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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2008.10
- 出版社: 角川春樹事務所
- サイズ:19cm/485p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-7584-1124-0
紙の本
造花の蜜
著者 連城 三紀彦 (著)
造花の蜜はどんな妖しい香りを放つのだろうか…その二月末日に発生した誘拐事件で、香奈子が一番大きな恐怖に駆られたのは、それより数十分前、八王子に向かう車の中で事件を察知した...
造花の蜜
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商品説明
造花の蜜はどんな妖しい香りを放つのだろうか…その二月末日に発生した誘拐事件で、香奈子が一番大きな恐怖に駆られたのは、それより数十分前、八王子に向かう車の中で事件を察知した瞬間でもなければ、二時間後犯人からの最初の連絡を家の電話で受けとった時でもなく、幼稚園の玄関前で担任の高橋がこう言いだした瞬間だった。高橋は開き直ったような落ち着いた声で、「だって、私、お母さんに…あなたにちゃんと圭太クン渡したじゃないですか」。それは、この誘拐事件のほんの序幕にすぎなかった—。【「BOOK」データベースの商品解説】
2月末日に発生した誘拐事件。香奈子が一番大きな恐怖に駆られたのは、幼稚園の玄関先で担任が「あなたにちゃんと圭太クン渡したじゃないですか」と言い出したときだった−。大きなどんでん返しが待ち受けるミステリー小説。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
連城 三紀彦
- 略歴
- 〈連城三紀彦〉1948年愛知県生まれ。「変調二人羽織」で幻影城新人賞、「戻り川心中」で日本推理作家協会賞(短編部門)、「宵待草夜情」で吉川英治文学新人賞、「恋文」で直木賞を受賞。
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紙の本
造花の蜜でも引き寄せられた働き蜂の気持ち・・・
2009/11/06 12:04
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
長編ながらひと時も退屈さを感じさせず、めくるめく意外な展開を見せる本作、ミステリーとしては見事というほかない。
題名の示す偽物・・・いや、偽者としての「造花」とその偽の蜜に群がる働き蜂たち。考えてみればミステリーとは、偽の情報に隠された事実と感情や状況に捻じ曲げられたいくつもの真実が交錯する中で、一つの結論を追求し続ける物語である。
「複雑な事情を抱えた」母子に降りかかった不可思議極まりない息子の誘拐事件の一部始終が描かれる前半と、その全てを一蹴してしまうほど大きな額の「身代金」が裏で動いていたという事実がことの全ての発端を明かす後半と。
読者は何度も何度も、それこそ最後の最後に至るまでいくつもの真実をみつけることになる。
まず前半は不可思議きわまりない事件から始まる。
離婚して実家に戻っている母・香奈子と息子・圭太は誘拐事件に「巻き込まれ」る。事件としては圭太が誘拐され、身代金の額すらも提示されずくれるならもらってやるというふざけた犯人からの電話に憤る香奈子と元夫、そして刑事、不審な行動をする実家の作業員、確かに母親に預けたという幼稚園の先生・・・
渋谷の蜂の巣のような交差点の真ん中で蜂を放ちながら、堂々と圭太を返し逃げおおせた犯人だが、彼らは5千万を指定しておきながら結局一銭も手にしなかった。一体何のために、わざわざ失敗の危険を冒すような事件を起したのか?
そして後半。
事件のさなか香奈子が漏らした圭太の出生の秘密を橋渡しに、これら前半全てを一つのステップに降格させる裏の事件が進行していたことが、一人の男と彼が出会った「造花の女」を中心として描かれていく。
作品全体に何度となく現れる偽物のの象徴「造花」と、それにひきつけられ、だまされ、それでも働き続ける「働き蜂」。
犯人の一人と見られる謎の女はまさに造花であり、作中に現れない幾人もの働き蜂が、この作品の裏に隠れている。
これら全てを語るとしたら、非常に深く膨大な作品になったに違いない・・・
が、逆に言えばそれが描ききれていないところにもったいなさを感じる。 誘拐事件に対して警察はもう少し大事になるのではないか? 世界に偽物となりうるほどのよく似た働き蜂が幾人もいるものか? そもそも毎日会っている幼稚園の先生が、母親を見間違えるものなのか? 女がいくら魅力に溢れた蜜を持っていようとも、それほど簡単に人を操れるものだろうか?
などなど・・・ 正直、ご都合主義があちらこちらに見えてしまう。
そしてあちらこちらで登場する人物全てに疑いがかかるようにだろうか?伏線にもならない余計な描写が多すぎる。(例えば香奈子の家族の存在は前半の姉といい、後半の父親といい、登場しなくても十分この物語は面白かったはずだ。)
そうした混乱を盛り込むことも著者の狙いだったのかもしれないが、やはりミステリーはスマートに読無に限る。
それでもなかなか面白い!と感じていたのは、私も造花に見せられた蜂に過ぎなかったということかもしれない。
紙の本
しっとりとしたムードが漂い、しかもトリッキーなひねりの新作ミステリーを読みたいと思っていたところで連城三紀彦の『造花の蜜』が目にとまった。
2009/04/05 22:57
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「造花」といえば技巧の美であり、虚飾であり、虚栄である。「蜜」といえば女王蜂であり男をとろかす媚薬である。「造花の蜜はどんな妖しい香りを放つのだろうか………」とあり、なんとなく期待にぴったりの作品に思われた。
小川香奈子へ、息子の圭太が蜂に刺されて救急車で病院に運ばれたと、幼稚園の女性担任・高橋先生を名乗る女性から通報があった。香奈子は父の経営する印刷工場の従業員・川田に運転を依頼し、幼稚園を訪ねる。それが偽電話であり、これが誘拐であることに気づかされる。そして本当の高橋先生から恐怖する事態を告げられたのだ。圭太クンはあなたに渡した。先ほど車で迎えにきた香奈子と川田へ圭太を渡したのだと。
事件の発端でこれほどトリッキーな謎の提起はめったにお目にかかれない。いったいこういう状況はどうしたらありうるのだろうと早くも私の頭はうれしくなる混乱に陥れられた。
警察が登場し、周囲の人物から事情聴取が行われる。離婚した香奈子が現在同居している、父母、兄夫婦。元夫の歯科医、歯科医院の近隣住人などなど。そしてそれら登場人物が嘘を言っているか、あるいは本当のことを言っていないか、伏線とはまったく関係ない余計なことを言っているのか。刑事も含めて全員が怪しく思われてくる状況を著者は作ってくれる。やがて二重三重に仕組まれた身代金の受け渡し。誘拐テーマの最大の山場が待ち受ける。物語はその後いわゆる倒叙形式で、犯人側の視点で述べられ、ここに表面の犯行とは様相を異にする意想外の裏面が明らかにされていく。
読み終えて、著者の全体に仕掛けたトリックがユニークで緻密なものであることは理解できる。ただ、緊迫して読めるのは身代金受け渡しのシーンまでであって、妖しい香りなどはどこからも感じられず、あとは論理のお遊びに退屈しながらつきあったとの印象が免れない。「造花」、あまりにも本物(現実)からかけ離れた作り物である。繰り返される警察の不手際も常識外れのひどいものだし、いくつもの偶然が重なれば、なるほどこんな「完全」犯罪もありうるかもしれないなぁ………と。著者のご都合主義の連続技に開いた口がふさがらない。