紙の本
真摯な祈り
2010/06/14 22:22
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:はぴえだ - この投稿者のレビュー一覧を見る
濃密な空気と、不可思議な恋愛。
最初から惹かれあうものがあるにもかかわらず、どうしてこうも素直に飛び込んでいけないんだろう、といらいらしつつページをめくるのだが、人というのは時として、奇妙な行動を取るものだし、天邪鬼な部分もあるからこそ、分からなくない。
寂しいのが、一人がダメで、いつも誰かといたくて、恋に、相手に依存して、息苦しいほどにのめりこむ。すべてを捧げて、どうしようもなくなると、すべてを投げ出して、逃げる。ただ漠然と読んでしまうと、何だかなあと思い、冷めてしまいがちだが、実のところ、これは正しい行動なような気がして、理解可能だったりする。
そう、表面上は理解しがたい人、理解しがたい恋愛を描いているように見えるが、突き詰めて考えてみると、人の本質を突いているような気がしてならないのだ。
恋をすると、感情の降り幅が大きくなる。それを淡々と、時には熱く描き出し、主人公が変わっていく過程を見事に書き切っている。恋を、愛に、昇華させて。
まだ弱いかもしれないけれど、強くなりつつある。
孤独におびえながらも、孤独を選び、生きていく。
自分がすべてだったのに、それだけではなくなって。
そして、祈るのだ。いとしい人の幸せを。
それは決して、あられもない祈りなどではなく、真摯な祈り。
今は弱くても、きっといつの日か、人は強くなるのよ、と教えてくれる恋愛小説だ、と感じた。
投稿元:
レビューを見る
「あなた」と「わたし」で語られ2人の名前は一切出てこない。
20歳の「わたし」は暴力を振るう直樹と同棲中。母からの度重なる金の無心。いつも誰かに脅かされる生活から何度も手首を切ってしまう。
そんな時に出会ったのは、自分より倍も年上で、元恋人と会社を共同経営している「あなた」だった。
【感想】
奥さんのいる人との恋愛だけど変にドロドロせず、島本さんらしく静かでゆっくりと切ないお話でした。
一度目で消化しきれず、二度読み。
最初は恋愛の話だと思ったけど、二度目に読み終えた時は「わたし」と「母」の親子の物語でもあるように思いました。
娘の事よりも自分を優先、娘の家出にも気付かない、14歳の時にお金や連絡も無いままに1人で家に一ヶ月も残された。
そんな母を不幸だ、同じようになりたくないと拒絶しながらも、連絡があればお金を渡してしまう。
「私だけを見て。いつもここに帰ってきて。私だけを選んで愛して。子供のように泣きながら、あなたに素直に言えば良かった。」
これはあなたへと同時に、母へのメッセージなのかもしれない。
「わたし」が母からきちんと愛されていたら、きっと恋愛の結末も変わっていたのかも。
今回のゲラ本プレゼントに、まさか当たると思っていなかったので大変嬉しく、貴重な経験をさせて頂きました。ありがとうございます。
投稿元:
レビューを見る
ゲラ本プレゼントで頂いて届いたその日に読んで時間をあけて改めて読みました。
島本さんの作品は好きで全て読んでいますが、今回の作品は読んでいて、ひどく息苦しさを感じました。
今までの作品は、どこか切なさが混じっていたような感覚があるのに今回は「私」にしろ「あなた」にしろ人が奥深くに隠して出さないようにしている感情が出てきて、読んでいてあまり心地よくはありませんでした。
読むにはちょっと気合を入れないといけないかもしれません。
投稿元:
レビューを見る
新しい試みの詰まった作品だな、と思いました。
固有名詞を排した「あなた」と「私」の物語は全編に息詰まりを感じて胸が苦しくなります。
「私」が抱えている過去も現在も、理解するのが難しい世界のように感じられながらも、「あなた」への気持ちだけは理解できた気がして、不思議です。これは恋愛小説だろうか、と思うような展開だったはずなのに、「あなた」が触れた熱をいつまでも思い出せるのは、恋でしかないと思わせる。
恋しい人に触れたいと、思わせる熱のあるお話です。
ブクログのゲラ本プレゼントで頂きました。ゲラ本なんて手にするのは初めてで、大切に読ませて頂きました。有難うございました。
投稿元:
レビューを見る
相変わらず、島本さんの文体は読んでいてとても居心地が良いなぁと思います。
今作はその居心地の良さに加えて、不思議な感覚が芽生えました。というのも、始終、回想しているかのような、静けさを感じる文体なのに、行間からはあふれんばかりの情熱が感じられました。まとわりつくような熱気とひややかな静謐。
この矛盾する印象はなんだろう。
固有名詞のない「わたし」と「あなた」がいることで、まるで自分自身についての物語のように感じてしまうからでしょうか。
この作品は、筆者のいうように「自分を大切にできなかった主人公が生きるために欲望を得るまで」を描いた内省的な物語です。恋愛というのはその一過程に存在しているに過ぎず、著者の代表作である『ナラタージュ』ほどには恋愛がメインではないと感じました。
誰も彼もが不器用で、自らのどうにもならない気持ちを持て余していて、弱い。
きっと、わたしもあなたも直樹もちょっと見方を変えれば前向きな生き方ができそうなのに、お互いの中で良い気持ちの循環をつくりだしていくことができないでいます。そして、そういう人達ってきっとたくさんいて、その、ちょっと壊れかけた感じというのは誰もがもっている当たり前のものなのかもしれません。
「わたし」がどうなっていくのか、その答えは現実の私自身の中にあるような気がします。
島本理生さんの新しい挑戦なのかな、と思いました。
彼女の小説家としての挑戦を見届けたい方にとっては必読の一冊になるでしょう。
最後にこの度はゲラ本のプレゼントを頂戴し、ありがとうございました。30名の中に選んでいただいて大変嬉しく思います。
投稿元:
レビューを見る
ブクログのゲラ本プレゼントでいただきました。
日付変わっちゃったけど、まぁ、夜が明ける前ってことで、ぎりぎりセーフ?
正直、読み終わって一番に「レビュー、書きづらいなぁ」と思いました。なぜかというと率直に言って面白くなかったから。
『ナラタージュ』は読みながらせつなくてせつなくて、涙が止まらなくて、まるで自分が恋をして、その恋が終わったかのような、そんな錯覚に陥る恋物語でした。
『大きな熊が来る前に、おやすみ。』は、本作とバックグラウンドの似た男女の恋愛模様を集めた短篇集ですが、もっと登場人物がイメージできたし、感情移入できたし、物語ひとつひとつの色合いみたいなものを、しっかり感じられた気がします。
『一千一秒の日々』では何人かの大学生たちの恋物語の一瞬が丁寧に丁寧に綴られて、それぞれがさりげなくリンクしてゆるゆるとつながっていく、洒落た短篇集でした。
今まで読んだ島本作品はその3冊で、個人的には評価がけっこう高かったので、だから期待が大きすぎたのかもしれません。
この物語では〈私〉にも〈あなた〉にも存在感がない。それに、言い訳のように過去のエピソードが露骨に語られるのにも興ざめしてしまって、最後まで誰にも感情移入できませんでした。
読後に後味の悪さが残る作品で、とても残念でした。
投稿元:
レビューを見る
「私」と「あなた」の物語。
20歳の私の倍ほども年上のあなたは、出会ったばかりにもかかわらず、私を急に呼び出し、愛を告白した。しかし付き合って欲しいという願いに、友人にはなれるけど付き合うことはできない、と告げたのを最後に連絡は途絶えた。
再びあなたが突然私の前に現れた時、あなたは共同経営者の女性と婚約しており、年内には結婚式を挙げる予定だった。一方私も愛とないまぜになった暴力を振るう直樹と同居し、義父の入院、実母の金の無心…といった地獄の季節の最中にいた。そんな私にあなたは別荘の鍵を与え、私は日常から逃れるようにそこを訪れる。そして次第に、「あなた」と向き合い始め…。
(感想)
ブクログのゲラ本プレゼントでいただきました。応募したことをすっかり忘れていたので、本を突然プレゼントしてもらい凄く嬉しかったです。そして発売前の本を読めるということにドキドキしながら、大切にページをめくらせてもらいました。
島本さんの本は少し前にナタラージュを読んだことがあったのですが、その時に受けた印象とはまた違ったものでした。どちらの物語も淡々と進んでいく印象ではあるのですが、今回の物語はコピーに「名前すら必要としない二人の、密室のような恋」とあるように、物語の中の二人にしかわからない世界というか…。主人公の「私」と自分自身に上手く重ね合わせて感情移入をして読むことが出来なかったからかもしれませんが、消化仕切れなかった感があります。恋愛の形はそれこそカップルの数だけあり、私が知らない世界がここにもまたひとつある、ということなんでしょうね。
投稿元:
レビューを見る
島本さんの作品を読むのは随分久しぶり。それは、何か新しいもの、そして変化を求めた作品のように見えました。
〈私〉と〈あなた〉。誰もがふたりのことを名前では呼ばず、名前は最後までついに明らかにされません。そのことが、本来社会で多数の他者に囲まれているはずのふたりをより狭い空間に閉じ込め、緊密な関係として描き出します。
その空間が存在し、その中にいることをどのように捉えるのか。
人にはそれぞれの生き方があり、同じようにそれぞれの恋愛もあるでしょう。これもまたその形のひとつ。動き出したことを感じさせるラストシーンが印象的でした。
二度、三度と読み返すと印象が変わってくる気がします。少し時間をあけて、読み返してみます。
この本はゲラ本のプレゼントでいただきました。ありがとうございます。
投稿元:
レビューを見る
最近は「不倫にしては可愛らしい恋愛の小説」を読むことが何度かあったので、暗雲立ち込めているこの本はよかった。
けっして明るくないけどだがそれがいい。
投稿元:
レビューを見る
島本理生さんの本を読むのは久しぶり。
この人の書く恋愛小説は、切なくて痛くて、自分に余裕のあるときじゃないと読めない感じ。
今回はゲラ本プレゼントということで、いただいた本。家に本が届いて嬉しかったし(まさか当たるとは思ってなかったw)、まだ本屋さんにも並んでない本だ!と思って、ウキウキ気分で読み始めました。
1度読んだだけでは、自分の中で全く消化できなくて、2度読みました。
このお話を恋愛小説だと思って読むと、ちょっと違う気がする。
『あなた』は自分は結婚の予定があるくせに、自分の年の半分くらいの女の子に手を出すような、とんでもないおっさんだし(しかも、経営者という、社会的にも地位があるところが、さらに厄介。)、一緒に住んでいる直樹は酔うと暴力をふるうような男。
親は選べないから、両親の話は仕方ないにしても、こんな2人の男の間をふらふらしてる『わたし』も間違ってると思う。というか、どんな男の人に対しても、浮気も不倫もやっちゃダメ!手首切るのも間違ってる!
島本さんの綺麗な文章にだまされかけるけど、登場人物のやってること、突っ込みどころが満載です。
恋愛小説だと考えると、誰にも共感できなくて読むのがきつかったです。
(唯一、『あなた』の奥さんの立場は切ないなと思った。)
でも、作者の言葉にあるように「自分を大事にできなかった主人公が生きるための欲望を得るまで」の物語、と考えると、すごくすんなりと体にしみ込んできました。
本の途中から『わたし』が変わっていくのがわかって、スッキリ。
生きるための欲望っていうのは、自分で自分を認めないと持てないものだと思うし、自分をしっかり認めてあげることができれば人のことも見えてくるんだなぁと思った。
『わたし』は確かに『あなた』のことを想っていたのだと思う。
この二人が幸せになる道があるのかはわからないけど、『わたし』が幸せになれたらいいなぁと思った。
投稿元:
レビューを見る
ブクログのゲラ本プレゼントで頂きました。
島本理生さんのご本は『ナラタージュ』で衝撃を受けて、初期作品を読み漁り、文章の静謐な感じが好きだったのですが、近年主にテーマにされている過去のトラウマや親との確執、苦しい恋愛が、自分にとっては重たく感じて、離れていました。
久しぶりに読んでみて・・・やはり重い・・・だけど気になる・・・。
今後もこのテーマを島本さんが年齢と共にどう表現されるのか、気になります。
投稿元:
レビューを見る
ということで半ば義務だった、島本理生『あられもない祈り』を読んだ。1時間半で178ページを読み終えた。感想は『時間の無駄』だった。
久しぶりに読んで腹が立ったので、ファンには申し訳ないけど、不快なほど書く。
以下、毒吐き。
彼女はプロの小説家か?
エピソードをやたらとちりばめて、最後の方でそのうちのひとつを切り札のようにして話をまとめるという安直な手段はよくあるのだけど、これもそうだった。
しかし、数多あるその他の作家の場合はまだ『そう来たか』とそれなりに考えさせられるのだけど、これは何のことやらという感じだった。だから、ちりばめたエピソードはただの断片の散らかりでしかなかった。
場面に深い意味を持たせて欲しかった。ホイホイ終わるので意味を見出しにくい。もっと場面を少なくし、それぞれにつっこんで書き込んで欲しいかった。
婦人科のシーンはまったく意味が分からない。これは僕が男だからだろうか? わざわざ石垣島を選んだ理由が分からない(作者が)。やたら旅館とか民宿に行くが、それもよく分からない。いろいろ行き過ぎである(実家への仕送りでお金がないくせに)。
しかも登場人物の印象が弱い。書き込みが足りないせいだ。
そもそもこれは病人同士の寄せ集まりの小説という感じがする。インビとか退廃といったムードではなく、ただの不健康さだけが目だつ。
自傷癖女、DV男、奔放な父、似たような母、存在感の不明な中年男にイメージの湧かないその恋人。変な人間を集めてうじゃうじゃやっただけである。
全員、体操服に着替えて山の小学校でキャンプでもするといいわ。
ああ、腹が立った。
投稿元:
レビューを見る
第三者からは醜い生き方に見えるけど、当人達は一生懸命に生きている。
そして人にはそれぞれの恋愛があるのだと痛感。
「あなた」はとても勝手だけど「わたし」をとても大切にしていた。
そんな「あなた」がだんだん弱ってきて、「わたし」はだんだん力強く前向きになっていく。
読んでいくうちに胸の内がジンジンきた。
またもう一度読んだら、きっと違う感想になるような感じがする、そんな深い本だと思う。
投稿元:
レビューを見る
「あなた」と「私」の話。
覚悟はあるが捨てられない「あなた」との静かで、大胆で、けど秘密のような恋を通し「私」はどんどん「私」になっていく。
なにかを守りながらも、誰かを傷つけずには愛せない「私」がいまの自分とダブり、手に汗をかきながら、けどどこか冷たい汗もかきながら大切に読ませていただきました。
「恋」になにを求めるか。それは人それぞれです。
愛なのか、安定なのか、形なのか。。。
相手は、
自分を殺してでもいたい相手がいいか、自分でいられる相手がいいか。
これらにはたぶん答えも正解もありません。
この本はその中の一つのストーリーを体感させてくれました。
僕には「私」の選んだ答えが良かったのか、悪かったのかはわかりません。
しかし、やっぱり全力で自分でいられることが「恋」でも人生でも大切なんではないかと考えさせられました。
なにかにとらわれているより、夢中で追ってるほうが人生をポジティブに楽しめると思いました。
この作品で改めて島本理生さんのすごさに感動しました。
言葉にはしにくい感覚的な感情をしっかり一つもこぼさず文字に落としていて、すごくリアルで、第三者ではなく限りなく「私」近い恋してる女性になって読むことができました。
最後に(言葉足らずで恥ずかし限りですが)、このようなゲラ本という初めての経験をさせてくださったブクログと島本理生さんにほんと感謝です。
投稿元:
レビューを見る
まず、文章が非常に読みにくい。テンポが悪い。
それから、「○○のような」という比喩がすごく多くて、さらにそれが対象物とは逆の印象を与えるものだったりして、しっくりこないことが多い。
内容は、恋愛小説ということでドキドキするような話を期待していたのだが、最後まで淡々としている印象。
誰かから熱い想いを寄せられること、例え不倫でも相手を好きだと思う気持ち、やがて気持ちが冷めていくことには共感できるが、主人公である私がしょっちゅう手首を切ることには不快感しか覚えない。
普通の女の人はそんなことしないと思うんだけどなあ。
とても女性らしい感覚を持った人ならこの本を読んで熱を感じられるのだろうか。
残念ながら自分には響きませんでした。