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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2010.5
- 出版社: メディアファクトリー
- サイズ:19cm/237p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-8401-3407-1
紙の本
富士子 島の怪談 (幽ブックス)
著者 谷 一生 (著)
他人の不幸をむさぼる女。死んでも続く腐れ縁。愛憎の果て、悲しみは恐怖に変わる。人情味あふれるジェントル・ゴースト・ストーリー。『ダ・ヴィンチ』『幽』主催第4回『幽』怪談文...
富士子 島の怪談 (幽ブックス)
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商品説明
他人の不幸をむさぼる女。死んでも続く腐れ縁。愛憎の果て、悲しみは恐怖に変わる。人情味あふれるジェントル・ゴースト・ストーリー。『ダ・ヴィンチ』『幽』主催第4回『幽』怪談文学賞短編部門大賞受賞作。【「BOOK」データベースの商品解説】
【『幽』怪談文学賞短編部門大賞(第4回)】他人の不幸をむさぼる女。死んでも続く腐れ縁。愛憎の果て、悲しみは恐怖に変わる…。表題作ほか全6編を収録した、人情味あふれるジェントル・ゴースト・ストーリー。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
友造の里帰り | 5−41 | |
---|---|---|
富士子 | 43−73 | |
浜沈丁 | 75−112 |
著者紹介
谷 一生
- 略歴
- 〈谷一生〉1956年香川県生まれ。関西大学文学部卒業。「住処(「富士子」に改題)」で第4回『幽』怪談文学賞短編部門大賞受賞。
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紙の本
島という異空間に染まる、そして非日常が日常化するという怖さ
2010/06/01 15:22
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
島の怪談、と副題にある通りどれも舞台は島である。
島というのはそれだけで既に異質なものを感じさせる。けして特別視する訳でも差別をするつもりもないが、海を隔て培ってきた文化と歩んできた歴史は当然「本土」とは異なり、そこにどうしても「異文化」としての魅力や畏怖を感じてしまう。
島という非日常空間・・・本書に収録された物語の主人公たちはどれも本土という日常を離れた非日常の地「島」に訪れ、その世界に染まって行く。
彼らの体験したものごとは非現実的な怪奇現象の類いだし、実際に日常で遭遇したらどれほど恐ろしいかと思う。
しかしなぜか彼らはその現象自体には「怖い」と思っていない。
ここが著者の持ち味であり、恐怖することなく味うというあたらしい怪談なのではないか。
では本書における怖さは何か?
それは主人公たちがそれぞれ抱えている負の性質や忘れたい過去、そしてそれに向き合わなければならなくなった その心境だ。
表題作『富士子』は冒頭からして「富士子は不機嫌な女だった」と始まり目をひきつけた。
不機嫌かつ不器量な女/富士子は沖縄で心機一転、夫と賄いの兼子とともに宿を始め瞬く間に柔和な人間へと豹変する。
彼女の「改善」ぶりを夫に評価され自分が自分でなくなったと激怒するところがまた面白いのだが、なぜ彼女が豹変したか? 彼女の心を「喰った」モノの正体が沖縄という島独特のホラーをかもしている。
(続編として『浜沈丁』ではそのモノと富士子が協力して宿を買収に来た「同類」の交渉人とバトルを繰り広げる)
『あまびえ』は 刺身に目がないくせ生簀にだけは嫌悪する大物政治家が、幻の魚を目指し島へ出向く。
『雪の虹』 詐欺で失敗し夜逃げする男が警察から逃げるようにして島へ渡り、次第に疑心暗鬼にとらわれていく。
『恋骸』 亡き同郷の恋人を弔うため、彼との深い愛とそれゆえの転落劇を手紙にしたため婚約者に残した女。彼女が向かう故郷の島には「お前となら死んでもいい」と繰り返した彼の言葉が亡霊と共によみがえる。
以上の表題作5点を押さえ、私が一番心に残ったのは冒頭の『友造の里帰り』である。
職人気質に仕事一本でやってきた初老の建築業者、友造は初めて同郷だという女に入れあげ慣れない不倫旅行に踏み切った。 友造の心には島を捨て去った思い出、病床の母を面倒もみず、その治療費問題で叔父と仲たがいしたまま死に別れたやるせない苦い思い出ばかりが蘇り、せめて廃屋となった家をこの手で取り壊そうと向かった生家だが、そこで思わぬ人物に対面する。
清算せずに押しやった思い、投げ捨て損ねた過去、放置してきた己の心は いつかどこかで不意に現れるかもしれない。
私にも、あなたにも。
一番の「恐怖」というのは人の数だけ存在する。
人が一番怖いもの。
それは後回しにしてきた未清算の自分の心なのかもしれない。