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- カテゴリ:一般
- 発売日:2008/02/25
- 出版社: 文藝春秋
- サイズ:20cm/138p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-16-327010-4
紙の本
乳と卵
著者 川上 未映子 (著)
姉とその娘が大阪からやってきた。三十九歳の姉は豊胸手術を目論んでいる。姪は言葉を発しない。そして三人の不可思議な夏の三日間が過ぎてゆく。第138回芥川賞受賞作。【「BOO...
乳と卵
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商品説明
姉とその娘が大阪からやってきた。三十九歳の姉は豊胸手術を目論んでいる。姪は言葉を発しない。そして三人の不可思議な夏の三日間が過ぎてゆく。第138回芥川賞受賞作。【「BOOK」データベースの商品解説】
【芥川賞(138(2007下半期))】姉の巻子とその娘・緑子が大阪からやってきた。39歳の姉は豊胸手術を目論んでいる。姪は言葉を発しない。そして3人の不可思議な夏の3日間が過ぎてゆく…。表題作と「あなたたちの恋愛は瀕死」の2編を収録。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
乳と卵 | 5−112 | |
---|---|---|
あなたたちの恋愛は瀕死 | 113−138 |
著者紹介
川上 未映子
- 略歴
- 〈川上未映子〉1976年大阪府生まれ。2007年「わたくし率イン歯ー、または世界」が芥川賞候補作となる。同年坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。08年「乳と卵」で第138回芥川賞受賞。
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紙の本
豊胸願望を説明できない饒舌の母。生命への恐れを説明できない沈黙の娘。母と子のもどかしい胸のうちを川上未映子の大阪弁が描写する。
2008/02/21 19:11
8人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
雄弁は銀、沈黙は金っていう。そんなことかもしれないと思いながら、いずれにしても自分の気持ちを相手にそのまんま伝えるのは相当難しいことだ。サラリーマンを卒業し家庭の中の時間が圧倒的に増えた今になって振り返れば、会社生活のほうが意思の疎通は容易だったような気がする。なぜかというとそこは約束事とか規則とか通念ってものが完璧だから、「文法」に従って言葉を口に出し、また文章を書けばそれで「私」をありのままに表現することになっているからだ。「慎重に検討させていただきます」といえばそれなりに社会通念が調和的に機能するものだ。心の奥の襞に隠された本当の私など伝える必要もなければ聞く人もいないのだからね。ところが家庭という奴はそんなシンプルなものじゃあない。積年の喜怒哀楽、怨念、愛憎、恩讐、貸借の実績が複雑な層を成して沈殿している場が家庭である。そして洗いざらいさらけ出さねばならない、さらけ出させて聞かねばならない時がある。上等の社会通念など通用しない、感情が先行するいわば無法地帯が家族であって、夫婦、親子の間で相手が気を悪くしたり迷惑がるようなことも平気で言い合うことなんてしょっちゅうだから、饒舌が喧噪に転化し罵倒にまで至れば別れろ切れろ、でていくかと、翌日冷静になれば、えらいことを口走ってしまったと反省しきりで気まずい沈黙の結果にいたる。そして沈着に思考するに 自分の本当の気持ちを相手に伝えるのはいかに難しいことであるかと。さらに思索的に突っ込みを入れれば、言葉の海に漂いながら、いったいぜんたい自分の本当の気持ちを組み立ててくれる言葉なんてあるのだろうか。記号の組み合わせにすぎない言葉に変換した途端、それは本当から遠いところの虚しいものでしかないと。
作中の巻子さんによれば標準語は嘘くさいそうだが、語り手の「わたし」は奔放にめまぐるしく大阪弁でまくし立てる。軽やかであり、粘々した、それでいて痛快さもある。話し言葉の面白さ。
「巻子はわたしの姉であり緑子は巻子の娘であるから、緑子はわたしの姪であって、叔母であるわたしは未婚であり、そして緑子の父親である男と巻子は今から十年前に別れているために………父親の何ら一切を知らないまま、まあそれがどうということもないのだけれど………この夏3日間を巻子の所望で東京のわたしのアパートで過ごすことになったわけであります。」
とまぁこれがワンセンテンスの饒舌であります。父親を知らない少女の境遇を「まあそれがどうということもない」と、いかにも突き放したようなひとことに少女と向き合う「わたし」の繊細な気配り、やさしさの気配を滲ませている。話し言葉ならではの魅力である。
巻子のおしゃべりのなかには屈折して哀しい母親の情感が直接に読む人の心に伝わるところがあって、なるほど「嘘くさい標準語」ではこうはいくまいと、これもまた話し言葉を操る著者の巧みさである。
巻子、39歳、場末のホステス。目下豊胸手術を受けようと無我夢中で「わたし」にそのことだけを語りかける。しかしそのブツブツと沸き立つ言葉からは「わたし」も読者も彼女がなぜそこまで豊胸にこだわるのか、判然とした理由としてはわからない。テレビで識者たちが喧々諤々とやりあう女性の豊胸願望論争をおちょくった「わたし」がなんともおかしい。これがタイトルの「乳」である。
緑子、小学校6年生。母を拒絶し、なぜかだれに対しても言葉を一切口に出さない。会話は筆談で済ませる。言葉の海の海面の喧騒をよそに海底で殻を閉ざし、かたくなに沈黙し続ける少女。ただ日記風にノートに自分の内心を率直に綴っている。初潮期を迎えようとしている少女の生きることへの恐れ、これは昔からよく小説のテーマになったと思えなくもない。しかし、彼女の場合それは「人生への恐れ」よりも受精卵ベースでの「生命体そのものへの嫌悪感」に近いものがある。これがタイトルの「卵」である。
『乳と卵』は親と子の微妙な葛藤をテーマにしている。偶然だがこのところ立て続けに同じテーマで4作品を読んだことになった。著者たちの世界観に関わらず、親子ものがこれだけ話題にされる、それほどにひどく寂しい世の中になっちまったんだ。桜庭一樹『私の男』、親子関係と夫婦関係を融合して成立するという特異な家族観。松浦理英子『犬身』は親子、夫婦、兄弟関係を支配・被支配の対立で描いた。吉田修一『悪人』はそこに加害者・被害者の視点を持ち込んだ。川上未映子はこの作品で緑子の視点から親子関係を対立にせず、侮蔑・嫌悪と依存・哀憐が両立している関係とみている。
緑子が始めて声をはりあげる。その瞬間。読者のわだかまった心が氷解する。饒舌と沈黙を対比させながらすすんできたストーリーがこの万感のこもる叫びで山場を迎える。
小説・映画・芝居、昔から似たようなシーンにはたびたび出くわしたなぁと思うのだけれど、そのありきたりなところが親子っていうもんじゃないかと心打たれた。
紙の本
男性にはむずかしい
2008/08/10 10:46
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
乳と卵 川上未映子(みえこ) 文藝春秋
出だしは、フォークソング歌手岡林信康「チューリップのアップリケ」という歌を思い出させてくれた。ちいさな女の子がおかあさんをかばう歌です。主人公は「緑子」10歳ぐらい。母親は「巻子」39歳、10年以上前に離婚したらしい。だから緑子は父と暮らしたことがない。物語で、語りながら進行してくれるのが、巻子さんの妹で夏ちゃんです。
母親巻子が豊胸手術を望む理由は何だろう。男性のわたしに理解できるだろうか。文体は「アサッテの人」諏訪哲史著の影響があるのだろうか。東京と大阪の比較、大阪人から見た東京への意識は、アンチジャイアンツです。大阪弁にこだわっているようで、こだわっていない。
「生理」についての考察本だろうか。どうも女性作家にとって「生理」は作品制作のうえで必要不可欠な要素であるようです。男性のわたしには実感できない。生理も出産も女性は大変だなあという感想しか残せない。
誰かにあてた手紙のようでもあります。挿入されている緑子の日記のようなものには、どんな意味があるのだろうか。母親と娘の関係は姉妹のようだ。「老い」に対する「若さ」でもあります。母性の源(みなもと)をさぐることが主題だろうか。
わたしは目が覚めたときに自分が死んでいたらいいなあと思ったことはありますが、生まれなければよかったと思ったことはありません。娘の緑子は生まれなければよかったと思うのですが、そう思う人が実際にいるのだろうか。今の暗い生活が永遠に続くわけではないし、自分にとって心地よい居場所さがしをすれば、いつかはその場所が見つかります。
緑子は声が出ない障害者なのだろうか。それとも心の病気で声を出すことができないのだろうか。本のタイトルは「緑子」もしくは「母と娘」でいいのではないか。乳と卵ではあまりにも奇抜(きばつ)です。
読み終えて、母をいたわる娘の緑子ちゃんでした。なんだか淋しくなる物語でした。夏ちゃんのラストの解説はいらないと思う。最後のほうで花火の話が出てくる。「その日のまえに」重松清著もそうでした。やはり花火は人生に置き換えることができるのです。
紙の本
女3人寄れば
2020/04/08 22:38
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
胸にコンプレックスを抱える姉と、頑なに沈黙を守る娘がユーモアたっぷりです。転がり込んできた風変わりな親子と、主人公との短い共同生活も心に残ります。