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商品説明
「私は恐ろしい」。不可解な遺書を残し、閣僚入り間近の国会議員・矢島誠一は、東京地検による家宅捜索を前に謎の自殺を遂げた。真相を追う特捜部の湯浅と安見は、ネット上に溢れる矢島を誹謗する写真や動画、そして、決して他人が知り得るはずのない、彼の詳細な行動の記録を目にする。匿名の人間たちによる底知れぬ悪意に戦慄を覚える二人だが、ついに彼らにも差出人不明の封筒が届きはじめる…。スケールの大きなクライシスノベルを得意とする作者が挑んだインターネット社会の“闇”。【「BOOK」データベースの商品解説】
国会議員の謎の死。真相を追う特捜部の湯浅と安見は、ネット上に個人情報が氾濫していることに戦慄を覚える。やがて彼らにも差出人不明の封筒が届きはじめ…。監視社会の恐怖を描く。『小説トリッパー』連載を単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
福田 和代
- 略歴
- 〈福田和代〉1967年神戸市生まれ。神戸大学工学部卒。「ヴィズ・ゼロ」でデビュー。ほかの著書に「TOKYO BLACKOUT」「黒と赤の潮流」など。
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紙の本
いともたやすく個人情報が悪用される、現代社会の恐ろしさがホラー小説のようにじわじわと伝わってくる
2011/01/25 14:41
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:書子司 - この投稿者のレビュー一覧を見る
自殺した政治家の詳細な行動の記録や、防犯カメラに移ったおぼしい写真や動画などがネット上に溢れることから、どうしてそのような情報をてにできたのか?2人の検事がその真相を調べ始めることが、この物語は始まる。
すぐに、個人のアドレスから資産まで個人のあらゆる情報を把握し、しかも偽造できる犯罪者をテーマにしたJ.ディーバーの「ソウル・コレクター」を思い浮かべてしまった。しかし、この作品は、どうもちょっと様子が違う。「ソウル・コレクター」では情報を操る見えない犯罪者をどう突き止め捕まえるか、というサスペンスに物語の主眼が置かれていたように感じたが、この作品の主眼は、ある意図をもてば個人の情報など簡単に手に入り、それをインターネットなど使えばいとも簡単に流布でき、さらにそれに簡単に踊らされ、付和雷同し瞬く間に増幅させてゆくことの恐ろしさにあるような気がした。ツイッターで有名人のお泊まりをばらしてしまった女性のプロフィールなどがあっという間に暴かれて、ネット上に公開され、自身のブログなども炎上したことつい最近のことである。安易に情報を漏らし、しかもその人間の情報が簡単に突き止められる公開される。巨大な組織がそのようなひとりひとりの情報や企業のデータを自在にできれば、どんなことでもできてしまう恐ろしさ。それがこの作品がひしひしと伝わってきた。
後半、主人公である検事は自身の冤罪を晴らすことができたが、組織の実態は明らかにされず事件は終焉を迎える。組織の規模も、構成メンバーの実態もまったく闇のまま幕を閉じる。中途半端とも構成の破綻とも、作者の力量不足ともとれるが、逆にそうすることによって、ストレートな社会派エンターテイメント情報小説の範疇を超えて、ホラー小説のようなじわっとした怖さが残った。作者の狙いもそんなところにあったのでは……。
紙の本
本当は、☆一つプラス。でも、それ以上ではありません。後半が腰砕け、普通の陰謀ものになってしまいました。政治、っていうのはそういうところがあります。ネットと政治家、っていう発端は素敵だったんですけど・・・
2010/10/22 21:03
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
福田和代を読むのは2009年に出た『赤と黒の潮流』に続いて二作となります。『赤と黒の潮流』については、その骨太な構成と、視野の広さから男性作家を思わせると評した記憶がありますが、では、それ以上かといえば、そこは難しい。1970年代から1980年代に一気に世界レベルにまで達した日本の冒険小説のことを考えれば、それを超えるというのは至難の業だと思います。でも、シンプルな筆名、その力強い描写力は次を期待させずにはいません。
そして『オーディンの鴉』、タイトルがいいです。多分、日本人で今まで類似のタイトルを見たことがありません。そこから立ち上がる禍々しさ、装幀の片岡忠彦がカバーに選んだ Atsushi Malta/SEBUN PHOTO/amanaimages の写真の迫力、しかもです出版時期が、小沢一郎元民主党幹事長が購入した土地の資金を巡る検察の政治的としか思えない動きがあった年ですから、興味がわかないわけがありません。
出版社のHPには
*
近々の閣僚入りを確実視されていた国会議員・矢島誠一は、東京地検が彼の家宅捜索を行う当日の朝、謎の自殺を遂げた。真相を探る特捜部特殊直告一班の湯浅と安見は、自殺の数日前から矢島の個人情報が大量にネットに流れ、彼を誹謗する写真や動画が氾濫していた事実に辿り着く。匿名の人間たちによる底知れぬ悪意に不安を覚える二人だったが、やがて彼らにも、犯人による執拗な脅迫が始まる……。
*
とあり、カバー折り返しには
*
情報という名の怪物がプライバシーを喰う……。
インターネット社会で、かの怪物と闘う者は、
己自身も怪物となる覚悟を固めよ。
気鋭の新人、社会派エンタの最前線を奔る!
――佳多山大地(書評家)
デビュー作『ヴィズ・ゼロ』、
続く『TOKYO BLACKOUT』と、
今、右肩上がりの作家・福田和代。
スケールの大きなクライシスノベルを
得意とする作者が今回挑んだのは、
インターネット社会の“闇”。これは怖い!
――吉田伸子(書評家)
*
とあります。ネットに流れる個人情報と、それに興味本位で踊る無責任な大衆、そして追い詰められる被害者。政治家が標的になる例はよくありますが、それがなかなか事件に発展しないのは。政治家という人種の強さと、権力を背景にした薄気味悪さがあるからにほかなりません。同じことをされた中学生や高校生であれば、自殺するか、逆に加害者への攻撃になる、そういう実例を私たちは日常的に耳にするようになりました。
個人情報がネットに流される、もしそれに加工された悪意の情報が混じっていたら、或いは意図的に操作され誤解を生むような者だけが流されたとしたら。そして、それらを自由に扱えるような情報ソースとネットワークを構築できるとしたら・・・。伊坂幸太郎が、どちらかというと軽めのフットワーク、ユーモア交じりで告発しているのに対し、福田は直球勝負。ただし、ストレート過ぎる感があります。
私たちが当たり前に使っている各種のカード類、携帯電話、電子メールといったものがすべて監視されているとしたら、と偶に抱く不安を小説化する場合、一歩間違うと陰謀史観もののようになってしまう。まして、それに政治家が絡むとその傾向が強い。せっかく重大な問題提起をしているのに、真面目な取り組みが却って嘘くさく見えてしまうことがあるのです。伊坂はそれを知っているから、あえて独自のスタイルをとっているのでしょう。その点、福田は不器用です。
お話については、読んでもらうとして気になった点を少し。美沙についてですが
50頁に「娘の美沙が、急性リンパ性白血病との診断を受けたのは、二年半前にことだった。発症時、五歳。小学校への入学を半年後に控えた、愛らしい盛りだった。」とあり、155頁には「この春から小学校三年生にしてはませた口調で、美沙がはきはき言うのを聞いていると」とあります。実は、この小学生の年齢について、アバウトでは知っていても、正確には知らない人が多いらしく、ネットで質問している記事をよく見受けます。
ベストアンサーは、「1年生 6歳と7歳、2年生 7歳と8歳、3年生 8歳と9歳、4年生 9歳と10歳、5年生 10歳と11歳、6年生 11歳と12歳」だそうです。私のように一年生は7歳と思い込むと、半年前に五歳っていうのはなんだ? となってしまいます。こういう微妙なことについては、あえて年齢を書かないか、学齢も書いておくか、表現次第で誤解を生むことはなくなるのではないでしょうか。
それと東京地検特捜部特殊直告一班検事の湯浅が、妻に自分の置かれている状況を隠すところが分かりません。確かに、法律に従事する者には守秘義務があります。家庭でも仕事については話さない、ということは他の小説で読んだ記憶がありますし、習慣になっているというのも肯けます。でも、湯浅が隠そうとしているのは、事件そのものではなく、それによって自分の家族に危険が迫っている、その事実と背景です。それを隠すかなあ、人間として理解できません。
前半はよかったけれど、後半は当たり前の陰謀ものになってしまった感じの全21章でした。初出は「小説トリッパー」2009年夏号~2010年春号です。