紙の本
しら梅に
2011/07/29 08:18
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この物語の主人公与謝蕪村は江戸時代中期の俳人である。正岡子規はその蕪村の俳句を評して「芭蕉に匹敵すべく、あるいはこれに凌駕する」と讃えたが、子規の俳句革新は蕪村という俳人の再発掘に力を得、それは燎原の火となって、現在(いま)に続いている。
蕪村とその周辺の人々を描いた七つの短編からなる葉室麟の作品のなかでも蕪村の句は効果的に使われている。ただし、直木賞の選考のなかで「俳句が情景描写に安易に使われている」という批判はどうだろうか。本作の最後の作品である、蕪村の死後の弟子たちの日々を描いた「梅の影」にその傾向があることは否めないにしても、他の作品ではそれほど気になるものではない。
全体としては蕪村の弟子である月渓(後に松村呉春と名をあらため、四条派の祖となる絵師)が物語のはしばしに登場し、物語の進行に一役を買っている。蕪村の物語というより月渓のそれという方がふさわしい。
(ちなみにいえば、本書のカバー絵は呉春の「白梅図屏風」で、蕪村の死後彼がその絵の完成にいたるまでの物語は先ほどの「梅の影」である)
もっとも読みごたえがあったのは、蕪村の娘くのの嫁ぎ先での苦労話を著した「春しぐれ」だった。
くのは蕪村が四十過ぎにできた娘で、それゆえか蕪村の情愛が深い娘であった。そのくのが嫁ぎ先でつらい虐げを受け、やがて病の床に伏してしまう。そんなくのを迎えにいったのが小さい頃から兄のように慕った月渓であった。月渓は静かに病のくのを背負い、蕪村とともに春しぐれのなかを嫁ぎ先を後にする。
もちろん、物語はもうひとつの終わり方が用意されているのだが、ここでも梅の花が彩りをそえている。
与謝蕪村は天明三年十二月六十八歳の生涯を閉じた。
その忌日の十二月二十五日は「蕪村忌」として、今も俳人たちに詠まれつづけられている。
正岡子規はこう詠んだ。
「蕪村忌に呉春が画きし蕪かな」
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いつもながら
しみじみとした読後感が残るのが
うれしい
与謝蕪村さん本人が控えめに描かれ
その周りの 人たちが
実に優しく描かれる
その周りの人たちを丁寧に描くことにより
蕪村自身の陰影がより深く印象づけられる
もう一度
岩波文庫の 「蕪村俳句集」を
ひもといてみようかな
と させてもらえる
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どのお話も悲恋ばかりで読むのがしんどかったです。
帯に「蕪村、最後の恋」とありますが、「老いらくの恋」とかは良いと思うんですよ。いくつになっても恋ができるって素敵だから。
でも、奥さんと娘さんと暮らしているのね……と思った時点でとてもがっかりでした。時代が違うので、今の不倫と同じように考えることはできないと思いますが、結局、長年連れ添って気心の通じた妻より若い娘の方が良かったでだけでは?って気がします。
作者の葉室さんは男性の方なんですね。もしかして、悲恋とか悲しげな女性に美を感じるとかなんでしょうか? 私は女の人が不幸になるお話は苦手だな~と思いました。
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蕪村の俳句を軸に丸山応挙や上田秋成、弟子の月渓(呉春)など蕪村と彼を取り巻く人たちの愛と恋を描いた連作短編集。
いつも思うことながら葉室さんは史実や実在の人物を縦糸とするならば架空の出来事を横糸にして物語を紡ぎだすのがすごく上手いなぁと思います。
ひとつひとつが短いので淡々としてあっさりめですが山椒は小粒でもピリッと辛いといった素敵な短編集に仕上がっています。
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「川あかり」でなんて面白い作家さんなんだぁ~と衝撃の出会いをした葉室麟さん。
今年の「恋しぐれ」で何度めかの直木賞候補ということで読んでみました。
京に住まいする与謝野蕪村や彼の周辺の文人・画家たちの恋の物語短編集。
大事な場面には俳句が効果的に使われて、俳句好きな私には嬉しかったし、丸山応挙、上田秋成などの人柄、交流などもよく描かれていたと思うのだけど、一つ、一つの話が、程良くまとめられすぎていてなんか物足りない気が・・・。
それに、蕪村、最後の恋と謳われている祇園の妓女・小糸の話や、その小糸の悋気する門人、かつ大阪の芸妓の梅の話は、彼女たちのひたむきさが可愛らしく、また、哀しく、と風情があるものながら、蕪村にはちゃんと妻も娘もあり、それで、「恋」ってありなの??? と、時代背景を考えれば、そんなことを言うのは野暮なのだろうけど、やっぱり、やだなぁ、と。
直木賞にはちょっとインパクトが足りないんじゃないかな。オール讀物連載ということで、“大人”の事情からは、一番、賞に近い、ということはあると思うんだけど…。
私は、「ジェノサイド」に獲ってほしいです。
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◎第145回直木賞候補作品(2011年度・上半期)。
2011年8月19日(金)読了。
2011-52。
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与謝蕪村を巡る短編集。蕪村に係わる人々を描いて、蕪村の人となりをその俳句によって浮かび上がらせる、凝った趣向。そして、恋に焦点を絞ったのはいいのだが、ただ私にとって気がかりなのは、小糸や梅とのあれこれがありながら、妻であるとものことが書かれていないこと。少し、残念!
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与謝村の蕪村を名前と俳人としか予備知識が無く、詳しく知りませんでしたが、すっと彼の人柄が入って来ました。大変、軟らかいタッチの表現で、家族、友人、弟子、愛人、外腹の息子等々、蕪村を囲む人間関係が、著されていきます。
また、人の業とはなかなか恐いもので、そのあたりも上手く表現されていて、感銘を受けます。好きになる人は、似ている。年をとっても、いくつになっても、、、、同じ人に恋をする、、、
俳句のではなく、絵画の弟子の月渓が、光ります。没後、10年掛けた作品を見たいですねぇ。
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初、葉室麟。直木賞候補ってことで、手出してみました。なかなか、風情があって、キレイな話。俳句っていいなぁーっと思いました。また、色恋が美しく描かれていて、この世界観にはまりました。
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文藝春秋HPの内容紹介が、まさにその通りなので引用させてもらう。 『与謝蕪村晩年の数年を描いた本作は、今までの作品とは些(いささ)か趣きが異なり、派手な剣戟のシーンもなく、幕府を巻き込む陰謀もありません。蕪村の最後の恋を主軸に、俳句の弟子たちや、上田秋成、円山応挙などの友人たちとの心の交情を丹念に描いた異色作です。ただ著者の特徴である「人を想う気持ち」は通奏低音の如く流れていて、読む人の気持ちを暖めます。作品に引用される俳句も効果的です』 これまでは、若者の成長をさわやかに描くといったイメージだけど、今回は、老いや人のごう、因果が扱われている。 蕪村の小糸への思慕を縦糸に、蕪村の周りの弟子や家族の物語を横糸に織り成される。 蕪村の人物像だけでなく、親しかった丸山応挙や上田秋成の人となりもていねいに描かれ、まるで見てきたよう。 読み進むにつれ、3人の情のあるかかわりにうれしくなる。 世間的には、非難されるような駆け落ちや放逐、離縁などにも、その陰にはそれなりの事情があることが描かれる。 許されない行いや恋慕も否定することなく、ありのままを書いているところがいい。 父を、弟子を、娘を、友人を、恋しい人を思う気持の温かさが伝わってくる。 どの人も一生懸命だ。 別の生き方もある、やり直すこともできる。 人生半ばの人たちへの応援メッセージのような作品だ。残された資料や俳句から、ここまでの作品を書かれた葉室さんにまたまた拍手!
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「夜半亭有情」「春しぐれ」「隠れ鬼」「月渓の恋」「雛灯り」「牡丹散る」「梅の影」
与謝蕪村の句にちなんで、物語が展開します。
六十七になる蕪村。
京の俳人として名を成し、絵師でもある。
円山応挙や上田秋成も登場。
月渓は蕪村の弟子。弟子はとらない方針だったが。
年下の妻・とも、娘・くのとの暮らしに馴染んで、くのは兄のように慕っていた。
小糸という祇園の芸妓と3年ほど前から馴染みになっていたが、門人には反対されていた。
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葉室 麟の作品は初めてだったが、とてもおもしろかった。
今年読んだ中では間違いなく上位。
蕪村よりも松村月渓が印象深い。
ちなみに呉春、一番好きなお酒です。。。
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直木賞の候補だったので借りてみました。
文人たちの大人の恋っていいねという感想を良く見たしそういうところを描きたかったのかもしれないけれど、妻がありながら若い女性に惹かれる師匠たちは余り私には魅力的に映らず……
そういうお話よりは、若い人に師匠たちが心配りをしてあげるお話がすきでした。月渓はイケメンすぎると思います。お嬢さんとくっついて欲しかったんだけど、くっつかないところがよかったのかなあ。
しんみりと綺麗なお話ばかりの短編集。
お気に入りは「春しぐれ」「梅の影」です。
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久し振りに古い言葉が並んで、読むのに時間がかかりました。
短歌、俳句系が好きな人はいいとおもいます。
江戸の恋はほのかで恥じらいがあって、とてもいいです。
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直木賞候補作に選ばれたので、どんなものなのか
読んでみた一冊。
こういう昔のお話って、久々に読んだので、何だか新鮮な感じがした。