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商品説明
活字離れ、少子化、出版界の制度疲労、そしてデジタル化の波…。いま、グーテンベルク以来の巨大な地殻変動、未曾有の危機に、「本」が悲鳴を上げている! 取材・執筆に丸2年、著者渾身のノンフィクション。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
佐野 真一
- 略歴
- 〈佐野真一〉1947年東京生まれ。早稲田大学文学部卒業。出版社勤務を経て、ノンフィクション作家に。「旅する巨人」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。ほかの著書に「性の王国」「カリスマ」など。
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紙の本
だれが「商品」を殺すのか
2002/05/07 18:21
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:奥原 朝之 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本好きにとっては衝撃的な一冊である。しかし『本』を『商品』に置き換えて読んでみるとなにも出版業界にだけある話ではない気がしてならない。誤解を恐れずに書けば、構造不況と言われる業界は多少似通った状況にあるのではないだろうか。
出版業界が構造不況に陥っていることは、本書を読めば一目瞭然である。この意見に関しては賛否両論あると思うが、売るための仕掛けを考えずに『出版は文化だ』という掛け声の元に本を刷るのがビジネスとは到底思えない。文化という掛け声だけで飯が食っていけるわけが無い。
『商品』を市場に投入する際にはその『商品』が市場に受け入れられるのか充分に吟味するはずである。
『本』を他の『商品』と同列に扱うのは無謀だという意見もあるだろう。だが食い扶持を稼ぐのであればビジネスという観点から出版を考えなければならない。良書だけでは飯は食えないのである。しかし平凡社の東洋文庫や岩波書店の岩波新書も切り捨ててはいけないのは確かではある。そこの相反するところから脱却できていない点が出版不況の実態なのではないだろうか。
最近はマンガでさえすぐに絶版になるものが多い。インターネットの普及のおかげで『復刊ドットコム』なるサイトが開かれ、そこで復刊希望者を募って版元に再版を持ちかけるという流れも起きている。
本書にも書かれている通り、『本』という商品の周りで本が好きな人間が本を『生かす』ために、売るために、読んでもらうために様々な働きかけをしている。今はこれらの動きが収束していない。これらの動きを収束させるような仕掛けが出てくると『本』の未来も多少は明るいのではないだろうか。
紙の本
生きている本に会いたい
2002/06/28 13:28
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:りゅうこむつみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
書店人としてはやっぱり読んでおかないといけないのだろうか。売りながらずーっと思っていた。お客さんが買っていくのに私が読まないのもなあ…。
そう思っていたら私は気がつくと『元書店人』になっていた。
私はこの本の中にも出てくる某書店で働いていた。ブックオフはちょくちょく寄るし、実は司書の勉強だってしていた。もちろん本は好きだ。読みながら苦しくなったり、そうだそうだと頷いたりの連続だった。気がついたら一気読みだった。
いろんなところで本に関わってきたのは本が好きだからだ。
一体誰が、殺すのか?
それはどの部分の『私』なのか?
とりあえずはまだこれを読んでいない書店人の友人やもと書店人、本好きにも読んでもらいたいと思う。
考えながらだと、本を売るのも読むのもきっと考え方が変わるはずだから。
紙の本
読者が本を殺してる
2001/09/09 17:31
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:道成寺 新 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、本をとりまくあらゆる人のインタビューを通じて、出版不況と言われている今を切り取ろうとしている。bk1も取り上げられていますね。
この本は、むちゃくちゃではある。佐野さんの指す「本」の範囲がとても狭い。そして、その狭い分野は面白くもなんともない分野なんだから、衰退して当たり前とも思う。あと、肝心の「読者」を取り上げていない。わざとなんだろうけど。
そんな欠点はあるけど、出版業界の構造がいまいち分からない人にはとてもよい本である。あまり関係が複雑であまりに分からないのだから。
紙の本
読者にもできることはある。
2001/03/19 22:47
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投稿者:ちーたま - この投稿者のレビュー一覧を見る
活字離れ、流通の制度疲労などしばしば話題になるトピックに加え、図書館、書評などについても腰のはいった取材でぐいぐい読ませる。暗いニュースばかりが目立つ出版業界だが、その中から一筋の光を見出そうとする姿勢からは筆者の本への強い愛着が感じられる。
これを読まずして出版界の現状は語れない。
紙の本
作家になりたいひと必読!
2001/03/16 22:38
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投稿者:nao - この投稿者のレビュー一覧を見る
小説家に漫画家にノンフィクション作家、さらには編集者・印刷会社に本屋さん…とにかく将来本に携わる仕事をしたい人必読の書!
2001年現時点における、出版業界裏の裏まで語ってくれております。
本はどこからきて、どこへ行きつくのか? 当たり前のように読者の手に渡るはずの本の真実は、すべてシュレッターの中なのかもしれない。作って売る…一見単純に思えるこの行程の中に、かくも凄まじい人間同士のドラマとジレンマと、憤りとあきらめがある。その中で、なんとか必死でもがいている人々は、今、何をやろうとしているのか? これからの本は、どんな場所で売られていき、どんなモノへと変容していくのか?
作家志望の人が読んだら、なりたい気持ち、なくなっちゃうかもしれません(笑)。
もはや制度疲労で崩壊寸前の出版業界に、その真っ暗な将来に一握りの希望を掴みたい…そんな想いが、1000枚の原稿用紙にたたきつけられたかのような大作でした。
紙の本
「本」の世界の上流から下流までを一気に見通す
2001/03/07 17:04
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投稿者:三中信宏 - この投稿者のレビュー一覧を見る
挑発的な題名を裏切らない著者の「攻め」の姿勢に煽られて、500ページ近い分量にもかかわらず、一気に読み終えてしまった。「本」を取り巻くさまざまな側面−各章のタイトルを見よ−を、多数の関係者とのインタビューを中心にまとめたレポートである。bk1やアマゾンのような最先端のオンライン書店から町の「本屋さん」まで、国会図書館から「ふるほん文庫やさん」にいたるまで、およそ「本」とともに生きてきた多くの人びとをその経歴や主張とともに紹介し、それを通じて本が作られ読み手に届くまでの「すべて」の段階を余さず残さずたどろうとする熱意が感じ取られた。
本書を読み終えて、いまの出版を取り巻く状況の危うさを再認識させられたのはもちろんなのだが、それと同時に何本かの「将来への道」−「地方」出版社(第4章)やオンライン出版(第8章)の可能性を著者は強調しているようだ−もいくつか提示されているように思う。その意味では、本書を読んで私はかえって元気になった。
興味深いのは、著者の姿勢である。全国を飛び回ってのインタビューを通じて、時には相矛盾するような感想を隠そうともせず、それでいて次第に著者自身の考えは変化していっているように感じられる。おそらく、著者が本書のテーマに対して全身でのめり込んでいるからではないだろうか? 本書の索引群がすべてプレジデント社サイトで電子化されているのも肯ける気がする。
「本」の世界の最新ルポルタージュとして一読をお薦めしたい。なお、本書の方々で言及されている、ユニークな大山緑陰シンポジウム(「本の学校」)の議事録(全5巻:1995〜1999)は、いまでも全巻入手できるようだ(1・2・3・4・5)。
【目次】
プロローグ:本の悲鳴が聞こえる!
第1章:書店−「本屋」のあの魅力は、どこへ消えたのか
第2章:流通−読みたい本ほど、なぜ手に入らない?
第3章:版元−売れる出版社、売られる出版社
第4章:地方出版−「地方」出版社が示す「いくつかの未来図」
第5章:編集者−「あの本」を編んでいたのは、だれか
第6章:図書館−図書館が「時代」と斬り結ぶ日
第7章:書評−そして「書評」も、消費されていく
第8章:電子出版−グーテンベルク以来の「新たな波頭」
エピローグ:「本」の生死をわけるもの
あとがき
人名索引
書名・雑誌名索引
その他事項索引
紙の本
力作
2001/03/01 02:03
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投稿者:らくちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
力作です。出版業界の現状がいかに矛盾を抱えているかを徹底的に明らかにしています。
再販制などの出版業界の問題は、これまでさまざまに論じられています。しかし、再販制を擁護する人もそうでない人も、まず結論ありきで持論を主張している印象を受けます(それはそれで耳を傾ける価値はありますが)。
著者の立場は、「読者」の立場です。われわれが本に親しむ環境が、書店、流通、出版社、図書館などのハードの問題によってどれだけ阻害されているか。著者が問題をとりあげるのは、強くこうした視点からです。
そして著者が自らの足で全国を歩いて取材しているからこそ、現場(書店、取次、出版社、図書館など)の声がくみ取られ、問題がひとつひとつ明らかにされていきます。
狭い立場にとらわれることなく、また安易な結論に傾くのでもなく、問題を深く受け止めていくのは、この著者の力量があってこそでしょう。
紙の本
出版界の内情が・・・
2001/02/18 23:59
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投稿者:ビブロフォビア - この投稿者のレビュー一覧を見る
現在の書店の「金太郎飴」状態がどういう仕組みで発生したのか、またそれを出版人たちがどう捉えているのか、ただ店頭の状況しか分からない消費者の私たちにも、明解に説明してくれました。前々から何やらいかがわしさを覚えていたのが、ああこういうことか…と得心しました。
著者の本への思い入れが深いほど、この状況への絶望も深刻で、読んでいて、痛々しくなってきます。著者の幅広い取材活動に脱帽。それにこの厚さの本にこの値段というのも、すでに著者の出版界への姿勢の現れと感じました。
最近のオンライン書店が出現する背景もこれを読むことでよく見えてきます。オンライン書店の不満は色々持っていますが、ああこうした事情が背後にあったのかと少々納得しました。運営している人たちの苦労も少し理解できたように思います。
しかし、まあ、出版という仮面の背後にどんな魑魅魍魎たちがばっこしていることか…。
紙の本
なぜ読者はいそぐのか
2001/02/18 00:11
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投稿者:SO-SHIRO - この投稿者のレビュー一覧を見る
誰よりも本を知り尽くした著者ならではの破壊力バツグンのノンフィクションである。
「本」を殺したA級戦犯は実は「読者」だという著者の発言にもうなづける。ただ、大書店が近くにない地方の読者にとっては、新刊の売れ筋にのらない「本」は一刻も早く手に入れなければ確実になくなる生鮮商品であり、近くの中小の書店に頼んで三週間待つなどという悠長なことは言ってられないのだ。オンラインでも何でも駆使して手にいれなければならない。地元の書店では買わない。かくして、地方の書店の多くはますます金太郎飴化する。読者は急がざるを得ない。
インターネットの接続環境(通信速度や回線の込み具合)に地域差があり、いくら使いやすくなったとはいえ、パソコンもまだまだ家電の域には達していない現状では、情報帝国主義を招きかねないが、結局オンデマンド出版しか「本」の生き残る途はないように思う。書店や図書館ははインターネットに簡単には接続できない読者の代行をする形で生き残りを図るべきなのかもしれない。そうなると、光ファイバーはまず書店と図書館に引いてやって欲しいと、納税者の立場からは思ったりもする。
どこを開いても新しい視点が見えてくる、金太郎飴ではない、著者渾身の力作である。
紙の本
だれがこの本を読むのか?
2001/02/17 16:08
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投稿者:ぱらごん - この投稿者のレビュー一覧を見る
仕事の出先での帰り際、ちょっと立ち寄った書店の平台で本書を見つけた。
頭の片隅でチカッと光るものがあって、手にとってみた。みっしりと持ち重りがする。この装幀は菊池信義だなどと思いながら目次を見、本文をぱらぱらとめくる。本文が約460ページ。本をひっくり返し定価を見る。1800円!
3分とかからずにレジへ向かう。
読み始めると、これが止まらない。
「本」の世界では今、事件がおきているのだという。有名な出版社がつぶれ、大型書店が次々に倒産し、業界はさまざまな波で解体されそうになっており、大好きな「本」が危ない!
そこで著者は、殺されそうになっている「本」の現場を歩いて、なぜそうなりつつあるのか? と聞いて回る。章ごとに、書店・流通・版元・編集者・図書館といった本の世界にいるひとびとへの数多くのインタビューを証言として、考察を重ねていく。だから、インタビューひとつひとつは「もう少し切り込んでもいいのでは」と思わせる長さだけれど、著者は意識的に深入りしない寸前のところで止めているようだ。本書がいわゆる「業界本」にはならないよう、事件を扱うノンフィクションの視点でまとめているからなのだろう。
ぼく自身の個人的な「本に関する事件」として、2つの事件がある。
ひとつは、近所の古本屋さんの100円コーナーの充実である。駅前の新刊書店に行く前に、この100円コーナーをのぞいてみるようになった。文庫やマンガだけでなく単行本もかなりの充実ぶりで、アタリのときはあっという間に5・6冊を抜き出すことになる。すると「家に帰ってさっそく買った本を読もう」ということになる。
これは「本」を殺すことにつながる行動なのだろうか?
もう一つは、もちろんインターネットにおける書店の充実である。ただし、いきなり新刊のオンライン書店に行くことはあまりない。
まず最初に、スーパー源氏やブックオフなどの古本データベースを検索する。この行動は「買いたい本がはっきりしている」時のものである。
逆に「何かおもしろい新刊が出ていないかな」という時も多いので、オンライン書店でもたとえば「この1週間の新刊書コーナー」があるといいのだけれど、見かけないのはなぜだろう? そこで、ジャンル別のコーナーへ行くわけだが、この行動が変わってきた。
やはりブックオフのサイトへ行き、ジャンル別のコーナーをブラウジングするようになってきた。このコーナーのおもしろいところは、2000円を越すと送料が無料になる点で、欲しい本を買い物カゴに入れると「あと○○円で送料無料となります!」と表示される。現金なもので、「もう少し買えば送料無料になるな」と思ってしまう。実際に本が手元に届いたとき、梱包された箱を開けるのが楽しい、ということを発見してしまった。
ブックオフは「本」を殺そうとしているのだろうか?
本書の最後の部分でこんな記述を見つけた。
「すぐれた作家とは何か。読者の時間を一時止めてみせることのできる者のことである。すぐれた本とは何か。日常の時間の流れに一瞬シワを寄せ、活字から目を転じたとき、外界の尺度が読む前と少し狂ってみえる本のことである。」
これは名言だと思う。
そして結局「本」を殺すのはだれだろうか? その答えを考えるために、本書は最良の読み物だろう。ぼくの場合は、本書の最後でとりあげられた読書クラブのエピソードが示唆的だった。読書クラブなんて気恥ずかしくて参加したいとは思わないけれど、自戒を込めて思う。
本を買い込んで自分だけタコツボ的にひきこもってしまい、他者とコミュニケートしないような心が、「本」を殺してしまうのではないか。
いや、こう言い直したほうがぴったりする。
「オモロイ本のことは、もっともっとしゃべっちゃおう!」
だから、この本を読むのはあなただと思う。
紙の本
出版業界人必読!bk1のユニークさもわかるよ。
2001/02/25 22:20
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
これまでの著作と変わらず、エネルギッシュに足で稼いだ多くの人々の見識を、熱い思いで描いた力作だった。
「この苦境を何とかせねば…。この事態を招いたのは一体どいつだ、誰なんだ?」という息づかいが耳元で聞こえてくるような論調に、手ごたえを感じながら読み終えた。
私は小さな出版社で、のべ7年働いた。子どもの本づくりをしたり、書店の売り場担当者や仕入れ部門相手に営業をしたり、伝票を端末に打ち込んだり、返品の山を相手に、再出荷に備えて検品やカバー替えをしたり、在庫をコントロールしながら出荷を調整したり、調査を行ったりした経験がある。経理や経営の経験が抜けているが、自分のことを「一人講談社だな」と思っていた。
作家や画家の先生と話をする時に「作品」と呼んでいるものが、書店や仕入れの方と話すときには「商品」となる。時々まちがえて、たら〜り冷や汗をかいたものだ。
出版業界というのは確かに独特な点が多い。返品が前提にある委託制度という商慣習、再販価格維持制度、マーケッティングによらない出版企画、なぜか問屋さんの権限が強い流通のしくみ、「良い」と「売れる」ということの間にあるもの…などなど。
いろいろな業務に携わりながら感じた疑問や問題点が、ここには丁寧に取材されて網羅されていた。「そうそう、こういうこともある。そうなんだよ」と共感できることがいっぱいあった。
出版業界に携わる人、その周辺にいる人であれば、耳の痛い話が必ずいくつか出てくることと思う。耳が痛くないという人であれば、僭越ながら問題意識がないことを恥じ入るべきかという気がする。だから、ぜひとも一読すべきだ。
メーカーたる版元の編集と営業、流通を担う取次、オンライン書店や古書店を含めた書店、図書館や書評家を含め、業界全体を俯瞰するという試みは、画期的で読みごたえがある。何より「文化」面で強調されることが多い出版というものを「産業」という視点でも捉えている点が新鮮であった。そこがまた、けんけんがくがく議論が分かれるポイントなのだと思うけれど…。
2001年3月に再販制度の政府見解が出たあとで、この業界はビッグウェーブにのまれることが予想される。学校における図書教諭の配置やら、電子出版をめぐる動きなど、さらにルポの手法で斬り続けて見せてもらえたらという局面が登場しそうである。
著者自身が講演会で述べていらしたように、オートバイの後ろに読者を乗せて現場まで運んでくれるようなスタイルが、確かにこれからのルポルタージュに求められている気がする。
データをかき集め緻密に分析し掘り下げていく方法は、科学的合理的で、物事のある面を見事に浮き彫りにしてはくれるけれど、捉えたいものはどこかよそにあるような気がしてならない。
「よっしゃ、ついてこい。行けるところまで行ってみようよ」と既にエンジンを温めている佐野氏の姿勢や、浪花節的にも読める文体が、私には「人間の原型に触れている」と感じられる。
出版という業界を眺めるには、そのスタイルがとても似合っているのではないだろうか。この本の更なる展開を期待したいし、「大衆の賢さと愚かさの間に揺れて書く」と言っていた氏が、「読者」としての大衆に肉迫することも楽しみである。
紙の本
本の世界で何が起きているかを知りたいなら
2001/09/23 21:40
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:katu - この投稿者のレビュー一覧を見る
現在の「本」を取り巻くさまざまな問題点や課題を数多くの関係者へのインタビューから浮かび上がらせた著者渾身のノンフィクションである。
「無謀だということは重々承知のうえで、私は、著者という最川上にいる存在が生み出したテキストが、編集者と出版社の手で加工され、取次を経て書店に並び、「本」という名の商品として読者に消費されるまでの全プロセスを一つあまさず描いてみたかった。そしてそのメインストリームを補助する役割をもっている書評や図書館の世界が、いまどんな状況にあるかもあらためて追求してみたかった。」
と、あとがきにあるように本書は「出版・流通」や「編集」だけの話ではなく「本」を取り巻く世界を「串刺し」にして論じている。そのためにかなりのボリュームになっているが、どのプロセスの話にしても綿密な取材が行われており、とても興味深い。
とにかく取材対象者に個性的な人物が多い。例えば、その風雅な受け答えぶりと含蓄のある発言から著者がひそかに「閣下」と呼ぶ紀伊國屋書店代表取締役会長兼社長の松原治はブックオフについてどう思うかと聞かれて、インチキ極まるものだと思うと答えている。
往来堂書店の店長からオンライン書店「bk1」の店長に転身した安藤哲也は書店は本を“管理”するのではなくて“編集”しなければならない。そうでないとどこに行っても同じような“金太郎飴”書店ができてしまうと言っている。
ホテルオークラのスイートを常宿としているアカデミー出版社長の益子邦夫との一問一答で著者が「ハア?」と面食らってしまう様も面白い。
いま話題となっている「ブックオフ」問題も当然取り上げられている。売れない新刊書店がブックオフで本を安く買い、それを版元へ返本して利ざやを稼いでいるなんてショッキングな事例も紹介されている。ブックオフが出来ると近くの新刊書店は万引き対策に頭を悩ますなんて話も出ている。
とにかく、書店、取次、出版社の話にとどまらず、地方出版の話、編集の話、図書館、書評、電子出版の話と本にまつわるありとあらゆる話が網羅されている感じである。これを一冊読めば、いま本の世界に何が起きているのかが手に取るように分かるだろう。
紙の本
どうせあたしをだますなら死ぬまでだましてほしかった
2001/08/09 13:48
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:quizhunter - この投稿者のレビュー一覧を見る
こないだの「東電OL」からたいして経っていないのに、もうこんな分厚い本出すなんて、佐野眞一はよく働いていて偉いなあ。内容は構造的に破綻をきたしている出版業界の問題点を探らんと言ういう視点から始まって、出版社から取次、大型書店、街の書店と書籍流通の川上から川下まで、おまけに地方出版、図書館、電子出版、書籍のネット販売など、本に関わるもの全て調べちゃえという意欲作です。
前作に引き続き、いい意味で著者の子供ぽい情熱が出ていて、出版なんて興味がない人にも楽しめるいい本だと思います。紀伊国屋商店のやけにかっこいい総帥や、アカデミー出版のへんてこ社長など、怪人物が登場するくだりが個人的には大好きです。
ただ、欲を言えば、電子化に対するぼやけた期待ではたりと物語を終えてしまっているのが残念です。著者自身が感じている書物の本質的な魅力というのは、むしろ過去に目を向けたほうがうまく見つかるような気がするのです。時間の経過や物流の問題によって隠されがちなものがふいに偏在してしまったりするようなのがデジタルの妙味であって、その辺をついて欲しかった。
勝手にエピソード作るのはなんですが、例えば、著者自身が長年捜していたいい匂いのする稀覯本がネット検索であっさり見つかったとか、まずは著者が捕らわれている「本の魅力」とはなんだったのかを見定めて、デジタル化の未来にはその「本の魅力」を解放する世界があり得るのか? とスポットを当てていけば、より面白くなったような気がします。まあ、そうなるとタイトルの「殺すのか」とはずれてきてしまうのかもしれませんが、少なくとも著者の考える「本の魅力」については、もう少し踏み込んでほしかったなと思うわけです。
余談ですが、私もこの本でbk1のサイトを知ったクチです。そういう情報量と言う意味では、ほんといい本ですよねー。リスペクト!
紙の本
「本」をめぐる声、声、声
2001/07/17 21:48
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:24wacky - この投稿者のレビュー一覧を見る
いくら本好きといっても、こんなにたくさんの本がこんなに目まぐるしく出ては消え、出ては消えしていっては、もうこれはほんと、堪らない。
ここ十年、いや二十年、本屋さんに行っては何度息を詰まらせたことだろう。それでも性懲りも無く来てしまったお気に入りの店で手にしたのがこれ。
だれが「本」を殺したのか
刺激的なタイトルの本書は、本好きを自認する著者=探偵による犯人探しというエンタテイメント小説の醍醐味を持っている。その意味で「業界関係の」専門書より、より多くの読者に恵まれることが予想される。
探偵は自らの足で日本国中駆け巡る、南は沖縄まで。その途上で発せられた、生の、せっぱつまった、俗っぽい、あまたの声の記録。
「取次は少しでも売上げを伸ばそうと、ビデオを扱えとか、ファンシーグッズをやれとか、やれこれからはコミックだ、雑誌主体だといってきたわけですが、〜私にいわせれば、文化に値しないものまで同じ再販制度で守られている。でも、うちはあくまで守っていきたいんですよ、『本』という文化を」
「版元にも責任があります。客注があって在庫の有無を問い合わせる電話をしても、昼休みだといってつなごうとしない。何が昼休みですか。読者から注文が入っているというのに。大手といわれる出版社ほどそういう傾向があります」
「日本の市町村では公共図書館がないところがまだ七割もある。これが充実されれば、図書館需要だけでも出版物の基礎部数が確保されます。そうなると、出版社は売れる、売れないの基準を優先せず、ゆっくり企画を温めて心のこもった本を世に問うことができます」。こう語る書店主は自店内に「本の学校」という私塾を開き、本の出版と流通に関わるすべての実地教育を行っているという。そしてそのシンポジウムには「業界人」だけでなく、あらゆる階層のひとびとが集まってきた。探偵物語の進行に転回をもたらすこの挿話にアソシエーションの必要性を強く感じずにはおれない。
はやくこの本を手に入れよう、どこかへ消えてなくなってしまう前に。
紙の本
地方出版が出版界を救う?
2003/06/02 05:46
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆうどう - この投稿者のレビュー一覧を見る
久しぶりに読み応えのある1冊だった。ただし、2年前に出版された書籍なので、内容が古くなっている部分があるのが残念。例えば、bolの撤退、bk1の安藤店長のさらなる転職、など。出版されてすぐに読むべきであった!
特に参考になったのは、「第四章 地方出版」。地方出版というと、郷土史やその地方のガイドブックを出している出版社、という程度の認識しかなかったが、独自のポリシーをもって出版活動に取り組んでいる人たちが結構いることを教えられた。大量に作って全国にばら撒くのではなく(その分、大量の返品を迎えることになる!)、「売れる数を出版する」という無明舎出版の姿勢は、出版に限らず、経済活動の本質をつく言葉でもある。金太郎飴的な大量生産と40%を超える返品率に「支えられた」現在の出版経済学から脱却するヒントが、この言葉にあるような気がする。
それにしても、よくぞここまで多方面に取材したな、というくらい、充実した内容である。出版業界に住む人間はもちろんのこと、出版社、取次、書店への就職を目指す学生・転職希望者は、予備知識として是非、押さえておきたい。でも、内容が濃すぎて、この業界に対する基礎的な知識がないと、ちょっと難しいかも。