「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
紙の本
ゴメスの名はゴメス (光文社文庫 結城昌治コレクション)
著者 結城 昌治 (著)
失踪した前任者・香取の行方を探すために、内戦下のサイゴンに赴任した坂本の周囲に起きる不可解な事件。自分を尾行していた男が「ゴメスの名は…」という言葉を残して殺されたとき、...
ゴメスの名はゴメス (光文社文庫 結城昌治コレクション)
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
失踪した前任者・香取の行方を探すために、内戦下のサイゴンに赴任した坂本の周囲に起きる不可解な事件。自分を尾行していた男が「ゴメスの名は…」という言葉を残して殺されたとき、坂本は、熾烈なスパイ戦の渦中に投げ出されていた。香取の安否は?そして、ゴメスの正体は?「不安な時代」を象徴するものとして、スパイの孤独と裏切りを描いた迫真のサスペンス。【「BOOK」データベースの商品解説】
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
サイゴンも魔都だった
2010/01/15 22:38
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和37年、ある商社のサイゴン駐在員が行方不明になる。ホーチミンらがフランス軍と戦った「インドシナ戦争」が終了して、ベトナムは南北に分かれ、アメリカの支援する南とソ連が支援する北との間の緊張が高まってきた時期(だそうだ)。主人公は親友でもあった前任者の捜索のためにサイゴン赴任する。
このサイゴンで行方不明者は珍しくないのだという。ベトコンか、その他の政治勢力か、それらと警察・政府軍の争いに巻き込まれたか、理由はいくらでもある。だがいくら謀略の坩堝だとしても、一介の日本の商社員がそれに関わることなどあるのだろうか。
その当時の日本人インテリのマルクス主義へのシンパシーがあり、また大戦後にベトナムに残り独立戦争にも協力していた旧日本軍兵士の存在にも共感がある。日本人を活動に引き込もうと誘惑する美女がいて、自らを混沌の中に落とし込みたくなる虚無感がある。相手の勘違いによって巻き込まれたと思っても、最初からの狙いだったのかもしれない。
平穏にやり過ごして無事帰国することを願いながら、少しずつ、歯車が一つずつカチっと合っていくように、危険の淵に近づいていってしまう。速度がついてしまえば、引き返せない意地も出る。迷い込んでしまえば、複雑に入り組んだいくつもの(無数の)組織の関わりと凌ぎ合いは麻薬のように人を惹き付ける魅力がある。
プロのスパイというわけではなく、国家レベルの陰謀劇に巻き込まれた一般人のてんやわんやである。そこには過去の戦争についての懺悔や、腐敗した政府に虐げられるままの民衆への義侠心もあるのだろうが、それらを表面に出さないのが、プライドであり、男の礼儀でもある。この舞台は自分の中の尖った部分をあらわにする。たぶん高度成長期の日本で、誰も彼もが大馬力で欲望の実現に向かっている中、ふっとエアポケットのように迷い込んだサイゴンの濃密な空気、終わり無き無情のバトルフィールドが、積もり積もった蹉跌の浄化装置の役を果たしたのではないだろうか。