紙の本
世の中の、全ての「教えている」人たちに読んで欲しい「大学論」というか「教育論」。漫画技術論としても面白い。
2010/05/14 16:43
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
漫画原作者であり、大学の「まんが表現学科」の教授である著者の「大学論」に、正直そんなに期待していなかったのだが、浅見だった。「教えること、学ぶこと」についてとても核心を突いていて、真剣に読んでしまったのだ。私としては「拾い物」の一冊である。
著者の自分史的な部分やまんが学科での授業のドキュメンタリー的な部分などが混在している、読み物(エッセー)風の体裁のなかに「大学論」としての著者の意見が随所に散りばめられている。著者自身の受けた教育の話、表現論、そして具体的な「漫画論」の中にも、教育について普遍的に考えさせるものがたくさんあった。
例えば、まず方法・技術を徹底的に叩き込むのは「思ったことを制御して描くためにはそれなりの力量が必要だ」という考えからであるという主張から、現代の(ネット上などの)発言場所は広がっても発言のしかたの力量がついていっていない現状批判も出てくる。
「大学生の質が落ちた」という大学教育者の言葉に「教える側の質はどうなのだ」と自分も含めて反省を促し、「近ごろの新書って「あいつはバカだ」と名指しすることで成り立っている本が少なからずある気がしてならない。P106」というところに「書評にもあるかも」と共感する。
「教えられたようにしか教えることができない」などの、教育というものの深さへの言及もあった。
などなど、数えればきりがない。「教える」ことが必要な人(と、いうと全ての大人になるのかもしれないが)に一読してもらいたい本である。漫画技術論としてでも充分面白く読めるので、そちらの興味だけで読んでも満足できると思う。学生たちの集団作品作成風景は締め切りに追われる臨場感もある。
漫画について言えば、そういえばちょっと前「日本のアニメーション文化奨励」と称して箱物建設の話題があがったこともあった。それよりもこういう「つくり手」を養成する活動、「つくり手をつくる」活動を支援するほうがよほど長期的な効果があるのではないかとも思ったことも、付け加えておきたい。
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共感できる大学論
2012/02/25 09:23
3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者が大学でおしえているのはマンガであり,おしえる内容も方法も 「大学論」 というタイトルから読者が普通に想像するのとはだいぶちがっている. マンガが大学でおしえるべきものなのかどうかは,読みおわってもなお,わからない. しかし,著者がいいたいのはこれが現在の大学のすがただということだろう. あとがきに著者はつぎのように書いている. 「大学でこの 4 年間,ぼくが行ったことは若いときからずっとものを書きながら考えてきたことを 「教える」 という目的の中で再構築する,ということだ. それは自分の思考を 「批評」 ではなく 「方法」 として徹底してつくりかえることであった.」 このことばには深く共感する.
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大塚英志の「大学論」は『「おたく」の精神史』を彷彿とさせる、思いのほか個人的でセンチメンタルな内容に、ぼくの方が気恥ずかしくなるのだが、そんな赤裸々な思いの告白のような、すごく私的でなおかつ青春グラフィティ的ノリに、自分の学生時代と重なって非常におもしろく読ませてもらった。
そして、いくつか気づかされることがあった。ひとつには大塚英志という先生は意外にやさしく、熱心で学生思いなのだな、ということだ。どちらかというと、訝しく学生を嫌悪し邪険にしそうなイメージであるが、実際は学生ひとりひとりをきちんと見る目を持っているようだ。さらには、教育に対する独自の信念や理想を持っており、それを貫こうとする気概が伺える。
「大学論」は評論というより読み物として評価できる。大塚先生と学生とのやりとりはまさに金八先生だ。そこには、学園モノの物語のモチーフがきちんと描かれており、それだけでも非常に価値ある読み物となっている。
さらに読みながらふと気づいたことだが、大塚英志が自身の単行本をやたら文庫化するのは、印税を稼ぎたいからではなく、より安価な物を買わせようという親心。さらには、かならず補講などおまけを付けて、単行本を売りさばいて買い換えることを奨励している。自身の本は消費財でしかないと考える大塚英志なりのやさしさなのだと思う。
大塚英志のような先生は結構周りにいるもので、ぼくの場合、代ゼミの菅野先生が体型的にも性格的にも似ていた気がする。菅野先生は現代国語を教えていたが、その内容は大学受験の域を超え、大学生が学ぶべき智学であったと今にして思う。
そんな中で、菅野先生が「夏休みの推薦図書」とタイトルされたコピー用紙を学生たちに配って、何冊でもいいから読んでみろと、怒っているのか笑っているのかわからないいつもの顔で言い放つ。そんなぼくらの知的好奇心を誘発するような巧みな話術で、ぼくの読書欲を一気に引き上げてしまったのもこの先生だ。
菅野先生の推薦図書の中でぼくが読んだ本は今ではうろ覚えだが、さらには20年以上前のことなので本当に推薦図書だったのかもうろ覚えなのだが、例えば、鈴木孝夫「ことばの社会学」、河合隼雄「コンプレックス」、宮本常一「忘れられた日本人」、山口昌男「文化人類学への招待」、中村雄二郎「術語集」、浅田彰「構造と力」などの書籍の中で、中沢新一「チベットのモーツァルト」は価値転倒のすえ、ぼくの人生を大きく変えた一冊となってしまった。
その他にも、筒井康隆「薬菜飯店」、村上龍「コインロッカーベイビーズ」「愛と幻想のファシズム」、村上春樹「羊をめぐる冒険」などといった小説もぼくの読書欲をおおいに沸かしてくれたのだ。
そうして、ぼくは教師の道をあきらめ、文化の大海原に船出するはずだったのだが、結局はそんなたいそうなことにはなるはずもなく、デカルトの哲学とレヴィ・ストロースの文化人類学もしくは構造主義と…そして結果的に学術とは程遠い世界へと足を踏み入れていったのである。
ちなみに、中沢新一との出会いは実は菅野先生が最初ではなかった。中学��年のときにYMO散開後の細野晴臣が出したソロ12インチシングルに付録として付いてきた小冊子「グロビュール」の中で、細野晴臣と対談する中沢新一が最初である。このとき、角川書店から出版されていた対談本「観光」は、後にちくま文芸文庫版で読むことになるのだが、このときのニアミスが菅野先生の推薦図書「チベットのモーツァルト」へと誘い、ぼくはまんまとその誘いの深みにハマってしまうのである。
ところで、ここまできたので、さらに赤裸々な、勝手な思い込みに近い告白をさせてもらうけれど、実のところ、中沢新一と大塚英志とぼくには共通点がある。それは、親がいずれも日本共産党員であったことである。政治的な背景はないのだが、どちらかというとマイノリティな、ある意味で特殊な環境で幼少期を過ごした共通性が、勝手な共感に繋がっている。
さらに大塚英志との共通点で言えば、漫画家を目指し挫折したことである。と言ってもぼくなんかは目指す手前で挫折したので似ても似つかないが…
ということで、なにやらぼくの独白で終始した感があるが、大塚英志の「大学論」はそんな感じに赤裸々な物語が綴られているのである。
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2010/3/20 Amazonより届く
2010/3/29~4/1
タイトルからの想像とは違った内容ではあったが、大塚氏が教授を勤める神戸芸術工科大のまんが学科での氏の教育法と偏差値では図れない学生の能力、また氏の原点である民俗学をからませて書かれている。まんが学科という特殊な学科(学生がやりたいことがはっきりしている)ならではの視点が強いような気がするが、これはこれで一つの教育論であろう。
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あとがきに、
いつかどこかで役に立つ。
何故、それでいけないのか。何故、教える側がそう自信を持って言ってはいけないのか、と思う。(249)
とある。これに尽きるかなぁ。うん、いい本だった。
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巻末に近く、筆者が「方法」と呼ぶものを得た、と語るものが、恐らくは全てだろうと思う。
そういう経験をきちんとしてきた人なら解るのでは。
ただ、これって実はある種の教養主義ではあるので、受けないんだろうなぁ、とも思うけど。
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大学では方法を学ぶ、直接は活かされないかもしれないがいいではないか。それが言いたいが為の一冊である、と感じた。
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まんが、コミックを大学で学習する時代になったのか、と感慨深い。
まんがの市場が縮小していることは事実だし、若い世代のマンガ離れを根拠づける数字もある。しかしそれは大学性の学力のせいでなく、万がが表現として行き詰まりサブカルの中心から転落しつつあるという問題。
タイトルは大学論だが、内容は大学でマンガ、コミックをどう教えて学ぶか、というもの。
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2010 5/2読了。WonderGooで購入。
自分のいる大学とは全く異なる、「まんがを学ぶ大学」での教員経験に基づくエッセイ。
まんがの話と民俗学の話と学生の話が混ざっている。面白い。
しかし帯が中身を反映していないような・・・
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大学教員になるのに、教員免許はいらない。なぜかと言えば、教員は教えるプロではないが、学生の君たちはすでに学ぶプロなのだから。そういうことを、1年生によく話す。
大学教員は、体系的に教え方を学んでいない。だから、自分の授業をひねりだす時も、カリキュラムを考えるときも、自分の学びの経験を参考にすることが多いと思う。師匠の影響も強く受けるし、社会人になってからの経験を援用する人も多い。
また、大学関係者であるなしに関わらず、最近の大学(改革)について語る言説の多くも、そのような自分の学びの経験をベースにしていることが多いと感じる。
結局、それらの大学論は、客観性のない個人的経験である。
一方で、そのような傾向を憂い、個人的経験に基づかない客観的な「そもそもの大学論」をすべきとの主張もある。
さて。この本は、大塚氏自身の学びの経験をベースにした学びのプロセスが語られている。また、自分の大学/学科の学びを説明しているともとれる。学生集めのための本ではないか、といぶかしく思う部分もある。
なぜ、大塚英志ともあろう人が、このようなものを著してしまったのだろう。
大塚自身が、大学という場で、教えたり学んだりする学生と関わりのなかで、ちょっとばかりハイになっているため、という可能性もあるが、それは巻末で「錯覚」と自分で書いているので、それは却下しよう。
おそらく、なんと言われようとも、大塚自身が、自己の学びのプロセスをベースとすることが、出発点として重要と考えたからだろう。
そもそもの大学論を議論しようとする者たちからの批判にさらされようとも。
おそらく、自己の学びを出発点にすることが、教える側の能力を最大限に引き出すことができる。(なにしろ、教え方を学んでいないんだから。)
この本は「大塚英志の大学論」っていう本なんだ、きっと。そして、たぶん、この主張はアドミッションポリシーだ。アドミッションポリシーは、教える側だけでなく、教わる側にもよいメッセージとして伝わるだろう(と文科省もいっている)。だから、これから大塚氏の元で学ぼうとする者は読んでおくべき。(読まない方が、大学はおもしろいと思うけど。)
大塚氏のこの思いと情熱(そしてそれを維持できるのか、どう変化していくのか)たのしみ。
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「大学論」というタイトルから、"昨今の大学について論じられた本"という認識で手に取りました。…が。漫画の大学の先生の奮闘記半分、大学での学びに対しての著者の意見半分、といったところでしょうか。
恥ずかしながら、この本で、「漫画を教える大学」というものの存在を知りました。
著者自身の学びの体験談や、教える側としての方法論などは、とても興味深かったです。大学がさらされている現状なども、実際に高校に出向いて感じたこと、高校生、親御さんと接した経験などから語られており、とても説得力がありました。
漫画の大学どうこうは別として、学生に対し、すこしレベルの高い要求をして、彼らをひっぱりあげるような課題の出し方は、どの大学にも必要ではないかと感じました。
大学生のレベルの低さばかり嘆いて、彼らに合わせたレベルに下げることばかり考えている教職員は、反省して見習うべき点だと思います。
ひとりの大学の先生が語る「大学論」として、非常に参考になった一冊です。
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【大学とは何か】
著者がマンガを教える大学に専任教員として赴任してからの4年間をふりかえって記したエッセー。「大学に誰もが入れる時代」だからこそ改めて考えるべき問題について記している。
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ある程度の年齢をすぎ、社会においてある程度の仕事ができるようになってくると、人を育てることに興味が湧いてくるもの。そんな年齢に達した自分にとって、実にタイムリーな本でした。
大塚英志の本で感動するなんて。
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(Amazon内容説明より)
大学というのは思いの外、可能性に満ちている場所ではないか
大学全入時代のいま、世間から関心が集まるのは「就職に有利かどうか」一辺倒。学び・教えが軽視されてしまった。でも、大学ならではの「学びの本質」があるのではないだろうか。まんが原作、小説、批評など他ジャンルで活躍する人気筆者が、みずからの体験と実践を紹介しながら、大学の役割を考え直す。
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[ 内容 ]
いま、大学でいかに学ぶのか。
大学全入時代だからこそ改めて問う体験的エッセイ。
[ 目次 ]
二年目の儀式
ぼくは大学でいかに学んだか
何故「描く方法」を教えるのか
つくり方を「つくる」ということ
まんがはいかにして映画になろうとしたのか
ルパンの背中にはカメラのついたゴム紐が結んである
日本映画学校と十五年戦争下のカリキュラム
一瞬の夏
ジャンルを「翻訳」するということ
高校でまんがを教える
AO入試は下流なのか
千葉徳爾とぼくの「自学」
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]