紙の本
混沌として、それゆえ情熱にあふれた日本のアマチュアサッカーの今
2008/05/27 15:49
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:木の葉燃朗 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本各地でサッカーの地域リーグを取材したノンフィクション。
まず、「地域リーグ」とはなにか、ということを書いておく。日本のサッカーリーグは、プロリーグとしてJリーグ(J1・J2)、その下にアマチュアの全国リーグJFLがある。その下、J1から数えて4部に相当するのが、全国を9つの地域に分けた地域リーグである。
では、著者はなぜ4部リーグを取材したのか。まず「その国のフットボール文化は、下部リーグにこそ現れるのではないか--」(p.11)という仮説を確かめたかったという。著者はヨーロッパ各国の3部・4部のリーグを見て、国ごとの差がなくなりつつあるトップリーグに比べ、より強くその国らしさを感じた。そこで、日本もそうではないのかという考えが、取材を始めたきっかけだったという。
しかし取材を続ける中で、地域リーグを戦うクラブチームが、試合でもそれ以外の部分でも激動の時代に活動していることが分かってきた。
例えば、地域リーグからJFLへ、そしてJ2へ、理論上は、2シーズンでクラブがJリーグへ昇格できる。そのため、自分たちの街からJリーグのチームをという活動は、活発に行われている。しかし現実はそれほどうまくいかない。なぜなら、実は地域リーグからJFLへという「わが国における4部から3部への昇格は、J2からJ1、あるいはJFLからJ2への昇格と比べて、はるかに過酷で、時に理不尽」(p.13)な戦いだから。
また、日本各地にスポーツクラブ・施設をつくるというJリーグの「百年構想」に則ってJリーグクラブを目指すのか、あるいはアマチュアとして地道な活動をしていくのか。この選択も悩ましい。クラブチームが大きくなることにはコストやリスクも伴う。中には、Jリーグを目指す途中で消滅してしまうクラブも存在する。
しかし、そうしたアマチュアリーグの状況が紹介されることは少ない。そこで「身近であるがゆえに気付かなかった『百年構想』の光と影を、可能な限り描き出すつもり」(p.15)で書かれたのがこの本。
登場するチームは、Jリーグを時々見るくらいの人には、聞いたことのない名前ばかりかもしれない。私も、いくつかのチームの名前を聞いたことはあったが、どのようなチームなのかはほとんど知らなかった。
しかし、そのくらいの認識の私が読んでも、この本は非常に面白かった。印象的だったことのひとつは、自分の生まれ故郷のクラブチームに強い愛着を持つ人たちの思い。彼らが、素直にうらやましいと思う。もちろん、現在Jリーグで戦うチームを応援するサポーターも素晴らしい。でも、生まれ育った街のチームをJリーグに昇格させるため、困難な道に挑み、奔走する人たちの情熱もまた、素晴らしいと思う。
そしてもうひとつ、(皮肉なことに)「過酷で、時に理不尽」な地域リーグからJFLへの昇格のルールが生むドラマが心に残る。JFLへの昇格を決める大会は、毎年11月から12月に行われる「全国地域リーグ決勝大会」(以下、「地域決勝」)。この大会が、JFLへの(ということはJリーグへの)登竜門となる大会なのだが、大会の運営方法にかつてのアマチュアの大会の名残があり、それが参加したチームに悲喜こもごもを起こす。
それはどんな大会なのか、毎年少しずつルールが変わるので、この本で紹介されている第30回(2006年)、第31回(2007年)の地域決勝を例に紹介する。
地域決勝へ出場できるのは、各地域リーグの優勝チーム。それから、前年の地域決勝でベスト4に残った地域リーグの2位のチーム。更に、各地域リーグの代表によるトーナメント戦「全国社会人サッカー選手権大会」(全社)の優勝チーム(他にもこれ以外のチームが例外的に参加できる場合もあるが、説明が複雑になるので割愛)。したがって、地域のレベルによっては、強豪チームが地域決勝にすら進めないことがある。10月に行われる全社は、地域リーグで出場権を獲得できなかったチームが地域決勝へ出場する最後のチャンスだが、この大会も、参加32チームが5日間連続でトーナメントを戦う「国内のあらゆるカテゴリーの中で最も過酷なトーナメント戦」(P.239)なのである。
このように、地域決勝は所属する地域リーグによっては参加するだけで大変な大会なのだが、この大会を勝ち抜くのは更に困難である。
参加チームは4組に分かれて1次リーグを戦い、各組1位が決勝リーグを戦う。しかし、毎年の参加チーム数が流動的で、この4組のチーム数が同じにならない。そのため1次リーグの試合数が異なり、また決勝リーグが3日続けての連戦になるなど、過密日程の中で行われる。
もうひとつ。地域決勝で何位になればJFLに昇格できるのか。これは「JFL次第」なのである。JFLからJリーグに昇格するチームの数や、JFL内でのクラブの撤退や合併によって変わってくる。
このように複雑で、勝ち抜くのが困難な大会ゆえに、贔屓のチームがない立場から見ると、非常にドラマティックな大会になる。もちろん、チームのサポーター、関係者、なにより選手や監督にとっては、ものすごいプレッシャーのかかる試合だろう。2007年の大会は、決勝リーグの最終戦まで順位が入れ替わり、JFLの結果も相まって、得失点差で昇格するチームが決まった。この様子は、読んでいてこの大会を観戦してみたかった、という気持ちになった。
この本を読み終えて、もうひとつ思ったこと。それは、この本に記録された約2年半は、日本のアマチュアサッカーリーグの過渡期の姿を描いた、貴重な記録になるだろうということ。おそらく、現在の地域リーグ・JFL・Jリーグ間の昇格・降格システムは、近い将来変わっていくだろう。それだけ、Jリーグへの参入を目指すチームにも、Jリーグは目指さずに地域に根ざしたクラブ、アマチュアとしての存続を考えているチームにも、問題の多いシステムだと思う。例えば、JFLで活動するだけの資金がない(全国リーグになると、遠征の費用ひとつを取っても地域リーグとは比較にならない)など、JFLではなく地域リーグで活動することにメリットがあるチームもあるだろう。そうしたチームはどうやって活動していくべきなのか。また、現在は一定数までJ2のチーム数を増やす計画があるため、J2リーグからJFLへの降格がない。チームの経営状況によっては、これも必ずしも望ましくない。
こうした状況は、少しずつだが変わっていくだろう。しかし、Jリーグを目指す熱気が各地で沸騰し、その流れに乗ってチームもリーグの形式も変わっていく間の、混沌とした時期として、ここ数年、そして何年か先までの地域リーグは記憶されるべきだと思う。その時期の地域リーグに光を当てたこの本も、後々まで読まれるべきだと思う。
紙の本
Jの晴着くまでは茨の道であり、地域リーグの壮絶な戦いと現実を教えてくれる稀有の作品!
2021/12/26 19:58
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひでくん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「その国のサッカーを知るには、地域リーグを見るのが一番だ」という経験則より、滅多にスポットが当てられない地域リーグにフォーカスした異色作。休刊となった雑誌に投稿した内容を1冊の本にまとめ、大半の人が知らない地域リーグの魅力、特性、問題点を客観的な視点から捉えている。
地域リーグと聞くと、大半の人は興味を示さないだろう。グーナー(=アーセナルファン)の私も、初めは読もうかどうか迷った。
しかし、読み始めると実に面白く、コツコツ読み進めるうちに読破していた。
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日本の全国のサッカークラブの今の姿に迫ったドキュメンタリー。
とはいっても登場するクラブは「J」ではなく、JFLや地域リーグに所属するクラブである。
J2昇格を見据えて突き進むクラブもあれば、クラブ存亡の危機と闘うクラブもある。
「百年構想」は遠い道のりではあるけれども、日本サッカーの裾野の広がりを十分に感じさせてくれる一冊となっている。
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地域リーグからずっと岐阜を追っかけてるから、余計に読んでて気持ちが入り込んじゃった。
(08.11.15)
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2009年1月1日開始
2009年1月2日読了
今は亡きサッカー雑誌、「サッカーJ+」に連載されていたものに加筆・修正を加えて出版されたもの。連載中から興味深く読んでいたけど、まとめて読むとさらに考えさせられる。
基本的に地域リーグに所属しているクラブと全社(全国社会人サッカー選手権大会)、地域リーグ決勝(全国地域リーグ決勝大会)のリポート。名前だけは知っていたクラブや全社・地域リーグ決勝の過酷さはJ+での連載を通して初めて詳しく知った。
僕なんかはモンテディオ山形が旧JFLに上がってから見始めた口なので地域リーグ決勝大会の過酷さは知らない。知らずに済んだのをよかったと思うべきか後悔すべきかはわからない。
この本でレポートされてるクラブのうちFC岐阜、ファジアーノ岡山はJ2昇格を果たし、V・ファーレン長崎、FC Mi-oびわこ草津、FC町田ゼルビアがJFL昇格を果たしている。しかし、その裏でJ2やJFL昇格を果たせずもがき苦しんでいるクラブも存在している。前者と後者のクラブの差はなんなんだろうか?このあたりを追った続編を期待したい。
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代表でも、Jリーグでもない、地域リーグという、日本のトップリーグ(Jリーグ1部)から3つ下のカテゴリーのことが、詳しい取材により明らかにされる。「行って観なけりゃわからない」モットーに著者の宇都宮徹壱が地域リーグを明らかにしていく。今までに、これほど地域リーグに焦点を合わせた著書があっただろうか。
紹介されているチームの中には、ファジアーノ岡山や、FC岐阜など既にJリーグのカテゴリーで戦うチームも含まれている。まさに、明日のJリーグを見据えた一冊である。日本のサッカーが大好きな人には、たまらないこと間違いなしだ。
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スポーツナビ等のコラムで御馴染み、サッカージャーナリスト宇都宮徹壱氏のフットボール・ルポの名著。
華やかなりしJリーグの下の下、国内の4部に相当する『地域リーグ』のクラブにスポットを当て、「おらが町にJリーグクラブを! そして郷土に元気と誇りを!」という思いを胸に、限られた予算や条件の下で奮闘する経営者達、上のカテゴリーで戦力外を言い渡され、それでも必要とされる場を求めて選手として生き残りを賭ける者、そして再び這い上がろうともがくプレイヤー達の生き様を描く。
サッカーのために世界中を歩いてきた著者氏が、日本サッカーの現状を伝えるべく北は北海道から南は長崎まで、日本全国津々浦々を歩いて伝えたかった事。それは「テレビの向こうに移る煌びやかなスター選手達の世界だけがサッカーじゃない!」という事なのではないかと思います。
自分でプレーするのが好きな人、観戦するのが好きな人、あらゆる意味で『サッカーを愛する人』ならば読んで絶対に損は無い、文句なしにお勧めの一冊です。
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今年もそろそろ地域決勝が始まる.テッペンから見ればただの4部リーグ.でも当事者にしてみれば中身は全然違う.自分もにわかではあるが4部リーグチームのサポーターなので少しその景色が分かる.そんな4部リーグの景色を筆者の視点からいろんなチームで見れる本である.チーム状況は場所によってほんとうに様々.県民性や環境など様々な要素が絡み合っているけど,共通しているのは人間がつくっているということだ.あと途中でリアルサカつくなんて言葉も出てきたけどJを目指す4部リーグのチームは今は本当にそんな感じなのである.地域決勝の狂ったレギュレーションが変わるまでが日本サッカーの一つの過渡期なのかなあとこれを読みながら思いました.
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人にみせたいと思い本棚から引っ張り出してきたのでついでに登録。
地域リーグに焦点を当てた作品。
地域リーグ→JFLへの戦いがどれだけ過酷か・・・。
絶対に負けられない戦いが確かにここにももある!!
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2005-2007年頃の、地域サッカーを題材にしたルポルタージュ。
同じ方の『フットボールの犬』が文庫になったのを知り、久々に再読。
サッカーへの愛にあふれた一冊、です。
泥臭くてウェットで、それだけに心に響くものが伝わってきました。
Jリーグの100年構想に基づく、地域に根付いた「サッカー」、、
華やかさだけではない、その光と闇を丁寧に浮かび上がらせてくれています。
スポーツを地域からボトムアップしていくことは、社会貢献にもつながって。
その可能性を感じさせてくれるのは、読み応えがありました。
ん、今回取り上げられた「わが町のクラブ」の数々に、
10年後に再び巡り会ってみたいものである、なんて。
なにはともあれ、サッカーを生で観たくなる、そんな衝動にかられます。
地元のスポーツクラブ、あらためて探してみよう、うん。
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☆気づき
サッカーファン必見の一冊。
そして、
夢を忘れない為に読む一冊。
地方にJリーグクラブを作る為に奮闘する人達がカッコ良く描かれている
久しぶりによんで良かったo(^▽^)o
枕元に置いておきたい一冊
Ash
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著者はWEBサイト「sports navi」に「宇都宮徹壱のJFL定点観測」、「天皇杯漫遊記」、「日々是世界杯」といった‘読める’サッカー観戦記を寄稿するライター&カメラマン。 ゲームレポートだけではなく、スタジアム内外の雰囲気、試合の背景などを臨場感あふれる文章と写真で伝える。 そして読み応えを保ちながら、ビッグゲーム開催時は翌日原稿UPしかも毎日。これはすごい。 新著『股旅フットボール』では、地域リーグ参戦のチームを追いかけ日本各地を渡り歩いた。 ただのサッカー本、観戦記にとどまらず、地方のスポーツ振興、スポーツビジネスについてのルポにもなっている。 本とスポーツ観戦。少し前までは、都会と地方の格差はものすごくあった。 書店にはほしい本がない。スポーツ観戦したくても試合をやっていない。 けど、今、インターネット注文で、日本のたいがいのところで読みたい本を数日中に取り寄せることができる。 CS放送では様々な種類や国のスポーツを観ることができる。レベルも高い。 しかし根本的変化は、日本各地にプロスポーツクラブが誕生したこと。スタジアムで観るゲームは、勝敗・結果だけではないものを得ることができる。 15年前、10チームでスタートしたJリーグは現在J1、J2合わせて33チーム。さらにJFLや、この『股旅フットボール』の舞台・全国の地域リーグには、まだまだJリーグ入りを目指すクラブがある。 ファジアーノ岡山、ツエーゲン金沢、カマタマーレ讃岐、MIOびわこ草津…。 一方、本の世界では、書店の数はどんどん減っている…。うーむ。 それにしても、読書ノート「本の串刺し 世界陸上2007」『東京大学応援部物語』でも書いたが、なぜ、人は自分と直接関係のない選手やチームを応援するのだろう。 それは、読書と通じるものもあるかもしれない。 実生活ではかなえられない想いを本の世界では登場人物に託すように、スポーツの世界では好きな選手やチームに託す。 彼なら。彼女なら。 また、そんなに意気込まずとも、ビール片手にフットボール観戦。著者が前口上に書いているように、「なかなか悪くない週末の過ごし方」だ。 スタジアムで飲むビール。あれは、うまい。
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日本サッカー4部「地域リーグ」における、サッカージャーナリスト・宇都宮徹壱さんの取材記録を綴った一冊。
日本にはJ1、J2の2つのリーグがあることはよく知られていますが、その下にはJリーグ以下の最上位であるJFL、そしてそれに続く地域リーグがあります。今までのJFLは『アマチュアリーグの最高峰』という位置づけでしたが、各地で「サッカーで町おこしを」「わが町にJリーグを」という活動が活発化した結果、『Jリーグ予備軍』へとその姿が変化していきました。しかし、現在のJリーグのほとんどが元企業チームである一方、地元のスポンサーを募った地方クラブチームの経営は苦しく、それぞれが苦悩を抱えていました。さらに、地域リーグからJFLへの間口が狭い結果、昇格への足がかりとなる全国大会では「あとは上に行くだけのチーム」や「今上に行くと経営面でチームの存続が危ぶまれるチーム」などそれぞれのクラブチームの思いが交錯し、数々のドラマが…
アツく語ってしまいましたが、サッカーバカ以外にはあまりオススメできないかもしれません…サッカーバカには超絶オススメです。
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2008年この本のに出版された地域リーグでJを目指すチームの現状を描く宇都宮徹壱氏のルポ。
北海道から九州までの各地域リーグから1チームずつを実際にクラブの元へ足を運んでの取材することで、Jリーグ百年構想の光と影を見つめなおす。
2012年になりJ1・J2併せて40チームとなりJ2とJFLの入れ替え制度が導入された。また2014年にはJ3が開始されることも決定した。そんな国内サッカーの構造が大変革を遂げている今だからこそ、地域リーグからJを目指してクラブチームが群雄割拠し、一丸となってJを目指していたこの時代を振り返ってみようと本書を手にとった。
本書の構成は北海道から九州までの地域リーグからJを目指すと標榜しているクラブを訪れて、地域リーグでのクラブ経営の実態や選手たちのプレイ環境などについて取材が各1章ずつ。また、2006年・2007年の地域決勝大会(地域リーグからJFLに昇格するための大会)や2007年の全国社会人サッカー選手権大会に密着してアマチュアサッカーの勝負の世界に迫る章で、それまで訪れたクラブの全国での現在地を確認している。
特徴は各地にフットボールの種をまこうとしているフットボール関係者に対する宇都宮氏の愛ある眼差しであろう。地元のフットボール選手の受け皿となり、彼らが全国で活躍できる舞台を用意したい。もしくは実業団の撤退などによって衰微しつつある地域のフットボール文化を永続的なものとして根付かせたい。そういった想いをもってサッカー協会や高校などと一丸となりJを目指し地域リーグで奮闘している彼らに対し、同じフットボールを愛する者として文章で時には激励し時には叱咤する。日本の「草の根」にいるフットボールファミリーの幸せを願ってそれぞれのクラブ訪問記は描かれている。(実際は地域リーグは草の根よりはだいぶ高い位置にいるのであるが。)各クラブの現状はまちまちである。ノルブリッツ北海道やFCMioびわこ草津のように充実した練習環境をもつチームもあれば、ファジアーノ岡山のように練習環境や資金面で満足いく状態に達していないクラブをある。しかしフットボールの力を信じ、正統に地域に根を張り然るべき努力を続けていけば明るい未来が見えてくるという、百年構想の楽観主義に対する共鳴が伺える。
一方で地域決勝大会や全国社会人サッカー選手権大会の取材では、地域リーグの過酷な現状も見えてくる。Jを目指すチームが増えたことによる競技力の急激な向上と経営陣のプロ化であったり、Jという目標を見据える一方で全国リーグを戦い抜く体力がないクラブ経営の現状といった部分についても触れている。なかには本書冒頭で取材したクラブが最後の地域決勝大会では経営の失敗により存続の危機に窮しているといったショッキングな記述もあったりする。(宇都宮氏はこの部分について深くは触れていないが。)
全体を通して本書を取り巻く雰囲気は前述のとおり、楽観的で愛あるものになっている。欧州を巡り当地のフットボール文化を目の当たりにした宇都宮氏にとって、そして本書を手にとるような人種にとって日本でも同じような文化が根付かせるために奮闘しているフットボールファミリーの姿は、様々な不安はありつつも基本的には応援したい姿であったのだ。今となってはこのJリーグ拡大に対する楽観主義は懐かしいものになりつつある。今思えば本書が発売され、大分トリニータがナビスコカップで優勝した2008年はこの百年構想主義とも言えるフットボール文化への楽観のピークであった。2008年末にはFC岐阜の経営危機、2009年には大分トリニータの経営危機と相次いだ地方クラブの経営問題の中、フットボールクラブと資金という問題が一気に噴出することとなる。
やや後出し的に言うことを許していただければ、本書の発売後に発生したこういった問題の根底にあるのは、そのまま本書で触れるべきであったが触れていない内容でもある。それはフットボールと地域社会の関係である。フットボールを社会にどのように還元するのか、フットボールファミリー以外に対する目配せはできているのかということである。宇都宮氏の本業はサッカーライターであることもありサッカー協会や地元高校との連携といった競技面での取組についてはよく触れられているが、一方で自治体や地域経済界との連携についてといった側面については切り込みが少ない。J2ライセンスや今後導入されるであろう新ライセンスでは競技場についてのハードルがしばしば問題になり、自治台に大きな負担をかけている。2008年前後の時期にJリーグを目指す下部のクラブと地域社会の関係を探りたいと思ったが、そういった向きにはあまり参考にならずに残念だった。
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これが書かれた当時から状況は大きく変わっているが、だからこそこの本の存在意義がある。地域リーグ時代の長崎や岡山の話がきちんと書籍化されて残されているということは極めて重要。
ロッソ時代の熊本、バンディオンセ神戸などの名前を見られるのも、部外者的には嬉しい