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商品説明
有罪、それとも無罪?被告人の運命は、あなたたち六人に委ねられた。いわくありげな裁判員たち、二転三転する評議、そして炸裂する究極のどんでん返し!裁判員制度のすべてがわかる、傑作リーガルサスペンス。【「BOOK」データベースの商品解説】
裁判員は、医師、教師、主婦、OL、無職男、それにあなた。二転三転する評議、そして事件の真相は!? 綿密な取材にもとづいた、裁判員制度のすべてがわかるリーガルサスペンス。「審理」「評議」「自白」の3編を収録。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
審理 | 7−73 | |
---|---|---|
評議 | 75−142 | |
自白 | 143−235 |
著者紹介
芦辺 拓
- 略歴
- 〈芦辺拓〉1958年生まれ。同志社大学法学部卒業。新聞社勤務の傍ら執筆活動に入り、90年「殺人喜劇の13人」で第一回鮎川哲也賞を受賞。他の著書に「紅楼夢の殺人」「グラン・ギニョール城」など。
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紙の本
正義は勝つ、と信じている人にも信じたい人にも、そんな考えを実は疑っている人にも贈りたい
2009/05/30 02:11
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けい - この投稿者のレビュー一覧を見る
事実は小説よりも奇なり、という言葉があります。
ついにこの五月から日本でも、裁判員制度が始まりました。本当の話です。事実です。もし、日本でも陪審員制度があったなら、というフィクションはありましたが、まさか本当に裁判官でも弁護士でもない普通の人々が「誰かを裁く」時代が来るとは。
さらにびっくりなのは、短期間とはいえ、以前に日本でも陪審員制度に近いシステムがあったということ。本当に事実は小説よりも奇なりです。
裁判員制度の施行をうけ、さまざまな「裁判員制度」に関する本が出版されています。埋もれていた法廷ミステリにスポットライトがあたったり、新しい作品が出てきたことは、推理小説ファンとしては予想外の嬉しい出来事。しかし、現実に、「私が誰かを裁くかもしれない」という不安と可能性は少なからずあるのです。
本書の著者、芦辺拓先生のお抱えの名探偵は、弁護士の森江春策先生。裁判員制度をテーマにしたミステリということで、弁護士という設定がこれほど生きてくる舞台はありません。とはいえ、この物語では名探偵の森江弁護士も苦戦しています。なぜなら、主役を「裁判員」に譲っているから。裁判員制度のもとでは、ときに一般市民が名探偵の役までも担わなければならないのです。うーん、ますます裁判員に選ばれたらどうしようという心配が増幅してきました。
本書では、裁判員制度のもとで、劇的なミステリが展開するとともに、今の制度の問題点があぶりだされていきます。常々、「本来、大人の鑑賞に耐えうる読み物であったはずの」本格ミステリが「こどもっぽいもの」になっていくことの危機感を憂いていた作者が「現実に切り込んだ」作品。骨太であり、極上の本格ミステリです。
推理小説では、ときに探偵は間違えた推理をして、苦悩します。エラリイ・クイーンという探偵がそうでした。それは傍観者である読者にとっては「味わい」となるのですが、もし、当事者の探偵の立場に置かれるとしたら……怖いですね。裁判員制度に参加するということは、名探偵であることをしいられる(かもしれない)ということなのです。
市井の人々の感覚を裁判に反映する、という考えには大賛成です。しかし、たかがフィクションで次々と問題点を指摘されてしまうようでは、小説より奇なる事実と対峙し、悪を退治するには、今の制度、心配このうえない。
それでも、旧態依然としてわかりにくい「法律」という過去から、一歩前進したことは評価したいです。本書のようなミステリの存在が、もしかしたら現実をよい方向に変えるかもしれない、そう思うと、推理小説ファンとしては、ちょびっと胸を張りたくもあります。
本来、謎を解くべき探偵がその座を「裁判員」にゆだねるという難題をクリアにした手法など、ミステリとしても非常にクオリティの高い作品。ぜひこの機会にご一読を。
あなたも裁判員になるかもしれませんから。もちろん、私も。