紙の本
ぬくもりある物語
2012/01/24 22:01
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:はぴえだ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ふしぎなテイストのお話。
ファンタジーのような、SFのような、伝奇のような。広範囲でエンターテイメントといっていいような気がしないのでもないのだが、エンタメと決めてしまうのはとまどいをおぼえる。
エンタメというと、私の中ではどこかはじけた強いイメージがあって、この作品のイメージにそぐわないような気がするのだ。
この作品がはじけていないという意味ではない。
読み心地としてはとても軽やかだし、突拍子もない部分もあって、おもしろさもちりばめられている。
けれど、この作品の根底には、常にやさしさやあたたかさがある。
震災の影響が見え隠れする、ストーリーのはじまり。
緊張と不安。過去との対峙。
新たなる住処、ふしぎな場所、竜宮ホテル。
人との出会い、再会、そしてつながり。絆がまた新たに生まれていく。
それらをきっかけに、すこしずつ失ったものを取り戻していく。
水が流れゆくように物語は着実に前に進む。
それはやさしい雪解けのようで、心にじんわりと浸み込んでいくのだ。
ストーリーの運びがとてもいいのに加えて、キャラクターも立っているので、とても読みやすい。
いろんなものがぎゅっとつまっていて、おもちゃ箱のよう。
自分も登場人物の一人になったかのように、泣いたり笑ったり。
最初に書いた通り、やさしさとあたたかさがそこかしこに見える。
この二つの想いが溢れんばかりなのだけれども、その感情を際立たせたのが、もう一つの忘れてはならない気持ち、せつなさ。
パーフェクトな幸せなんてどこにもないし、悲しみを乗り越えてこそ掴めるものがある。信じる気持ちを育てる強さ。
教訓めいておらず、たいせつなことを自然にぽっと手渡される感覚は押しつけがましくなくて、とても好ましい。
物語の終わりには、希望が、心に灯がともった。
私は、この作品をちょっとふしぎな優しい物語と表したい。
読みやすく丁寧でやさしい文章は、読者を選ばず、老若男女、誰にでも読める作品だ。
あなたもぜひ竜宮ホテルの一員(読者)となって、この世界を楽しんで欲しい。
紙の本
優しい視点、人間好きの視点から書かれた作品です
2012/01/27 17:14
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:達哉ん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「人間好きの児童作家」である村山早紀さんがf-Clan文庫の創刊の際に書き下ろした新作の物語です。ポプラ文庫ピュアフルから出ている「コンビニたそがれ堂」「カフェかもめ亭」「海馬亭通信」が旧作の児童文学作品の再録中心であるのに対し、こちらは全くの書きおろしであるため、やや文体が大人びているように感じます。ですが、村山さんが本来として持っている、人間好きの優しい視点は失われることなく出ており、全体に温かみのある、また児童文学にも通じるところのある表現に満ちています。
筆者がいくつもの出版社から出している「風早の町」シリーズの一つで、上にあげた「たそがれ堂」を読んでいる人にはピンと来る場面もあります。また、2012年1月にこの本より少し遅れて再録刊行となった「海馬亭通信」とは、設定がそれなりに似ているところもあってか、同じような話を違う主人公で書いているのではないかと思わされるところもあります。あらすじでまとめてしまうと非常に短くまとめられるのですが、上にあげたどの作品よりも長く、1冊1作品です。村山さんの短編に慣れていて、中編・長編を読んだことがないという場合には、この本がその1冊目となるかもしれません。短編と変わらない優しさに溢れているため、長くはありますが、決して読みにくいということはないと思います。ただ、元々の短編の描写に近い所があってか、やや描写にくどい所があるように感じられます。まっすぐに通れば何ということもなくすぐにまとめられるあらすじなのにページ数が多いのは、多分描写にややくどい所があるからでしょう。それ故、一気に読むことは出来ませんでしたが、読み終わった後の読後感としては短編を読み終わった程度の、ごく軽いものを読んだという感じのものでした。
この話には続編があるようですが、まだ出ていないので、どうしてもこの本単体の評価となってしまいます。そして、この本単体で見た時、普段それなりに本を読んでいる人には、やや物足りない、中長編を読み終えた後の充足感に欠けるという難点があります。文庫一冊にしては少し内容が薄いように思います。その観点から、星を一つ下げました。
優しい視点で書かれているためのくどさで、少しつかれることもありますが、基本的にはあまり読書に親しんでいない人が読んで面白い作品だと思います。読書好きの人はページ数は長いけど短編という感じで読むのが良いと思います。また、作家買いの人はいつもどおりですので存分に楽しめると思います。村山さんらしい作品であり、人気の「たそがれ堂」の後に手にとって貰えればいいなと思える作品でした。
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ほんわかとした印象を残す作品。ステキなお話であることは間違いない。
が、何と言うか、全てにおいて消化不良な感じが否めない。え、続くの? これで終わりなの?? という読後感。
それがそれで味なのかもしれないけど、全体的に薄味かな。もっと、ひとつひとつのエピソードを掘り下げて読みたかった。
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一気に読んでしまうのがもったいないくらいの本。
プロローグの部分を読んだだけで、ほろほろとしてきまして、読み進めると、じわーっと体中に沁み込む幸福感を味わっております。
ゆっくり口の中で、言葉を味わうように、読みました。
時空を超えて、そして変わらぬ日常を、風早の街が包み込むような気がします。
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“わたしは、雨の中、崩れてしまったビルを見た。十数年生きてきた場所がなくなってしまった。さっきまでわたしはここにいたのに。
足下で何かが光った。はっとしてかがみこみ、拾い上げると、金の時計だった。
古くても美しかった、あの時計は、泥にまみれて、壊れていた。ガラスは割れて、針も折れ曲がっている。もう動いていなかった。
わたしは時計を抱きしめて、立ち尽くした。
部屋にあった、たくさんの本も、本棚も、長く使ったこたつも、気に入っていた小さなやかんも、ティーカップも、少しはあった洋服もたぶんもうみんな、だめになってしまっただろう。
しん、と心の中が冷えた。
ひとりきりでがんばってきた場所を、わたしは失ってしまった。
急にめまいがした。なんだろう?立っていられないような気がする。
自然な感じで、寅彦さんがわたしの腕をとった。そっとよりかからせるように支えてくれる。
わたしは「すみません」とくりかえしながら、笑ってみせた。
「......やっぱり、不幸な人生なのかなあ、と思ってしまいました。困りましたね。どうしよう?」
笑いながらつぶやいたとき、寅彦さんがいった。
「幸運でしたね」
「え?」
「もうちょっとで、先生死んでいたかもしれないんですよ?部屋の中にいたら」
「あ」
そういう考え方もあるのか。
「幸福と不幸って、とても近いものなんじゃないかなって、ぼくは思うんです」
寅彦さんが、雨に濡れるわたしに傘を差し掛けながらいった。”
雰囲気がとても素敵。
このf-Clan文庫はピュアフル文庫寄りかな?ピュアフルより中身が深いけど。
ホテルで「鳥籠荘」を思い出して、人ならざるものとの関わりで「カラクリ荘」を思い出す。
心がほっくりするような。
表紙も素敵。
続きが欲しい。
“「運命は、変わらないと思っていました。そう信じていました。でも、先生はひょっとしたら、ぼくの人生を、少しだけ、変えてくださったのかもしれません。......いえ、そんなことは、やっぱり不可能かもしれない。でもぼくは、いま、やっぱり少しでも長く生きていたいと思っています。一秒でも一分でも長く、きれいなものを見たい。潮の香りの風に吹かれて、犬のあたたかい優しい毛をなでて、そしてみんなと、話をしたい。いろんなひとたちと。笑いながら。願い事は叶わないかもしれないけれど——でもぼくは、一秒でも長く......」
そして彼は、エプロンのポケットから、一枚の木の葉を出した。濃い緑の大きな葉。それに、金色の光る文字が書いてある。細い針で彫り込まれているような。何語かはわからない、あたかも模様のような文字が、刺繍みたいに、葉全体に書き込まれているのだ。
金色の文字は、ネオンサインのように、きらきらとうごめく光を放っていた。
その葉を、響くんは、わたしに差し出した。
「『時の魔法』がかけてあります」
「えっ?」
「携帯型タイムマシンっていうのでしょうか。一回きり、好きな時間に飛んで、一回きり戻ることのできる力が、この葉にはあります。
先生への贈り物です。——先生、あってみたいひとがいる���でしょう?」
優しい笑顔で、ほほえんだ。
わたしは、その葉を握りしめた。”
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表紙の絵がかわいくて購入。
猫のついているタイトルにも惹かれてしまった・・・
ここがこういう理由で面白かった!という部分は特にありませんでしたが
終始優しい気持ちで見守るように読み終えました。
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可愛らしい表紙に惹かれて購入。
ファンタジーって嫌いなんです。
完全なファンタジーは好きだけど、日常生活に中途半端に足されたファンタジーが嫌い。なのに、この話は凄く好きだった。
最後の方の少年の話なんて、普通だったらホント嫌いなパターンなのに、なんだか凄くほのぼのして、優しくて温かい気持ちになる。
今回は「迷い猫」の話だから、今後他のエピソードも出来るのかな?
楽しみ。
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心温まる本でした。
遠い将来の科学とオカルトは融合している、というのが面白かったです。
本当にそうなったら素敵だな、と思います。
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村山さんの本は何故こんなに優しくて癒されるのでしょう。
幸せな気持ちになれました。
表紙のイラストも可愛くて素敵です。
ひなぎくちゃんとくだぎつねズ、最高です。
ただキャラクターの濃い登場人物が多すぎて、一人一人の話が不完全燃焼だった気がします。
寅彦さんと辰彦さんの話ももう少し読みたかったです。
是非続編を!
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空気感がとても心地良い。メインは妖精の祝福という名の『呪い』を背負った家族のお話。
この物語の中で起こることは割と辛かったり、悲しかったり、切なかったりするのだけど、それを受け止める優しさに包まれていて、読後感はちょっと嬉しくなるような気持ち。
舞台となる不思議な『ひとびと』が集まる竜宮ホテルにも泊まってみたいなあ。
表紙の遠田志帆さんの絵もたまらない。遠田さんの竜宮ホテルの絵、もっとないかなあw そんな風に、この物語の風景がもっと見てみたくなる、とてもいい本でした。
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悪を性質ではなく現象としているかんじ(誰かが悪い)なのが好き嫌い別として特徴的だなーと思いました。表紙の絵がものすごく好みです
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うーん、軽いなあ!
ちょっとトントン拍子で綺麗に収まりすぎて
物足りなかったなあ、と思う私の心がだめなのか。笑
でもこれはこういうお話だからいいんだろうな。
と言うわけで次は難しそうなの読もう。
まあジャケ買いだしいっか。
他の作品も読んでみよー。
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舞台は現代日本なのだけど、内容は少し不思議な、目に見えないものたちと人間の話。
読んでいて心が温まる話でした。
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まさかティーンズ文庫のコーナーにあるとは思わず、本屋で探し回ってしまいました!ううぅ、泣けました!よかった。ひなぎくちゃんが、可愛くて、こんな妹欲しい!愛理さんとの話もよかった。お父さんのエピソードはいうまでもありません。目頭がこう、キューっときます。寅彦さんとのロマンスがあったらいいのになぁ。読んでみたいなぁ。あぁ、もっと風早シリーズ読みたーい!
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表紙可愛いと思ったら、村山先生だったので購入。
ストーリ的には、複線わかりやすすぎて、
意外性はなかったです。
あとがきの「幸せな話」を書きたかったっていうのは、
ちゃんと達成している作品だと思います。
読み終わった後に、めでたしめでたしっていう気持ちになります。
幽霊に未来人、妖怪とのハーフの人間まで、出てくるのに
とまどいがなければ大丈夫、竜宮ホテルの人間になれます。
主人公の水守(みもり)先生は、不思議がみえる片目を持ちながら、それを不思議なんて何もないと否定しながら生活していましたが、住んでいた家を失い、そんなときにあらわれたお腹をすかした
ネコ耳をもつ少女出会うことで、結構すんなり否定していた世界を
受け入れていくように思えました。
やどかりのような自分という表現がでてきて、
彼女が守ってきた殻は、何だったんだろうとも。
脳内で勝手にキャスティング
水守響呼:久川綾 ヒナギク:喜多村英梨
母 :井上喜久子
錦織寅彦:下野紘 草野辰彦:田中幸秀
響健一郎:梶裕貴 檜原愛理:城沢みゆき
鷹野真一郎:
三島:麦人
佐伯:藤原啓二
星野ゆり子:渕崎ゆり子
勝手にそんな感じでイメージして読んでおりました。
若い人あまり知らないので、偏っております。