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商品説明
戦時中のミッションスクール。図書館の本の中にまぎれて、ひっそり置かれた美しいノート。蔓薔薇模様の囲みの中には、タイトルだけが記されている。『倒立する塔の殺人』。少女たちの間では、小説の回し書きが流行していた。ノートに出会った者は続きを書き継ぐ。手から手へと、物語はめぐり、想いもめぐる。やがてひとりの少女の不思議な死をきっかけに、物語は驚くべき結末を迎える…。物語が物語を生み、秘められた思惑が絡み合う。万華鏡のように美しい幻想的な物語。【「BOOK」データベースの商品解説】
戦時中のミッションスクール。少女たちの間では、小説の回し書きが流行していた。やがてひとりの少女の不思議な死をきっかけに物語は驚くべき結末を迎える…。物語が物語を生み、秘められた思惑が絡み合う。幻想的な物語。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
皆川 博子
- 略歴
- 〈皆川博子〉1930年生まれ。「アルカディアの夏」で小説現代新人賞、「恋紅」で直木賞、「薔薇忌」で柴田錬三郎賞、「死の泉」で吉川英治文学賞など受賞多数。他の著書に「総統の子ら」など。
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紙の本
女子校のS、っていいですよね。娘たちも私も女子校の出なので(次女は在学中)、憧れも苛めもシカトもあります。でも殺人はねえ・・・なかった。結構、難しい話ではあります
2008/03/31 20:40
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
装幀、ラインナップとも大好きな理論社のミステリーYA!に、なんと皆川博子の登場です。最近はもっぱら戦前のドイツを舞台にした重厚長大・しかも耽美的という読み始めたら1ヶ月はかかりっきりになるような作品ばかり書いている彼女が、若い人向けの物語を書く、それだけで驚きです。もしかして初めてのヤングアダルトもの?なんて思います。
カバー折り返しですが
戦時中のミッションスクール。
図書館の本の中にまぎれて、
ひっそり置かれた美しいノート。
蔓薔薇模様の囲みの中には、
タイトルだけが記されている。
『倒立する塔の殺人』。
少女たちの間では、
小説の回し書きが流行していた。
ノートに出会った者は続きを書き継ぐ。
手から手へと、物語はめぐり、思いもめぐる。
やがてひとりの少女の不思議な死をきっかけに、
物語は驚くべき結末を迎える・・・・・・。
物語が物語を生み、
秘められた思惑が絡み合う。
万華鏡のように美しい幻想的な物語。
となっています。繊細な、ちょっと線が細いかな、っていう装画は佳嶋、ブックデザインは大人数、守先正+高橋奈津美+輪湖文恵だそうです。
全七章の構成で、最後に皆川の あとがきにかえて『倒立』美術館が付いています。
戦時中、といっても東京大空襲があり、敗戦をすぐに迎えますから昭和20年としておきます。ただし、時間は話の流れで前後しますから、どこが基準とはいいがたいのですが・・・。舞台となるのは、**女学院ですが、主人公たちは、その学院の生徒と都立**高等女学校の生徒たちです。
彼女たちが知り合うのは、二つの理由があって、その一つが空襲で校舎が焼け落ちた関係で、女学院の一部を高等女学校が借りるといった状況があります。もう一つが学徒勤労動員です。軍事工場での兵器生産に彼女たちも駆り出されることになります。空襲警報と避難といった行動の中で、互いに知り合うチャンスがあるわけです。
まず、都立**高等女学校の生徒が中心にいます。四年生で14歳の私、阿部欣子、そして三輪小枝です。小枝は成績は優秀でも病弱で、小柄ないい家庭のお嬢様です。教師としてはゲビタコがいます。戦時中は、軍国的な発言を繰り返し、非国民を連発しながら、敗戦した瞬間に、自分は共産党員だったと言い張る破廉恥漢です。
**女学院の生徒が七尾杏子と上月葎子で、専門部の三年生、年齢的には二十歳です。そして、同級生からも上級生からも、その自堕落な服装と、他人がどう思おうが無視してなれなれしく声をかけてくる無神経さゆえに疎んじられる設楽久仁子がいます。主人公たちと同じ四年生のようですが、はっきりとは書かれていません。上月は設楽の絡みつくような視線がいやでたまりません。
そして、空襲で焼け落ちたチャペルには、そこに居るはずのない上月の死体と、誰のものともつかぬ黒焦げの遺体が・・・。それに過去のもう一つの事件が絡むのですが、正直この部分が私には今ひとつ理解できませんでした。ま、ベテランの皆川のことですからもう一度読み返せば、ああそうか、と納得が行きそうな気がしますが。伏線はしっかり張られていますが、これみよがしな読み解きがないのが文学としての質の高さを表しています。
紙の本
虚無と呼ぶにはあまりにも強い彼女等の。
2010/10/28 17:52
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
思春期の学生、ことに女学生というのは憧れを原動力に生きているのだろうとさえ思う。校則、教育、両親、世間体・・・様々な拘束に縛られ捕われながら 自由に憧れ外の世界を夢見ている。
今でこそ(少なくとも建前は)男女の別なく自由に立ち居振る舞えるが、戦中戦後・・・あの軍事国家という大きな権力とそれにのまれた時代の空気の中で 彼女たち女学生らはいかほどの自由を手にすることが出来ただろうか。
対外的には本当にわずかな感情と己しか放つことの出来なかったであろう戦中において、しかし彼女たちはけなげに、たくましく生き延びてもいたのだと、この作品に知る。
国と世間という力にあらゆるものを奪われながらも、どうにか己の「自由」と「憧れ」を守り続けていた「彼女」のような人間が、もしかしたらたくさん存在したのかもしれない。
物語はミッションスクールに通う幾人かの女学生たちのつながりと交流を横軸に、戦中戦後という時代の移り変わりを縦軸に織りなされる。
「倒立」にしたためられた手記が、一人の人生そのものを私たち読者に伝えきったところで物語はようやく幕を下ろすまで、私たち読者はいくつもの人生と「倒立」する真相を目の当たりにするだろう。
厳しい戦時下の教育方針のもと、彼女たちの間では様々な「なぐさめ」が作り出されていた。
言論の自由が封じられれば妄想入り交じる噂話、男女の仲が禁じられれば上級生の「お姉様」とSの関係を結ぶことの出来る「妹」という存在、娯楽小説の類いが取り上げられば小説の自作。
そうして小説「倒立する塔の殺人」とそれをしたためた手記・・・「倒立」というノートは生まれる。
そもそもこのノートは一人の女学生がある人に恋い焦がれ、その思慕と愛憎を示すためにしむけられた「恋文」といえる。
手記の著者はその心を暗示に満ちた殺人の物語「倒立する塔の殺人」に刷り込ませ、終戦を挟んでまた一人の女学生がノートを見つけ出すことで、物語と「彼女」の人生は再始動する。
一人の女学生が偶然図書館で見つけたそのノートには、「倒立する塔の殺人」という教師と生徒の間に殺人事件を匂わした暗示的な物語がしたためられていた。
倒立、上下逆さまになるということ。それは当時の情勢そのままではないだろうか。
終戦を挟んですべての価値観が逆転した世界。
正が悪になり、赤(共産党)が大手を振るって封建がさげずまれ、民主主義が尊ばれるように逆転した世界と、倒立する部屋で気が狂って行く作中の教師と生徒。
発見した女生徒を中心に過去と現在と、彼女の「お姉様」と同級生と、そのまた彼女らの周辺と・・・
ノートを軸に交錯する彼女らの事情と時代を経て重複する彼女らの関係、その想いは何層にも重なり合い複雑に絡まり合っている。
ノートに込められた真実と「彼女」の想いは、その作品「倒立する塔の殺人」とともに謎であり続けるが、ノートの回し書きによりその様相は変化する。
作中作の「殺人」は現実の「殺人」に。
隠された真実の想いは 暴露された「告白」に。
そして最後にようやく戻るのだ。
最初の書き手の、生そのものに。
アンリ・バルヴィスの「地獄」の最終文一節が何度となく繰り返される後半からもわかるように
「彼女」の憧れは虚無にとらわれているようにも思われる。
けれど、そうだろうか?
すべてが虚無的であることに心酔しながらも、貫き通したその想いは虚無であったとは思わない。
虚無であることでしか自分を守れなかった時代の変化の中で、それでも彼女が貫き通した想いは虚無と呼ぶにはあまりに強い。