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商品説明
白のスーツを身にまとう眉目秀麗な荒城咲之助、学ラン姿に近未来的な義手を持つ真野原玄志郎。二人の名探偵と、わたし殿島直紀が挑む雲上都市の謎。楽園の地下に潜む、座吾朗とは何者なのか?そして連続殺人に隠された真実とは?気障で美形の探偵&わらしべ義手探偵。二人の名探偵が織りなす抜群の物語性と、ラストに明かされる驚愕のトリック。第17回鮎川哲也賞受賞作。【「BOOK」データベースの商品解説】
【鮎川哲也賞(第17回)】白のスーツを身にまとう眉目秀麗な荒城咲之助と学ラン姿に近未来的な義手を持つ真野原玄志郎。2人の名探偵と弁護士・殿島直紀が挑む雲上都市の謎。楽園の地下に潜む座吾朗とは何者なのか? 連続殺人に隠された真実とは…?【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
山口 芳宏
- 略歴
- 〈山口芳宏〉1973年三重県生まれ。横浜国立大学工学部卒業。ゲームプランナー、シナリオライター。「雲上都市の大冒険」で第17回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。
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紙の本
東京創元社の本のカバーだけではなく近年のミステリのカバー画としてトップの出来ではないでしょうか。そんなナカムラノリユキの装画とイラストレーションに相応しい出来、と書いたら本末転倒?
2008/01/23 20:37
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸川乱歩賞受賞作は面白くない、というのがこの20年の私の評価です。その一方で、重要な作家を輩出しているのが鮎川哲也賞。といっても私が鮎川賞の面白さに気付き始めたのは最近のことで、長い間無視をしていました。この十年でいえば明らかにメフィスト賞作家のほうが、多彩で面白かった。
でも、そのかげで着々と実力を蓄えていたのが、鮎川賞作家でした。もう一つ鮎川賞作家には、他の推理作家賞作よりも恵まれた点があります。ブックデザインです。この十年の受賞作を並べれば歴然とするでしょう。センスのよさ、鮮やかさ、今を感じさせる若々しさ、こんな装幀で本を作ってもらえる、それだけでも鮎川賞作家は幸運です。その頂点に立つのがこの本、私はそう断言します。
ただし、それはナカムラノリユキの装画とイラストレーション、岩郷重力+WONDER WORKZ。の装幀の話。見ただけでワクワクします。この外見に内容がどこまでついていくのか、越えるのか、届かないのか、当然興味はそこに移っていきます。早速、カバーの案内に目を通しましょう。
鉄筋アパートが建ち並び、福利厚生の行き届いた雲上の楽園・四場浦鉱山。
その地下牢で、二十年後の脱獄と殺人を予告した怪人・座吾朗――。
ついに巻き起こる連続殺人。そして殺人現場に残された血文字の謎。
牢から一夜で消えた座吾朗が犯人なのか?
探偵たちが雲上都市で繰り広げる、新感覚の推理活劇。
衝撃の新鋭、堂々デビュー!
です。
舞台となる四場浦鉱山は、近くの松尾鉱山についで、日本で二番目の硫黄産出量を誇っています。鉱山が開いたのは1600年頃で、最初は銅鉱の採掘が主で、江戸時代後期に本格的な銅鉱山となります。そして大正後期から硫黄鉱山に移行し、昭和27年現在、鉱山労働従事者は5000人、家族などを含めると13000人以上の人々が、標高1000メートル以上の山中の町に住んでいるという設定です。
はやとちりな私は、「雲上都市」というのは、てっきりポール・スチュワート『崖の国』に出てくる浮遊する神聖都市サンクタフラクスのようなものだと思い、ファンタジック・ミステリかと思っていたのですが、さにあらず、でした。それは文章にも言えて、ファンタジーによくあるスカスカなものではありません。
実によく書き込まれていて、それが少しも鬱陶しくありません。ふと『三年坂 火の夢』で乱歩賞を取った早瀬乱を思ったのですが、早瀬は実際の歴史に基づいて時代を表現しているのに対し、山口は時代の再現を目指してはいないという違いがあります。更にいえば、山口にはユーモアがあります。それが人物造形にも現れていて、魅力にもなっていきます。
ただし、早瀬と比べれば格段に魅力的な登場人物たちですが、第0回メフィスト賞受賞者である京極夏彦のそれほど破格ではありません。そこが京極と同じ昭和27年を舞台にしても、一歩も二歩も及ばない感を抱かせるところ。でも、今後の活躍を予感させます。肝心の推理の部分ですが、これも早瀬よりは上、でも京極には及ばない。ま、京極の小説をトリックの完成度で評価するのは無理なのですが・・・
とはいえ、最近の乱歩賞作家に比べれば月とスッポンくらいの差がある完成度です。カバー画のレベルにあと一歩届かない、といった感はありますが、このボリュームを破綻無く読ませるのですから、立派なデビュー作といえるでしょう。あとは簡単に登場人物などを紹介しておきます。
話は、昭和七年十二月の場面を前振りに、二十年後の昭和二十七年十一月に移っていきます。一応、ワトソン役から書けば、殿島直紀がいます。横浜在住の弁護士で「私」です。事務所が四場浦鉱山と顧問契約を結んでいて、父の一雄も弁護士で、正造と知り合いだった関係から、鉱山に招かれます。
探偵役が二人います。ここらは京極夏彦の榎津と中禅寺の関係を思えばいいでしょう。多くの難事件を解決した探偵・荒城咲之助と義手の自称探偵・真野原玄志郎ですが、真野原の軽さはこの小説では異彩を放っている、といえます。逆に、足を引っ張っているともいえるので、今後は彼をどう扱うかが山口にとって大きな問題となる気がします。
次に四場浦鉱山のオーナー兼社長である三河正造がいますが、謎の人物・座吾朗と絡む以外はあまり存在感がありません。それは息子である正一郎にも言えます。むしろ存在感があるのが、社長秘書である羽田野祐子と、ワトソン殿島を翻弄する雑用をこなす鉱山職員・佐藤三恵子でしょう。
そして事件の中心にいるのが、鉱山の地下牢に閉じ込められている謎の男・座吾朗です。そして20年前の帝大生のとき、座吾朗の隣の牢屋に監禁されていたのが、恩田健夫で、現在は四場浦鉱山地下牢の看守になっています。かつて地下牢の看守をやっていた令子は現在、恩田の妻になっていて、現在37歳。ほかに今回の事件を担当する刑事・蓑田警部がいます。
繰り返しますが、どの登場人物たちもどこかで見かけたような造形で、凄さは感じませんが、上手に描き分けられイキイキとしてユーモアを感じさせるなど、魅力的です。舞台である鉱山の描写も上手いし、先が楽しみなのですが、時代性が希薄なのは今後の課題かもしれません。そういう意味で京極夏彦は凄いなあ、とつくづく思いました。無論、山口も立派ですが。