紙の本
錯覚という名のミステリー
2008/06/19 13:09
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
事実はひとつだが、人の数だけ真実は存在する。ミステリ、ことに法廷モノではお決まりの格言になっているこの言葉が本作品では改めて思い知らされた。
オプティカルイリュージョン、という美術用語をご存知だろうか。「見る」ということは目から入ったモノを脳で感知し、時に都合のよい情報として処理されることである。脳は主を「あってはならないもの」から守るべく情報操作し、結果無意識のうちに改竄された情報が記憶として蓄積される。
つまり今、見ている「コレ」は私の過去と都合に色づけ処理されたものに過ぎない。そして人の数だけ真実が存在するミステリのように、「コレ」は真実として人の数だけ存在するのである。
本書はそうした捻じ曲がった真実が錯覚や誤解を招き、あまりに哀しい悲劇を引き起こした物語である。
物語は今や社会人となった4人の、高校時代のアマチュアバンド仲間とその家族にまつわる過去がメインだ。
殺人者を思わせる主人公と中絶を目前に殺害された彼女、ひそかに関係を持った彼女の妹、友人たち・・・
まず過去。主人公の姉の死にまつわる父と母の隠した事実、死を目の当たりにした幼き彼、姉の見た夢と母のある行為・・・ここにも事実と家族人数分を掛け合わせた真実が複数存在し、互いの認識は破綻している。
そして現在、彼女の死。殺人のトリック云々よりも誰が殺したのか、という一点が最後の最後になって目まぐるしく転換する。
誰一人としてかみ合っていない彼女の死因とその隠蔽者が結局どこに落ち着くのか、最終章までそのイリュージョンは終わらない。
登場人物の頭数だけ真実が本書の中に存在しているが、それだけでは終わらない。なぜならその頭数に本書を手に取った「私」がそこにプラスされるからだ。
人は悲しいほどに弱く、その身を守るために非情なまでのエゴに左右された情報を真実の記憶として蓄積する。
そして真実と事実、過ちと正しさが同じ顔をしているこの誤解が渦巻く世界で、人はなにを信じて生きていけばいいのか。
だから、話そう。分かち合おう。彼が母にしたように、母が彼の名を呼んだように。
紙の本
多くの謎が次第に解けてゆく
2008/03/11 03:10
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふるふる - この投稿者のレビュー一覧を見る
ラットマンとは、心理学で使われる有名な絵のことらしい。一つの絵が提示の仕方でネズミに見えたり、おじさんに見えたりする。
現在の事件の謎と20数年前の事件の謎が次第に解けてゆく。
ハンプティ・ダンプティがどんな姿か知らない人は、確認してからこの本を読んだほうがよい。
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最初の展開がのんびりなのがつらいんですが、二転三転のストーリーはさすがです。「シャドウ」の方がインパクトは強いんですが、本作もなかなかです。ただ、やはり序盤がつらいので★四つ。
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<08/2/5> いきなり言ってしまいますが、この作品、私は作者のこれまでのところの最高傑作だと思います。
作者のストーリーテリングのうまさにはいつも舌を巻きます。この作品も例外ではありません。それだけで一個のミニミステリを構成するような、遊び心満載の導入部分。それでまずがっちりとハートをわしづかみにされ、あとは現在と過去を行きつ戻りつするミステリアスでサスペンスフルな展開にページを繰るのが止まらなくなります。事件が起きるまでの前半部、ゆっくりじわじわと腹の下の方から不安と恐怖を掻き立てていく作者の手腕も見事です。
やがて事件が起き、そこから物語のスピードが増し、心地よいリズムで結末へとなだれ込んでいきます。そして、すべての真相が明らかになった時、私は愕然・驚嘆・呆然となりました。こういう騙し方があったのかと。だからラットマンなんだと。
スゴイのは、そのラットマンが二層にも三層にも仕掛けられていること。事件の真相、物語の構図、過去と現在、登場人物と読者・・・。
他の作品にはまま見られた無理や破綻もこの作品には全くない上に物語の面白さ、ミステリとしての仕掛けも申し分なく、冒頭にも書いたように、これまでのところの作者の最高傑作といっていい仕上がりになっています。
唯一の不満は冒頭のミニミステリのその後の扱いくらいでしょうか。
【じっちゃんの誤読的評価:★★★★☆】
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過去の事件と現在の事件がオーバーラップして謎が解き明かされてゆく。
読後、表題の「ラットマン」を見てやっぱり道尾さんはすごいなと思った。
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冒頭のエレベーターの話は、本編に関係なかったのか…
それぞれの思い違い・思い込みが重なって起こった2つの悲劇。ラストで、物語が返る返る、ひっくり返りまくりです。なんだか今回も「やられた」感が残りましたよ、道尾さん(^^
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「カラスの親指」が出てあわてて読みました。
中国新聞の書評ですごく評価が高かったので、期待していたんですが、期待の9割くらいの満足度。
確かにおもしろかったんだけど、なんだろうなー物足りなく感じました。
話の展開上登場するお決まりの不幸要素が、ただのキーワードに成り下がっていて白けたというのもあるし、
そもそも序盤でもうオチの方向性は見えてしまうし、
それでもなお面白いと思わせる一手に欠けた作品という印象。
ささっと読めて巧みなどんでん。
やっぱりなんだかんだ言っても、この人巧い。
仕事はひじょうに繊細だし、完成度は申し分ない高さ。
オチの方向性が見えていても、なかなかピタリと予想するのは難しい。
誰もがとりあえず一読して感心するくらいには良作だと思います。
期待も先入観もなしに読んだら、評価が変わっていたかもしれません。
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突っ込みどころはネタバレになるから書けないけど、プロットはよく練られてるわ。
それにしても「重力ピエロ」、「ビットトレーダー」なんか読んでも思うわけだけど、家庭の幸せってほんとある意味奇跡だし、大切にしないといけないわ。
(2008/3/28)
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主人公は30歳くらいの男性、エアロスミスのコピーバンドを学生時代から続けている。数年前、恋人のドラムスがバンドを引退して、変わりに妹がドラムスになった・・・。ここまでは、恋の三角関係か? と読んでいくと、主人公の暗い家族にまつわるトラウマが出てくる。ラットマンとは、心理学で有名な絵からのタイトルらしい。同じねずみ顔の絵が、動物の絵の続きに並ぶと『ねずみ』に見えるし、人間の顔の絵に並べると『親父顔』に見える。思い込みとか、トラウマとかを上手に利用して若者たちを主人公にしたミステリー。殺人事件が起きて、さぁ、バンドはどうなる?
是非、読んでみてください。面白い!
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見る角度、周りの状況によっていろいろなものにみえる「ラットマン」勘違いの連鎖が引き起こす騒動、殺人事件。
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結成14年のアマチュアロックバンドが練習中のスタジオで遭遇した不可解な事件。浮かび上がるメンバーの過去と現在、そして未来。
ラストでは細部に張り巡らされた伏線が完璧に活かされており、気持ちよく騙されることができる。
「ラットマン(騙し絵)」というタイトルも絶妙。
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2008/4/某
タイトルと内容がそこまで合っていないんじゃないかなーと個人的には思ったけど、誤解だらけの内容に驚いた。
なんか誰も報われてないよな…。
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切なすぎる。
最後はもう・・・素敵だけど泣けました。
こんなのってありなの?って思う。
誤解の積み重ね・・・
結局、誰か報われたのかなぁ?って思わざるを得ないところがまた・・・。
家族の幸せって貴重なんですね。
二転三転する展開、何度もひっくり返される度にうなります。
ほんとさすがとしか言えない完成度。うますぎです。傑作でしょ。
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まず入り方が上手い。
あれよあれよという間に引き込まれ、実際分量も多くないのであっという間に読み終えてしまう。
いわゆる叙述ミステリーに分類されるように感じるが、非常に高い技術で筋が運ばれていてスピーディでもある。
この展開、ストーリーならばもう少し枝葉やディテールを厚くして長い小説にできたんじゃないかな、という気がしないでもないが、それは無理な望みというものか。
作品全体を貫く空気感が、何となく貴志祐介の「青の炎」と似ているかも、とちょっとだけ思った、ラストも含めて。
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秀逸。
作品をそれ以前の他の作品を引き合いに出して称賛することは、その作品に対しての尊敬という点でやや欠けると思われるので、あまりしたくはないが、この作品は伊坂幸太郎の『重力ピエロ』にも似ている感じがあるが、最後は物語に予想が追い付けないほどの秀逸さ。
登場人物の名前やタイトルの意味を読後にもう一度考えると、改めて道尾秀介という作家の秀逸さに脱帽である。
「一生懸命に真似をすれば、その人の本当にやりたかったことがわかる」
というセリフが印象的でした。