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商品説明
古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、報酬に惹かれてある依頼を請け負う。依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、結末の伏せられた五つの小説を探していた。調査を続けるうち芳光は、未解決のままに終わった事件“アントワープの銃声”の存在を知る。二十二年前のその夜何があったのか?幾重にも隠された真相は?米澤穂信が初めて「青春去りし後の人間」を描く最新長編。【「BOOK」データベースの商品解説】
結末の伏せられた5つの小説についての調査を請け負った古書店アルバイトの芳光は、未解決のままに終わった事件「アントワープの銃声」の存在を知る。幾重にも隠された真相とは? 精緻の限りを尽くした本格ミステリ長編。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
米澤 穂信
- 略歴
- 〈米澤穂信〉1978年岐阜県生まれ。2001年「氷菓」で角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞しデビュー。ほかの著書に「ボトルネック」「インシテミル」など。
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紙の本
著者と作品に向き合う姿勢
2010/02/17 08:58
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
学資がなく休学の身の苦学生・芳光は住み込みバイト先の伯父が営む古書店の留守番中、叶黒白という作家の短編5編を探して欲しいという依頼を受ける。依頼者は北里可南子、黒白の娘であり5編のリドルストーリーの結末のみを所持しているという。
報酬に釣られ黒白の旧友や掲載誌、関係者を追ううちに、彼女と母親たちの身に起きた22年前の事件「アントワープの銃声」へと辿り付く。
なぜ夫であり父である黒白はこのような本を書いたのか?そしてなぜそれを封印したのか?
事件の真相を訴える5つの「結末」を用意しておきながら、それを描かず読者にラストをゆだねる「リドルストーリー」という形に仕立てなのはなぜなのか?
悲劇的な過去が作家の真意と共に少しずつ明らかになり、残すところあと一遍となったとき、芳光は一つの決断をする。
この物語には5つの物語とそれにこめられた一つの事実と、いくつかの真実がある。
5つの物語は言わずと知れた黒白が遺した小説だ。一つの事実というのはその小説で世に訴えたかったであろう、「アントワープの銃声」という22年前の、妻殺し疑惑事件の真相である。そしていくつかの真実とは・・・父としての黒白と夫としての黒白、その妻、その娘・可南子、そしてこの物語を追うことになった芳光が信じ、想い、そうと認めた真実である。
黒白の遺した小説はどれもゴシックホラーとでもいうのだろうか、例えばポーの「黒猫」や「アッシャー家崩壊」を読んだあとのような・・・なんとも後味の悪い、著者の意図を計りがたい終結を迎えている。 見つかったのは4編。
母が娘を耽溺するあまり火事を引き寄せてしまった「奇跡の娘」。
男が不条理極まりない国の裁判にかけられ妻子を失う「転生の地」。
妻子のために自らの命を断った中国の話「小碑伝来」。
足かせとなった妻子を危険な道へと誘導した男の本意が問われる「暗い逐道」。
どのストーリーも家族と彼らの死が描かれ誰がなぜそうしたのか?誰が生き残ったのか?という肝心要の部分が、結末を読者の想像に任されるリドルストーリーという形をとっている、という共通点がある。
22年前妻子に起きた悲劇とその「スキャンダル」報道に人生を転落させられた著者自身の、世間に対する恨みがこの小説を書かせたのだとしたら、なぜ世間にそれと解るような出し方をしなかったのか?なぜ結末を伏せたのか。そしてなぜ、結末だけを掲載せずに断片として書き遺したのか・・・。
悲劇の後帰国した彼が娘と二人過酷な状況と嘲笑の中に埋もれたことを考えれば、そして彼自身の手記を読めばこれら短編を世間への糾弾と真実を訴えるために書いたのだと解る。
しかし最後の謎、なぜその目的である結末を封印したのか? その謎は黒白が生涯かけて仕掛けた深い深いトリックであり、我々読者は最後の最後まで踊らされるだろう。
リドルストーリーは歯切れが悪く後味悪く、それでいて読み終えた後も魅了し続ける。しかし著者により放り出された結末を読者が各々の見解でケリをつけるこの形式は、著者と読者の共作という意味で2者の信頼関係の上に築かれる、読者に優しい形である。
しかし、そうだろうか? 少なくとも本書と本書に登場する追想された5編の断章は、著者によりこの上なく突き放された形ではなかろうか?
世間への講義新から吐き出すように書き上げたであろう真相を訴える5つの断章は、最終的には「世間」に発表されることはなかった。
人の目を盗むようにこっそりと発表され、事件の真相である結末を用意しながらもそれらは引き剥がされ巧妙に隠された。
唯一その結末に近づくことを許された可南子と芳光すら、幾重にも翻る結末と彼の本意に踊らされていく。
無論、読者である私たちも、だ。
本を読むということ、それは受身であることが多い。
用意された結末と背景を必要としない本文とで構成される物語は世に多く、私たちの多くはその優しい読書に慣れているのである。
読者を突き放したリドルストーリー。
読書するということ、物語の真意を汲み取るということ、能動的に、読者から著者へと挑戦し続けるということ。
その重みに気付き、姿勢を正された一冊であった。
紙の本
リドルストーリーに脱帽です
2009/09/23 12:49
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:山茶 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いやあ、良かった。
期待通りだった。
米澤穂信はおもいっきりミステリーマニアと思ってます。
なのでミステリーファンの期待を裏切りません。
依頼人の亡くなった父の書いた5つの小説を探して物語が進むのですが、
22年前の事件が絡んできて、
見つかった小説を読むと色々と想像できて、
なんともワクワクです。
しかも、見つかる小説が全てリドルストーリーなんですよ。
リドルストーリーとは最後の結末が書かれていないのです。
最後の結末を書くと蛇足になったりして面白くない場合などに
しばしば使われます。
今回は、別に父が5つの結末を残していて、
小説が見つかるたびに、それを付け足して読んでみて、
なぜ、リドルストーリーにする必要があったのか
なぜ、この結末なのか
などを考えながら、謎解きをやるんですよ。
そこが良かった。
色々想像できた。
最後はなんというか、
悲しい気持ちになったけど、
それをリドルストーリー5つで描いた父の気持ちは
ものすごく大切な宝物でした。
去年の「儚い羊たちの祝宴」の最後の一行の魔術といい。
今回のリドルストーリーといい、
期待を裏切らない手法に満足です
紙の本
小説の中の小説に隠された真実
2009/10/01 01:38
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Spica - この投稿者のレビュー一覧を見る
一人の少女の文集の作文から物語は始まります。
背後から迫ってくる暗闇から逃げたいのに逃がれられない。
文章からはそんな不安と怖れが伝わってきます。
いったい彼女は何を怖れているのだろう、と冒頭から惹き込まれました。
伯父の古本書店で腰掛バイト中の芳光のもとに、ある日、一人の女性が訪れ、亡くなった父親が書いた短編小説を探して欲しいという依頼を受けます。父親の小説は全部で五篇。残されたメモから推察するにどれもリドルストーリー、すなわち読者に結末を委ねて結末を描いていない小説とのこと。
数少ない手がかりを頼りに探していくその捜索の過程も面白いですが、その見つかった小説と可南子が見つけたというリドルストーリーの結末の一行が明らかになっていくのが面白かったです。
さらに、物語を追ううちに芳光は、スイスで起こった「アントワープの銃声」というある事件に行き当たります。その事件の真相も小説同様、闇に包まれていて。
小説を見つけるごとに増えていく謎という、ぐいぐい読ませる手法にはまって一気に読んでしまいました。現実の事件と小説の結末とがリンクしていくのですが、それがリドルストーリーを使って巧く描かれています。
辿り着いた一つの結末。
そして一番最後に見つかった一篇。
本当の真実とは?
今までの米澤さん作品とはまた違った引き出しの中を見せられた感じです。
全篇を通じて重く静かな雪が降る中を、雪に足をとられながらも一歩ずつ真実に向かっているような静寂と重厚さが合わさった作品でした。
読了後に再び序章の文集を読むのがおすすめです。
紙の本
結末の伏せられた小説をリドルストーリーっていうんですねえ、知りませんでした。で、このお話には五つのそれが入っていて、しかもそれが大きなミステリーに繋がっていく、雰囲気は古いんですが、それがなんとも味がある。古書を思うのが一番近いかもしれません。
2010/05/20 19:32
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私だけの思い込みかもしれませんが、集英社ってソフトカバーを別にすれば、角背って少ないほうだと思います。カバーの紙質もどちらかというとマットではなく光沢のあるものが多い。あんまりエンボス加工のような紙自体に手触り感がある、そういうものは滅多に使わない。汚れがつき難いようにする、といった会社の基本姿勢みたいなものがあるんだと思うんです。ハードカバーは丸背、ソフトカバーは角背、みたいな考えも含めて。
そういう意味では、今回とりあげる『追想五断章』は、数少ない例外じゃないかな、って思いました。まずハードカバーで角背、どちらかというと講談社スタイル。で、カバーがマット気味の少しザラついた紙で、厚みはありませんが、触れていると紙を実感させます。で、小泉孝司の装画もどちらかというと他社風。装丁は芥 陽子(note)、集英社初登場ではないでしょうが、あまり染まっていない感じです。
ちなみに米澤作品を読むのは2006年に出た『ボトルネック』以来。あの小説、結末も含め全体を覆う暗い感じに感心しなかった・・・。で、暫し敬遠していたのですが、今回は評判のよさに惹かれてついつい手を出してしまいました。今回もまた明るいお話ではありません。何より主人公に纏わりつく不幸の空気が厭です。ま、それが米澤のデフォルトっていやあ、それでお終いナンですが。
主人公は、菅生芳光、休学中の大学生です。学資が続かず、現在は伯父が店主である菅生書店の居候となっています。伯父の菅生広一郎は、50歳を越えていて、芳光が手伝いに来てからは殆ど仕事をせずにパチンコをして暮らしています。古書店は神田を除けば、代替わりをきっかけに閉店ラッシュというのが現実のようですが、芳光以外にも、アルバイトに来ている笙子という大学生もいるくらいですから、菅生書店はその波に呑み込まれてはいないようです。
で、芳光が店番をしているとき、癌で亡くなった父親が叶黒白の名前で書いたと思われる少なくとも5篇の小説を探しているという女性が現われます。それが北里可南子で、年齢は明記されていませんが、4歳のとき、母を亡くし、松本で暮らし始めたのが5歳のときで、それから21年経ったとあるので現在26歳でしょう。彼女は芳光にその作品探しを依頼します。浮かび上がる過去の事件・・・
出版社のHPの言葉を借りましょう。
*
物語はある古本屋から始まります。アルバイトの大学生・菅生芳光(すごうよしみつ)は、報酬に惹かれてある依頼を請け負います。依頼人・北里可南子の依頼は、亡くなった父・参吾が生前に書いた、結末の伏せられた5つの小説(リドルストーリー)を探してほしいというもの。調査を続けるうち、芳光は、未解決のままに終わった事件“アントワープの銃声”の存在に行き当たります。二十二年前のその夜、何が起こったのか? 幾重にも隠された真相は?
*
現在に過去の事件が影を落とすというのはミステリに限った話ではありません。やはり大きいのは結末の伏せられた小説(リドルストーリー)の存在です。しかもそれが五つあるのです。各々の作品名は各章のタイトルになっています。目次を写せば
序章 わたしの夢
第一章 奇跡の娘
第二章 転生の地
第三章 小碑伝来
第四章 アントワープの銃声
第五章 彼自身の断章
第六章 暗い隧道
第七章 追想五断章
終章 雪の花
となります。出版社の刊行記念インタビューでも言及がありましたが、読んでいて連城三紀彦を思い出しました。連城の小説はもっと深く男女の関係にはいっていくような印象がありますが、米澤はそこまで情緒に流れてはいません。ただ全編を流れる暗さというか倦怠といった感じは、共通しているかもしれません。青春の輝き、といった言葉が全く当て嵌まらないほの暗い、まさに古書店のような雰囲気の作品です。
初出誌は、「小説すばる」2008年6月号~12月号で、単行本化にあたり、加筆修正した、とあります。
紙の本
「青春後」の物語
2017/06/24 06:03
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
親の死により大学を休学、復学のための学費稼ぎと生活費を節約するために主人公は古書店を営む叔父の家に居候し、仕事を手伝うことに。
ちょっと映画『森崎書店の日々』に似ていなくもない設定だけど、こちらの主人公は男で、人生の展望をすでに暗く掴んでいるところが大きな違い。
そんなところに、信州から「生前父が小説を書いて同人誌などに発表していたらしい。その5編をすべて集めてほしい」と依頼が入る。 店主は叔父なれど、ちょうど対応に出たのは主人公。 報酬の金額につられて調査を始めてみたものの・・・それは“家族の秘密”に結果的に土足で踏み込む行為だった。
米澤穂信という作家、『古典部シリーズ』とかライトノベルタッチのところから出てきた方なのでハッピーエンド指向なのかと思いきや、意外にも「後味のよろしくない話」・「ラストがいまいちすっきりしない話」がお好きなのでは・・・と感じました。
これは幾分希望がにじむラストではあるけれど、その解釈も取りようによっては変わるので。
私の好きな『犬はどこだ』や『さよなら妖精』もそういう傾向があるし・・・『ボトルネック』はかなりマイナスな方向のラストだと解釈しましたし(『インシテミル』はだからちょっと別方向だと思います)。
この方は、ミステリやどんでん返し要素がなくても、読ませる物語をいつか書く人だ、と思っています。(2011年4月読了)
紙の本
計算されつくされた「リドルストーリー」
2010/01/15 20:30
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
普段、めったにハードカバーは購入しない。できるだけ我慢我慢。そして文庫化を静かに待つ。のだけれどっ!!! 本作は新聞の宣伝欄で見て即、ハードカバーでの購入を決めた。「BOOK」データベースの内容を見てわかるとおり、設定がズルイのだもの。
本にまつわる設定ってたまらない。作中作が登場する作品。本を巡る物語。本屋さんのお話。その手の話には無条件で惹かれてしまう。
伯父の経営する古書店アルバイトの芳光の元に、北里可南子という女性から亡くなった父・参吾が生前に書いた小説を探してほしいとの依頼が舞い込んだ。僅かな情報を頼りにその小説を追う芳光と可南子。参吾が残した小説はりドルストーリーと呼ばれる、結末を読者に委ねるかたちの小説。しかし参吾はそれぞれのストーリーに、結末を一行ずつ用意していた。一編、一編と参吾の残した小説を手に入れる芳光と可南子は、各作品に結末を当て嵌めていく。そうやって調査を続けるうちに芳光は、参吾が関わった「アントワープの銃声」と呼ばれる22年前に起こった事件に行き着く…。可南子が言うには、参吾はとても小説を書くような人間ではなかったらしい。参吾はその小説に何かを託したのか?
本書では「青春去りし後の人間」が描かれている。主人公の芳光は大学生だが、実家の事情により学費が続かなくなり休学中。一方の可南子も過去に縛られている。(なぜか、はネタばれになるので敢えて書かない)
遺作を探す作業は結構すんなり進んでしまうのだけれど、その過程で芳光はちょっとした変化――主に内面的な――を遂げていく。そして父の遺作に込められた真相を知った可南子も、過去を受け入れ、新たな一歩を踏み出そうとする。
といっても、この『追想五断章』自体もリドルストーリーなので、読者はラストを想像するしかないのだけれど、わたしが思い浮かべるラストは「再生」。もしくは「リスタート」といったところ。前向きな余韻が残る作品だ。
さてさて本書では、芳光と可南子の小説探しの本編の合間に参吾が遺した5編のリドルストーリーが登場する。この作中作自体も短編らしいひねりが効いていて読みやすく、本書は1冊読んで6編楽しめるお得な作品と言えるだろう。
そしてその5編のリドルストーリーにはまたある仕掛けが施されていて、その種明かしがされたときはゾクリとなった。そして巧いと唸った。(ネタばれになるので詳しく書けないのが残念)
「青春去りし後の人間」の再出発までの物語。読後感はあったかく、ハードカバーで購入して正解!後悔はない。
さて最後に、本作の設定は不況厳しき平成4年。携帯電話も登場せず、メールなんて手段もない。冒頭で平成4年という設定を知って不思議に思ったのだけれど、最後まで読んでみればなるほど、この時代設定がとっても効いている。
正直いうと、あまりにも読みやすくてその内容はすぐ忘れてしまうだろうとは思う。5編のリドルストーリーの真相が衝撃的だった(トリックという点において)ということは覚えていても、細かいことはすぐ忘れてしまう自信がある。それでも、この読後感のあったかさ、がんばろう!って思える気持ち――読んでよかったと思う。