紙の本
深海に臨む一人の女性を描きながら、これからの日本も考える。
2012/02/27 19:32
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この物語は深海探査機≪しんかい六五〇〇≫を操縦するパイロットを目指す一人の女性、深雪が主人公です。
≪しんかい六五○○≫とは深度6500メートルまで潜水可能な日本が誇る深海探査機です。
父の影響で海の魅力にとりつかれ、また、その後離婚してアメリカへ行ってしまった父を追うように
パイロットを目指す。
所属するのは独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)
研究者ではなく、パイロットの道を選んだということは、「一人で潜水艇を分解して組み立てる
ことができなければならない」他、体力的な問題、それをどうにかクリアして、副パイロットとして
働き始めたのに・・・・深雪はなんとういことか「閉所恐怖症」に突然なってしまう。
そこへ、アメリカに行った父が再婚して生まれた異母弟の小学生、陽生をあずかることに。
そして、とりあえず、広報課に配属(左遷)された深雪の前に現れる、中途採用の高峰という青年。
高峰は、素人なのに深海に潜りたいなどと平気で言う。
高峰は人あたりがよくても、どこか侮れない所があり何故、深海の世界を見たいと言う所も謎です。
この物語はずっと深雪を追っていて、この時別の場所では・・・ということがありません。
あくまでも、ずっと深雪がどうしたか、どうなったかを書いています。
そこに焦点をあてた事は、物語全体が散漫にならず、ぴしっとひきしめる役割をしていると思います。
この本は2011年3月11日以降に書かれた本なので、とかく宇宙(NASAなど)に目が
いきがちで、海の神秘、まだまだ解明されていない深海の世界は地味な世界で、
国会議員からは「事業仕分け対象」にさらされ、いつ予算を減らされるかわからない、という
苦労があります。
ジュール・ヴェルヌの『海底二万海里』のノーチラス号のネモ船長は、もう海底のお宝、ざっくざくでしたが現実はきびしい。
また、深海に行くという事は大変、危険なことで、古参のパイロットが「昔は潜る前に生命保険に入ったものだ」というくらい。
海の底の神秘を描くというより、大半は地上での深雪個人、または行政法人の行方といった事が中心となります。
深海の謎は生物だけではありません。ある国会議員が地下資源に目をつけ、地下資源が
発掘できれば日本経済も復興するのでは、という政策がらみのアプローチをしてきます。
また、地震の予測にも役立つだろう、という見方を支持する人々も多くなる。
しかし、その分「経済には役にたたない、深海生物の研究」などに予算は回せないという
流れにもなりかねない攻防が繰り広げられます。
「これから大変な日本を背負う子供、若い世代に未知の世界への夢」を紹介することの
大切さと経済復興、どっちをとるか、という問題も描いています。
今、21世紀、震災を経た日本にどんなに口先で「夢を持とう」と叫んだところで説得力がない。
確かに、実利・経済復興が大事なのも事実だし、どれを最優先にするかは大きな問題ではあります。
ただ、そんな中で今は未知だけれども、将来を見据えたことも忘れないという事を主人公の
深雪や海洋に興味を持つようになる異母弟、陽生を描くことで問題提起もさりげなくしています。
深雪他、広報部は、海の世界の素晴らしさをどうアピールするかにも奔走します。
そして、最後に≪しんかい六五○○≫で深海に行く、そのスリリングさと太陽の光のささない、水圧のあまり
とても人間は生きてはいけない世界の迫力と緊迫感は大したもの。
科学小説というより、一人の女性が仕事をする、目標を持つ、子供たちの将来に望みをつなぐ
そういったメッセージが声高でなく、底に流れているのがよくわかるのです。
リアルな船上生活や技術者の姿というより、3月11日以降、変わってしまった日本、そんな
ものをすぐにとりあげ、小説にしたというフットワークの良さを感じる一冊でした。
紙の本
深海は宇宙よりも遠い・・・
2012/02/03 16:01
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nasubihime - この投稿者のレビュー一覧を見る
あなたは深海の映像を見たことはありますか? 私のイメージするテレビで見た記憶の映像はこうです。暗い闇の中をテラスライトの光で浮かび上がるのはまず、雪のように海に降る〈マリンスノー〉です。主人公の深雪の名前はこのマリンスノーから名付けられました。
「海に降る」という美しいタイトルに惹かれて本書を手にとったのですが、本書を手にするまで「海洋研究開発機構」という機構があることもあまり意識したことがありませんでした。「深海は宇宙よりも遠い」という言葉とともに本書に書かれている世界は地球にはまだ未知なるところがあると教えてくれます。 もう地球上に人間の辿りつけないところはないと思い込んでいた私にはとても新鮮な驚きでした。
有人潜水調査船のパイロットを目指す深雪と、深海の未確認生物を追う高峰のふたりが深海へと潜るまでの努力に読んでいて応援したくなりました。
海というものの神秘、生物というものの神秘にみちびいてくれた一冊でした。読んだあとにはきっと巻末の参考サイトにアクセスしたくなるはず!
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この方の作品は初めてですが、文章がス~ッと身体に染み込む感じを受けました。個人的に「何故もっと深く潜れる潜水艇を開発しないのかな?」と思っていましたが、そんなに単純な事でもないようですね。「しんかい」を取り巻く様々な環境が良くわかり、深雪や高峰や陽生、周りの人物も個性豊かで楽しめますよ~。
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宇宙飛行士より、深海に潜るパイロットの方が少ない。へえ、知らなかった。でも、50%は日本人。日本人にしたら、深海パイロットの方が可能性が高いってことかな。
宇宙に旅立ち小惑星のかけらを持ち帰ったイトカワも良いけど、深海だって面白いです。
子供達がサイエンスに夢を持って、実現に向け努力する。そんな日本になったらいいな。
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深海への強いあこがれを持つ2人の男女を取り巻く物語.
小説ではあるが,実在の海洋研究機関であるJAMSTECや潜水艇「しんかい6500」などが登場し,日本の海洋研究へ取り巻く状況がリアルに再現されている.
主人公は初の女性潜水艇パイロットの候補生の天谷深雪(あまがい みゆき).離ればなれになった潜水艇技師の父への想いを深海へと向けるが,心の揺れが足を引っ張る.
そしてもう一人の主人公とも言うべき男,高峰浩二.JAMSTEC(海洋研究開発機構)の広報課に中途採用で入ってきた.彼もまた,父を引きずり,異様なまでの深海への想いを周囲にぶちまけている.
この2人が,2人の想いが絡み合って,深海への冒険譚が進んでいく.
おそらく,一般的には「爽快な冒険小説」と形容されるのだろう.
しかし,私は深海研究に携わる1人として,そしていまだに自分の体で深海に行ったことのない身としては,彼らに嫉妬を覚えた.読み終えた瞬間の爽やかさなど微塵もなかった.むしろ,ギタギタと煮えたぎる,とんでもなく熱く,でも冷たい何かが心に生まれた.彼らにライバル心を抱いたのだ.
もちろん,この本は小説だ.にもかからず,なぜここまで本気のライバル心を抱くのか.この小説にある徹底的なリアリティのせいだ.実在の機関や機器が登場するだけではない.海洋研究に対する日本の政治的もしくは社会的な背景までもが実際の話と酷似しているのだ.それほどリアリティに溢れた小説である.
そして,私が常日頃から思っている深海研究への想い.ワクワクするような研究への想いを彼らが代弁していた.それが,私にはこれが小説ではなく,実在の話に見えてしまうのだ.
私も深海へのあこがれを持っている.彼らに負けないほどの情熱を持っていると思っている.しかし,彼らに一歩先を行かれてしまった.それが悔しくてならない.いつか「しんかい6500」に乗って彼ら以上の冒険をしてみせる!
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夜にページをめくり始めたら、朝になってしまった。
ここ最近で読んだ小説の中で、いちばんに面白い。
有人潜水調査船の女性パイロット候補生、という主人公の葛藤と成長を通じて、マニアックになりがちな有人潜水調査の世界が、いきいきと胸に迫ってくる。
何よりもこの小説が素晴らしいのは、日本を囲む海の謎と可能性にスポットライトを当てている事。
「全海洋のわずか一割にも満たない日本近海が、生物のホットスポット。日本列島はあらゆるタイプの海に囲まれている。そういう希有な環境が世界有数の生物多様性をもたらしたんだ」
このエピソードを知って、わくわくしない人なんているんだろうか。
深海が宇宙よりも謎に満ち、しかも日本人が、その謎にいちばん近いところにいるなんて。
一人でも多くの人に読んでほしい。この小説に、そして深海という存在に、胸を躍らせてほしい。
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日本初の有人深海潜水艇女性パイロットを目指す主人公の成長物語。深海調査において日本がどれだけ世界に先駆けているかがよくわかりました。ある意味では宇宙よりも遠い最後のフロンティアである深海。資源立国として日本が生まれ変わるためにも、このリードを失うわけにはいきますまい。
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海と船が好き、深海生物に興味がある人にお勧めの本ですが、特に海の仕事に興味のある、若い人にぜひ読んでもらいたいと思います。
筆者は深海調査と、それを担う海洋開発研究機構についてよく調べて書いていています。私も民間で海洋調査に従事していたことがありましたので、当時を思い出しながら、楽しく読むことができました。 ただ説明的な文章が多々あるので、あまり興味のない方にはちょっと読みづらいかもしれません。
なんでもネットでわかる時代になりましたが、現場でないとわからないことはまだまだあります。また何回も潜水し苦労して、目的の生物を見つけた時の喜びは、その場にいた人しか味わえません。本書を読みながらそんなことを考えていました。
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海洋冒険小説ってものを私は初めて読みました。
未知なる海底に立ち向かう研究者、そしてパイロットたち。
まるでアニメを見るようですが、なかなか興奮します。愉しみました。
そして再読しました。これは震災で被災したみんなに向けてのエールです。海に関わるすべての人へ、未来を担う子どもたちへ!!
ロマンは身近にある。こころが温かくなりました。
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女性初の有人潜水調査船のパイロットを目指す深雪と、深海生物学者だった亡き父が目撃した未確認深海生物「白い糸」を捜し求める広報部新人の高峰。二人の想いはまだ見ぬ深海へと向かう。
深海は想像以上に(文字通り水深の意味も含めて)奥深い世界。その世界に生きる独自の進化を遂げた海洋生物と、それを追い求めるパイロットや研究者達の熱い思い。
ロマンを感じたなぁ。
莫大な費用を要する深海の探索。国の予算との兼ね合いは難しい問題ではあるけど、海の底に広がるまだ見ぬ果てない世界への夢を次世代に繋いでいくっていうのは素敵だと思う。
話としては出来すぎだなぁという感じは否めないけど、海洋研究開発機構の未来への希望も込めて4つ星。
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9/15
海好きにとって、まず設定にワクワクしてしまう。
最近宇宙兄弟の影響もあって、宇宙への関心が高まってはいたものの、宇宙より未知数なのはやっぱり深海だよ!だって生命の起源なんだよ!
っていう気持ちにさせてくれる本。
巻末に載ってた参考文献の量が多くて、読んだ本もあったりしてなんだか嬉しくなった。
著者のかた、2009年デビューでこれが二作目みたい。次にどんなのがくるか楽しみ。
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女性初の有人潜水調査船パイロットを目指す女性と、深海に棲む未確認巨大生物を追い求める男性。
舞台は陸ではなく、空ではなく、宇宙ではない。
海。
それも深海。
宇宙に未知や無限を感じるのは生き物の向上心の象徴と思う。
しかし深海に未知や無限を感じるのは何になるのだろうか。
自然エネルギーや漁などの経済の思惑が未来を作るんじゃない。
新しいものを見つけ発見する夢が未来につながるのだ。
登場人物たちが苦悩し前へ進むことで深海に惹かれつつ、きれいな気持ちになっていきました。
いい本に出会えたと思っています。
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いますね。あの生物。きっと本当にいます。
と思いたくなるほどに、ロマンを感じました。
私が子供のころは「しんかい2000」だったんですが
もう6500までいってるんですねぇ。。。
それでも、マリアナ海溝最深部にはたどりつけないなんて。
地球のことなんてほんとちょっとしかわかってないんですね。
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矢野「海に降る」読了。感動した。胸にグッと来るものがある。個人的に大満足です!夢のある話ですよね。最近、NHKのラジオドラマでもやっていたとか、聞きたかったな~。
作品中に出てくる潜水艇くろしおは松前に行く途中の福島長にある青函トンネル記念館にくろしお2号が展示されていたのを思い出した、北大は旧帝大の一つだけあって当時としては凄い乗り物だったんだろうな~っと思ったし、有名なマリンスノーもくろしおの潜行によって命名されたのは有名な話。
改めて、深海への興味を沸き足させてくれるし、海の調査に関わらして貰って、海や魚類好きな自分としては、ハマリどころの物語だ。Aフレームに吊られていく描写や船内生活など描写一つ一つがリアルでその場の感じを想像させる!
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浪漫です。
はじめのうちは何となく辿々しい文章の運びに肩透かしを食いながら読んでいたが、最後3分の1は圧巻。まぁ予定調和っていやぁそれまでなんだが、本物の映像が見たい!と思わされる描写でした。
ただ・・・映像で十分。実際に潜りたいとは思えない・・・怖い・・・
*深海潜水艇のパイロットは世界で40人強。そのうち20人が日本人。本当?