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商品説明
オーケストラ団員が、東京をまるごとジャック。奇想天外なアイディアと抜群のストーリーテリング。1978年「小説推理」誌上に発表されたのち、長い眠りに入っていた作品が、いま目覚める。【「BOOK」データベースの商品解説】
オーケストラ団員が、東京をまるごとジャック。奇想天外なアイディアと抜群のストーリーテリングを備えた冒険小説。1978年『小説推理』誌上に発表されたのち、30年の時を経て初の単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
山田 正紀
- 略歴
- 〈山田正紀〉1950年愛知県生まれ。「神狩り」でデビュー。「最後の敵」で第3回日本SF大賞を、「ミステリ・オペラ」で第2回本格ミステリ大賞および第55回日本推理作家協会賞をダブル受賞。
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紙の本
ちょっと風呂敷を広げすぎちゃったかな、という思いはあります。でも、案外歴史なんてこんなことで動くのかも。でも、どうしてこんな作品が眠っていた?
2007/12/27 20:15
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
1978年に「小説推理」誌に発表されていながら、今まで単行本化されることのなかった“ファン垂涎幻の作品”なんだそうです。読んで分りますが、30年という時間を全く感じさせないのが特徴です。出版社の内容紹介は「オーケストラ団員が、東京をまるごとジャックするという奇想天外かつ大胆なストーリー。頭脳プレイ重視、ゲーム性抜の冒険小説。」ですが、そのまま使えます。
カバーがいいです。ちょっと見にはCG風ですが、オブジェ 小川アリカ、撮影 アスフォートとあります。こんなオブジェだったら、身近に置いておきたいな、なんて思います。あ、勿論、中央にドーンとあるヤバそうなものではなくて、あくまでお人形のほうです。アメリカ人や九州の暴力団員じゃないから、武器はいりませんて。そんな装幀は、多田和博。今回は、お上手・・・
舞台は東京で、時代的には近未来でも、現在でも、執筆当時の30年前でも少しも変わらない気がします。それとハイジャック犯狙撃に対しての日本人の世論、特に乗客に対しての「自分の勝手で海外旅行している乗客を莫大な国費を費やしてまで救う必要はない」という新聞に出た論がありますが、思い出しますよね、ついこの間の事件と世論。
ま、ここでいうべきことではないのですが、日本人のガキレベルの知識と暴論ていうのは、日清日露戦争以来全く変わっていません。北朝鮮の拉致問題にしたって、自分たちが戦前行ったことは全くの棚上げにして、天皇の責任や戦犯問題、はたまた沖縄戦での帝国軍人の横暴まで無かったことにしよう、そうしないのは自虐史観だ、って言うんだから呆れます。
従軍慰安婦問題だって、世界中から非難されても馬耳東風。何がなんでも北朝鮮の拉致問題、なんですからね。領海近辺での油田開発だって、自分ではなにもしないでおいて、他国が動き始めれば抗議ばかり。そんなにほしけりゃまず自分で開発しろって。こんな無反省で欲深な国民には、尖閣諸島の領有や北方領土返還を唱える権利なんかあるもんですか。
閑話休題、暴走自粛。
まず、状況としてM交響楽団の経営危機があります。大手商事会社の二代目社長の道楽と税金対策でスポンサーになったことで潤沢な資金を持つ新興の楽団でしたが、指揮者が楽団禁忌とされる『ウィリアム・テル序曲』を演奏した直後、商社は倒産し、楽団も解散の憂き目にあっています。
で、生活のためにというか楽団の自主運営のために楽団員がはじめたのが犯罪です。後ろ暗いところがあって、恐喝されたり盗まれたりしても表に出せないお金、例えば政治家がソビエト共産党からもらっていたお金とか、防衛庁の事務次官が商社にたかった賄賂とか、暴力団が資金源にしている薬物の売上とか。
ま、その犯罪を暴いて世のためにしよう、なんていう高潔な気持ちは全くありません。そこが弱いというか、この小説の後味の悪さにつながりはするのですが、それはヤクザがつけるインネンみたいなもので、ムシしてもらっては困りますが、話を楽しむにはあまり差し支えはありません。
そんな犯罪者たちを率いるのが、団員の反対を無視して不吉な曲を演奏することを決めた中条茂、M交響楽団の指揮者です。で、彼に操られるのが、M交響楽団の第一バイオリン・第一奏者でコンサート・マスターの片桐寛、M交響楽団の打楽器奏者で地方の名家の三男坊の米田修二、音大を卒業しM交響楽団にはいったばかり、楽天家の若菜暁、M交響楽団のマネージャーの太宰尚人などです。これが小悪人グループ。
それに対して、全く別の集団がいます。日本の諜報機関(内閣調査室、公安調査庁、陸幕二部別室)のセクト主義では、危機管理ができないと思い、首都での事件を利用して新たな組織を作ろうとする男たちです。そのアイデアを持ちかけたのが公職についたことのない政界の黒幕の神馬康世で、彼の秘書というのが水沢佐知子です。
その話に乗ったのが、元警視庁公安局長、総理府内閣広報室、内閣調査室勤務、現在法務大臣の右腕といわれる嵯峨公一郎で、彼が実行部隊の責任者に据えたのが、公安第一課の元課長で、当時の身分は警視、移籍を命じられた時点では、警視正の地位を約束されているものの、移籍先は未定という、複雑な状況にある30歳の状元紀彦で、その部下というのが警視庁警備局外事課の課員の伊沢脩です。
この二つの集団が争うようになる、そのきっかけとなるのが、犯罪を成功させて悦に入っている中条茂のもとにかかってきた脅迫電話です。あとは読んでもらいましょう。山田正紀がデビューして、その天才ぶりがSF界だけではなく一般にも知れ渡り始めた時代、「小説推理」1978年1~2月号に連載されたまま封印されていた作品が、時代をまったく感じさせない姿で眼を覚ましました。
読んで一つ不満があるとすれば、たかだかそんなことで大げさ過ぎない?っていう事件の大きさと、最後に分る謎の人間の動機の卑小さでしょうか。これなら、真面目な冒険小説のスタイルよりは、筒井康隆先生の得意なスラプスティックで日本の官僚の愚かさを笑い飛ばすほうが似合ったのかな、って。最後にデータ篇。
目次
プロローグ
第一楽章 ソナタ形式
第二楽章 変奏曲形式
第三楽章 ロンド形式
エピローグ
あとがき
解説 日下三蔵