紙の本
屠殺という特殊な世界の物語というよりは、働くということを見つめた書として読んだ
2009/12/05 22:29
15人中、15人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は1990年から11年間、著者が埼玉県の屠殺場に勤務した日々を振り返った記録です。
著者は北大を出て出版社に入社するも上司と対立して退社。職安を通じて見つけた転職先が屠殺場であったということです。
入社初日に古株の先輩に「ここはおめえみたいなヤツが来るところじゃねえ」といきなり怒鳴られ、技術も経験も体力もないまま家畜を屠るという精根尽き果てる業務に携わることになります。
しかしやがて著者は、先輩の指導を受けながら、少しずつこの仕事に自分なりのやりがいを覚えていくのです。
少なくとも著者が働いた屠殺の世界の内側は、著者自身も入社前に思っていたような、世間からの差別や偏見に苦しむ慎重を期すべき業界ではなく、どんな労働も理想とすべき、働く喜びを与えてくれる場所であったようです。
著者はこう記します。
「誰でも実際に働いてみればわかるように、仕事は選ぶよりも続けるほうが格段に難しい。そして続けられた理由なら私にも答えられる。屠殺が続けるに値する仕事だと信じられたからだ。ナイフの切れ味は喜びであり、私のからだを通り過ぎて、牛の上に奇跡を残す。
労働とは行為以外のなにものでもなく、共に働く者は、日々の振る舞いによってのみ相手を評価し、自分を証明する。」(115頁)
著者が屠殺という職業に感じた手ごたえは、家畜に当てたそのナイフにかかる手ごたえのように重く、そしてまた敬意を払うべき対象として心に残ります。
労働を通して喜びを得、さらには人として成長する。著者の暮らした屠殺の現場にはそれがありました。
そうした貴重な記録として私は本書を読み、そして同時にまたそれは、自らの労働を少し苦い思いと共に振り返る読書ともなりました。
紙の本
働くことへのやりがい
2021/11/04 11:27
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投稿者:のび太君 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本の著者による働くことへのやりがいが描かれていてとてもよかった。また、個性豊かな職場の人たちが印象的である
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実際、牛や豚がどう解体されるか。職場の様子が描かれていて興味深い。
著者は、なんとなくその人柄のよさを感じるけど
自分は部落出身者じゃない、と何度か断っていることに対してひっかかりを最初は感じた。
でも解放出版社から出ているわけだし、問題ないんだろうな。
社会的な見方、ではなく、ひとつの職業としてのスタンスで書いている、ということなんだよね。
(じゃあ、わざわざそれを言う必要が、あるのか。でも、そう言わないと、家族が…とかいろいろあるのだろう。
そういった意味で、著者は非常に周囲に対して配慮している。そういった、難しいものを書くということ。
「シリーズ向こう岸からの世界史」が楽しみです。)
内澤洵子さんの「世界屠畜紀行」も読みました。
カムイ伝にも興味を持ちました。
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異種業から転職してきた筆者は、この職場でただひたすら技能を上げることに努めた。
やがて技能が同僚に認められ、職場に溶け込むことができた。
命あるものを肉塊にしていく様子、筆者が道具(ナイフ等)を大切に管理する様子、作業中に筆者が怪我を負う様子、全編において血とにおいが濃く伝わってくる。
誰かがこんなつらい目に合いながら食肉にしてくれている。
しばらく肉を買うこと、食べることがためらわれた。
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大宮屠殺場(とさつば)で10年働いた経験談。
被差別民と屠殺の関係を云々するものではない。
もっと原点、人間の食べるものを食べられるようにすることを描く。労働とは肉体と技術をフルに生かして対象と対峙することだと。
屠殺場は火傷するほどに熱い牛や豚の血にまみれ、その肉からの熱気もあって、冬でも暑いそうだ。ヤスリと一本のナイフで皮をはいでいく、人間の技術には圧倒される。
今は新しいシステム工程になってしまい、このような体験をした人間も少なくなってしまったそうだ。
人間が己の体力と知恵と技術をほとばしらせることのできる現場の
現象はなんだか問題だな。
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職業に貴賤はないものの、「人間なにをやっても食っていける」んだろうなというのを確認したくて読んでみた。
が、これはそう簡単にはできない仕事です。
気持ちの問題ではなく、高い専門技術が必要な商売です。
そういうことも知って、感謝してお肉を食べたいですね。
[10.1.24]
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屠殺という仕事について初めてよく知ることができた。カムイ伝で絵から伝わってきたものを言葉で補ってもらったかんじ。
屠殺ののち、食があるということを、忘れないでいるために、読んで欲しい本。
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著者が屠殺場で働いていた時の体験談。
本人は技術が磨けるということで、淡々とこなしていたようだけれど、肉体的にも、精神的にも、かなり過酷な職場に思えた。
意外と生々しさは無かったし、こういう仕事をしてくれている人がいるから、お肉が食べられるという事を知っておいてもいいかも。
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屠殺が今のように機械ではなく、人間の手によってされていた最後の時代の話で、淡々とした文章の中にムンムンと熱気がたちこめている。意外と知らないというか無意識にか知る事を避けている人が多いと思うので、もっと知ってもらいたいと個人的には思う世界。
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「ここはおめえみたいな奴の来る所じゃねえっ!」怒鳴られた初日から10年間、著者は牛の解体の職に従事することになります。「職業を選ぶ」「働き続ける」とは、自分の人生にとってどういうことなのか――。そういったことを考える上では必読の書であるといえます。
どうも僕はこういうなんというか、他の人があんまり見向きもしないようなテーマを扱った本のほうに興味が行くようで。著者は北海道大学を卒業後、出版社に勤めるも、上司とそりが合わずに、ケンカして会社を辞め、転職活動の末に食肉製造の会社に転職し、そこで働いていたときのことを
書いたものです。僕も一時期、スーパーの精肉部門でアルバイトしていたことがありますので、少し分野は違うかとは思いますが、本の中に描かれている彼の技術は目を見張るものがありました。
家畜を屠殺して、私たちのところに届けられるおいしいおいしい「お肉」になるまでには日の当たることのない裏側であって、僕らは決して見ないものがイラスト入りで克明に描かれているので、興味のある方はぜひ一読をお勧めします。この本の中で作者の解体のスキルがどんどんとあがっていって、しまいには先輩の職人を追い抜いていくのですが、それがまたすごいなぁなんて読みながら思っていました。
出来ればもう一回読みなして、「仕事とは?」「働くとは?」という疑問にもう一度しっかりと向き合ってみたいと思います。
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デビュー作『生活の設計』(新潮社、2001年)で、と畜の現業で働く自分の姿を淡々と描いた著者だったが、その後は直接ここでの生活に触れずに小説を書き続けていた。今回、出版社の求めに応じて、あらためて具体的にどんな考えでその仕事に就き、なぜ10年以上もその仕事を続けたのかを振り返りまとめあげたのが本書。巻末に添えられている著者手製のイラストがなかなか味わい深い。 差別をめぐる考察や、家族を巻き込む葛藤なども赤裸々に、1990年から10年余りを過ごした著者のプロフェッショナルとしての黄金の日々を今は亡き職場と共に回想。(今では現場の環境も、「O-157」の流行や「狂牛病」の影響などで、すっかり様変わりしてしまったという。)佐川さんらしい淡々とした真面目な語り口が、説得力ある職業観を伝えてくれる。ただ、ぎらぎらした刃物嫌いの私としては、血を見る場面は飛ばし読み!
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大変に読み応えのある本でした。筆者は、屠殺場勤務一日目から洗礼とも言えるような大変な目にあいます。でも、衝撃を受けて逃げるのではなく、自らが選んだ仕事と向き合い、毎日努力して技術を磨きます。この本は、逃げずに踏みとどまれた人だからこそ、そして冷静に自身や周りを見ることができ、表現することができる人だからこそ書くことができた、素晴らしい本だと思います。希望や爽快感など、きらきらしたものとは無縁だけれど、屠殺という仕事をこなす姿を通して、日々の積み重ねで自分の人生を刻んでいくことの大切さを感じさせてくれました。
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へんな話ですがお父さんの学研との話が一番頭に残ってしまって(うし どこだ ?)学研の ほんが 買えない 今日この頃。
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屠刹場で働いている人の話
潔いくらいにそれ以下でもそれ以上でもなく牛を屠る話に尽きる
迫力があって熱気が伝わってくる
作者の屠刹の仕事をする経緯については偶然であるが
屠刹という仕事のバックにある黒いものについては
あえてはっきりとは語っていない
あえて語っていないところにいろいろな含蓄を感じるし
簡単に語れないアンタッチャブルな部分であることを推察する
ただ、やはり食肉関係の仕事に従事するということは
社会的には色眼鏡で見られることが多く
実際結婚などに支障がでているらしい
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北海道新聞でコラムを読んでこの作家に興味を持ちました。肉体労働を通じて創造力を鍛え上げる様子に感動しました。過酷な労働だということが伝わってきますが、読後感がさわやかでした。