マックス・フライシャー アニメーションの天才的変革者

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投稿者：Ｌｉｖｉｎｇ Ｙｅｌｌｏｗ　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

　この文字通り言葉にできない、不思議なフレーズで締めくくられる名曲、"I Wanna be Loved by You"、を聞いたのは、友人の四畳半のＣＤラジカセで、マリリン・モンローさんのベスト盤を聞いた時だったろうか。あるいはマヨネーズのＴＶＣＭか。最後に聞いたのは椎名林檎さんの演奏だったか。この「ププッピドゥ」という一節の育ての親こそ、本書表紙に描かれた非実在女性にして、筒井康隆先生もその評伝を記された（『ベティ・ブープ伝』（中公文庫））ベティさんこと、 ベティ・ブープである。
　そのベティさんを世に生み出し、新聞マンガのヒーロー、ポパイを動かし、ほうれん草缶詰を手に取らせ、アメコミのヒーロー、スーパーマンを大空に舞わせ、人々に「空を見ろ！」と言わしめた天才低予算アニメーター。それが本書の主人公、マックス・フライシャー氏なのだ。
　アイザック・アシモフ先生もノベライズした特撮傑作『ミクロの決死圏』（'66)、ディストピアものの傑作『ソイレント・グリーン』('73)、最近ＤＶＤが再プレスされた『絞殺魔』(68')などなどを監督した、氏の愛息にして映画監督リチャード・フライシャー氏が、本書に描く父マックス氏の実像とは。
　それは、よく動く手と頭から生み出される、天才的なひらめきと実行力、それがもたらすあふれ出すようなよろこび、そしてそこから生まれる「利権」にたかるやっかいものたちとの戦いの連続であった、と言えるだろう。　一夜にして、大映画資本にスタジオを追われ、さらにはＴＶネットワークにポパイからスーパーマンまでの全シリーズ作品を奪われ、そして、新聞のベタ記事をきっかけに一挙に取り戻す、まさに波瀾万丈。
　息子リチャード氏の映画界での活躍をきっかけに実現した、ウォルト・ディズニー氏とマックス・フライシャー氏の再会シーンなど、など、読みどころ満載の１冊である。
　とはいえ、冒頭の、フレーズとも言えぬフレーズの権利をめぐって、1930年代の段階でベティさん相手に裁判を起こされるとは。訴訟社会アメリカ、の底知れなさも本書からは伝わってくる。
　その結果は。1928年製作のトーキー映画中でこのフレーズを、原告・被告双方よりずっと先に、歌手ベイビー・エスターさんが歌っていたのだ。
　そしてそこからさきは、ノーリターン、ププッピドゥ。