災厄の紳士 （創元推理文庫）

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共犯者とともに恋人と別れたばかりの女性アルマを騙し金を奪おうとするネヴィル。作戦は成功するが共犯者との接触直前に殺害されてしまう。お金の為には手段を選ばない元恋人ハリー。ネヴィル殺害の容疑者としてマークされるハリー。ハリーの毒殺事件。事件の真相を追う姉サラ。

船橋図書館
　２００９年１２月１９日読了

　２０１０年９月２８日再読

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初ディヴァイン。まずその読み易さにびっくり。遊びなしでスムーズに走り出す本編。いいタイミングで投げられる謎。無駄を省いた文章なのに、各キャラの問題（主に家族だが）もしっかりと織り込んである。
倒叙モノとしてスタートしたストーリーは、探偵役の登場でフーダニットに変貌してくる。派手なトリックや展開はないため、物足りなく感じる読者もいるだろうが、本格としてのあらゆる要素は一級品。作中を見渡した時、そのすべてが視野に入っている。フーダニットとしては、手掛かりや展開を把握できないと心理的に疲れる読書となるのだが、その意味では本作品は実に納まりのいいミステリだと言えよう。
真相から推し量れる作品のボリュームをよく判っているため、字余りや字足らずが一切ない。作者のページ数有効活用術はお見事。小説としての完成度も高い本格ミステリの秀作。

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筋立てや人物描写が巧みで終盤まで引き込まれるように読んだ。
だがラストは少々不満だった。如何にフーダニットが主眼とはいえ、その「誰か」の動機、ホワイダニットが物足りなく感じられてしまった。

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非常にテクニックのある、巧い作家だ。
こういう作品に出会えると、幸せを感じる。
倒叙ミステリーで前半を読ませ、
一転後半は本格ミステリーへ。
著者の他の作品も、読んでみたいと思う。

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本格として今まで読んだなかでもとくに好きです。クリスティーやエラリークイーンよりも好きです。
海外作品はいつも時間がかかって読むのですが、これは夢中になりすぐ読めました。

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前半は、令嬢を騙そうとする美青年ジゴロの小悪党ぶりが楽しい。
後半は視点を変えて一転、本格フーダニットになっています。

海外作品の翻訳小説は読みにくい、という先入観があるのですが
本書はとても読み易く、登場人物達に親近感が持てます。
特に探偵役の主婦が、家事や育児に疲れ果てながらも
家族を想い、日々を生き抜こうとする姿は素敵です。

プロットがとても練られていて巧いです。
ミステリーとしても秀逸で、謎解きも楽しめます。

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ディヴァインは物語りを探偵や刑事目線で描かず、
必ず被害者の身内や友人にその役をさせ、
謎の解明に奔走する姿に読者の共感を誘う、とあとがきに
ある。今作も同様だ。
しかし、4作連続で読んだので作家の手法がみえてきて
今回は途中で犯人に気付いた！
少し間をあけて読んだ方が楽しめたかな〜？

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「本格ミステリ」という紹介と、なんだかおどろおどろしげなタイトルがどうもピンと来なかったけど、お勧め文にひかれて読んでみたらば、当たりだった。本格ミステリには間違いないが、解説にある通りロスマク風のハードボイルド味があって、こういうのは好きだ。カチカチッとパズルの合わさる快感と、錯綜する人間関係に分け入っていくスリルと。この作者のははじめて読んだのだが、他のも読みたくなった。人物が魅力的だ。特に、つまらないジゴロの青年がなんともいい感じ。あんまり賢くなく、さほど人が悪くなく、でも結局…ねえ。その妻もとても印象的だった。翻訳ミステリの売れ行きは相変わらずぱっとしないんだろうか。これなんかももっと読まれていいと思う。

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「わたしが知ってるからなのよ、誰が犯人なのか……いえ、名前はまだ知らない。でも間違いなく、この中に全部入ってるの――」そして、サラは自分の頭をつついてみせた。「――犯人は誰で、どんなふうにやって、どういう動機があったのか。ただ、頭の奥から出てくるのを待ってるのよ」

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前半は、二流のジゴロくずれが黒幕の指示を仰ぎながらターゲットのお嬢さん（アルマ）をひっかける様子を語る、というサスペンス調。後半は家族を巡る心理ドラマ。どちらも大変読み応えがあり、満足して読了。面白かったです。登場人物の書き込みがとても丁寧で、事件の謎解きはもちろんですが、それ以外の小さな不満や人間関係の不公平さなども浮き彫りになっていて、事件が起こらずとも小説としても面白いほど。登場人物が本当に生き生きと描かれています。特にヒロインのアルマの姉、サラが好ましい人物。容姿は十人並みだけれど聡明で、やや痩せ過ぎだが料理上手というしっかり者なので、金持ちで偏屈な父親の介護と怠惰で意地の悪い夫、可愛いけれどまだまだ手のかかる小さな息子、父親を真似て自分を見下す四歳の娘、美人でスタイル抜群、気分屋の妹アルマに振りまわされ、いいように使われて疲弊しながら、不満を持ちながらも、それが自分の役割と相手に尽くしながら、明るい面を見るようにして前を向いて生きていこうとします。自分をアテにできることを当然と思うな、と毅然として意志表示をしたりもして、好感が持てました。それにしても、意外な人が犯人だろうと思いながら読んでいたのに、犯人は本当に意外な人物でした。それだけ物語にどっぷり入りこんで読めた、ということだと思います。おもしろかったです。

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真犯人は意外な人だろうとは思っていたけれど、そうきたか・・・！って感じ。でも言われてみればなるほどねぇ、と。

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有名な作家の娘に近づく。何かを企んだ美青年。上手く取り入り青年は娘との婚約まで取り付けるが..。事件が起こってからじょじょに、じょじょに不穏さが増してゆくあたり、かなり大好きでした。みせるみせる。最後まできっちりと読ませてくれるし、巧妙に絡む人間関係もまたよかった。

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婚約破棄された有名小説家の娘に近づくジゴロ。いったい彼の目的は…？
出だしはサスペンスですが、途中からミステリに変わります。証拠で固めていくよりは人物の反応から推理していくタイプなので、本格好きな人には物足りないかもしれません。それを補ってあまりあるのが人物描写。どうしてもミステリを読んでいると人物が記号化されてしまい、心理を想像するというよりパターンに乗せてしまいがちです。ミステリの環境が整うに至る、そこまでの人々の心情を慮ることを忘れてしまう。人物はその作品のその時間のなかにだけ生きているのではなく、作品に取り上げられるのは登場人物たちの一生の一部である、と感じることができました。事件が起こるまでも、解決したあとも彼らは生きていく。事件の動機があったからこそ、最後のサラの言葉が光ります。

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読み始めた時、この作家さんは女性なのかと思っていた。読み進めていくうちに、これは女性だろう、と私はてっきり思い込んでしまった。
私はこの作品のミステリー的な仕掛けにはすっかり騙されたクチで、そういう意味でもとても質の高い作品だと思う。けれど、それよりも私は登場人物たちの造形にとてもリアルなものを感じたのだ。

その登場人物の造形でやはり際立っているのは、サラだと思う。
彼女の細かいところまで気が付くからこその憂鬱、いらだち、諦め、そういったものがとてもリアルだった。繊細で危なっかしい妹・アルマに対する保護者的な視線だったり、虚栄にまみれたプライドの高い父親に対する諦念だったり、冷酷な夫に対して彼はサディストだと思うところだったり……
彼女の他人への対応の仕方が、なんだか男性作家が書いたものとは思えなかったのだ。

一方で私は、そんな彼女を含む周りのどろどろした関係に、読んでいてちょっとうんざりしてしまったのも事実だ。それらがリアルであるだけに、もっとマシな人はいないのかしらん？　これではあんまりにサラが可哀そうだわ……と思ってしまったのだ。

そんなわけで、自分の好みからあまり楽しく読めたとは言えず、☆は２つ。