紙の本
たしかにインドという国の姿に衝撃を隠せない
2009/03/24 01:01
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
インドは摩訶不思議な国である。少なくともごく最近まではそうであった。したがって、多くのバックパッカーが好んで訪れるエキゾチックな国であった。
それがどうしたことだろう、今やBRICs諸国の一角を占め、急激な経済成長を遂げる国に変貌した(ただし、本書刊行時)。
ただ、テレビを見ていると、バラエティ番組では、インド人はカレーばかり食べる、バクシーシ(お布施)をしつこく求める、人間だらけで暑苦しい、ガンジス河で沐浴する、とステレオタイプな扱いが幅を利かす。
こうしたギャップを埋めるのに本書ほど適したものはない。インドの現実をかなり掘り下げてレポートしているからだ。NHKのディレクターたちが制作した番組を見た方も多いことだろう。
ここには、番組に盛り込めなかったことも含めて本の形にしてまとめてある。テレビを見なくても、本書を読むだけでも、たしかに「衝撃」を受ける。
衝撃と銘打つからには、それ相当の中身がなくてはならないが、本書にはあると言っていいだろう。そして、この衝撃が、実はまだ始まったばかりであると結んで終わるところに、「恐ろしさ」がある。ただ、明暗を分ける国の発展は、安易に「希望」という言葉を冠することをためらわせる。
インド人は貧困から抜け出すために必死である。勉強に勉強を重ね、難関大学に進み、大手企業に就職するか、自ら起業するかして、貧困から脱出することを願う。そもそもの貧困ぶりは、目も当てられないほどである。
学校と言いながら、トタン屋根と柱、黒板だけの吹きさらしの建物で学ぶインドの人たちの向学心には圧倒される。1000人もの子どもがぎゅうぎゅう詰めになって学び、イスが不足していても立ったまま学ぶ。雨の日は横殴りの雨であれば、傘を差して授業を受ける。みな真剣なまなざしで。
しかも、勉学に成功した暁には、故郷をよくしたい、国に尽くしたいという殊勝な心がけばかりである。フェビアン社会主義のなごりと思われる。
長く、このフェビアン社会主義はインドの発展を妨げた。悪しき官僚制度が、電話一本ひくのに1年かかるという状況を生み、経済は長く停滞した。あと少しで経済が破綻するという瀬戸際まで来て、時の首相は改革開放経済に踏み切った。90年代にIT革命が米国で起きてから、準公用語としての英語国、民主主義国という利点を生かして、発展を遂げる。
それでもまだ、いびつな発展である。インドのシリコンバレーと言われるバンガロールにさえ、空港からたどり着くのに時速5kmという渋滞の洗礼を受ける。
ただ、一歩、踏み込めばバンガロールのインフォシスといった優良企業は別世界である。もっとも、ここには激しい競争がある。入るにもそうであるし、入ってからも創造性が求められる。ところが彼ら彼女たちは、こうした環境に好んで身を置き、生き生きと毎日を送る。日本人はあっけにとられてしまう。
インドの中間層の発展ぶりは驚異的である。新たな町が生み出され、近くのスラム街とは一線を画する。旺盛な消費意欲が刺激され、テレビや車やエアコンの普及が進む。それも、まだ初期段階である。スラムの人たちにもじわじわと恩恵が広がる。
そうはいっても、綿花栽培農家の絶対的貧困は悲惨なこときわまりない。グローバル化の恩恵を受け、成長しているソフトウェア産業がある一方で、価格競争に巻きこまれ、まともに食べていけなくなる農家が続出しているのも事実だ。コットンベルトでの農家の自殺はあとを絶たない。
政治的にも、かつてのガンジー家の威光は通じなくなり、少数政党が政権の行く末を握るようになった。大衆に迎合する政党が躍進し、それまで進められていた経済特区が突然にごわさんになる。これでは、進出を予定していた企業はたまらないだろう。
インドは恐ろしく多様性に富んだ国である。さまざまな断面があり、それぞれに真実なのである。
長期的に見れば有望な国であろうが、国内政治は不安定で、いつ何が起きてもおかしくない状態にある。はたして投資に的確な国かどうかの判断が、本書を読んでさらに難しくなった。
いずれにせよ、ここまでインドの現実を描き切ったNHKディレクターたちの労力には頭を深く下げるほかはない。おすすめの本である。
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共和薬品工業を買収したルピン、日本ユニバーサル薬品を
買収したザイダスなど近年、インド製薬企業が国内に積極的な
投資を行い存在感を増している。
一方、インド国内に目を向けると、インド企業は数学に強い英語の堪能な
エンジニアを大量に抱えていることから、欧米製薬企業から送信された
データーを分析し、解析データーを返信するビジネスが盛んである。
上記国内外の事例を含め、避けて通れないインド企業との取引を
我々日本の製薬企業は今後どのように取り込んでいくべきなのか
本書を通じ勉強していただきたい。
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最新のインド事情に関する本としては読みやすくて量もあり、それなりに楽しめる内容だとは思うが、「われわれがこれまでイメージしてきた“あの”インドとは大きな変貌を遂げている」ことが(逆に)衝撃的だ、式のインド紹介はさすがに新たな紋切型として確立されてきたなという印象が否めませんね。たとえNスペを文章化したものとはいえ…。
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NHKスペシャルで数年前に放送したものに、伝え切れなかったこと、また現状を加筆しての書籍化。隣国中国は、日本ではなにかと話題に登ることも多いがインドについてはかなり情報不足だ。本書を読むと急激に発展しているところ、取り残されたところ、そして多大な人口。などなど中国の状況に重なる部分も多い。21世紀に入り、BRICsを初めこういった巨大人口を抱えつつ経済成長してきた国々、或いはオイルマネーで世界経済を揺るがす国々の脅威を感じざるを得ない。興味深く読める。
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今後数年間で最も劇的に変化する国は? 少し前までは中国かと思っていたが、どうやらインドが正解らしい。身近には訪問した人も少なく、日本に住んでいるインド人にも面識がない。じゃ、本を通して知るのが手っ取り早い。最近のインドの状況をしっかりレポートしている様子が気に入った。
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同名でNHKスペシャルで放映された番組を書籍化。インドをヒト、カネ、クニの3つの視点から読み解く。(1)ヒト…ペンティアムを作った技術者、インフォシス創業者、ナラヤナ・ムルティーとナンダン・ニレカニ等、エンジニアが尊敬される風土。頭脳流出から頭脳還流。世界のフラット化により頭脳立国を目指す。(2)カネ…11億人の消費パワー。ニューデリー等の直轄都市から離れたグルガオンに出現した巨大ショッピングモール。筍の様に誕生しているGMSと新中間層(9万ルピーから100万ルピーまでの層。年収で約26万〜290万位までの層)が2.2億人(20%)→3.7億人(34%)と増加。中間層の市場は日本の総人口を遥かに上回る。日系家電シェア1位の日立に代表される家電の苦戦と韓国、LG・サムスンの強さ。及びインド財閥(リライアンス、タタ)。(3)クニ…在米インド人による米国議会へのロビー活動と米国のインドへの原子力の技術協力。BRICsの一角を担うインドの抱えるパズルを読み解く上で面白い一冊。
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この本を手に取ったきっかけは前に読んだBRICsの本だ。
*『BRICsの底力』 (ちくま新書 735)
そこで目にしたのはインドが近い将来世界一に踊り出るであろうという推測とそれを裏付ける実態。
そんなインドをもっと知りたいと思っていた矢先に友達に薦められたのが本書だ。
そこにはNHKの取材班が血眼になって広いインドを駆け巡った末に辿り着いた
インドの深層が明らかにされている。
かの有名なBRICsレポートには、「インドは2050年まで10%成長を続け、日本のGDPを抜くだろう」とまで言われている。
その成長性は何によって支えられているのか。
(ちなみに、2050年GDP予想順位は順に中国、アメリカ、インド、日本、…)
それを読み解く鍵は
「頭脳立国」と「フラット化する世界」の掛け算であった。
*『フラット化する世界(上・下)』(トーマス・フリードマン著)
世界のフラット化とは、ITの進化が寄与した世界の潮流で、
「最も生産性が高く、最も優秀でいい結果を出せ、そして最も賃金の安い担い手のところにいく」近年のグローバル化のことを言う。
インドは、世界のフラット化の始まりをいち早く察知し、「頭脳立国化」を目指したのだ。
そうして、立ち上げられたのが
いまやMITに相当すると言われるIITである。
元々数学好きな11億人のインド人が貧困から抜け出すために、
狭い門戸を開こうと死に物狂いで頑張るわけだから
その英知は凄まじい。
当初は、「頭がいい」、「英語圏」、「賃金が安い」という理由で、優秀な頭脳はみな欧米に引き抜かれ、国益にはつながらない状況だったが、
インフォシスなどの新興企業がインド国内で世界に通用する企業の象徴として現れ、
インドの成長する土壌が作られていった。
こうしてインドが豊かになるにつれ、
世界の市場を巻き込む大きな変化が起こる。
11億人の人口のうち、数億人のミドルリッチ層。
日本の市場をゆうに越える人々が突如として現れたのである。
インドの勢いは各方面で止まらない。
「頭脳立国」を掲げて歩み始めたインドは
優秀な頭脳を行政の面でも発揮し始めている。
核兵器開発と原子力を利用したしたたかなアメリカを見据えた外交戦略を打ち出し、
大国と対等に渡り合える立場になりつつある。
フラット化のチャンスを生かし、インドはついに止まることのない上昇気流を掴んだのである。
さて、話を日本に戻してみると、
このような「フラット化する世界」の中で日本がインドに勝るのは難しいのではないかと思えてしまう。
BRICsレポートをよげんの書にしないためには
日本はインドに広がる11億人の市場を勝ち取っていかねばならないだろうし、
(インドより近い中国に対しては言うまでもない。)
インドのように教育を国家戦略にするなど抜本的な改革も必要だろう。
インドという1つの国に着目し、
「フラット化する世界」における実情を生々しく訴えかけてくる本書を読んで、
世界の変化と自分たちの在り方についてとても考えさせられた。
----メモ----
インフォシスにより「頭脳流出」から「頭脳還流」が起こった。
先進国の雇用を脅かす人材を輩出し続ける。
「フラット化した世界では、アメリカ人の仕事、日本人の仕事などというものはありません。 仕事は誰のものでもなく、最も生産性が高く、最も優秀でいい結果を出せ、そして最も賃金の安い担い手のところにいくことになります。“フラットな世界では”誰かが代わりにできる仕事”と“誰にも代わりのできない仕事の二つしかありません”」
誰にも代わりのできない仕事というのがキーワードになる。
国のかたちは、教育で決まる。
この国をどうゆう国にしたいか。教育を国家戦略にして世界中にネットワークを駆使するインド。
「トム、ご飯を残さずに食べなさい。インドや中国の人はお腹を空かしているのだから」
「頭脳さえあれば世界を相手に勝負できる」
「自分の町や国のために役立ちたいと思っている」
この志の高さや国を思う心は、幕末の志士達の気概に似ているような気がしている。
インドの格差は、バネとして自分の志を高めるための材料としては申し分ない。
問題意識はそこから生まれる。
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とても面白いので☆5つです。
いまやMITを凌ぐとも言われるIIT。そのIITがあるインドにスポットをあてた著書である。インド人の頭脳を武器にして、急激な発展を遂げたインド。あまりの早さにひずみが生じているのは言うまでもない。しかし、教育に特化した姿勢は全世界が見習わなければならないとかんじさせてくれる。BRICsの一つでもあるインド。そんなインドをきちんと知らなければいけない。それに加えて、日本がいかに遅れているか、そんなことも同時に訴えてくれます。
吹き出すくらい面白かった記述があった。
「国際会議で、議長にとって一番難しいことは、インド人を黙らせることと、日本人をしゃべらせることだ」
これには笑った。
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NHKスペシャルを観てから読みましたが、インドの成長戦略に凄さを感じました。日本も科学技術立国を目指しているのですが、インドと比較するとぬるま湯の中と思いました。
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Infosys 「公正で透明性があり、階級よりも実力を重視する」
と書いてあったので、企業のサイトで確認してみた
以下、Infosysのサイトより引用
Corporate Governance Philosophy
Our corporate governance philosophy is based on the following principles:
* Satisfy the spirit of the law and not just the letter of the law
* Corporate governance standards should go beyond the law
* Be transparent and maintain a high degree of disclosure levels
* When in doubt, disclose
* Make a clear distinction between personal conveniences and corporate resources
* Communicate externally, in a truthful manner, about how the Company is run internally
* Comply with the laws in all the countries in which the Company operates
* Have a simple and transparent corporate structure driven solely by business needs
* Management is the trustee of the shareholders' capital and not the owner
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インドへの出張を計画し、ビザを取得し(インド入国にビザが必要、ということすら知らなかったのだけれども)、フライトのチケットもおさえたのだけれども、どうしても都合がつかなくなり、キャンセルしてしまった。というわけで、残念ながらインド未体験である。なぜなのか、は分からないけれども、私にとってインドは非常に興味をそそられる国である。それがどのようなものであれ、自分の知らない・経験したことのない・考えも及ばない、ことが沢山あるのではないか、と思うからであろう。この本は、NHK特集として放送された同名の番組を書籍化したものである。中心的な視点は、新興経済勢力としてのインドである。インドはここ最近、毎年10%近い経済成長を続けている。それが小国で起こっていることであるならばともかく、11億人と呼ばれている人口大国で起きていることなので、世界経済に与えるインパクトは大きなものがある。インドのそういった経済成長の姿と、その理由の一端を紹介することが番組の中心テーマであり、当然、それを下敷きにした本書の中心テーマでもある。テレビ番組なので、ビジュアル的に分かりやすくないといけないので、内容は体系的・網羅的というよりは、トピックス的であるが、それでも、というか、そうだからこそ、というか、現在のインドの姿(それは、一般の人の持つイメージとはかなり異なるはず)をクリアカットに伝えることに成功している印象を持った。
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インドが世界に大きな影響力を持つ大国であることを世界に知らしめる“衝撃”を取り上げ、それらの立役者となった人々にインタビューを試みており、非常に面白かった。
エネルギッシュで知性に富むリーダーたちの個々の力が大きくインドを変えており、彼らを尊敬し自らも夢を持って努力する若者たちがいるという事実は、今の日本ではあまり見られないことだと思う。
今後もインドに注目していきたい。
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TVのNHKスペシャルで放映されたものの活字版。とはいえTVの制限時間では放映しきれなかったことも多いので、こちらの方が情報量としては多いと思う。
大きく分けて3章に分かれる。
1.インドの知識労働者の台頭
秀才の集まるIIT、インドソフトウェア産業の代表格とも言えるインフォシス、IITを目指し自分の村を貧困から救おうとする若者の話、など。
このあたりは他の本でも多く触れられている部分で、最後のIIT予備校以外は大きな発見はなかった。
2.インドの中産階級の勃興
インドの中産階級が増えつつある実態を消費という観点から述べている。これはすでに大都市に限った話ではなく、地方都市にも波及している。消費社会を演出するものとしてスーパーマーケットのチェーンを紹介しているが、ここで中心になっているのがMBAを取得したエリートたち。今までインドの頭脳というとソフトウェアが中心に述べられてきたが、今やその範囲は多岐に渡っている。
3.政治大国化するインド
1998年のインドの核実験強行から約10年で、アメリカに事実上インドの核兵器保有を認めさせるというところまでたどり着いたインドのしたたか且つ強固な政治姿勢が述べられている。IAEAの査察が民生用核施設(原発)に限られ、軍事原子力施設には適用されないという。これはとりもなおさずインドの軍事原子力施設の容認を意味しているということになるそうである。
ここまでの交渉の流れだけでも一つの番組になりそうなくらい奥が深い。
基本的にはインドの将来の明るい可能性を肯定しているが、最後に現状の問題点が述べられている。不安定な内政の問題(過半数与党がなく、多数の政党による連立で一つの少数政党が抜けるだけで崩壊の可能性がある)、経済格差(特に農村)の問題が挙げられている。このあたりは政府はすでにかなり意識をしているらしく、今後の是正に期待したい。経済格差についてはインドの各企業も社会貢献として取り組んでいる。
現在のインドを知るための好著。ただし少し時間が経った後だとすでに状況が大きく変わっている可能性もあり。
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いや、マジ、衝撃。こんな厳しい環境で競争して、勝ち残った人材の力たるや、インドどころか世界をリードしていくのだろうな。
人材、消費力、生産力、全てが猛烈な勢いで伸びていく。縮んだままの日本はさらに縮んでそこそこ人口の多い消費地に成り下がる。止めたい。成長させたい。
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この本を 読んだ後、実際にインドのデリーとムンバイに行きました。
人の多さ、貧富の差、将来への可能性を感じた一方、古い慣習、カースト制度から抜け出せない現実を目のあたりにした。
インフラもしょっちゅう停電するなど脆弱。