紙の本
東京戦後三部作、開幕篇
2009/03/17 00:08
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「1977リッパー」等で知られるデイヴィッド・ピースの翻訳ミステリです、
と紹介するには、多少の語弊がありまして、本書洋書で出てそれを翻訳と言うスタイルでなく、
直接文芸春秋の編集部が、D・ピースにアプローチし、東京戦後三部作として執筆を依頼したそうです。
そう日本発の翻訳ミステリなのです。
1945年終戦の日、品川の軍需工場で女性の腐乱死体が発見されます。
その一年後、公園で発見される、二体の女性死体、、。
捜査は、難航するのですが、、、。
話の途中に挿入される主人公三波刑事の戦時中の軍隊時代の文章。
彼は、睡眠薬を闇市で買いあさり、多量に服用しています。
そして、意図的に隠されたり、強調されたりして描かれる描写。
王道のミステリというよりは、非常にテクニカルにミステリを描いています。
本書、何が、凄いって終戦後の正に混乱期の日本の描写が凄い。
権力の空白期、混乱期、物資の困窮、闇市でのヤクザの台頭、GHQのタブー、
公職追放に怯える警察官たち、さらに混乱に輪をかける復員兵たち。
本書の参考文献にも挙げられている、数年前の話題の本、ジョン・ダワーの「敗北を抱きしめて」も
かなり前に読んだのですが、内容的には、かなり失望しました。
日本人なら、ドラマや、小説、映画で多少なりとも知っている終戦時のエピソードを描いてあるだけで
日本の終戦時のころを全く知らなかった欧米人にとっては、新鮮だっただろうけれど、
個人的には、全然でした。逆に欧米人は、こんなことも知らなかったのかと逆の意味で驚きました。
が、本書は、違います。
ミステリというより、この混乱期の東京。著者得意のノイズ系描写(痛み、かゆみ、におい)
日本の描写に圧倒されました。
特に、警察官が、元軍人などの複雑な人員構成でなりたっていることや、上記した公職追放に
常に怯えている様子など、めちゃめちゃリアルでした。
ミステリというよりは、こっちのほうで、ポイントが高いかもしれません。
実在の連続殺人鬼小平義雄という人物に焦点を当てて書いててあるのですが、
逆に、ミステリとしては、ちょっと弱いかなぁ?と。
トリックとしては、これは、<ネタバレ>で描けないのですが、文学上よくあるテクニックで、
ずるいよ~の、一言。
それに、一人の刑事は、行方不明で全容解明には、いたっていません。
これは、3部作でおいおい語られていくのかもしれません。
予定として、2作目は、帝銀事件、3作目は、下山事件を描くそうです。
ミステリより小説としての完成度を重視する私としては、
まぁまぁ良かったのですが、ミステリとしてより、小説として
(文芸作品として)
すごい一冊でした。
投稿元:
レビューを見る
外国人作家が書く戦後の占領期日本を舞台に、小平事件をテーマにって、なんかすんごいなと思ったのですが、敗戦国・日本の有様をリアルに描かれていて荒れ果てた東京の街やそこに暮らす人々、風情が浮かんできます。
戦後の混乱や軍部、GHQ、警察機構、外国人達などが絡んだ複雑な時代背景はそれだけで胡散臭い禍々しい空気ですが、主人公の三波警部を含め、登場する人たちがみんな胡散臭くて誰も信用できない…まさに「自称通りの人間は誰もいない・・・」です。読み応え有りますが終始重たい気分にされました。
私はまんまと欺され、そして未だ本当のところどうなのか分からないので次作が待ち遠しのですが、最後の数ページの意表をつく展開など、映像化されたらとても面白い作品だと思いました。むしろ濃密なモノクロの海外ミステリー映画を見ているような感じさえしました。
やたらと「おじぎする」という言葉が出てくるところや「感謝の言葉を述べた」みたいな表現がなんかとなく外国人からの視点のような気がしないでもなく、当たり前だけど英語の文章を日本語に訳したような感じの文章(?)、やはりこれは海外作品だと思います。
そしてこれは第三部作のうち一部というから、もう次作が気になって仕方ありません。次は帝銀事件をテーマに、西刑事が一つの軸となって三波警部の謎解きも含め展開すると書かれておりました…とても気になります。
投稿元:
レビューを見る
ジャケットと帯につられて購入したが期待はずれ。翻訳文体が読みにくい。ストーリーも最後まで引き込まれない。キャラも際立たず。
投稿元:
レビューを見る
読了までには多くの忍耐力を必要とする。なにせ文体が壊れているのだ。普通にさくさくと読めるわけがない。映画のフラッシュバックを思わせる“意識の流れ”が、あちらこちらに埋め込まれているのだが、これが鬱陶しくてイライラした。結局最後まで慣れることはできず、この太字部分を避けて読むという無駄な作業に終始する羽目になった。
それでも予想以上に早く読めたのは、舞台設定が作者の筆致とよく合ったからだろう。そこら中に狂気を含んだ終戦直後の東京の描写は、素晴らしいと思う。そこに、起こるべくして起こった「小平事件」を軸にすることで、混乱と絶望がない交ぜになった作品のインパクトはより強大になる。
壊れた文体、破滅寸前の主人公等、ガタガタの道を運転してきてようやくゴールに辿り着く自信が持てた頃、ある仕掛けに気付く。が、悲しいかな、私にとっては不発のまま終わってしまった。解説を読んで理解できたものの、サプライズだと実感できるような余力はどこにも残っていなかった。それくらい疲れる一冊なのである。
投稿元:
レビューを見る
けして日本人には書けない小説だ。日本がアメリカに占領されていた時代の、暗い事件。
ここに関わってくるのは日本人だけではなく、中国人や朝鮮人もいる。米軍もいる。著者はイギリス人だから、堂々と当時の日本人ならこうだったはずだ、と中国人や朝鮮人を罵倒し、侮蔑の言葉を飛ばす。
京極夏彦が戦争前後の話を書くのとはまったく違う自由さがそこにあって、その上で史実と、フィクションを組み合わせて、当時の日本を描いている。
文体は私にはとても愛せるものではなかったけれど、この本は読ませた。力があった。何よりも、私たちはタブーをいろいろ持っていることがよくわかった。続編も期待している。
投稿元:
レビューを見る
1945年の8月15日、玉音放送を待つ、酷暑の東京から始まります。悪夢のような空襲の記憶に加えて殺伐とした連続殺人事件に、暗躍する闇市のボスや見え隠れするGHQ…
実在の殺人犯を題材に、周辺はこの時代なら確かにこうもあろうかと混乱ぶり。
読んでいるこっちもじょじょに神経参ってくるような書き方がくどいので、ちょっと閉口。文学的に評価されているようです。
投稿元:
レビューを見る
文体がかなり独特で、それが作者の持ち味なのかこの小説のために採ったスタイルなのかは知らないけれど、とにかくイライラさせられた。鬱陶しいというか。小説そのものよりもそのせいでなかなか読み進めなかったけれど、途中で慣れたというか諦めがついたというか、主人公が繰り返し独白する箇所を飛ばせばいいんだという、そういう心境に達すると割合さくさくと読めたかな。
投稿元:
レビューを見る
1945年8月15日
東京、品川の軍需工場で女性の腐乱死体が発見された。そして1年後に発見される第二、第三の死体・・敗戦を機に解き放たれた殺人鬼。それを追う警察もまた、その内部に大いなる秘密を隠し・・。
ひと言で言うと「難しい」。このミス三位だがミステリにしてはあまりに文芸的。泉鏡花の流儀で、ジェイムズ・エルロイやジム・トンプスンのようなノワールを書きたかったそうだが、成功しすぎてます。エルロイを読んだときのわけわかんなさを思い出しました。
でも文芸的だけあって、「占領期」という時代がどういうものだったか、「日本人の疲弊と戦争が日本人に植えつけた残虐性」が本当によく伝わってきます。お見事というほかありません。
最後はどんでん返しなのですが、解説を読むまで全くわかりませんでした。どんでん返しものとしてもう一度読み直すと結構面白かったです。
これは三部作の第一部みたいで、これから帝銀事件、下山事件扱った続編が出るようです。ちょっとしんどいけど読んでみようかと思います。
投稿元:
レビューを見る
著者はイギリス人だが、
1990 年代に、日本に移住されている。
ジェイムズ・エルロイのような、
京極夏彦のような、
泉鏡花のようなこの作品、
受け付けない人は数多くいると思う。
言葉が、文章が、
繰り返し、繰り返し、繰り返し描写される様は、
こちらまで目眩がしてくる。
本作は、「小平事件」をモチーフにした、
”東京三部作”の第一作目。
「帝銀事件」「下山事件」の第二、三作目が楽しみである。
巻末にある「参考文献」にも圧倒される。
投稿元:
レビューを見る
三点リーダとダッシュの多さが気になってしょうがない。
何か意図があるんだろうと思っていたが、その意図は最後までコレと言って腑に落ちるものはなかった。原文がこう、ってことだよね?
投稿元:
レビューを見る
『占領都市』が良かったので再読。
やっぱりこの禍々しさは尋常じゃないね。カルモチンを1錠、2錠…。不安定な語り口や、ちょっとした本格ミステリ的な仕掛けも効果的に活かした占領期の東京の濃密な描写は、そこに漂う腐臭までもが感じ取れそう。カルモチンを10錠、11錠……
投稿元:
レビューを見る
順序が逆になったが「占領都市」に続いて。
「占領都市」と較べると、「通常」の語り口であるため、じつにエルロイ感が強い。
しかし、「TOKYO YEAR ZERO」は、エルロイと比較して尚――
じつに禍々しい。
この禍々しさは、私が日本人だから、より感受してしまうのだろうか。
「私」。
いや。これは正確では、ない。
これは「私たち」の物語なのだ。
「小平事件」は表層にすぎない。
これは「私たち」の物語なのだ。
私の祖父母は、戦時中、神戸で暮らしていたのだが、空襲に遭い――
祖父の実家である――そして、私が現在住んでいる――
村に戻ってきた。
つまり、「私たち」は――
「TOKYO YEAR ZERO」の禍々しさの根源――
「戦争」を経験した者たちの子孫なのだ――
そう、我々は――
「死んだほうがよかった」という思考にフタをして、戦後を生き抜いた者達の子孫なのだ――
はたして「戦争」はこの国を変えたのか――
1945年8月15日を境にこの国は変わったのか――
はたして――
投稿元:
レビューを見る
小平事件を軸に、終戦直後占領下の日本で自らの出自を隠して生きる刑事を描くノワール。
やっぱりノワール苦手だ。
そして混沌と狂気を描いている文章をウゼェと思ってしまう感性の合わなさ。
キャラクタのwhyが見えてこないので、行動を受け入れられない。
評判が良い「占領都市」を読むために先にこちらに手を出したけど、先行きがかなーり不安だ。
投稿元:
レビューを見る
うううぅぅっ...自分のような読書偏差値の低い人間には
かなり、かなりの苦行の様な作品。
正直、投げ出そう...と何度思ったことか...。一度気持ちが
折れてしまってからは、ストーリーも、当時の背景、史実に
基づいた事件、日本の戦後がいかにカオスで、敗戦国という
ことをまざまざに認識させられる...とか...あまり考えられずに
文字をぼんやりと追う事で精一杯。
きっと玄人さんや、読書脳の偏差値の高い方なら、上手く
読みこなして、結構、印象深い作品になのでしょう。
ふぅ...つ、疲れた。
投稿元:
レビューを見る
読み易さは「占領都市」の方が上だが、悪夢的な叙事詩としてこちらは圧巻。
日本人であるだけで、思想信条に関わらずこの国の歴史と関わらざるを得ない私たちと立場を異にしている「外国人」だからこその、あけすけでドライな視点。
帝国の崩壊は美しき過去の消滅でも、新時代の幕開けでもない。それはあくまでも当事者日本人が追想する幻想でしかない。
デヴィッド・ピースはその崩壊と迎えた時代を、泥のような混沌だと喝破する。生きる事だけを剥き出しにして、欲望を剥き出しにして、悪事や忌み事が日の元に晒された年。鋳型に嵌っていた矛盾が粘液の様に沁み出た、どろどろのカオスこそが45年の東京であった。
デヴィッド・ピースは小平事件の顛末を通し、日本人が忘れようと願い続けて来たもの──汚く惨めな第三世界でしかない、汚物と死臭、そして焼け焦げた匂いが漂う、零年の東京を暴き出したのだろう。