紙の本
小泉純一郎に人生を狂わされた男=小沢一郎。私は、この男を悲劇の政治家と見た。俗に「天の時、地の利、人の和」という。この小沢一郎と言う稀有の政治家に、ついに天は微笑まず、人の和は成立せず、地の利も整わなかったと見て、まず間違いないだろう。小沢は大きな勘違いをしているようだ。
2010/02/17 13:17
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投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
確かに小沢は「志」をもった政治家である。その志は並々ならぬもので、そんじょそこらの陣笠議員じゃ太刀打ちできない立派な志を立てていることは本書の随所に溢れている。時間がない中で、それなりに本を読み、勉強していることも確かだろう。もちろん、小沢は当時の名門東京都立小石川高校から東大法学部を受験するも失敗し、やむやむ慶應大学経済学部に入学している。小沢は本当は東大法学部にいって、官僚にでもなりたかったんではないか。ところが小沢は慶應の、しかも法学部でなく経済学部に進んでいる。これは解る。当時の慶應法学部は今と違って偏差値が非常に低い落ちこぼれ学部で「経済にあらざれば慶應にあらず」とさえ言われていたのだから。なお、当時は偏差値的には早稲田大学政経学部政治学科が私立大学の中でもダントツだったはずで、東大法学部を志望する、ほぼすべての受験生が「滑り止め」で早稲田政経も受けていたはずだ。小沢はもしかして早稲田政経も滑ったのかもしれない。東大から官僚になっていれば、当然海外にも留学し、海外の名門大学院での勉強も出来ていたはずだ。小沢はこれも出来ていない。出来たのは「田中角栄の子分になってドブ板選挙をすること」だった。このあたりの小沢の屈折が本書の随所から匂ってくる。
冒頭で、己の心の屈折を振り払うかのように小沢はまず「選挙の重要性」を説く。これは正しい。「サルは木から落ちてもサルだが、政治家は選挙に落ちればタダのヒト」と喝破したのは大野伴睦だが、小沢の言うとおり、日本のマスコミはこれまで選挙の地位を不当に貶めてきた。古館一郎あたりは「政治不信ここにきわまれり。この際、投票に行かないというのも立派な意思表明だと思います」等とまるで間違ったバカなことをテレビを通じて全国に訴えていたが、これほど国民を愚弄する発言は他にない。しかし同じことを戦後ずっと日本のマスコミは垂れ流し続けてきたのだ。
そして小沢は言う。日本の選挙制度を中選挙区制から小選挙区制にしたのは間違いではないと。これも正しい。日本では、いまだに「中選挙区を廃止し小選挙区制にしたことで政治家の器が小さくなった」とバカの一つ覚えのように叫び続ける土建屋帝国主義の亡霊の中広務やそれに阿諛追従する岩見隆夫のような政治的蓄膿症が存在する。「日本人の気質に小選挙区制はあわない」などと頓珍漢な決め付けをするジェラルド・カーチスのような「学者」がいる。こういうアホな連中の妄言を小沢は一刀の下に切って捨てる。
改革も必要だと小沢は言い切る。日本は貿易立国であり自由貿易は日本の利益である。農業だの幼稚産業だのと言う「部分利益」を保護せんがために貿易全体を制限する保護措置は日本全体の利益に反すると小沢は言い切る。だから農産物の過保護は全廃し、農業含む自由貿易に日本は舵を切るべきだと小沢は言う(拍手。
ここまでは良い。問題はこのあとである。改革を是とする小沢が、突然、小泉純一郎を全否定し始めるのである。小沢は、さぞ悔しかったのであろう。自身は自民党本流の田中派のプリンスとして自民党内のエリートコースを驀進し、40代にして自民党のトップである幹事長に就任し、宮澤喜一ら錚々たる先輩政治家を「呼びつけて」面接したりして、既に「天下は我が掌中にあり」と勘違いしたのであろう。その時、仲間が一人もいない孤独な陣笠議員で、政治的主張は意味不明な小泉純一郎に、まさか政治的に敗北し、先に首相の座を奪われるなどと夢にも思っていなかったのであろう。しかも、しかもである。小沢は天下取り宣言として『日本改造計画』を世に問うたが、そのほとんど全てを小泉に盗まれ、小沢が掲げた改革は「小泉改革」として政策化されていったのだから。私は小沢の気持ちが痛いほど解る。歯牙にもかけていなかった小物政治家小泉に先を越された悔しさ。その小泉が自分の政策の大部分を盗んで「小泉改革」としたことへの憤り。でも悲しいかな小沢の政策は、基本的に小泉改革と瓜二つなのである。
小泉改革のエッセンスとは、戦後の自民党政策の根幹だった「所得の再分配」の行き過ぎにストップをかけることだった。大企業を絞り、都市に住む大企業サラリーマンを抑え付けて彼らから税金を巻き上げて全国の負け組産業、農業、土建屋、中山間地、限界集落に盛大にカネをばら撒くのが自民党政治の本質だった。東京、横浜、川崎、大阪、名古屋に犠牲を強いて、新潟、島根、鳥取、四国、九州、北海道にカネをばら撒くのが自民党政治の本質だった。だから日本のコメの関税は400%を超え、日本の財政赤字は拡大の一途をたどったのである。「これではもう持たない」というのが小沢の主張であり、小泉はこれを全面的に採用したのである。しかるに小沢は「小泉の改革は、まやかしで国民に痛みだけを強いた中途半端なものだった」と小泉をクソミソに貶す。「改革が中途半端」だったのは、「あまりに国民に負担を強いるのは政治的配慮から出来ない」と急進的改革ではなく漸進的改革を小泉が選んだからであり、これを「中途半端」とするのは筋違いと言うものだろう。「国民に痛みだけを強いて格差を広げた」というのもウソである。小泉の時代、格差は縮小しているのだ。ウソだと思うなら経済財政白書を読んでみるが良い。「失われた10年」を克服し、経済を成長に転換させたのは小泉内閣だけであり、経済が成長すれば格差は縮小するのである。幾ら小泉が憎いからといってウソを言っちゃいけないよ、小沢君!
安全保障でも小沢は空回りしている。小沢は言う。「戦後の日本政治の枠組みは吉田ドクトリンに尽きている」と。その認識は正しい。しかし「過度の対米依存を脱却し、日本は自立した安全保障体制を敷くべきだ」となると話は空想の世界に飛ぶことになる。日本は自前の防衛産業すら持っていない。戦闘機のエンジンすら自国で生産できず米国からの輸入に頼っている。離島に中国軍が上陸してきても、日本に国土を奪還するための強襲揚陸艦も上陸用舟艇もなく、地上攻撃能力をもった戦闘機もない。いわゆる楯と矛の役割分担とやらで日本の自衛隊は攻撃能力をほとんど持っていないのだ。日本は毎年5兆円の防衛費を使っているが、その過半は米国の機動部隊を護衛するためのものと見ても言い過ぎではない。それでどうして自主防衛が出来ようか。「長城計画」で600人を中国に連れて行って叩頭外交、朝貢外交していれば中国は友好国になって尖閣列島奪還を諦め、沖ノ鳥島を「岩ではなく島だ」といってくれるのか。んなワケねーだろ、イッちゃんよ。
国連を過度に理想化するのもどうかと思う。国連とは、平たく言えば団地の理事会のようなもので、リーダー不在の中で猛者同士が駆け引きを行う不毛の場だ。国同士の利害が錯綜する中で陰謀と騙しあいが駆け巡る暗闘の場が国連なのだ。んなところに「御親兵を」なんて、気でも狂ったか、イッちゃん。
まあ、教育の最終責任と権限を文部科学大臣に集中させ、国家が国民の教育を直接指導するという主張には首肯出来るが、輿石率いる日教組とどうやって折り合いをつけるんだ?
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小沢さん、流石です。
日本社会は大きく変化しなければ世界の中でどん底に落ち込む状況の中で、日本自体のこと、世界状況とその中の日本の立ち位置をよく把握しておられ、進むべき道を高い志と、先を見通す目で引っ張っていこうとする姿勢は素晴らしいと思います。
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まさにときの人、小沢一郎氏。
賛否両論というよりも、黒に近いグレーというような評判ではあるが、彼こそリーダーとして引っ張って行って欲しいと私は思う。
GDPで中国に抜かれ、個別企業でもシェアの低下が続く今の晴れない日本の状況。
この著書を読むと、改革に対する決意を感じる。
一度彼に任せるという選択肢は大いにありだ。
2010.09.12
中村公園のマイホームにて
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“2010/12/01:
2回目
分かる人を育て、増やすこと!まぁ、その通りなんだけど。”
“2010/2/25
真摯な本だった”
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小沢一郎は賛否両論ある政治家だろうが、間違いなく日本の戦後政治におけるキーパーソンである。その彼が特に”若い人に”読んでほしいと本を綴ったことに興味を持ち読んでみた。
彼のことは好意的に捉えてはいなかったが、彼が大切だと考えていることがくり返しくり返し述べられていて共感することも多かった。
ただ、彼の実際の行動と矛盾することも書いてある。
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今話題の方の政治姿勢がよくわかる本だった。結論から言うと庶民のことをよくわかっている政治家だと思った。テレビに映る表情とは違う面がずいぶんあると思った。小泉批判が中心だったが、政治生活40数年の中で様々な葛藤もあったろうが、小泉が一番むかついたのがよくわかった。「政治姿勢を疑う」とはっきり書いてあった。
何点かチェックしながら読んだが、とにかく政治家には一つの得意分野ではダメということを述べていた。限られた世界のことしかできないのでは、政治家の資格はないということ。もっともである。
タレント候補の問題も書いていた。担ぎ出すほうもどうかと思うが、国民にも問いかけていた。確かに柔道の谷は「おざわせんせ~」と言っているイメージが強いが、本来はウザイと思っているかもしれないと思った。
小沢と言ったら小選挙区制の導入に尽力だろう。盤石の自民党時代にあえてこの方法にこだわったのは政治信念を感じた。しかしもう少しその裏事情は勉強する必要があると感じた。小沢一郎政治塾に興味を持った。
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読みやすい本を、という視点で書いたのならばそれは成功している。しかし逆にそれがうまく行き過ぎて、内容が薄いようにも感じられてしまう。それがあまりにももったいない。もう少し、細かい議論に踏み込んでも良かったと思う。もう少し国民を信じても大丈夫だと思います。
農業の自由化に関する農家への補助金問題や教育に対する責任の明確化など、いろいろと具体的な政策に踏み込んでいる。これを丸呑みできれば、素直に納得できる部分があるかもしれないが、懐疑的な目で見ると、裏づけとなる資料があるわけではないので、ふ~ん、という感じで終わってしまう気がする。
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個人的には、私は彼の事を嫌っていない。むしろ他の議員に比べれば、好きな方かもしれない。最近彼の「日本改造計画」を読んだ影響も少なくないと思うが。。
彼は悪く「思われる」人間だと思う。他のレビュワーの方も書いていらっしゃるが、現代政治のキーパーソンであるからこそ、恨みや疎ましさを持つ人間がいるのだろう。
それにしても、彼自身がしっかりと釈明しない、説明しない、良くも悪くも東北人であることが、彼自身を悪い立場に持ってきている。
小沢氏は、残念だが、もうこの性分を改善できないだろう。それなりの高齢だからだ。だからこそ、我々国民自身がもう少し政治に興味を持って、彼の言動やメディアから考える事が不可欠なんだろう。。
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자유 민주당→신생당→신진당→자유당→민주당→국민 생활제 일당.(`皿´) 「初心忘れるべからず!」「嘘やごまかしは、ちゃんと見抜かれる!」「汝合戦を行う以上、ひたすら勝つことを願わなければならぬ」織田信長
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自分もまだ誤解が多いのでは、と思い本書を購入。やはり保守だと思う。ただ個人の自由を重んじるのはリベラルと言えるし、国連改革などは進歩主義的に感じる。内容全ていに賛同することはできないが、政治議論のひとつの軸として非常に有用だろうと思った。
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(2014.12.15読了)(2013.01.22購入)
副題「-志を持て、日本人-」
衆議院が解散となり、総選挙が行われました。自民党支持は動かなかったようです。
自民党と社会党で争っていたころは、自民党が大勝した次の選挙では、勝たせ過ぎたという空気が流れて、揺れ戻しがあったのですが、今回はそれがありませんでした。
政権交代可能な野党としての民主党は、一瞬の夢だったのでしょうか。民主党政権を実現させた小沢さんの考え方を知っておこうとこの本を読んでみました。
政治のあり方については、納得できる面もあるのですが、具体的な政策の面では、独特の意見をおもちのようです。特に、国連に軍隊を提供しようと考え方には驚きました。
自衛隊とは別に創設するということなのですが。
【目次】
文庫版まえがき
まえがき
第1章 選挙の重さ
第2章 政治不在の国・日本
第3章 「お上意識」からの脱却
第4章 リーダーの条件
第5章 二十一世紀、日本の外交
第6章 日本復活は教育から
●政治家(19頁)
世の中にはいろいろな仕事に就き、さまざまな境遇に置かれている人々がいる。そうした人たちの生活のすべてを引き受けるのが政治なのだ。
●農水省(39頁)
日本の農業の生産性を上げるために、零細農家を切り捨て、どんどん農業経営の大規模化、法人化を進めていきたいのが農水省の本音なのである。
●棄権(46頁)
投票に行かなかった人たちには政治を批判する資格がない。棄権とは、白紙委任状を与えたも同然のことである。
●罰金(47頁)
オーストラリアでは投票を棄権すると、少額ではあるが罰金が科せられるし、ベルギーの場合だと投票所に行かなかった人は裁判所に呼び出されることになっている。
●小泉改革(55頁)
「小泉改革」の実態は、介護保険料引き上げを筆頭にして、厚生年金・共済年金保険料の引き上げ、雇用保険料の引き上げ、老人医療費の改悪、サラリーマンの医療費三割負担、発泡酒・ワイン増税、たばこ税増税、所得税減税の廃止、配偶者特別控除の廃止など、国民、特に社会的弱者の負担を増やすものばかり。
その反面、累進課税の緩和や金融所得への減税など、富裕層や大企業を優遇する経済政策だけは着々と進めている。
●官僚社会主義(93頁)
政治の重要事項を政治家ならぬ官僚が決めてしまうのでは、日本はとうてい民主主義国家とは言えない。むしろ「官僚社会主義」の国家であるといったほうが実態に近いのではないだろうか。
●目標(116頁)
集団の中にあって人々を率いていくためには、まず何よりも最初に、自分がリーダーとして何をしたいのか、どういう社会や組織を作りたいのかという目標なり志なりを具体的に持っていなければいけない。
●価値観の喪失(123頁)
戦後の日本は価値観が多様化したといえるような状況ではない。むしろ、価値観の喪失とも呼ぶべき状況が社会の至る所で起きているのが実態ではないだろうか。
●A級戦犯の合祀(152頁)
いわゆるA級戦犯の合祀が行われるまでの靖国神社には、数年ごとに天皇陛下が参拝なさっていて、それで国際的にも何の���題も起きなかった。問題の本質はあくまでも戦犯合祀にある。
☆関連図書(既読)
「日本改造計画」小沢一郎著、講談社、1993.05.20
「総理の資質とは何か」佐伯啓思著、小学館文庫、2002.06.01
「美しい国へ」安倍晋三著、文春新書、2006.07.20
「大臣 増補版」菅直人著、岩波新書、2009.12.18
「あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの」菅伸子著、幻冬舎新書、2010.07.20
「職業としての政治」マックス・ヴェーバー著・脇圭平訳、岩波文庫、1980.03.17
(2014年12月16日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
「選挙活動は川上から。人口密度の低い農村部から始めろ」「政権交代のないところには政策論争もない」「政治家を育てるのは国民自身」「教育の最終責任を国家に」“剛腕”政治家が、未来を担う若者に平易な言葉で民主主義の原則を熱く語りかける。27歳から政界の第一線で活躍し続け、ついにその信念である政権交代を実現させた、小沢一郎の政治哲学が凝縮された歴史的な一冊が、待望の文庫化。
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選挙前の政党比較をゼミで行う際、資料を探していて見つけた一冊。読書メーターでの感想が一様に納得を示すものばかりだったのでずっと気になっていたのをついに読了。実際読んで、氏に対する印象はかなり変化した。述べられていることは至極まっとうであり、現在の日本に足りない、欲しい部分が詰め込まれている。「国民のレベル以上の政治家は出ない」という言葉はもっともだと思ったし、リーダーの条件にしても一文一文が身に染みた 。本書は大学生、ひいては高校生にも読んでもらいたい。「自分で選択する」ということを考えてもらうために。
正直なところ小沢氏についてはイメージが先行し、あまりいい印象を持っていなかった。同じ岩手県出身だが、氏は水沢市(現・奥州市)出身でありその一帯においてのみ支持が強いのであって、岩手県民全体が氏を信任しているとマスコミを通じて思われているのは大変不愉快なものだった。今回本書を読んだことで、完全賛成とまではいかなくとも、見方が変わったように思う。