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- カテゴリ:小学生
- 発売日:2007/09/01
- 出版社: あすなろ書房
- サイズ:27cm/46p
- 利用対象:小学生
- ISBN:978-4-7515-2503-6
紙の本
スノーグース
著者 ポール・ギャリコ (著),アンジェラ・バレット (絵),片岡 しのぶ (訳)
イギリス南東部の水辺の地に、一人暮らす風変わりな画家ラヤダー。彼が愛するのは、絵と自然、そして水辺にやってくる渡り鳥だけだった。しかし、ある日…。【「BOOK」データベー...
スノーグース
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商品説明
イギリス南東部の水辺の地に、一人暮らす風変わりな画家ラヤダー。彼が愛するのは、絵と自然、そして水辺にやってくる渡り鳥だけだった。しかし、ある日…。【「BOOK」データベースの商品解説】
【O・ヘンリー賞(1941年)】イギリス南東部の水辺の地にひとり暮らす風変わりな画家ラヤダー。彼が愛するのは、絵と自然、そして水辺にやってくる渡り鳥だけだった。しかし、ある日…。海に散った男と彼を待つ少女の叶うことのなかった恋の物語。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
ポール・ギャリコ
- 略歴
- 〈ポール・ギャリコ〉1897〜1976年。ニューヨーク生まれ。コロンビア大学卒業。デイリーニューズ社でスポーツ担当記者として活躍した後、イギリスに渡り、創作活動に専念。作品に「雪のひとひら」など。
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紙の本
スノーグースの羽ばたく音、啼く声が今も聞こえてくるようです…。
2010/06/30 14:25
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:wildflower - この投稿者のレビュー一覧を見る
ポール・ギャリコの『スノーグース』は1941年のO・ヘンリー賞受賞作です。70年前の作品なのかと改めて思わされるほど、瑞々しくて美しい作品です。
最初、ギャリコといえば『雪のひとひら』と暗記項目のようにおぼえていただけでした。書評仲間のmarekuroさんに、ギャリコは好いよ~と勧めてくださったものの中から、この作品をたまたま絵本で読み、最初にぎゅっと掴まれてしまったのが、本作です。
『白雁物語』というタイトルで偕成社文庫からも子ども向けの作品が出ていますし、小説は新潮文庫版が有名でしょうか。本作は絵本版です。
アンジェラ・バレット(Angela Barrett)さんはイギリスの画家さんで、ジャンヌダルクやアンネ・フランクの絵本も描いています。静かな、それでいて深みを感じさせる彼女の絵の細やかさがあったからこそ主役のスノーグースの姿は後半にかけてのびやかで雄弁ですし、おどおどとして冴えない少女として登場する(表紙絵がそうです。)フリサも、次第に芯のつよい女性になっていく成長の様子がよく伝わってきます。
翻訳は片岡しのぶさん。70年の歳月を感じさせないやさしい訳です。
イギリス南東部の水辺にひっそりと住んでいたひとりの男、ラヤダーと少女フリスの出逢いのきっかけは一羽の傷を負ったスノーグースでした。冒頭、うら淋しい湿地帯のようすと野鳥たちの訪れる自然ゆたかな場が描かれています。人の訪れることの少ない土地に、あるとき背のまがった青年がやってきて移り住み、孤独と野鳥とを友として絵を描いてくらしていたことが、静かに語られていきます。寂寥感たっぷりの浜の様子を眺めるうちに追憶に誘われるように、この物語の核であるラヤダーとフリス、スノーグースの物語へと移っていくまでの語りのなめらかさが見事です。
さかのぼること約10年。青年ラヤダーは27歳。画家の繊細な心と優しさ、強さを併せ持つ彼は、その風貌が「背中にこぶがあるばかりでなく、左の手首から先が鳥の足のように細く折れまがっていた」風貌があったゆえに、「心にどれほど温かいものをもっていようが、応えてくれるものがない。」また、世の中のことに他の男たちとおなじかかわりかたができないとさとった彼は、そんなわけでただひとり、人里離れた湿地帯と無人の灯台を栖として暮らすことを選んだのでした。
湿地帯を水鳥保護地とし、絵を描いたりヨットで行き来したりして3年ほどを過ごすうち、鳥撃ちにやられた一羽のスノーグースを抱えたひとりの少女がある日彼のもとを訪れます。まだ12歳ごろと幼くやせて汚れたみなりで怯えた様子のサクソン人の少女フリス。怖れながらラヤダーのもとに怪我のスノーグースを治しに訪れた彼女は、次第にラヤダーからスノーグースの生活や生態について教わるにつれ、野鳥が人に慣れていくようなぎこちなさで、少しずつ彼と親しむようになります。
スノーグースは渡り鳥、それゆえにいつか越冬するために旅立つ日が来ます。その旅立ちと同じくして少女も来なくなる。スノーグースがフリスの化身のように思え、淋しさを憶えるラヤダー。次第にゆるやかに時は流れ、スノーグースが戻ってくるとフリスへと便りを出し再会する、という数年間が過ぎ去ります。
やがて10年が経ち次第に戦禍が激しくなっていきますが、フリスやラヤダーたちのいる湿地帯はまだわずかに穏やかさを保っていました。次第に美しい女性に成長していくフリスとラヤダーの間にほのかな想いが生まれつつありましたが、その様子ははっきりとは意識されないままです。いよいよ野鳥たちが去っていくとき、一羽だけ残ったスノーグースに淡い想いを託すラヤダーでしたが、その想いは受け止められることなく途切れてしまいます。
失意もあってでしょうか、3週間後のラヤダーはある決心をしていました。それは激戦区ダンケルクに向けてヨット一つで傷つき困り果てた兵士たちを救い出すために向かうこと。一人前の男として役に立てることが自分にもあるというラヤダーの強い思いは、再会したフリスとともに安寧に留まるよりも、たとえ死を賭してでも叶えたかった悲願となって彼を動かしていくのです。
ラヤダーとフリスの淡い恋心とすれ違い、男としてのラヤダーが遂げた想いとが交錯するラストが圧巻です。p36-37ページ見開きの絵、そしてラストのp47のモノトーンの絵がそれを見事にあらわしています。スノーグースの鳴き声、白いつばさは作品を読み終えたあとでも、いつまでも目にみえるように、聞こえてくるように思えてきます。
これは戦時のさなかに、ほぼ同時進行に近いかたちで書かれた作品です。連載当時1940年の「サタデー・イブニング・ポスト」に連載されたものを小説としてまとめたのが本作ですが、通称「ダンケルクの闘い」と称されるフランス軍とドイツ軍との戦いは、現実に1940年の5月から6月にかけて第二次世界大戦前夜、ドーバー海峡の付近で起こった苛烈な戦闘でした。作者ギャリコは美しく淡い恋物語を描きつつ、その背景に起こっていた戦のさまも冷静なまなざしで描ききっています。この作品がアメリカのみならず世界中の読者の胸を打ち、ギャリコの作家としての存在感を伝えた記念碑的な作品となったのも当然と思われます。
作者の戦時の世相をうつしたジャーナリスト魂を感じられる作品としては、ユーモアを交えた童話風な冒険活劇『ハイラム・ホリデーの大冒険(上)・(下)』もあります。そうした歴史的な要素にもし興味を持たれたなら併せて読まれることをお勧めします。