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商品説明
近代の碩学たちが登場し、その思想が現代史を舞台に展開される壮麗な虚構。「聖崩壊病」の狂気が紡ぎ出す強力無比な妄想にどこまで耐えられるか−。山田正紀、伝説の本格SF巨篇。既存の中短篇群を加筆修正し、新作を追加。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
プロローグ | 7−9 | |
---|---|---|
ネコと蜘蛛のゲーム | 11−44 | |
怪物の消えた海 | 45−110 |
著者紹介
山田 正紀
- 略歴
- 〈山田正紀〉1950年生まれ。「神狩り」で作家デビュー。「最後の敵」で日本SF大賞、「ミステリ・オペラ」で本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞を受賞。
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紙の本
昨年のベストデザイン本の一つです。中身も天才山田らしさに満ち溢れ、しかも難しいもの。そして掲載時、オリジナル単行本時、今回と変遷をたどる面白さも・・・
2009/04/06 19:34
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
我が家には徳間ノベルズ版の『神獣聖戦』が眠っています。もしこの本が、それの単なる新装版だったら厭だな、って思いました。でもよく読むと、「伝説の本格SF巨篇。既存の中短篇群を加筆修正し、新作を追加。」とあります。要するに完全版ってやつ?ワクワクなんて思いました。で、これを機会に積読から脱皮です。
まず山田日南子のカバー画が傑作です。絵そのものとしてみて、ここ10年のカバー画のベストではないでしょうか。それに応えるように岩郷重力+WONDER WORKZ。の装幀もすばらしい。カバーに関して言えば背の美しさも特筆物です。角背にしたことが効いていますし、グラデーションの使用部位を限ったこともいい。
グラデーションを使ったのは、一見して分かる背と隠されたカバー折り返し部分というのが憎いです。しかもその部分に使われる活字の色がこれまた上手い。それと紙質。まずカバーの紙がいいです。厚み、色合い、肌触り。温かみがあって触ったときのゴツゴツ感がなんともいえません。本文の紙質、こし、いやあ、大成功です。
それと文章です。私は次の部分を読みながら、なんと、あの大江健三郎の文を読んでいるような錯覚に陥ったのです。それは登場人物同士の会話の部分ですが、独白にちかいそれのリズム、濃密さ、うちにうちにこもっていくような凝集力、そして幽冥の底を這うような暗さ・・・
そして森下一仁の解説。実に深い読み込みをしています。特に各篇の初出と本にまとまった時の巻数を明示したのは、書誌的に作品をみるときの不可欠の作業で、これを読みながら、もう一度本文を読み直すのも楽しいことでしょう。森下によれば、『神獣聖戦』として他に「蝗身重く横たわる」(〈SFアドベンチャー〉85年5月号)、「神獣聖戦13」(〈SFアドベンチャー〉85年12月号)が書かれて、『神獣聖戦 3 鯨夢!鯨夢!』としてノベルズに収められ発表されたものの、今回のPerfect Edition化にあたって外され、上記に(追加)と書いた章が加えれれているそうです。
奥付のところの、多分、山田自身のコメントらしき部分を読むと、単行本初収録の部分を含めた書き下ろし頁数だけで原稿用紙900枚というのですから、この完全版によせる著者の意気込みが分かろうというものです。
話は非常に難解です。特に上巻の「聖ニーチェ病院」あたりまでで投げ出す人も多いかもしれません。でも次の「心理検査士」あたりからは読みやすくなり、話の構造も少しは見えてきます。ただし、そうはいっても冒険活劇的な面白さを期待すると失望します。なんといってもテーマが一筋縄ではいかないものですから。
そこらはたとえ森下の解説を読んでも簡単に腑に落ちるものではありません。単にこの本をだけではなく、山田の全著作を読み返し、あるいは20年近く前に出されたノベルズ版との異同なども研究していれば、一生付き合える作品といってもいいかもしれません。
グラデーションが美しいカバー折り返しを、上巻から見ていきましょう。
神獣聖崩壊病――ある特定の個人に属する病気ではなしに、ある幻想された“現実”が複数の人間によって共有される、そうした類の病気。
それが二人の人間に共有されているのだとしたら、それはもう妄想とも幻想とも呼べないのではないか。それは妄想に似て妄想ではない何か、幻想に似て幻想ではない何かなのだろうと思う。そして、きみ、関口真理と、牧村孝二との間に共有されているそれというのはつまり、愛ではないだろうか。もしかしたら、その愛を共有できないおれはそのことに嫉妬しているのかもしれない・・・・・・。
次は目次です。どれが今回追加されたのか、順番が入れ替わっていないかが分かるように、( )内に初出を書いておきました。
プロローグ (追加)
ネコと蜘蛛のゲーム (追加)
怪物の消えた海 (〈SFアドベンチャー〉83年4月号)
聖ニーチェ病院 (追加)
心理検査士 (追加)
幻想の誕生 (〈SFアドベンチャー〉83年6月号)
チェルノブイリ解釈 (追加)
円空大奔走 (〈SFアドベンチャー〉84年2月号)
次が下巻のカバー折り返し。
ここに人類の滅亡を沈痛に告げる“舞踏会の夜”が始った。人類は滅びる。そしてその滅亡には何の意味もない。
背面世界? 鏡人=狂人? 悪魔憑き? それらが何であるかは訊かないで欲しい。訊かれたってどうせわからない。これらはいつも頭の中に響いている言葉であって、それが具体的に何を意味するのかわからない。誰かが頭の外から絶えず囁きかけているかのように感じる。ほとんど頭痛のようなものだといえばいいかもしれない・・・・・・。
次が下巻の目次です。
○ (追加)
神獣聖崩壊病 (追加)
交差点の恋人 (〈SFアドベンチャー〉83年2月号)
ころがせ、樽 (〈SFアドベンチャー〉83年8月号)
渚の恋人 (〈SFアドベンチャー〉83年11月号)
時間牢に繋がれて (〈SFアドベンチャー〉84年4月号)
鶫 (〈SFアドベンチャー〉84年6月号)
硫黄の底 (〈SFアドベンチャー〉84年10月号)
鯨夢!鯨夢! (〈SFアドベンチャー〉85年9月号)
落日の恋人 (〈SFアドベンチャー〉85年2月号)
ディープ・サウンド・チャンネル (追加)
エピローグ (追加)
解説 森下一仁
どうでしょうか。上巻と下巻の前半でかなり初出と順番が入れ替わっています。それと上巻、追加原稿が挟み込まれた章は半分以上です。なぜこうする必要があったのか。幸いないことに未読のノベルズ版を持っている私は、その気にさえなれば比較検討ができるんです。ま、そういう時間はとれそうにないことも事実ナンですが。
物語の主な舞台は、北海道の東端にある納沙布岬の近くの永劫市。その海岸部にある「聖ニーチェ病院」です。ここに関口真理が勤務します。そしてそこで牧村孝二の存在を知るわけですが、かれは1986年4月26日に起きたチェルノブイリ原発事故で被曝しています。この二人の出会いを企んだのが、80年代の日本経済の牽引役を務めたS企業グループの総帥・東田です。
牧村孝二とは一体何者なのか、なぜ真理がそこに呼ばれたのか。東田の狙いは何か、牧村の周辺につぎつぎと姿を見せる外国のスパイらしい男たちは何者なのか。今そこにある世界は、実在するのか。背面世界とは、鏡人=狂人とは、そして悪魔憑きは誰か、神獣聖崩壊病とは。いやあ、一筋縄ではいかない・・・
ちなみに、私は理解しやすい関口真理・透の近親相姦部分に最も感動しました。親子の相姦図はなんだかドロドロしていて読むにたえないのですが、姉弟の図はいいものです。ま、そうはいっても篠田節子『仮想儀礼』に出てくる徳岡重房・雅子の兄妹のそれはなんとも陰惨で閉口します。やはり近親相姦は甘美でなければねえ・・・