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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2007.11
- 出版社: メディアファクトリー
- サイズ:20cm/221p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-8401-2098-2
紙の本
獣王 (幽BOOKS)
著者 黒 史郎 (著)
動物園「アルカ」で飼育員をしている私が、ある日出会ったひとりの女性客。彼女は毎日のように来園しては、動物の形態模写をしている。私は彼女に強い興味を抱き、間もなく奇妙な同棲...
獣王 (幽BOOKS)
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商品説明
動物園「アルカ」で飼育員をしている私が、ある日出会ったひとりの女性客。彼女は毎日のように来園しては、動物の形態模写をしている。私は彼女に強い興味を抱き、間もなく奇妙な同棲生活が始まった…。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
黒 史郎
- 略歴
- 〈黒史郎〉1974年神奈川県生まれ。「夜は一緒に散歩しよ」で第1回『幽』怪談文学賞・長編部門大賞、「ラゴゼ・ヒイヨ」で第1回史上最小のクトゥルー神話賞・最優秀賞を受賞。
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紙の本
狂信的な愛情“狂愛”が導く、悪夢の果てにある真実とは?
2007/12/17 23:21
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:秋野音人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『夜は一緒に散歩しよ』で第一回『幽』怪談文学賞長編部門大賞を受賞し、鮮烈なデビューを飾った黒史郎。本書は彼の長編第二作である。表紙を飾っているのは『H・P・ラブクラフトの ダニッチホラー その他の物語』で立体造形を担当した美術作家の山下昇平。気鋭の作家による力作は、中表紙にも見ることができる。
物語は主人公の勤める動物園「アルカ」に不思議な女性が現われるところから始まる。彼女は動物園の様々な動物を形態模写しては、その動物に完璧に擬態していた。彼女に興味を覚えた主人公は、彼女を自分のアパートに迎え入れる。しかし、動物に擬態している彼女は人語を解さず、まるで動物と対話しているような感覚を主人公に与える。そうしているうちに主人公は、まだ彼女の名前も知らないことに気がつくが、動物になっている彼女の人間であったときの名前で呼んでも応じてくれないだろうなと思い、キョウコという名前をつける。こうして、主人公とキョウコの奇妙な同棲生活が始まった。
ここまでがおおよそ起承転結における“起”、物語の序盤である。この段階では、大方の読者の興味はキョウコに引きつけられていることだろう。動物を完璧に形態模写することのできるキョウコとは何者なのか、そしてどうして彼女はそんなことをやっているのか。そんな疑問が読者の脳裏に巣食い、ページを繰る手を加速させるだろう。ところが読み進めてゆくうちに、読者はいつの間にか物語がその色を変えていることに気がつく。「私はこの動物園が狂っていると思っているが、どうやら周りは私が狂っていると思っているらしい」──これは作中で主人公がもらす独白のひとつだが、ここで主人公が自身の狂気に気がついていないという衝撃の真実が提示されるのだ。様々な動物の擬態を繰り返すキョウコは、主人公の家においては動物そのもので、彼女のために自宅の環境を野生に近づけようとする主人公は、狂信的な愛情“狂愛”を注いでいるようにしか見えない。つまり、この段階で、物語を牽引する謎を帯びた存在がキョウコから主人公に移り変わるのだ。一体、彼はどうしてキョウコを同棲/共棲できているのか、なにが主人公にそうさせるのか。こうして新たな謎がさらに物語を加速させ、充分な“狂愛”を注ぎ込まれた物語は、ありとあらゆる動植物を集めた幻の動物園──エイセラニ・ハウザンドへと疾走する。
怪談専門誌『幽』第八号において、著者の黒史郎は「とにかく奇妙な話を書きたかった」と言い放ち、さらに「“悪夢”と“狂い”こそ、この作品全体のテーマなんです」と語っていた。その試みは成功していると言えるだろう。交錯する現実と虚構、悪夢と狂い、盲目的で狂信的な愛情、こういったキーワードに心惹かれる方に勧めたい。是非、物語の最後に待ち受ける、狂った動物園「エイセラニ・ハウザンドへ」のほんとうの姿を、ご覧いただきたい。