紙の本
助けを求めるためには強さが必要
2011/03/20 12:51
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投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
平成22年度は大学卒業見込み者の内定率が過去最低となった(平成23年2月1日時点)。働きたくとも働けない、まさしく超就職氷河期である。しかし、就職氷河期という言葉は、いまできたものではない。バブル崩壊後、いわゆる団塊ジュニアが就職を目指した時が最初ではないだろうか。日本経済は就職に一時の間氷期を与えて、いまの超就職氷河期となったのだが、団塊ジュニアの中には長就職氷河期の真っ只中にいるものも多い。そして、彼らが30代を迎えた昨今、この問題は最悪な形で表出しはじめた。
本書はNHKの番組クローズアップ現代での取材内容をまとめたものである。北九州在住の39歳男性の孤独死をきっかけに事に本質へと肉薄したものである。
衝撃的だった。
「助けて」とだけ書かれた紙きれを封入した投かんされることのなかった封筒。この一言が発せられないがために、多くの30代が苦しんでいる。高度経済成長期にいわゆる「企業戦士」として戦った団塊世代を親に持つ30代。努力は結果となることを強く教え込まれ、自己責任の呪縛に取り疲れられた30代。できないのは自分が悪いから、努力不足だからと自らを追い込み、弱音を吐くことができない30代。
自己責任論と弱音を吐くことができない性質に育てられた彼らは、経済成長を果たしてきた親のような生活を送ることが当たり前にできるよう頑張ってきた。彼らが社会に飛び出そうとした矢先、バブルが崩壊。就職内定率は激減し、非正規という立場で社会に出ざるを得なかった者も多かったに違いない。企業は新卒者に狭いながらも門戸を開く。間氷期には、その時代の新卒者が就職し、30代は蚊帳の外に追いやられた。そして、リーマンショックである。
新たな超就職氷河期を受けて、政府は新卒者の資格を3年以内の既卒者にまで適用しての受付を呼び掛けるという奇妙な方策を打ち出した。おそらく団塊ジュニアの轍を踏まないようにとの配慮であろう。それも企業側の対応いかんであろうが、団塊ジュニアには企業の対応に身を委ねることすらできない。30代となった彼らからは非正規職やアルバイトすら若い世代に奪われていく。
それでも「助けて」と言えない。支援者が手を差し伸べてもその一言が発せられないという。「大丈夫だから」、「自分で何とかするから」そう言って支援の手からすり抜けていく。彼らの中には団塊世代の親が築き上げた家があり、親も健在という。しかし、「心配をかけたくない」と家からも遠ざかっていくとのこと。
取材のきっかけとなった39歳の男性は孤独に飢死した。この死に対して「緩慢な自殺」というコメントが本書に掲載されているが、自らの意思を持った30代の自殺者の人数は激増しているという。
彼らは努力不足や実力不足のせいでいまの立場に陥ったわけではない。他人を頼らないような性格に教育され、競争に勝つことが是とされてきた。産声を上げた時は誰でも誰からの庇護が不可欠だ。しかし、それを良しとしないよう教育されてきたのだ。そして、人災とも思えるような不景気により自立への梯子を外されてしまった。それでも30代は誰を責めるでもなく、自らを奮い立たせて消耗していく。
少子高齢化が進行するこの国は、高齢世代を下の世代で支えるシステムを築き上げた。いい加減な管理や資金乱用で破たんしたこのシステムの維持に必死な国は、根本的な失策を早く是正すべきではないだろうか。高齢世代を支えるためには現役世代という土台が何よりも必要であるにも関わらず、30代の現状を考えると土台は穴ぼこだらけと言わざるを得ない。元気な高齢者には働いてもらうことも大切だが、もっと目を向けるべき世代があるのではないだろうか。
全ての世代の方に一読してもらいたい本である。
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目次
第1章 「助けて」と言えなかった―孤独死した三十九歳の男性
第2章 ホームレス化する三十代―炊き出しに集まる若者たち
第3章 「何が悪いって、自分が悪い」―三十二歳の“イケメン”ホームレス
第4章 ネットで広がった共感の声―「他人事ではない」「明日は我が身」
第5章 手遅れになる前に―NPO代表・奥田知志さんの闘い
第6章 三十代の危機(平野啓一郎)
おわりに―“助けて”と言える社会へ
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自分のことは自分でなんとかする。結果が出ないのは自分の努力不足。私もそう思ってきた。この本に出てくる30代は私にとって他人ではない。自己責任ってなんだろう。
心に残った言葉。
「彼らは、本当はぎりぎりのところまで追い詰められているんだけど、まだ自分で頑張れると思って、自分で頑張っている人たちなんだと思う。彼ら自身の思い込みかもしれないけれど、僕は社会がそうさせていると思うんですね。自己責任論ということを社会は言ってきた。この社会が、自分の責任だと言い続けてきたんですよ」
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さっと読めますので、若年のホームレス生活者問題の入門書としてはいいかも。マスコミぽいまとめ方から零れ落ちる部分に気づく人はぜひ次に進んでいってほしい。
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衝撃、というより他なかった。
就職氷河期世代の30代が、ホームレスになっている。生活に困窮しても周囲に助けを求められずに命を落とす人もいる。
自己責任、といって片付けてしまうのは簡単だが、そう言っていられる時代はもう終わろうとしているんだなと思った。
若い人たちは、今は働けていてもいつ転落するか分からないことをもっと受け止めるべき。落とし穴はすぐ近くにある。
私自身休職して初めてそのことに気付き、問題意識を持つようになった。危機感を持って変えていかなければならないと、痛感させられた。
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助けてください。
助けてくれ。
助けて欲しい。
もしものことがあったとき、言えるのだろうか。
本を読んでいる間、どこか頭の隅のほうで考えていた。
書店を徘徊していて、目に入ったこの本のタイトルに引き付けられて、
なんか、これは読まないといけないんだろうなって気がして購入。
読み終えてみて、その勘は当っていたかなって感触がある。
内容は孤独死、ホームレス、雇用問題、とにかく重い話題ばかり。
けれどもオイラ、読み始めると引き込まれていってあっという間に読み終えちゃった。
あと1年ちょいで30代だし、この本の中で指摘されている「助けてと言えない」という風潮はオイラも感じているし、程度は違うけれども辛い思いをした経験があるから、単なる他人事としては受けとめられなかったせいかな。
人に弱みをさらけ出しにくいこと、他人からの評価を気にし過ぎること、以前の自分に、今でもだろうけど、そういったことで息苦しく感じていた記憶があって、これからもそうならないとは限らない。
だから安心して、誰かに相談したり、話を聞いてもらったり、そういった関係性がとても大切だと改めて思わされるな。
そういった場や対話を、自分の周囲との間の中に根付かせていくことがオイラのプライベートな活動の軸、課題に思えてきた。
勉強でなかなか時間取れないから、意識して動かないとなー。
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・「家族に迷惑をかけられない」
・「自分で仕事を見つけてどうにかする」
・「自己責任」として自分を責め、誰にも相談できずに家族や友人、地域との繋がりを断った
・「何が悪いって自分が悪い」
・「孤独死予備軍」
・「まさかホームレスだなんて口が裂けても言えない」
・「親に悲しい思いはさせたくない」
・孤独した生活が長期化すれば、自立への道はおろか死の縁に立たされることに繋がりかねない
・「自分が存在しているんだという実感が」がない
・これから自立への道を進むときに、やっぱり誰かの存在が必要
・自己責任論で苦しめられている一方で、自己責任論を隠れ蓑にしてきたのではないだろうか?
・「強いプライド」「簡単に孤独状態に陥る」
・プライド = 尊厳 一人でいる事が心地いい
・アイデンティティ・クライシス
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奥田知志 NPO法人北九州ホームレス支援機構理事長・牧師
自分を責めている人がいるなら、その苦しみも共に苦しむ。
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これほど衝撃を受けた本は過去にない。
自己責任という言葉に縛られ、努力の意味を履き違えてる30代。
まさに自分のことだ。
僕はあと半歩間違えれば、この本に登場する人たちと同じ状況になっていたはずだ。
おそらくこの本に出会わなければ、自分が「自己責任」という言葉の呪縛に捕らわれていることすら気がつかなかったかもしれない。
今後の自分の方向性を考える、大きなキッカケになった。
感謝。
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身につまされる。他人事ではない。自分がそうなってもおかしくなっかたかなと思う。
「助けて」と言えないんだよね。なかなかね。
電車に飛び込んだほうがましかな。。って思うくらい困っていた時も「助けて」と言えなかった。
まず、利害関係のない場所で、そして当事者に影響力のある場所で
やっと「助けて」って言った。
そうしたら、いろいろな人が助けてくれた。自分が思っていた以上にね。
困ったときには、助けてって言ってみるといいよ。きっと
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30代のホームレス、自殺者、孤独死が増加。日本はいったいどうなってるんだ。。
この国は大丈夫か?
同じ30代として、何ができるのかな?
私くらい天才で金持ちになってしまうと全く理解ができない世界が日本の同世代にある。
幸せとは何か?
どん底から踏ん張るとか言うけど、踏ん張らないで自然体で生きてる方が良い。私も昔は貧乏だったな。こういう人たちの話を読むと悲しくなるが同情はしない。
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【感想】私も将来ホームレス、孤独死の可能性が高い1人という意味でリアルな現状に共感したけど、死後、いろいろ生前のことほじくられて調査されたり、ホームレスになったときにインタビューされたりこうやって書籍化までされるのは私だったら嫌かも。
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タイトルが気になり手に取った。私自身、該当する年齢層であり、「明日は、わが身かもしれない」と感じた。「自己責任」と物事をとらえる様相は、私の中にも存在する。この本を読み、「自己責任」は大事だが、度を越えると生命を蝕み兼ねないと感じた。生活はできている私も、日々ギリギリの綱渡りをしている心理がある。この世代は、バブル後に就職し、正規雇用とはいえ景気は改善せず、夢や望みを実感しにくいのだと思う。その中で、どんな支援者がいたら…と考えると、文中で紹介されていた「伴走者」という表現がピッタリであった。この本によって改善策は見つからなかったものの、自分の無意識を意識化するきっかけになった。
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助けてと言えない。自己責任。努力不足。39歳の孤独死。
頑張っても頑張っても報われない。社会は経験が無いからと拒絶する。できないからと解雇する。本人だって努力していないことなんて無い。それでも及ばない。だけど、それを本人の努力不足だなんて否定することはできない。
頑張れ、頑張れと言われたって何を頑張れば良いのか。俺は頑張っている。まじめに仕事探しだってしている。言われなくたってしています。お気になさらないで下さい。そして無職であることを恥じ、世間に出てこない。図書館に行けない。悩みを抱え込む。
問題を1人で抱え込む。結果的に孤独死や自殺へと繋がってしまう。
もっと助け合おうよ。そんなメッセージが胸に響く。
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NHKクローズアップ現代取材班が、孤独死した39歳男性から、情報を収集していく丁寧な一冊。
同年代として、「助けて!」と言えないという気持ちは理解できる。
ホームレスが同世代に増えているのは、今も変わらないのだろうか。今後も増え続けてしまう社会なんだろうか。
いろいろと深く考えてしまう一冊でした。