「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
突然この世を去ってしまった、義兄・最上圭一。優秀な音響技術者だった彼は、「うさぎ」に不思議な“音のメッセージ”を遺していた。圭一から「うさぎ」と呼ばれ、可愛がられたリツ子は、早速メッセージを聞いてみることに。環境庁が選定した、日本の音風景百選を録音したものと思われるが、どこかひっかかる。謎を抱えながら、録音されたと思しき音源を訪ね歩くうちに、「うさぎ」は音風景の奇妙な矛盾に気づく—。音風景を巡る謎を、旅情豊かに描く連作長編著者からの最後の贈りもの。【「BOOK」データベースの商品解説】
突然この世を去ってしまった義兄・最上圭一。彼は「うさぎへ」と書きだされた遺書とともに、音のメッセージを遺していた。リツ子は、メッセージの謎をたどる旅に出たのだが…。『ミステリーズ!』連載をまとめた著者の遺作。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
ヨコハマ12・31 | 8−40 | |
---|---|---|
対の琴声 | 41−85 | |
祭りの準備 | 86−125 |
著者紹介
北森 鴻
- 略歴
- 〈北森鴻〉1961〜2010年。山口県生まれ。駒澤大学卒。95年「狂乱廿四孝」で鮎川哲也賞を受賞してデビュー。「花の下にて春死なむ」で日本推理作家協会賞受賞。他の著書に「虚栄の肖像」など。
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
好きでした、北森鴻のミステリ。特に、異端の民俗学者・蓮丈那智とその助手・内藤三國の活躍を書くシリーズと、旗師・宇佐見陶子を主人公にしたシリーズ。で、今回の作品はそれをもっとロマンチックにした感じ。許されぬ恋、みたいな部分も私好みです。
2010/09/14 19:22
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
突然の訃報に驚きました。北森鴻、好きだったんです。特に、異端の民俗学者・蓮丈那智とその助手・内藤三國の活躍を書くシリーズと、旗師・宇佐見陶子を主人公にしたシリーズの二つが好きでした。香菜里屋ものも好きでした。よく分からなかったのは裏京都シリーズ、ユーモアが空回りしていた気がしますし、佐月恭壱シリーズについては主人公以外の人物に不満がありました。
でも、蓮丈那智と内藤三國、旗師・宇佐見陶子はよかった。比べるべき相手がいない、そういうものでした。我が家の長女も同じ気持ちだったらしく、この三人が登場する話については、いつも喜んでいました。北森は1961年生まれですから、まだ50歳、当分、作品を楽しむことができるなと思っていました。そこに飛び込んできたのが訃報です。驚きました。もう蓮丈那智と内藤三國、宇佐見陶子の三人が出る新作を読むことが出来ない・・・
で、このタイトル。私は、己の死を予感した北森が愛する娘さんのために遺そうとして書いたファンタジーではないか、と思いました。単に「うさぎ」という言葉からの連想で、勿論、北森が結婚しているかどうかも知りませんし、まして子供さんがいるとも、いたとしてもそれが娘さんであるかどうかも知りません。そういう意味では妄想の屋上、屋を架すようなことをしていたわけです。
でも、全く違いました。ウサギは、この物語の主人公であるフリーのライター・美月リツ子のことで、彼女は継母の連れ子である兄・圭一から「ウサギ」と呼ばれていました。彼女より三歳年上で、旅客機の墜落事故で亡くなったフリーの天才的音響技術者・最上圭一が遺したものの謎を解くため、元恋人の澤木准一の想いから目をそむけてウサギは旅に出ます。
宍戸竜二・SONICBANG CO.,のカバーイラストに夜行列車の姿がみえるのは、リツ子の旅を象徴するもので、特に第四話以降の内容から題材をとったのでしょう。木版画を思わせる柔らかな色あいとタッチ、車窓からもれる明かりは、読むもののこころを暖かくしてくれます。そんなブックデザインは、最近ではロベルト・ボラーニョ『通話』の装幀も手がけている緒方修一。
カバー折り返しの言葉は
*
突然この世を去ってしまった、義兄・最上圭一。
優秀な音響技術者だった彼は、「うさぎ」に不思議な“音のメッセージ”を遺していた。
圭一から「うさぎ」と呼ばれ、可愛がられたリツ子は、
早速メッセージを聞くことに。
環境庁が選定した、日本の音風景百選を録音したものと思われるが、
どこかひっかかる。謎を抱えながら、録音されたと思しき音源を訪ね歩くうちに、
「うさぎ」は奇妙な矛盾に気づく──。
音風景を巡る謎を、旅情豊かに描く連作長編
著者からの最後の贈りもの
*
です。「本書は、〈ミステリーズ!〉vol.14―vol.36(2005年12月―2009年8月)に連載されたものを加筆訂正した作品です。」と注記があります。目次にしたがって、各話に簡単に触れると
第一話 ヨコハマ:兄の突然の事故死と、彼の遺品。そこに遺された24の音の記録。それは横浜の汽笛の音なのか・・・
第二話 対の琴声:兄の残した音の記録と、澤木が示した日本の音風景百選の一覧表。次は岐阜にある水琴窟のはずが・・・
第三話 祭りの準備:相沢エリカの出演したホラー映画のDVD、そのラストに不思議な音が。それに圭一が関係した・・・
第四話 貴婦人便り:リツ子が知り合ったナオという娘、彼女の祖父が望んでいたSLの音を最後に聴かせたのは魔法使い・・・
第五話 同行二人:イベント企画会社を辞めてお遍路をすることにした野尻が札所でであった宇崎という女性・・・
第六話 夜行にて:夜行列車に取材で乗ることになった岩崎鈴音が同じ列車で出会ったリツ子というライターは、携帯で話す女性を気にかけて・・・
第七話 風の来た道:再び夜行列車に取材で乗ることになった岩崎鈴音が楽しみにしていた駅弁を三つも買った男がいて、しかも男は一人でそれを食べ・・・
第八話 雪迷宮:リツ子が何度か足を運ぶようになった北海道、そこで再び岩崎鈴音に出会い、函館まで同行することになって・・・
第九話 うさぎ二人羽織:圭一が札幌の時計台の鐘の音に仕掛けたのは、リツ子ともう一人の女性を会わせるためだった・・・
どの話も好きですが、個人的には第二話、雪の中で凍死した少女の話が予想外の展開で面白いと思いました。第四話以降は、夜行列車という共通項が合ったり、登場人物がダブったりして、あれ? と思いますが、それが下手なロマンスに発展することはなく、陳腐な展開になることから免れています。ウサギという言葉から連想されるものとは全く異なる、哀切ともいえる話です。出版社の言う
*
音風景を巡る謎を、旅情豊かに描く連作長編
著者からの最後の贈りもの
*
という言葉がぴったりの佳品ではないでしょうか。安らかにお休みください、北森さん。
紙の本
夜行列車で行く連作ミステリの妙。先ごろ急逝した作家の遺作です。
2010/03/10 10:35
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
旗師・冬狐堂や蓮丈那智、“香菜里屋”など、魅力的なキャラクターや舞台を設定し、味のあるミステリを発表してきた北森 鴻(きたもり こう)。今年2010年1月25日に急逝した作家の、本書は遺作。お気に入りのミステリ作家のひとりであり、夜行列車の窓に“うさぎ”が顔を覗かせている本単行本の装画(宍戸竜二・SONICBANG CO.,)にも惹かれ、本書を手に取りました。
愛する男が残した“音のメッセージ”、音風景のファイルを頼りに、自分以外のもうひとりの“うさぎ”を捜す旅に赴く美月(みづき)リツ子。その旅の途上、彼女が遭遇した事件を記録していく形でストーリーが進んでいく連作短篇風のミステリ小説。のはずが、途中から、作者が仕掛けた企みによって、話の雲行きが妙な具合になってきます。それが何かは、読み進めるうちに次第に分かるようになっていますが、この辺の、上りと下りの反対方向から列車がやって来てすれ違うような話のレール、伏線の張り具合にひとつ、このミステリの妙味を感じました。
本作品の妙味ということではもうひとつ、北斗星やトワイライトエクスプレスといった日本で人気の旅客列車に乗車した登場人物が、列車のなかで不思議な出来事を見かけて、その謎解きをある人物とともにする、というのを挙げたいですね。第六話の「夜行にて」と第七話の「風の来た道──夜行にて2」が、そうした列車上のちょっとした謎解きが楽しめる話。列車でする旅の風情とミステリの風味とがブレンドされていて、乙な味わいでしたよ。
いただけなかったのは、最終話の話のしまい方。作者が途中で仕込んでおいた作品メインの仕掛けに、このラストで決着がつくのですが、それが後味の悪いものになっているんですね。作品の詰めにあたるこのラスト、第九話の「うさぎ二人羽織」では、全然別の方向に話を持って行って欲しかったなと、そこが本当に残念。
とまれ。北森 鴻さん、今まであなたのミステリをあれこれと読み、楽しませていただきました。どうもありがとうございました! ご冥福を心よりお祈り申し上げます。