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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2008.6
- 出版社: 本阿弥書店
- サイズ:19cm/207p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-7768-0473-4
紙の本
語りだすオブジェ いつも、そこに短歌
著者 松村 由利子 (著)
恋するクローゼット、もの思うキッチン…暮らしの中に詩はあふれている。心に響く名歌の数々をやさしく読み解くエッセイ集。【「BOOK」データベースの商品解説】恋するクローゼッ...
語りだすオブジェ いつも、そこに短歌
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商品説明
恋するクローゼット、もの思うキッチン…暮らしの中に詩はあふれている。心に響く名歌の数々をやさしく読み解くエッセイ集。【「BOOK」データベースの商品解説】
恋するクローゼット、もの思うキッチン、くつろぎの居間、夢みる子供部屋…。暮らしの中に詩はあふれている。元新聞記者の歌人が、心に響く名歌の数々をやさしく読み解く。【「TRC MARC」の商品解説】
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紙の本
生活用品にひそむ不思議や美の読み解き
2008/06/22 18:48
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ろこのすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
楽しく面白く読み進むことができた短歌エッセイ。
面白かったのはなぜだろう?
それは「あとがき」で著者が(生活用品や食べものを詠いこんだ短歌を集め、日常がどんなに美しく不思議に満ちているか紹介できたら、と考えた)にある。
ブラウスやシャツの歌があるかと思うと洗濯機やバケツ、はたまた便器の歌まである。体温計や缶詰、眼鏡、傘、パンプスの歌とそれこそ身の回りをぐるりと見回すとあるものばかり。
そしてそれらを読み解く著者はといえば、それらの歌を全て自分に引き寄せ、その人生で見てきたもの、感じたもの、経てきた実生活、実体験にそくした思いを自由自在に語り添えているのであるから面白いわけである。
まして著者は生き馬の目を抜くという新聞記者生活を二十数年間経てきた元キャリアウーマンであり、同時に子育てもしてきた母であったのだから自ずとその文の中身はわくわくするようなことが多い。
「バナナ」の章では:
イラク戦争が始まったとき、海外ニュースを扱う外信部の応援要員として次々と流れていくAPやロイターなどの外電を翻訳したり、イラク国内の地図を描く作業に追われた当時の様子をからませながら
・チンパンジーがバナナをもらふうれしさよ戦闘開始をキャスターは告ぐ (栗木京子)
を読み解いている。
メディアで働く人間には、ニュースになる出来事に遭遇すると心が躍ってしまうところがあるらしい。著者もそんな一人だったとか。そんな習性を自嘲しながらも
(この歌を最初に読んだ時、すぐにCNNのキャスターを思い浮かべ米国批判の歌だと思い込んだ。だが、何度か読むうちに、それがNHKのアナウンサーであっても、民放のキャスターであってもいいことに気づき、「いや、チンパンジーは私だ」と思うに至った。随分と。こたえた。)と結んでいて「こたえた」のひと言には万感がこもっていて迫真の一文だった。
面白い「便器」の章
・便器から赤ペン拾う。たった今覚えたものを手に記すため (玲 はる名)
読み解きが面白いのでそれは読者のお楽しみにとっておくこととして、最後の言葉だけを紹介しよう。
(「便器」はきたなくない。きたない言葉など存在しないのだ。詩の美しさは、さまざまな言葉の組み合わせの中から立ち上がってくる)
さて、このように集められた歌が全て生活に根ざした歌であることから,読者も短歌が敷居の高いものでなく身近なものであるという認識が増すことはいうまでもない。
また著者の子供の頃の麦藁帽子の想い出や、自分の子どものこと、読んだ本のことをまじえているので、短歌を身近に感じるのと同時に著者の内面やご自身にも近づけたようで非常に親近感をおぼえた。
つまりこの短歌エッセイが面白かったのはそこにあるように思う。
たんなる読み解き短歌エッセイなら誰が書いても同じであるが、この本は松村由利子の体温が感じられるエッセイであり、集められた短歌にも同じように血が流れ、ぬくもりを感じ、身近なものとして読者に伝わってくるからである。
読後何気なく見過ごしてきた生活用品が何と輝いてみえたことだろうか!
最後に印象的な短歌とその一文を紹介して締めくくることにしよう。
「木馬」の章で:
・夢に来し木馬やさしくわれを嘗(な)め木馬になれとはつひに言はざり (山田富士郎)
(ことばの響きがやわらかく、幻想的なイメージが美しい。そして読むたびに悲しみが込み上げる。「つひに」には、「木馬になれ」と言ってほしかった作者の切実な気持ちがにじむ。(省略)
繰り返される日々の中、誰しも「毎日がつまらない」「会社を辞めたい」といった思いを漠然と抱くことがある。しかし、そうした表層の思いを深め、詩に結晶させられる人は多くない。優れた詩歌を読む喜びは、自分の日常的な思いが、こういう別世界につながっていると知ることである)
身近な生活用品の中にひそむ不思議や美を詠った短歌。それをひも解くことの楽しさを教えてくれた極上の短歌エッセイだった。