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深海のYrr 上 (ハヤカワ文庫 NV)
ノルウェー海で発見された無数の異様な生物。海洋生物学者ヨハンソンの努力で、その生物が海底で新燃料メタンハイドレートの層を掘り続けていることが判明した。カナダ西岸ではタグボ...
深海のYrr 上 (ハヤカワ文庫 NV)
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商品説明
ノルウェー海で発見された無数の異様な生物。海洋生物学者ヨハンソンの努力で、その生物が海底で新燃料メタンハイドレートの層を掘り続けていることが判明した。カナダ西岸ではタグボートやホエールウォッチングの船をクジラやオルカの群れが襲い、生物学者アナワクが調査を始める。さらに世界各地で猛毒のクラゲが出現、海難事故が続発し、フランスではロブスターに潜む病原体が猛威を振るう。母なる海に何が起きたのか。【「BOOK」データベースの商品解説】
【クルト・ラスヴィッツ賞】【ドイツSF大賞】【コリーヌ賞】【「TRC MARC」の商品解説】
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紙の本
壮大で内容豊かなエンターテイメント
2009/07/04 13:50
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
訳者あとがきに、「海が秘める謎と脅威を描いた、海洋冒険サスペンス小説」とある。その通りではあるが、SFでもあり、ミステリーでもあり、生態学や環境問題の啓蒙書ともなりうる、壮大で内容豊かなエンターテイメントである。
出だしからかなり面白い。地球物理学、海洋生物学、環境科学と環境汚染問題、海底探査機器や海底油田などの海洋工学、等の知見を十分に活用しているように見える。作者は多方面の自然科学や技術、工業、政治力学等の知識を勉強しただけではなく、人間の欲望や価値観、自尊心などについても理解しているようである。海洋SFとしての科学技術面だけでなく、各登場人物の自己認識や人間関係の表現も優れている。
次々と起こる謎の事件、異常現象、大惨事と、人間関係の葛藤と自己存在の意義にまつわる苦悩が、一難去る前のまた一難というように息をつかせずに展開される。仮空の登場人物と絡ませて、実在の研究機関や研究者をも登場させていることも、面白い趣向である。
謎解きや冒険、サスペンスだけでなく、閉じた環境としての地球における人類の意義というような、哲学的宗教的な問題にもつながる内容をも持っている。
ハリウッドでの映画化が決定しているそうだが、そちらもぜひ見てみたいものである。現代のコンピュータグラフィックや特撮技術を駆使すれば、原作にそった映像化が可能であろう。
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海洋SFであり、ファーストコンタクトSFでもある
2017/04/29 11:02
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コスモス - この投稿者のレビュー一覧を見る
海やそこに住む生物について扱ったハードSFの側面もありますが、未知の生物との遭遇というファーストコンタクトSFの側面もあります。
内容だけ見れば小難しく感じるかもしれませんが、それを気にならないくらいスピーディーな展開に引き込まれると思います。また、ところどころアクションもあるので、エンタメSFとしても楽しめます。
(レビュー内容は中巻、下巻と同じ)
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なにがYrrをそうさせたか!今そこにある危機!人類絶滅の序曲が始まっていた。
2009/02/24 23:47
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
人類滅亡をテーマにした本格ハードSFのようである。が、それだけではない。ショッキングなシーンが連続する大規模パニック映像をみるような興奮と楽しさでいっぱいのエンタテインメントであることに間違いはない。そして進化の頂点に立った人類のおごりに対する警鐘であると本気になって受け止めざるを得ないシリアスな思索が底流にある。陳腐な言い方になってしまうのだが断然「面白くてためになる」。すべての階層世代にお勧めしたい傑作の大長編小説だ。
地球上、いたるところで発生した海洋生物の人類への攻撃。何が深海で起こっているのか。
このために現在の先端科学、先進技術が総動員される。海洋生物学、海洋哺乳類研究、環境保護思想、地球物理学、海流学、地質学、生命科学、音声分析、地球外知的生命探索、数学、記号解読学、分子生物学、微生物研究、遺伝子工学、人工知能、脳神経分析、そして軍事用テクノロジー、さらに進化論から哲学、神学論など。それが安手のSFにあるようないい加減な知識のひけらかしではない。一本筋の通った見識の集積だと思われる。この重装備された「信憑性」によって読者は深海の謎には実体があるに違いないと確信にいたる。この迫真性があって傑作の折り紙がつけられるのが本格ハードSFなのだろう。
知らなかったことだが、海底にはメタンハイドレートと呼ばれる地層がある。これが地球的規模の大変動をもたらす主役級の働きをするのであるが、物語の中で女子学生がリスクの高いこの地層について
「何かで読んだのですが日本がメタンを採掘しようとしているそうですが」
と日本の資源開発に向けられた貪欲性を皮肉るシーンがある。
嘘みたいだが先日目にした日経にこんな記事があった。
「清水建設や北海道大学ではロシアの研究機関と共同で、次世代のエネルギー資源として期待されるメタンハイドレートを水底から連続して回収する実験に世界で始めて成功した。(平成21年2月19日)」
小説ではまだそこまでの技術はなくて科学者たちが四苦八苦する様が描かれているのだが、
「おいおい、日本、そんなことしていいのかい」
とまさに目の当たりにしたリアリティにただ驚愕するばかりであった。
メキシコ湾流という地球最大の海流がある。これも人類絶滅シナリオでは主役の働きをする。私の飲み友達に雑学の大家である歯医者さんがいる。彼に
「メキシコ湾流というのは最終の北極海でどうなるのか知っているか?」
とこの小説で得た知識をもってたずねた。彼は
「それは北極海で猛烈なエネルギーでもって深海底へ流れ落ちるのだ。海水を海底にむけて落としこむこの強力なポンプの作用によって、むしろ引き上げるように南半球からの流れを作っていると言っていい。」
と、なんでそんなことを知らないのかという嘲笑をくわえて正解を告げるではないか。この作品に紹介されている学説にさらに信憑性が加わった瞬間である。
実はインターネットのグーグルアースを使って、グルグルグルグル地球を手玉にとり、地球規模の惨劇現場をたどって見たが、おかげで楽しさは倍増した。地図といえばメルカトル平面図だけだったから、特に北極圏の地形をしみじみと眺めるのは初めてで、それだけでも大いにためになった作品だ。
どのような衝撃の異常現象、凄惨な殺戮が繰り広げられるか。装丁帯からかいつまんでみると。
「ノルウェー海で発見された無数の異様な生命体がメタンハイドレート層を掘り続ける」
「カナダ西岸で鯨やオルカの群れが船舶を襲う」
「世界各地で猛毒のクラゲが出現、海難事故が続発」
「フランスではロブスターに潜む病原体が猛威を振るう」
「大規模な海底地滑りが発生、大津波が起きてヨーロッパ北部の都市は壊滅してしまう」
「病原体は奇怪なカニの大群によってアメリカの大都市に運び込まれた」。
上中下巻の大作だ。これらは詳細に劇的に視覚的に描かれる。私はこれまでに見たパニック巨編映画のクライマックスを次々に思い浮かべた。
『ジョーズ』『オルカ』『アンドロメダ病原体』『ディープインパクト』『日本沈没』『海底二万マイル』『パラサイトイヴ』『アビス』『MIB』『ダーク・ピット』『ダイハード』『タイタニック』などなど。
語りにのめりこみながら、同時にこれらの映像がフラッシュバックするのだから、その迫力は圧倒的なものがある。小説に対して映像記憶が相乗する効果というものがあるんだと気づいたのだが、とにかく凄い。
やがて明らかにされる深海のYrr(イール)とは!
著者の豊かな独創力に脱帽。これまでのSFのどんなモノとも類似性がない。しかも私の頭ではイメージ化しにくい、想像を絶する、とてつもないモノだった。そして人類はどう対処するのか?世界最高の科学者たちを巨大航空母艦に率いて、アメリカ合衆国が立ち上がる。なお作者はドイツ人である。
カナダ・バンクーバー島に住む生物学者のレオン・アナワクはイヌイットの血を引く。ストーリーは緊張と衝撃、恐怖と興奮の連続なのだが、ただ一節、彼がトラウマを癒すために、極北のイヌイット居住区を訪れるやや長いシーンがある。見渡す限りの氷原なのだがここだけは特に美しく静謐な情景が、しかも幻想的に描かれている。
人間は本来自然の中に溶け込んだ一部分としての存在に過ぎないのだ。
普段はこせこせと世俗の垢にまみれている私にも夜空を眺めて人間存在の矮小さを感じるときがある。
東洋思想で言えば「返本還源」老荘の示す「無為」であろうか。
どこか詩の香りを含んで、物語の最後にまた詠嘆的に語られる作者の思念がある。
永劫の地球史から見れば、人間があらゆる生命体の支配者であり、自然をコントロールできる王でありえるのは一瞬の今でしかないのだ。
紙の本
背中合わせに生きるものたち
2011/07/16 17:03
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Tucker - この投稿者のレビュー一覧を見る
海を舞台とした世界的な災害とそれに立ち向かう人々を描いた海洋サスペンス小説。
ストーリーは、次の通り。
カナダ西岸でクジラやシャチの群れがホエールウォッチングの船を突然、襲い始める。
ほぼ同時期に世界各地では猛毒のクラゲが出現。
海難事故が続発し、フランスではロブスターに潜む病原体が猛威を振るう。
そして、ノルウェー海で発見された新種のゴカイは海底のメタンハイドレート層を掘り続けていた。
その行動の意味するところが分かった時、それは怖ろしい現象が起きる瞬間でもあった。
世界各地で続く海の異変。
まるで、「海」が突然、人類に復讐を始めたかのよう・・・。
「ドイツで記録的なベストセラー」という謳い文句は偽りなし。
次々と起こる事件、それに対応する人々の描写はたたみかけるようで飽きさせない。
大仕掛けの展開が続くあたり、ハリウッド好みだと思ったが、やはり映画化の企画はあるらしい。
(ただし、本書の初版は2008年。2011年の今になっても特に公開の情報も聞かない。立ち消えになってしまったのかもしれない)
ストーリーの展開は面白いが、不満な点もあった。
最終的な解決手段に少々えげつない手段を使っているのと、その方法が事件全体を収束させるには説明が苦しいと感じたこと。
「え!?それだけでこれまで起きた事がすべて解決に向かうのか?」と思ってしまった。要するに広げた大風呂敷のたたみ方に無理がある気がする。
悪口ばかり書いてしまったが、背中合わせに生きている目に見えない生き物達を忘れて驕る人類。むしろ彼らの方が「世界」そのものである、という点にはドキッとした。
一見、人間が「世界」を支配しているように見えるが、「世界」に与える影響の割合では人間に勝るとも劣らない。
こういう生き物達と共存しているのだ、とあらためて思い直した。
ところで、大災害を前に自らの権力を強化しようと画策する人物が出てくるが、つい最近、どこかで似たような風景を見たような気がする。