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商品説明
政治、経済、思想、インテリジェンスの混迷は、贋物が本物の顔をして横行しているからだ。今こそ“真贋”を見極める確かな視座を。縦横無尽に「現代」を論じ尽くした、警醒の時論集。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
西尾 幹二
- 略歴
- 〈西尾幹二〉昭和10年東京生まれ。東京大学大学院文学修士。文学博士。電気通信大学名誉教授。評論家。著書に「GHQ焚書図書開封」「江戸のダイナミズム」など。
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紙の本
新自由主義終焉の時代にこそ読むべき一冊
2008/10/23 13:07
15人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:越知 - この投稿者のレビュー一覧を見る
西尾幹二氏の最新評論集である。金融危機が深刻化し、アメリカが北朝鮮に対して――拉致問題を抱える日本の意向を無視して――事実上の妥協的政策をとることが明らかになった今だからこそ読むべき本と言える。
西尾氏の姿勢は、最初の一文「生き方としての保守」に明瞭に現れている。思想家として、特定の政治家の提灯持ちをするような真似はすべきでなく、また固定的に敵味方を決めて親アメリカならどうで反中国ならこう、というような見方をするべきではない、そうした真似しかできない輩は真の意味の思想家ではない、と述べている。
それは、日本という国の地勢的・歴史的な位置を考えれば当然のことなのである。現在の日本は親アメリカ路線を取っている。しかしそれがいつまで続くかは分からない。戦後日本が親アメリカ路線をとってきたのは、まず先の大戦で負けたこと、アメリカが覇権国として大戦以降の世界に君臨したこと、他方の覇権国であるソ連は共産主義イデオロギーに支配されており日本の国家体制とは相容れないこと、などの理由からであった。そしてそのせいで戦後日本は経済的な繁栄を続けてきた。
しかし、現在のアメリカはどういう状況にあるだろうか。ソ連に対してはイデオロギー上断固たる態度をとってきたアメリカは、同じイデオロギーに染まった中国に対しては妥協的な態度で臨んでいる。それは経済的な理由からだけだろうか? 北朝鮮のような犯罪国家にすら融和的であることを考えるなら、アメリカの姿勢自体に変化があると見る方が妥当なのだ。そもそもアメリカは戦後の経済的な変化の中でものづくりの基幹産業を空洞化させ(自動車産業は例外だったが、最近は怪しくなっている)、金融によって世界の覇権国たる位置を維持してきた。しかし、それも今回の金融危機によって大きく揺らいでいる。
19世紀には、地球上の覇権国と言えば大英帝国であった。アメリカは第一次大戦によってようやく大国と認められ、第二次大戦後は英国に入れ替わるように覇権国の座にすわった。しかし今はどうだろうか? その国力ははっきりと揺らぎ、日中欧の支えによってかろうじて覇権国の位置にとどまっているに過ぎない。無論今すぐアメリカが覇権国の位置から降りるということはない。西尾氏は二十年後、三十年後のことを見据えてものを言っているのである。その時点でアメリカが決定的に覇権国としての役目を果たせなくなったとき、かつて大英帝国に代わってアメリカがその役割を引き受けたように、アメリカに代わる国があるだろうか? ないだろう、と西尾氏は予測する。
覇権国が君臨している時代は安定している。しかし群雄割拠の状態になれば争いは恒常化する。われわれはそういう時代にさしかかっているのである。冒頭に述べた金融危機と北朝鮮問題は、その予兆と見てよい。
無論、西尾氏の本に、困難な時代を生き抜く即効薬が提示されいるわけではない。難しい時代の状況を正確に把握し、その中で日本や日本人が生き抜いていくためには何を知り、何を考えておかねばならないかを西尾氏は語っているのである。
BK1書評でも紹介した『貧困大国アメリカ』などからも分かるように、アメリカにおいて新自由主義政策が破綻していることは明らかだが、日本においても、これからは株をどんどん買えなどとのたもうていた新自由主義者に先見力がまるでなかったことは金融危機で明瞭となった。
加えて新自由主義者は教育・研究に税金を使うなとものたもうているが、世界の情勢が全然目に入っていないと言うしかない。日本はOECD加盟国中、小中学校の1クラス当たりの生徒数では韓国に次いでワースト2位である。(こちらを参照 http://www.gamenews.ne.jp/archives/2008/09/_oecd.html)社会民主主義的な政策をとっているヨーロッパ諸国に劣っているのはもちろん、新自由主義のご本尊であるアメリカよりもひどいのである。日本がいかに基本的な教育をおろそかにしているかはここからも明らかだ。
また研究について言えば、最近は国際的な大学のランク付けが盛んに行われているが、そこでも日本が限られた大学にしかカネを使っていないことが明らかになっている。トムソン・ロイターのデータベースに基づいた1997-2007年の全理系分野での論文数による世界大学ランキングを見るなら、日本では東大が6位に入っているほか、他の旧帝大と東工大が100位以内に入っている。合計8校だ。ところが、101位から200位までだと、筑波大と広島大の2校しか入っていない。200位以内に合計10校である。これはアメリカが100位以内に45校、そのあと200位までに25校、合計で70校入っているのに比べると大きく見劣りするのはもちろん、英国が200位以内に16校、ドイツが15校入っているのに比べても劣っている。英国やドイツは日本に比べて人口が半分か3分の2程度であることを考えれば、日本の大学政策が今のままでいいなどと言えるはずがない。技術立国どころの話ではないのである。詳しくは雑誌『現代思想』9月号の竹内淳氏の論文をお読みいただきたいが、竹内氏は、旧7帝大+東工大に次ぐランクの大学にもっと投資をして101位から200位以内に入る大学を育成すべきだと提言している。
デタラメを並べる新自由主義者の時代は終わった。データをふまえた上でのまともな議論ができる知的な国家を日本は目指すべきなのであり、西尾氏の本はその礎石となるであろう。
紙の本
自分の職業の収入だけでは食えない人たちが垂れ流す言論
2008/10/25 12:35
16人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
大学教員の収入は低い。まして国立大学の教員ともなると、講演その他で副収入を得ようとしても、微々たる「お礼」を懐に入れるのに膨大な書類を書かされる。これは何も「新自由主義の嵐(こんな嵐あるんかいな(笑)今に始まったことではない。昭和30年代に日本国有鉄道に入社した葛西敬之氏は、国鉄内にのさばる国労動労と、それに腫れものに触るがごとき微温的な振る舞いしかしないダラ幹連中に絶望し、母校の東大法学部に舞い戻り恩師の岡義武先生に「東大に戻って学者の道を歩みたい」と希望を述べたそうな。その時の岡先生の回答がふるっている。「キミ、一生遊んで暮らせるような恒産はあるのか?」。
著者の西尾氏は、「あの」西尾氏である。「新しい教科書を作る会」に紛れ込んではかき回し、会を事実上の分裂に追い込んだ御仁の、あの西尾氏である。この人、もともとは電気通信大学で主としてニーチェを中心にドイツ文学を教えていた人である。それが、まあ、いまどきニーチェなんてやっていても食えないからだろうが、日本の歴史問題、教科書問題、日米関係、日中関係、日朝関係をどんどんその守備範囲を拡大し、最近では皇室にまで「御忠言」を献上するまでに「御出世」されている。常識のある読者なら、普通、このニーチェも真っ青の「超人」的な活躍をされる西尾氏から距離を置くものだろう。「こいつ、ちょっと手を広げすぎじゃないか。だって論旨が隙だらけじゃん」と思うものである。ところが世の中とは広いもので、こんな「超人西尾幹二」をありがたがる人たちがいるのである。もっと悪質な奴がいる。それは、西尾の胡散臭さを十分知悉していながら、その論旨の部分を都合よく切り取って、ちょうど将棋の手ごまよろしく振り回しては、さがらぬ溜飲を下げるため西尾氏を利用しようと目論むや輩だ。日米同盟を重視する日本の外交政策がいやでいやでたまらぬが故に、あえて西尾を持ち出すその品性のなさに、時々私は言葉を失う時がある。
で、本書である。本書の最近よくある「掌編」の寄せ集めだ。といっても、そこは西尾氏。書いているメディアがきわめて限定されているところが悲しい。前半は「諸君!」が多い。しかし、後半にいくにつれ、あの「WILL」に投稿した記事が頻繁に出てくる。私は「文芸春秋」「中央公論」までは目を通す。「諸君!」も保守系メディアとして時々良い論文が出るので手に取ることがある。「VOICE」となるともうほとんど扇情的な記事ばかりで読むこと少なくなり、「正論」にいたっては目次さえ見るのが億劫になる。それでも「WILL」よりはましである。「WILL」ならまず読まない。「WILL」に載っていれば読まなくてすむものを、こうして単行本」になると読まされてしまう。まるで「毒入りなんとか」じゃないが、もう少し原産地表示を大きくできないものか。
小熊英二の著作を中心に丸山真男、鶴見俊輔、竹内好、大塚久雄あたりを批判しているあたりは、まだ良い。罪がない。このあたりの批判は私が以前Bk1に投稿した丸山真男批判と瓜二つである。
問題は日米同盟や日朝関係、日中関係、米中関係を論じた後半である。
まず、ここではっきりさせておかねばならないことがある。それは戦後ずっと、そして今後とも、日米軍事同盟は日本の外交防衛の基軸であり、日本の国家戦略の基幹であるということだ。これは吉田茂が敷いた路線で、要するに世界第二のGDPを誇るわが日本が、軍事力を制限を制限し、核を持たないない代わりに、世界最高の軍事力を誇るアメリカが日本国内の多方面に軍事基地を置きつつ日本を守り日本に核の傘を提供するというものである。これは外務省や防衛省や自衛隊の幹部と会話すれば痛いほど確認できる。日本の自衛隊は、特に海上自衛隊と航空自衛隊は、事実上完全にアメリカ軍の一部隊として組み込まれ、また位置づけられている。このことは所与の前提として受け入れる必要がある。東アジアの軍事安全保障情勢は日米一体(というか日本の軍事的対米従属)は中国も韓国も北朝鮮もロシアも認めた国際システムなのである。これを覆し「対米従属からの脱却」が西尾の願望のようだが、こんなことをすると日本を取り巻く国際環境が激変し、世界の秩序は大きく動揺するし、日本にとっても経済的にも外交的にも損ばかりで売るところがない。満たされるのはちっぽけなプライドだけであろう。
米中同盟の話も笑わせる。日本では対米従属が悔しくて我慢ならなくて、なんとかアメリカを否定し、アメリカをくさし、日米安保を解消に持ち込もうと運動する人が昔からいたが、西尾もその類である。しかし、米中同盟で日本が置いてけぼりとは笑止である。アメリカはそんな国ではない。
アメリカがロシアに強く当たり、中国に融和的なのは、中国がアメリカに肝心なところで全部譲歩しているからである。中国は今後ともアメリカの市場と資本なしには生きていけないし成長もできない。能なしの貧乏人が毎年7%前後のスピードで人口が増えている今の中国では、国民の生活水準を維持するには8%前後の経済成長を続けないと持たないのである。すでに中国共産党の腐敗は相当程度進行しており、経済成長の分け前を国民に配れなくなった途端、共産党の正当性は崩壊する。そういう危ない状態にあるのが今の中国である。そのために中国はあえてアメリカの資本を大量に受け入れ、最も付加価値の低い製造工程に低廉な労働力を大量供給することで、経済をつなぎとめている。アメリカもアメリカで、中国の脆弱性は百も承知。彼らと無駄に事は構えたくないし、利用できるところは徹底的に利用し尽くす。これを言葉を変えていえば「WIN-WIN」の関係というのだが、そういう便宜的な結婚状態にあるのが米中関係とみてよいだろう。中国は世界の工場ではない。世界の下請け工場というのが、より正確な表現である。
では、北朝鮮問題はどうか。日本には北朝鮮をやたら大きく見せようという不思議な連中がいるが、北朝鮮の国家予算規模は東京都台東区とあまり変わらない。だからこそアメリカがマカオの金正日の秘密口座を押さえたとき、あの国は動揺したのである。口座の残高はたった30億円程度だったという。30億円なら、そこらへんの地上げ屋でさえ持っているカネだ。そういう惨めで貧乏な貧窮の小国が、背伸びに背伸びを重ねて核武装だ、うんだかんだと騒いでいるのだ。私がアメリカの大統領なら「ほっとけ」というところだろう。アメリカにとって北朝鮮問題はどうでもよい問題なのだ。だからポイントは、日本は、アメリカや中国がどう北朝鮮を扱おうが、この問題ついてだけは動けないし譲れないという毅然たる態度を維持し続けることなのである。アメリカと日本の利害はおおむね一致しているが完全には一致していない。アメリカにはアメリカの利害があるように、日本には日本の利害がある。だから、アメリカが北朝鮮に対しテロ国家指定を解除しようとも「そういうことは想定の範囲内」と麻生総理のように悠然と構え、「拉致問題が解決しない限り、日本は動けない」と毅然とするのが正しい外交というものなのである。これ幸いと西尾のように日米安保解消、単独核武装を主張するのは馬鹿のすることである。