるんですが、それはそれ。結局、男版出戻りです。そういう事情もあって、母屋に住むことは遠慮。ついでに年老いた母親を押し付けられた、っていうところでしょうか。とはいえ、この母子、決して仲は悪くありません。マイペースで暮らしています。
貧しいとはいえ、実家で暮らしているので、彦四郎の周辺には長い付き合いの人間がいます。その代表が二八蕎麦の親爺で、彦四郎がまだ手習いに通っていた時分に天秤の屋台を高橋の袂に出して、かれこれ20年になります。家に戻った経緯も知っていますから、出世払い、なんて言ってただで食事をさせてくれたりします。
で、その親爺が彦四郎に勧めたのが神頼み。川路左衛門尉や榎本釜次郎が願をかけたという向島土手下の三囲稲荷にお願いしてみたら、とは案外親身な申し出。で、彦四郎が拝んだのが酔っ払って転げ落ちた小名木川の土手下に隠されるようにあった三巡稲荷。思わず主人公が「では、なにとぞよろしう」と祈ると「時ならぬ鐘」とともに、「祈願たしかに承ったぞよ」という声が・・・
ま、彦四郎造形は好きじゃありません。要するにヘタレ。おまけに無職で酒飲み。今であれば間違いなく犯罪を起こすタイプ。でも、他の登場人物がいいです。蕎麦屋の親爺もですが、村田小文吾がいいです。かつての彦四郎の配下であった小十人組の藩士で、組内20人中、傑出して出来が悪い男で30歳。これが中々好ましい。そして彦四郎を罠に陥れた悪役・井上軍兵衛がいます。
胸の悪くなるような悪人と、意外な面を見せる脇役、そして悪口を吹き込まれて父親を憎むようになった息子。さらに、意外な側面を見せる神様たち。深さを感じることはないんですが、悪くはないなあ。でも、絶賛とまではいかないかな、なんていうか私の中の赤川次郎的存在かも・・・
紙の本
十分楽しめた。しかし・・・
2005/10/15 10:01
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:やすのり - この投稿者のレビュー一覧を見る
出自によって運命が定められてしまう理不尽。それでもその理不尽さに殉ずる侍の義。
このテーマはすでに壬生義士伝において完璧に描きった。
また歩兵の本領では同じテーマを扱いつつ、江戸から昭和に舞台を変え、また元自衛隊員としての自らの体験も活かしながら説得力ある作品に仕上げた。
では、この憑神はどうか。幕末の武士の生活についての細やかな描写は健在で、真面目さといい加減さの同居する、人間味あふれた登場人物達には微苦笑を誘われる。一方で勝海舟や榎本武揚等を物語に巧く絡めて盛り上げる。絶対評価から言えば、文句なしに面白い。
しかし、私はすでに壬生義士伝に出会ってしまっている。
この作品の評価を仮に80点だとして、壬生義士伝は私にとって120点の作品。同じテーマを、幕末という同時代で描いている上に、40点もの落差がある作品を読むことになってしまった。これが私の偽らざる感想である。
壬生義士伝への思い入れが強すぎることで、厳しい評価となっているが、購入に際しては絶対評価の部分を参考にされたい。