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商品説明
8月24日午後4時、東都電力熊谷支社の鉄塔保守要員一名殺害。午後7時、信濃幹線の鉄塔爆破。午後9時、東北連系線の鉄塔にヘリが衝突、倒壊。さらに鹿島火力発電所・新佐原間の鉄塔倒壊—しかしこれは、真夏の東京が遭遇した悪夢の、まだ序章に過ぎなかった。最後の希望が砕かれたとき、未曾有の大停電が首都を襲う!目的達成のため暗躍する犯人たち、そして深刻なトラブルに必死に立ち向かう市井の人々の姿を鮮やかに描破した渾身の雄編。大型新人が満を持して放つ超弩級のクライシス・ノヴェル。【「BOOK」データベースの商品解説】
午後7時、信濃幹線の鉄塔爆破。午後9時、東北連系線の鉄塔にヘリが衝突、倒壊。最後の希望が砕かれたとき、未曾有の大停電が東京を襲う! すべてを操る犯人の意図とは? 弩級のクライシス・ノベル。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
福田 和代
- 略歴
- 〈福田和代〉1967年神戸市生まれ。神戸大学工学部卒。「ヴィズ・ゼロ」でデビュー。
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紙の本
今回は、「電気」に焦点を合わせた一作。これからが非常に楽しみな作家さんです。
2009/03/23 10:21
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紅葉雪 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ウィズ・ゼロ」でデビューした福田和代さんの、長編二作目。
8月24日。東京に送電している送電線の鉄塔のうち、三か所が破壊された。これにより、東京は必要な電力の供給を受ける事が出来なくなった。
ただでさえ真夏の東京。必要な電力量は膨大なもの。
下手をすれば東京のみならず関東地方を含めた広範囲でブラックアウト(大停電)に襲われる。それを防ぐため、東都電力の職員たちは必死で動き始める。
だが、彼らを嘲笑うかのような事態が勃発……。
東京・関東地方を大パニックに陥れつつ、『テロ』の犯人たちの要求もなければ、声明もない。
いったい、犯人の目的は……?
自分たちは『電気はつくのが当然』の世界に暮らしている。
この本でも触れられているが、大規模停電で思い当たるのは、2006年の夏、旧江戸川でクレーン車による送電線接触事故が発生した時の東京・千葉の停電。
だが、「今もし同じ事故が発生しても、もう停電は発生しない」ほど、電力供給を支えるシステムは日々進歩しているらしい。
だからこそ。この日本では、この本の登場人物の言葉を借りるならば、「いつでも使えて当たり前だと思いこむほど、ぼくらは電気に生活を依存していた」ことになる。
その電力が、東京のみならず関東地方全域で奪われる事態となったら。しかも、いわゆる「テロ」という形で。さらに復旧にかかる時間が3日間との予測が出たら……。
当たり前すぎて見過ごしてきた根本的な問題についても、改めて考えさせられた。
「水」や「ガス」と違って、「電気」は貯蔵が出来ない……。
「電気」は発電と同時に使用(消費)されるので、「いま現在必要とされている量の電気を、発電する側で調整して作り出すという職人芸を要求される」のだという。
需要と供給のバランスが崩れれば、即座に停電。
その全需要を計算・推測し、電力の量を調整するなど、素人からすれば神業としか思えない。だがそれを現実にやってのけている人たちがいるのだから、どんな世界でも『プロ』は凄いと感心した。
さて、本作。
「ウィズ・ゼロ」で作者が見せた、綿密な取材を基にした、詳細な部分まで描く描写力は健在。
登場人物もなかなか興味深い設定になっている。
必死に電力供給を保とうとする電力会社の社員。犯人を追う警察。さらには犯人グループ。
まず電力会社のベテラン社員、中央給電指令所の千早。
ストーリーの始め、鉄塔が破壊されて電力供給が危うくなった時、社員たちは彼を中心に必死にそれを回避しようとする。そのシーンは恐ろしいまでに迫力があり、一気に話に引き込まれてしまった。その後も、何とか電力供給を保とうと策を練り走り回る姿は、『これぞプロ』。
刑事の周防。かつては新宿の刑事課で鳴らした猛者。今は家庭の事情で、比較的暇な署へと移動していた。彼が担当していたスーパーでの殺人事件と、今回の事件が絡んでくる。
この運命の日、彼の娘は事故で昏睡状態になり、病院に搬送されていた。しかもその事故は、妻が起こしたもの。妻は娘に対する虐待を、そして事故も故意に起こしたものではないかと疑われている。
そして何より。
娘の命を守るために、「電力」は絶対に必要なのだ。病院の自家発電は、もって24時間。それ以上「停電」が続けば、娘の命は……。私情であることは重々承知のうえ、彼は「犯人」の逮捕に全力を傾ける。
最後に犯人。実はかなり早い時点で主犯格の犯人が割れるのだが、ネタばれになる恐れもあるので、ここでは触れる事を差し控える。
だが、その犯人と組んだベトナム人青年たちも印象的だった。
コストダウンを考える日本企業が利用している『研修生制度』。実際には研修生とは名ばかりの、まるで奴隷のような扱いを受ける彼らが、日本に向ける目、日本人に対して募らせる憎悪には、心に訴えかけてくるものも。
『代わりはいくらでもいる』とばかり、どこまでも人間を使い捨ての駒・まるで機械の一部品のように考える企業や社会全般に対し、日本人の自分たちにも思う事は山ほど抱えているだけに。
登場人物がそんな魅力的な設定だけに、実に惜しいと思える点も。
物語の前半は、それこそ息を呑むような緊迫した場面が続き、話はぐいぐい進んでいく。それだけに余計、後半の犯人の行動や、周防をはじめとする警察が犯人を追っていくシーンなどが、やや単調で「パワー不足?」の感も。
最後に。
福田さんの第一作目「ウィズ・ゼロ」を読んだとき、なかなか好みの作家があらわれた、という感想を持った。今回の「TOKYO BLACKOUT」もそうだが、作家で言うなら、服部真澄さんや福井晴敏さん、真保裕一さんを彷彿させるところがある。
さらに。「TOKYO BLACKOUT」は前作より読みやすい作品に仕上がっていた。
今回は星四つをつけたが、福田さんの今後の作品を非常に楽しみにしている。
いずれ必ず、「完敗です。ノックアウトされました」という作品を書いてくれる事は間違いないと感じているから。