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商品説明
尾崎一雄、尾崎士郎、上林暁、野呂邦暢、三島由紀夫…。文学者たちが愛した東京大森の古本屋「山王書房」の店主が、文学者たちとの交流と、古本と文学に対する愛情を綴る。〔三茶書房 昭和53年刊の再刊〕【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
関口 良雄
- 略歴
- 〈関口良雄〉大正7〜昭和52年。長野県生まれ。28年、古本店山王書房を開店。尾崎一雄らと五人句集「群島」を刊行。著書に「銀杏子句集」など。
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書店員レビュー
この本を読んでいる間...
ジュンク堂書店仙台ロフト店さん
この本を読んでいる間、私はとても幸せで、本はきっと、この世界から消えてしまうことはない、と思いました。こんなにすてきな本があるのだから、本は絶対になくならない、、そう思いました。
本はいいなぁ、と思います。本が好きです。本が好きな人が好きです。本が好きな人の本が好きです。好きな人の好きな本を好きになります。
なんだかわけのわからないことを書き連ねてしまいましたが、うんうん、そうだよね、とすこしでも思ってくれるかたは、きっとこの本が好きになると思います。
著者と出版社の、本への愛があふれています。手にとって、開いて、めくったら、ぽろぽろこぼれおちてしまいそうなくらいに。こぼれおちないように、しっかりうけとめて、よく噛んでよく読んで、私にしみこませます。
紙の本
古本屋人生を滋味あふれる達意な文で書かれた遺稿集
2010/10/06 08:39
22人中、21人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ろこのすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
長年探していた本を古本屋で見つけた瞬間ほど嬉しいことはない。その本だけ浮いて見えるから不思議だ。あまりの嬉しさに店主に「この本、随分長い間探していたんですよ」と話しかけると、そっけなく「そうですか」と言われるだけでさっさとレジを閉める様子は情がまるで通わずさみしい。それもそのはず、レジの人は店主でなくアルバイトの店番だったりする。ほんのつかのまでもよい、何か本にまつわる話が出来たらと思うが、思うほうが間違いのようだ。
『昔日の客』は東京大森の古本屋の店主関口良雄氏による遺稿集の復刻版である。多くの小説家(尾崎士郎、尾崎一雄、上林暁、野呂邦暢など)や文人たちに愛されたこの古本屋「山王書房」。店主の関口氏の古本への愛情や作家たちとの交流はなみなみならぬものがある。本が好きとは言え、自前で『上林暁文学書目』『尾崎一雄文学書目』を作るのだから本好きも年季が入っている。
時代が変わってしまった。と言ってしまえばそれまでである。大正生まれのこの店主が店を出していた頃と今では比べようもない。それは出版業界の変化もあれば、現代人の価値観の変動というものもある。インターネットの普及もある。しかし、確かにいえることはこの著者が遺稿集の中で言っているように
「古い本には、作者の命と共に、その本の生まれた時代の感情といったものがこもっているように思われる」
人の手から人の手へ、古本の運命も生きている人間同様、数奇の運命を 宿している。
私は棚から志賀直哉著『夜の光』を抜いてきた。この「夜の光」の見返 しには、達筆のペン書きでこう書いてある。
『何故私はこの本を売ったのだろう。キリストを大衆の前に売りつけた ユダの心にも勝って醜いことだと私は思った。私は醜い事をしてしまっ た。再び買ひ取った私の心は幾分か心易い感じがしたけれど、やはり過 去の気弱であった自分をあはれ者と意識せずにはおかなかった。僅かば かりの欲望にかられた私は春雨のそぼ降る四月の或る朝、古本屋に十五 銭でこの本を売りつけたのだった。今更の様に哀愁がわく』(「古本」 から引用抜粋)
この章は作家の沢木耕太郎も愛した文である(『バーボン・ストリート』)。古本と前の持ち主の本への愛惜の情をこれほど物語っているものはない。愛してやまなかった本とそれを手放さねばならなかった者の気持ち。これらは古本を愛するものにいつでも錯綜する気持ちだ。
著者は古本を売る店主としてその売り手の愛惜の情を最もよく知っていた人に違いない。そして貧しい買い手の情もである。
だからかつて野呂邦暢が郷里に帰る日、旅費と支払うべき部屋代を考えると本代が千円しかなかった。しかし欲しい本『ブルデルの彫刻集』は千五百円である。そんな事情を知った関口氏は「千円で結構です」と言ったという。
貧しい青年であった野呂はその後芥川賞を取った。この店主との思い出を終生忘れなかった野呂邦暢が授賞式にこの店主を招待する章はこの遺稿集の最後から二つ目を飾り、最も印象的な場面でありこの「山王書房」が客にとってどんな存在であり、店主がどんな人物であったかを深い感動を持って知ることができる。
古本屋は数多くあるが、このように本を愛し作家を敬愛し、客を思い、人との交流をあたたかく、時に茶目っ気たっぷりに生きてきた飄逸な人生を私は知らない。そんな古本屋人生を滋味あふれる達意な文で書かれた遺稿集を読むことが出来たことは望外な喜びである。23年ぶりにこれを復刻した夏葉社の心意気に乾杯である。
本を愛する滋味にあふれた本書を多くの人と分かち合いたいものである。
紙の本
これはけっして古き良き時代の話でも電子書籍時代の夢物語でもない。
2011/02/09 17:37
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オクー - この投稿者のレビュー一覧を見る
しみじみ良かった。この本、装幀からしてたまらない。布の表紙はも
ちろんだが、ご本人による題字と著者名、これが何ともいいのだ。この
表紙をつらつらとながめながら酒が飲めるなぁ、これだけでいい気分だ
なぁ、と下戸ながらも思ってしまう私である。
待望の復刊といわれ昨年話題になった「昔日の客」。これは大森にあ
った山王書房という古本屋の主人関口良雄さんのエッセイ集だ。ここに
書かれているのは昭和30年代から40年代の古本屋の暮らしと本をめぐ
る様々な出来事である。関口さんの人柄からか、そこに集まる本の魅力
からか、山王書房にはいろいろな人がやって来る。有名作家から市井の
本好き、そして、作家志望の若者たち。彼らを語るその語り口は平易だ
が滋味があり、ヘンにたたみかけたりしない上品さがある。酔うと有名
な先生の前でも歌い踊り出すという関口さんだが、文章には彼の人間性
がそのまま現れているようだ。
正宗白鳥、上林暁、尾崎一雄、尾崎士郎など、作家たちとのエピソー
ドももちろんいいが、個人的には警察署長の娘百合子さんと尾崎一雄と
の交流を描いた「可愛い愛読者」や季節季節の花を持って山王書房を訪
れた塩谷さんの話「大山蓮華の花」など市井の人々の話が心に残った。
若き野呂邦暢とのエピソードを綴った表題作「昔日の客」も素敵だ。
これはけっして古き良き時代の話でも電子書籍時代の夢物語でもない、
と僕は思う。だって、この本の復活を望む多くの人がいて、それを実現
させた孤高の若き編集者がいて、復刊された本は見事にヒットしたのだ。
今日もどこかの書店や古本屋で、本をめぐるいろいろなエピソードが生
まれているに違いない。都会の喧噪の中、彼らの顔は見えず、声もよく
は聞こえないけれど。
ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より
紙の本
この本を読めることの幸せ
2022/09/14 16:16
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
沢木耕太郎さんが1984年に発表したエッセイ集『バーボン・ストリート』に
この『昔日の客』を書いた古書店の店主関口良雄さんのことを書いたエッセイ、
「ぼくと散歩と古本がすき」が載っている。
そのエッセイで沢木さんは関口さんの古書店「山王書房」を時々利用していたことを明かし、
その際に見かけた関口さんのことをこう綴っている。
「親父は話し好きらしく、よく店先で客と談笑していた。痩身で眼鏡をかけた
いかにも神経質そうな風貌のわりには、喋る声は大きく、笑い方が陽気だった」。
そんな関口さんが亡くなったあと、古書店の組合報などに書いた随想をまとめた遺稿集が
この『昔日の客』なのだ。
沢木さんはその文章について、「これが驚くほど面白い」と書いている。
「ユーモアに富みながら、それでいて程よく抑制がきいている」と。
それから幾星霜。
おそらく沢木さんが読んだだろう『昔日の客』(1978年刊行)は絶版になっていたはず。
そんな時、2010年になって、一人の出版人が関口さんの遺族のもとを訪れた。
彼こそひとり出版社夏葉社を立ち上げたばかりの島田潤一郎さん。
そして、私たちはこうして再び関口良雄さんの『昔日の客』を読むことができるようになった。
本を読むというのは、とても個人的な行為だが、
本を媒介にして、実は人と人がつながっていることが、関口さんのエッセイから
とてもよくわかる。
「昔日の客」というタイトルのエッセイでは芥川賞作家野呂邦暢氏との心温まるふれあいが描かれていて、
この文章を読めたことがなんだかとても温かい出会いであったように思えた。
読書の秋にぴったりの一冊だ。
紙の本
様々な「情」を感じます
2015/03/28 22:59
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は山王書房の店主の追憶をまとめた短編集です。昭和53年に刊行されたものを夏葉社さんが復刊してくださったことで、こうして読むことが出来ました。
他の方がレビューで書いている通り、もちろん本や作家さんへの愛情・造詣共に深いものを感じます。さらに関口さんの素朴な語り口から、自然の風景や植物への愛情、人と人とのつながり、酒を酌み交わした知人への想い等、様々な「情」を感じます。
また、復刊に際してあとがきが追加され、夏葉社さんとのやりとりもわずかに収録されており、これも心温まります。
私は20代で、古い作家さんの知識は少ないですが、古本や文学が好きな若い人にも広く読んで欲しいと思える作品でした。装丁も綺麗で大切にしたい一冊です。
紙の本
読書の終着駅のことを思う文章に心ひかれた
2011/04/22 21:43
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
昨年暮れに手にした『夕暮の緑の光――野呂邦暢随筆選 《大人の本棚》』の中にこの『昔日の客』の著者のことが記されていました。そしてこの本の表題作『昔日の客』とはまさにかつて著者の経営する古書店を訪れた作家・野呂邦暢のことを指しています。
このように古書店経営を通じて著者が知遇を得た有名無名の人々との興味深い交流を描いたエッセイを中心におよそ30編の文章がまとめられています。といってもこれは著者が鬼籍に入った後の昭和53年に出版された随筆集を昨2010年に復刻したものです。著者が筆をあてている著名作家は三島由紀夫や川端康成といった世界的に著名な人は別として、尾崎士朗や尾崎一雄といった人々。私は不勉強ながらその作品を読んだことがないため、彼らとの行き来を綴った著者の文章には取りたてて心を動かされることはありませんでした。
私が胸打たれたのは貧しいながらも懸命に働いて逝った父を綴った「父の思い出」。そして有楽町駅近くの喫茶店で働く若い娘との束の間の交流を描いた「スワンの娘」。
どちらも記憶の抽斗のずっと奥底に、しまいこんだことすら忘れてしまっていたけれど、ふとしたきっかけで他の記憶を押しのけてまで突然立ち現れてくる、そんな長い人生の中の不思議な一点があることを思わせる文章です。
最後に心に残った文章を引き写しておきます。大量の本を持ち込んだ読書家・吉田さんが、なぜそんなに本を読むのかという著者の質問に答えた言葉です。
「私は年少の頃から人生に疑問を持ち、その答を読書に求めた。今は密教書を読んでいる。この本が私の読書の終着駅になりそうだ。」
この言葉を読んだ私自身の終着駅となるのは一体どんな本なのだろうか。いつかやって来るその時のことが楽しみであり、また淋しくも感じたのでした。