聖夜 （Ｓｃｈｏｏｌ ａｎｄ Ｍｕｓｉｃ）

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投稿者：こぶた　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

主人公の少年はカトリック系高校で学び、
父は牧師でいつも穏やかで正士い道しか歩んでいないようにも思え
父と別れ家を出た母は奔放で罪深く思える
そして彼は斜に構えていると自覚したまま
１０代特有の視野の狭さとだからこそ
感受性が優れているために周りとのバランスのとり方に悩み葛藤している。
そのありようが音楽、オルガンの音色や響きに乗せて
私に伝わってきた
藤谷治の船に乗れ！３部作のように
ひたすら音楽に取り組むことの尊さが伝わってくる
若いからこそ迷いながらひたむきに生きていくことの支えが
音楽であることがうらやましくも思え
心を揺さぶられた
聖夜に向かうこの時期にこの本を読むことができて本当によかった
佐藤さんが描く少年も少女も
多感な時期に心に抱えるひりひりした思いやどうしようもないいらだちを
うまくやり過ごせないでいる子が多く
それがリアルでいいなあと思う
この本に出会えてよかった
本当に素晴らしい物語をありがとう

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投稿者：kumataro　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

聖夜　佐藤多佳子　文藝春秋

　難解です。もっと気楽にぱーっとやろうよ！と叫びたくなります。本の帯は楽しげです。キャッチコピーは喜劇風です。でも違います。父は牧師、母は元ピアニスト、息子はオルガン弾き。でも、両親は離婚しています。読み始めて後悔しました。暗い。早く読み終えたい。ダッシュだ。半日で読み終わりました。
　神父の鳴海哲哉は神父だから非行をできない。その息子一哉１８歳高校３年生も神父のこどもであることから品行方正を求められる。ふたりとも、狭くて窮屈な世界にいる。なのに、母香住（かすみ）は一哉が１０歳、小学校４年生のときに、一哉のオルガンの教師であるドイツ人オリバー・シュルツと恋仲になって、ドイツへ行ってしまった。一哉は、神を信じられない。学校でも孤立している。周囲にいる人間をいじめたい。彼はどうでもいい気持ちでオルガンを弾いている。書中にあるとおり、彼は初対面の女性を「この女は、男を裏切るのか」という目で見る。
（１か月後　再読）
　一哉は、虚無にこもって自己防衛をしている。感動を生む演奏には技術だけではなくて、幸福で満たされた心が必要になる。１０才のときに母から聞かされた「カズちゃん、ママはオリバーとドイツにいく。もう帰ってこない。パパとはサヨナラ」不倫の原因になったママのストレスは祖母のママに対する厳しさにある。祖母はリードオルガン、母は電子オルガン、同じオルガンでも音源がまったく違う。祖母はママを追い詰めた。一方一哉は、母が母でなくなったことを許さない。一哉のなかで、母は「善」から「悪」へと変化した。一哉は同時に、１０才の自分が父と母の仲をとりもつべきだったと自分を責めて後悔している。
　９６ページ、歩道橋をおじいさんが杖をつきながらのぼってくる。一哉は彼に横断歩道を利用したほうが楽だと勧めるが、彼は一哉の声を無視してきっぱり言う。「挑戦だ」自分の生きざまを自分の音で表現する。「挑戦だ」。しぶとく、この世界に実在してやると一哉の気持ちは固まる。帰宅した一哉は曲づくりを始める。神が与える試練に対しては「挑戦」するのが人間の根本的な要素なのです。
　一哉は、自分のメシアンを創造し始めました。礼拝堂は心がしんと静まるところとあります。孤立していた一哉のまわりにつながりができはじめます。音楽を分かち合う。喜びを分かち合う。２１６ページ、聖夜が訪れました。ろうそくの火が灯（とも）り、天使たちがゆっくりと空を舞います。メリークリスマス。キリスト誕生の喜びが登場人物たちにあふれます。満ちる幸福感があります。一哉がメシアンを弾く。その１曲を弾くまでに、これまでの長い道のりがありました。音＝生きること。音は消える。だからまた次の音をつくりたい。生命の継続です。鳴海一哉は、１曲を弾くために１８年間生きてきたのです。

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投稿者：オクー　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

　School and Musicシリーズと銘打たれた２冊のうちの１冊。もう１冊
は「第二音楽室」。読み始めて改めて思ったのは佐藤多佳子の文章のう
まさだ。普通の文章が普通にうまい。さすが、である。「第二音楽室」
は短篇集だったが、こちらは長編。さて、どんな物語が僕らを待ってい
るのか？

　主人公はキリスト教系の高校に通う鳴海という男の子。彼には母が父
の元から去ったことへのトラウマがあり、学校生活や部活、周りの人々
に対してどこか斜に構えている。さめた感じがする若者なのだ。オルガ
ン部に入っている鳴海は、他の部員よりもはるかに優れた技を持ってい
るのだが、メシアンの難曲を弾くことになっていた文化祭の直前にとん
でもない行動に出てしまう。

　これは鳴海が音楽やオルガン部の仲間たちとの交流を通して、苦しみ
ながらも成長していく姿を描いた物語だ。教会の牧師である父との会話、
後輩からの恋の告白、ロック好きの友人との交流が彼の心を少しずつ変
えていく。鳴海や部活仲間たちの演奏場面の描写が素晴らしい。奏者の
思いとその音が一緒になって読む者の心に響く。クライマックスのパイ
プオルガンの演奏、そして、クリスマスツリーを見上げての会話と合唱
が感動的。「第二音楽室」と一緒に読んで欲しい傑作音楽小説だ。

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投稿者：みーちゃん　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

前に読んだ『第二音楽室―Ｓｃｈｏｏｌ　ａｎｄ　Ｍｕｓｉｃ』の宣伝文に「４年ぶり待望の新作は２ヶ月連続刊行の中・短篇集。」とあったのを忘れていて、書店で似たような造りの本を見て、？　と思い、出版社とデザイナーをチェックすると、文藝春秋、装画　唐仁原教久、装丁　大久保明子という名前が飛び込んできて、改めて、本の扉の絵も、「聖夜　1980」本編の扉の可愛らしい、と思った次第。

とはいえ、私はてっきり、今回も同じように複数のお話が収まっているとおもったら、これが勘違い。231頁ですから、一応、短めの長篇。本文13章とあとがき、という構成になっていて、初出は、聖夜　別冊文藝春秋　2010年9月号、となっています。あとがきには、佐藤の母校である青山学院高等部のオルガンやリハーサル、コンサートを見て勉強したそうです。

また、同じ学校の出身者で十年にわたって高等部のオルガン部で指導しているオルガニストの浅井美紀にいろいろ教わったとあります。とはいえ、ガチガチの音楽専門用語で守りを固めたお話かといえば、さにあらず。そこはあくまで前作の延長線上にあります。今回、「けいおん」的な要素も若干はありますが、基本は「スポ根」、それに母親の不倫（というか、それと母親の夢がからんだものでしょう）がミックスされています。

ただし、前作に比べると大人だけではなく、子供たちの側にも恋愛の要素が入り込んできていて、その点は前作に比べると、甘いかな、って思えることもあります。ただし、それは話の背景を流れる音楽のようなもので、決して主旋律にならないので、私としては許容範囲内だな、と思った次第。で、あとがきには、まだ書かれていないシリーズ作品があと二つ残っている、という嬉しいお言葉もあります。乞うご期待、といったところ。

出版社はHPでこのお話を
　　　　　　　　　　　　　　＊
パイプオルガン――この心の震えは、祈りに似ている

“俺は記憶のないころから鍵盤に触れてきた”。聖書に噛みつき、ロックに心奪われ、メシアンの難曲と格闘する眩しい少年期の終わり

『第二音楽室』に続く“Ｓｃｈｏｏｌ　ａｎｄ　Ｍｕｓｉｃ”シリーズはオルガン部が舞台。ものごころつく前から教会の鍵盤に親しんだ鳴海は、幼い自分を捨てた母への複雑な感情と聖職者としての矩（のり）を決してこえない父への苛立ちから、屈折した日々を送ります。聖書に噛み付き、ロックに心奪われ、難解なメシアンの楽曲と格闘しながら、高３の夏が過ぎ、そして聖夜。瑞々しく濃密な少年期の終わり。闇と光が入り混じるようなメシアンの音の中で鳴海がみた世界とは。（ＯＹ）
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と紹介します。スポ根、のだめ、スウィングガール、といった今流行の音楽ものに不可欠な要素に、学園ものならではの淡い憧れと恋愛感情があり、しかも美人のお姉さんまで登場するのですから、今度は高校生と年上の女性との恋愛まで絡むんだ、なんて思わせて、サービス満点どころか過剰じゃないか、なんて思ったりもします。

ところが、そうは単純に行かない。理由は主人公の鳴海一哉の家庭にあります。両親が離婚していることは、大きな要素ではありますが、このお話にとって大きいのは、父親の鳴海哲也が、世田谷の住宅地にある、半世紀を経ているという教会の牧師であり、その父親も牧師だったということにあるでしょう。だから敬虔だ、とはいいませんが、それが一哉と音楽との関係に大きく影響していることはたしかです。

もう一つが、母、香住の存在です。彼女はコンサートピアニストを目指し、ドイツに留学したこともあるがコンクールでの受賞暦はありません。かの地で、留学していた哲也と知り合い、結婚。それを機に、ピアニストを引退した美しい女性で、結婚後は、個人的にオルガンの演奏を楽しんでいました。その香住が最も好きだったのがメシアンの曲です。とはいえ、彼女の中で音楽に対する情熱は醒めていなかった。

それが一哉、10歳の時の離婚と渡欧ということに繋がっていきます。高校三年になる一哉には祖父からひきつがれた牧師の血と、母から受け継いだ音楽の才能が流れていることになるわけで、幼い時から音楽に親しみ、教会でオルガンを弾きもするし、学校でピアノも演奏しています。ただし、よくいうサラブレッドかというと、決してそうではありません。普通の高校生の水準を越えてはいますが、天才と呼ばれるほどではない。この設定がいいです。

で、その一哉が９月の文化祭で、メシアンの『主の降誕』から『神はわれわれのうちに』という曲を演奏することがこの話の中心にあります。そう、母が好きだったメシアンの曲です。この本を読んだ娘が早速、メシアンの曲に興味を示し、聴きたいといいだしましたが、それがいかにも自然であるように佐藤は『神はわれわれのうちに』の素晴らしさを描き出します。

一哉が所属するのは高校のオルガン部で、そこには、何事にも情熱的で意欲的で音大への進学を考えている美少女・青木映子がいます。美しいだけではなく技術的にも安定していて、実力では一哉に次ぐ位置にいて、彼に想いを寄せています。ただ、今の一哉には恋愛を楽しむ気配はありません。両親のことがある、というよりは音楽のことで頭がいっぱい、というほうが正しいでしょう。

そしてオルガン部にはもう一人、二年生の女生徒がいます。それが天野真弓です。チビッ子で、美少女でもない彼女は、技術的にも青木に劣るのですが、その演奏には何かがあり、それには一哉も青木も敵いません。その真弓は自分の天才に気付くことなく、ただただ先輩、鳴海一哉の演奏に圧倒され、尊敬するのです。

その一哉にして歯がたたないのが、自分が文化祭で弾くことにしているメシアンの曲。技術的には何とか弾き終えるものの、何かが足りない。そんな一哉たちの前に現われたのが、倉田ゆかりです。彼女は一哉たちの高校の卒業生で、音大のオルガン科に通う24歳の、美しい女性で、新しくオルガン部にやってきたオネエサン・コーチです。そして、彼の演奏に惹かれる深井やその知り合いが登場し・・・

一哉はメシアンの難曲をものにすることが出来るのか、彼を慕う二人の後輩、青木と天野は、そして一哉の両親は。一気に読めます。

ちなみに、私を狂喜させたのは、一哉がELPのキース・エマーソンの演奏に心惹かれるた、という件。私をロックに、そして、ジャズ、クラシックに、そしてメシアンの全集を買わせることになった演奏家こそ、キース・エマーソンでした。ま、私の場合は『展覧会の絵』よりも『恐怖の頭脳改革』のほうが影響力が大きかったのですが。で、つい先日、MTVでここにも描かれているキースがシンセサイザーに刃物を突き立てる場面まで見てしまった次第。

そう、ここには今流行の様々な要素にプラス、私だけに響くキーワード「メシアン」と「ELP」までが盛り込まれているのです。しかも、一哉の両親が出会ったのが、つい先日、私たち一家が旅したドイツ。で、我が家の次女が中学高校時代所属していたのが管弦楽部、楽しめないわけがない、ということになってしまいます。

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投稿者：neko　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

もちろん、マザーボーイのソウルメイトはママなんだけど、ママに見捨てられたマザーボーイはどうなるかっていうお話です。特に、ママが芸術家の場合、子供に芸を仕込むので、ママがいれば芸を伸ばしていける。じゃあ、ママがいなくなっても大丈夫かというと、必ずしもそうはいかない様です。ただ、一つ言えるのは、「強い」女の子が近くにいると、多少は安定する様です。