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商品説明
有明海、東京湾、日本海…温暖化防止の鍵は海に眠っていた!日本ひとり勝ち時代を予見する。環境サミット直前秘策はここにあり。【「BOOK」データベースの商品解説】
連日の猛暑と嵐のような風雨。地球を蝕む温暖化の恐怖に打つ手はあるのか? 温暖化防止の鍵となる、秘められた海洋資源の謎とは? 日本ひとり勝ち時代の到来を予見し、環境再生への道を模索する人間を描いた長篇小説。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
服部 真澄
- 略歴
- 〈服部真澄〉1961年東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒。「龍の契り」でデビュー。「鷲の驕り」で吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に「最勝王」など。
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紙の本
フィクションです。ですが環境問題に興味のある方はご一読を。……読ませます。
2008/12/26 10:13
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紅葉雪 - この投稿者のレビュー一覧を見る
服部真澄さんの書く作品には、ある「断り書き」が必要だと思う。
それは、「この作品はフィクションであり……、」という毎度おなじみのあの一文。
そうでないと、「これが真実です」と言わんばかりに巧みに描かれた世界を突き付けられ、読んでいる時も読んだ後も、「これはフィクション」と何度も確認したくなってしまうのだ。
もちろん作者が描く世界の中、例えばこの作品で言うなら、霞が関のやり方(利権絡みの問題や大手企業との癒着や天下り法人の問題等)や、第三者委員会についての実態は、作者が「描く」というよりは、より詳細に「暴いている」気もするが。
このポジ・スパイラルの大きなテーマは「環境」。さらにその中でも、「海」のもつ大きな力……とくに浅瀬や干潟が海の環境に与えている大きな意味が、深くこの話に関わってくる。
『もしこの温暖化問題を「海」が解決できるとしたら……』
話はある一人の環境省官僚の自殺から始まる。
その男性と海の環境再生の同志であり、同時に愛人関係にあった主人公。
その元へとんでもない話が持ち込まれ、彼女は「海の問題」を巡る大きな波に巻き込まれる事に。
故人の知人という捉えどころのない筒井、環境調査会社の谷崎など、どことなく謎めいた人間が絡んで、さらに主人公の元に「故人の携帯」から不審な着信が入るといったサスペンス調の動きもあり、話は一気に国をも巻き込むクライマックスへ向かっていく。
主要な登場人物の設定も面白かった。
主人公の住之江沙紀。東大大学院の准教授で海洋環境学者。「湾や海域の保全と再生推進」に力を傾けている。だが彼女は、「洋々建設」という、「業界では知らぬもののいない」、「海洋に関わる土木建築業」一族のお嬢様。だからこそ国交省のお目こぼしをもらえ、活動を続けていられる一面も。だが本人はそれを承知で、この憂える現状を何とかしようと悪戦苦闘している。
そしてもう一人、この作品で大きな役割を果たすメジャーなタレント兼俳優、久保倉恭吾。
沙紀が芸能事務所に頼まれ、ニュース・エンターテインメントの進行役の久保倉のレクチャーをしているという設定にも無理がなく、さらにその久保倉が巻き込まれていく過程も自然だった。何よりその久保倉の持つ「過去の重み」が、彼の行動の一つ一つを裏付けていた。
この本を読むまで、自分は海の浅瀬や干潟の持つ意味を深くは考えた事がなかった。
もちろん諫早の大規模干拓の話や、その後諫早がどうなったか知ってはいたが、それは新聞等で知る程度の知識だ。
同時に。日本には、陸以上の規模の広さを誇る「海」がある事を、見事に忘れていた。
「日本は四方を海に囲まれた島国」と、耳にタコができるくらいに聞かされてきたのに。
それは自分だけでなく、きっと多くの日本人も同様ではないのだろうか。
もちろん、これはあくまでもフィクションである。
だが。
この作品が、事実とまではいかなくとも事実に近い形であったら……、と思わずにいられなかった。
昨今の異常気象は、どう考えても普通でないとしか思えないから。
その他にも、バイオ燃料と食糧との兼ね合い、穀物の物価高騰など、……目を覆いたくなるような現実。
作者が目を向け、綿密な取材を重ねてここまでの作品にしてのけた「海」の話だが、現実の「海洋環境の専門家」たちが声を上げていない以上、やはりこれはあくまでもフィクションなのだろう。残念なことに……。
ただこの話でも触れられているが、どこかで「利権のために」、事実が「いいように握り潰されている」可能性にも思い当って、少しだけ背筋が寒くなった。
フィクションにも関わらず、そんな事までも邪推させてしまう服部さんの筆力は、やはりすごいと言うべきか。
あくまでこの話はフィクションであり、現実は違うのだと。
だからこそ、こういった視点の意見が上がってこないのだと、逆に信じたい気分だ。
最後に。
未曽有のネガティブ・スパイラルの中に巻き込まれつつある日本を、「ポジティブ・スパイラル」という観点で変えようとした主人公たち。
彼らの「ある行動」の是非は、その結果は、長い時間が経過しないと判らない。
だが、沙紀が未来を肯定的に見ている所に救いも感じた。
だからこそ。自分はこの続編を望んでしまう。ぜひ、この先の未来の世界を読んでみたいと。