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騙し絵 (創元推理文庫)
幾度も盗難の危機を乗り越えてきたプイヤンジュ家のダイヤモンド“ケープタウンの星”。銀行の金庫で保管されていたこのダイヤが、令嬢結婚の日に公開されると、警官たちの厳重な監視...
騙し絵 (創元推理文庫)
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商品説明
幾度も盗難の危機を乗り越えてきたプイヤンジュ家のダイヤモンド“ケープタウンの星”。銀行の金庫で保管されていたこのダイヤが、令嬢結婚の日に公開されると、警官たちの厳重な監視にもかかわらず、偽物にすり替えられてしまった!誰が?いったいどうやって?第二次大戦末期、本格ミステリ・マニアのフランス人が捕虜収容所で書き上げたという、幻の不可能犯罪ミステリ。【「BOOK」データベースの商品解説】
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紙の本
過酷な現実に対して優雅な生活は最高の復讐である、かな?
2010/01/12 11:51
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わたなべ - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは非常に楽しい本だった。なんでも著者は第二次世界大戦末期から戦後にかけてフランスで三つのユニークな密室ミステリを発表したのみで、こつぜんと姿を消した幻の作家なんだそうで、その経歴をいうのが、そもそも戦前にミステリに狂い原書でクリスティやらクィーンやらを読み、またチェスの愛好家としてドイツやらイタリアやらの同好の士と手紙によるゲームのやりとりをしていたその能力を軍に買われ、戦争が始まるや否や前線に送られ、戦地を転々としたあげくノルマンディでドイツの捕虜となるのだが、そこでの無聊の慰めに書いたのが、先に書いた三つのミステリ作品だった、と言うわけなのだった。もっとも、戦後発表したこれらの作品は彼の思うようには世に受け入れられず、彼は書きためていた他の作品原稿を焼き払い(もったいない!)、出版界から去った、という成り行きなのであるという。本書は三つの作品の二番目で、解説による簡単な紹介を見るかぎりもっとも大掛かりで手の込んだ作品と思しい。いかにもフランス的な瀟酒でエスプリに満ちた軽い語り口で、メタフィクション的な「いつ」「だれが」「どこで」「なにを」「どのように」語った(語る)か、を繊細に組み立てて、複雑極まりない事件(物語)を極めて優雅に語ってみせている。その手際の良さと文章のエレガンスは見事で、とても魅力的だ。事件は、253カラットのダイアモンドが結婚式の当日に衆人環視のなか偽物とすり替えられ、しかも倉庫にあった空間を自在に飛び越えるという不思議な飛行艇も盗まれ、さらに死体が登場して、ダイアモンドの持ち主である親子が誘拐され、と次から次へといわゆる「不可能犯罪」が巻き起こる、と言うもので、容疑者含め関係者の数も多いし、またそいつらがあやしいことこの上ない人物ばかりであって、といういかにも「黄金時代」風の大胆で大仕掛けな「謎」が、アクションやロマンスもチョビッと加えられながらとんとんとスピード感のある軽やかなリズムで語られていき、あれよあれよというまに気がつけば「読者への挑戦」へと辿り着く、というわけなのだった。ダイアモンド消失の密室トリックは、成程!と膝を打ったが、まあ本格を読み慣れた人だったらだいたいピンと来るんじゃないかと思うが、私はあんまりたくさん起こった事件に眼が眩んでまったくわからず、解決篇がとても素直に面白かった。エピローグ的に「登場人物たちのそれから」が挟まる構成も、いかにも往年のエンターテイメント小説らしく、余裕と余韻があってよかった。いろいろな意味でとても楽しく読め、たぶん捕虜生活の「楽しみ」として書いた動機がここではうまく作用しているんだろうと思うのだが、戦後のフランスでこれが受け入れられなかった、というのは、フランス人に取っての「戦争(と戦後)」がいかなるものだったのか、というのを逆に照射しているようにも思えて興味深い。なにしろ、1939年を舞台にした作品なのに「戦争」の「せ」の字も出てこないのである。これは許せない人には許せないものだったんだろうし、そうせずにはいられない切実な理由が著者にあったんだろうことは想像に難くないではないか。ともあれ、普通に読んでとても楽しい小説だったので、残り二作もできれば訳出してほしいものである。
紙の本
読後感がよくないのは、結局、登場人物がみんないい加減に生きているからなんでしょう、そこがフランス的っていえば、そうなんでしょうけれど、じゃあフランスらしい洒落っ気があるかといえばそうでもない。やはりアマチュアの限界かな・・・
2012/04/11 19:20
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
かっこイイカバーです。中央のダイヤより全体の色とオレンジ色? の縁取り、そして遠近法を効かせた平面図のようなものがうっすらと見える様子がいい。注を見ると
カバー写真=Rex Features/PPS通信社
背景の図面=Collection Le Labyrinthe (S.E.P.E.)版 TROMPE-L’OEILより
カバーデザイン=本山木犀
となっていて、写真とはべつの背景を、多分、本山木犀が一つにまとめたんだな、って思います。さすが『騙し絵』っていうタイトルに恥じない工夫をしています。カバーはいいし、『騙し絵』っていう題も悪くない。しかも謳い文句が「伝説の不可能犯罪ミステリ」っていうのですから、読書意欲をそそります。ま、ちょっと危ないのが「本格マニアのフランス人によって書き上げられた」っていうあたりかな・・・
とりあえず、扉の言葉を写せば
*
アリーヌ・プイヤンジュが祖父から贈ら
れた253カラットのダイヤモンド《ケー
プタウンの星》,彼女の結婚披露宴の日に,
パリの屋敷でこのダイヤを披露すること
になった。世界六か国の保険会社はこの
宝石のために各社一名,警備要員として
警官を派遣してきた。ところが,六名の
警官の厳重な警備にもかかわらず,なん
とダイヤは偽物にすり替えられてしまっ
た! 誰が,どうやって……? 謎に立
ち向かうのはアマチュア探偵ボブ・スロ
ーマン。第二次大戦末期,捕虜収容所で,
本格マニアのフランス人によって書き上
げられた,伝説の不可能犯罪ミステリ。
*
となります。あれ、創元推理文庫って〈、〉と〈。〉じゃなくて〈,〉と〈。〉を使うんだ、でもカバー後の案内は、同じ横書きなのに〈、〉と〈。〉と普通の日本語なのに何故なんだろう、今までもそうだったかしら、と首を傾げたところ。前々から、岩波は文庫カバーでは〈,〉と〈.〉という英語表記を日本語に混ぜるということをやってきて、正直、何を役人みたいに硬く考えるんだろう、と思っていたのですが、東京創元社のやり方はもっとひどくてポリシーがないんじゃないか、なんて思った次第。
うーむ、こんなところで躓いている場合ではない。で、です、やはりフランスものでした。全体的に軽い。特に、人間が軽い、っていうかいい加減。ただし、そのいい加減さっていうのが、理解不可能っていうのではなく、ありうるかも、って思わせるところがいかにもフランス的。罪を犯す、っていうことについてあんまり悩んでいない。
犯罪者もですが、被害者のほうも鷹揚です。自分の財産、ていうだけではなくて祖父からの贈り物だっていうのに、それが消えてもあまり真剣に悩まない。被害者が鈍感だと、読んでいる側にしても気が抜けます。でも、執筆のいきさつを考えれば、このお気楽振りも理解できないわけではありません。
なにせ、捕虜収容所で書かれたというのですから、書く側もそこで現実逃避をしていたのでしょう。自分の作品のなかくらい、厳しい現実とは異なる世界にしたいとか思う。で、このお話は1946年の作品。マルセル・F・ラントームは本書の前、1944年に『聖週間の嵐』、後の1948年に『十三番目の銃弾』という三作品を発表して、その後は筆を断ったといいます。
捕虜となっていた期間と、三作品の関係がはっきりしなくて、1944年という戦争のさなかに本当にフランスで本格ミステリが出版されていたのかしら、そのときは捕虜ではなかったの? で1948年の執筆は、実際はいつだったの? なんて色々思います。ただ、筆を断たざるを得なかった理由は、多分、フランス人の本格ミステリ嫌いにあったのではないでしょうか。
すくなくとも、このレベルの本格ぶりでは彼らは驚きはしないでしょう。脱力気味であっても、お洒落でユーモアがあって、というなら受けたのでしょうが、そこはあくまでアマチュアの作品の域をでていません。フランスで受けるには、もっと軽妙でかっこよくなくちゃ。再評価が進む、っていってもあくまで狭い世界での話だとおもいますよ、私めは・・・