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紙の本
ゾティーク幻妖怪異譚 (創元推理文庫)
著者 クラーク・アシュトン・スミス (著),大瀧 啓裕 (訳)
朧な太陽のもと、魔術や降霊術が横行する地球最後の大陸ゾティーク。ブラッドベリ、ムアコックに影響を与えたことでも知られる異才が、細密かつ色鮮やかな描写で創りあげた美と頽廃の...
ゾティーク幻妖怪異譚 (創元推理文庫)
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商品説明
朧な太陽のもと、魔術や降霊術が横行する地球最後の大陸ゾティーク。ブラッドベリ、ムアコックに影響を与えたことでも知られる異才が、細密かつ色鮮やかな描写で創りあげた美と頽廃の終末世界の物語を、本邦初となる全篇収録の決定版で贈る。地獄の王にそむいた妖術師の復讐譚「暗黒の魔像」、失った鳥を求める波瀾の航海を描く滑稽譚「エウウォラン王の航海」他全17篇を収める。【「BOOK」データベースの商品解説】
収録作品一覧
ゾティーク | 9−11 | |
---|---|---|
降霊術師の帝国 | 13−27 | |
拷問者の島 | 29−51 |
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紙の本
塵に還る歓び
2010/06/15 00:51
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
太陽の光も衰えつつある遥かな未来、人類はゾティークという名の大陸で王国に分かれて暮らしている。もはや科学文明は後退し、魔術が人々を支配し恐怖させる発達を遂げている。
そのゾティークを舞台にした作品集だが、大陸は広大で、時間は悠久だ。様々な国と、様々な王と、様々な悪党や魔道師がいて、信仰と恐怖の対象である魔王タサイドンが君臨し、無数の邪神とも悪魔ともつかない存在が姿を現す。魔物達は魔術師の儀式によってその力を振るうが、唯一神も造物主も存在しない世界において、それらは結局は人々を消耗させ、荒廃の道を急がせるだけだ。ただゆっくりと世界は破滅へ進んでいるように見える。
人々は一時の栄華を求めながら、因果応報の淵に沈んでいく。権力者も軍人も民衆も旺盛な欲望のままに振る舞うが、長い眼で見れば栄えては滅びることを繰り返しながら、人類は少しずつ生気を失っていくようだ。
「降霊術師の帝国」では、生き返らせた死者達による帝国が築かれるが、いずれ長くは続かない。「拷問者の島」では恐るべき銀死病に滅んだ国を逃れた王が、辿り着いた島でさらなる恐怖を味わう。「死体安置所の神」は、妻を救い出すために侵入した異境の神殿に恐るべき神が姿を現す。「暗黒の魔像」の妖術師は、復讐のためにあらゆる死者の力を使い、遂にはタサイドンを呼び出して宇宙的な力による破滅を引き起こす。「エウウォラン王の航海」に登場する、海の彼方の島に住む鳥人、「墓場の落とし子」の異星生まれの何物かなどの登場は、人類がもはや地上の盟主の地位も追われる途上にあることを示している。
「ウルアの妖術」「クセートゥラ」は一見、端整に描かれる少年の成長物語の体裁でありながら、そこで学ぶのは教養や処世訓でも、愛でも誠意でもなく、ただこの世の退嬰していく道筋でしかない。滅び行くもの、死に行く世界に、儚さや切なさの美を見出そうとしても、そこに描かれているのは腐敗と妄執ばかりが満ちている空間だ。
「イタロラの死」「モルテュッラ」ではそんな中の微かな愛の物語で、古典的な幽霊小説のようでもあるが、生の歓びと死の恐怖の対比も悲劇性もなく、破滅に向かう運命が順当であるかのごとく受容されていく。すべて静謐で淡々とした妖異の描写の中、権勢が衰え都市は荒廃し死者が跋扈する。これも一つの美の極北なのではないかと思う。
紙の本
それぞれの物語の背景や筋立てがよく吟味され工夫されている
2010/07/23 22:59
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
BK1の「今週のオススメ書評」だったか「書評の鉄人」を見て、読んでみる気になった本である。
翻訳者のあとがきで、著者の文体についていろいろと言及されている。たしかに中勘助やラフカディオ・ハーンのように透明感のある美しい文章である。翻訳も語彙が洗練されていて、うまい。中勘助にはおよばないものの、どちらも本来は詩人であるというてんでも、文章に共通点がある。
話の内容は表題のとおりゾティークという未来の大陸を舞台にした、魔法、魔物、妖怪、霊、等がからむ幻妖怪異譚である。短編集であるが、それぞれの物語の背景や筋立てがよく吟味され工夫されている。特に最後は予想外になるものが多い。あとがきにある東洋趣味とはいっても、著者の視野には中近東からインドまでしかはいってはいないようではあるが、無為自然、(虚)無、陰陽、陰翳、を感じさせる結末になっている。人間や人生、社会に対する皮肉や影を抉り出したような印象もある。昔話やおとぎ話につながる、二重三重の重層構造がある。
紙の本
優雅な嗜虐
2010/01/12 11:37
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わたなべ - この投稿者のレビュー一覧を見る
1930年代ワイアードテイルズで活躍した米国の詩人作家の連作短編集。解説に掲載されている写真を見ると、田舎の働き者の名士らしい朴訥とした両親にはさまれていかにも居心地が悪そうにダンディを気取った文学趣味の若者の姿が映っていて非常に微笑ましいのだが、当時詩人として名声を得ていた著者らしく、幻想怪奇小説の文章は見事に絢爛で精彩を放った才気を感じさせ、同時代のラヴクラフトやハガートとは少し違って、クールなユーモアを漂わせる文人的教養と研鑽の賜のような余裕と格調のある文体が非常に気持ちよくまた読みやすい。やや時代がかったペダントリー溢れる文体が苦手な若い人でもわりとすんなり読める文章じゃないかと思う。
内容は、太陽の力が弱まった超未来、降霊術や魔術が横行し魔界異世界の魔物が跳梁する暗黒の時代となっていた地球最後の大陸ゾティークを舞台に、さまざまな人物が様々な欲望に突き動かされ様々な運命の歯車になって様々な物語を紡いでいく、という連作で、基本的にとてもマゾヒスティックな味わいを楽しめるグロテスクで生理的な嫌悪を醸す怪物や情景が多数描かれ、わりあい素直に皮肉が利いたどんでん返しの物語(ある意味で教訓的とすら思える)をほとんど口実にするように、その気持ち悪い感覚の幻想を語る文章は、内容の陰惨さとくらべるとむしろ「ほがらか」とすら思えるほどの端正さで、非常に楽しく読めた。きわめて安定感のある語りで、耽美的な嗜虐の恐怖を味わえる、ある意味超然とした読み物の香気がある佳作と言っていいだろうと思う。もっとも、それゆえにこういう「趣味」を解さない人にはまったく何がいいのかわからない、ということになるのかもしれないとは思うけれど、まあ、文学作品というのはそもそもそういうものだからしょうがない。