紙の本
謙虚な執筆が好感を呼ぶ好著
2008/04/16 00:55
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
FRB議長と言えば、世界中の金融関係者がその発言に常に注目するほど大きな存在だ。アラン・グリーンスパンはその要職を18年半も務めた。米国大統領よりもメディアで見かけることが多い職務を果たし終えて、出した回顧録が本書である。出版当時から話題を集めた本書であるが、期待を裏切らなかった。
ただし、読者の多くが期待するようなFRBの舵取りの成果を誇るような記述は少ない。下巻では、むしろ俯瞰的な目で、淡々と米国経済や世界経済を眺めている。自分の仕事の成果をほめあげるようなことはしない。
米国では、自分の実際の能力以上にアピールしないと生き残っていけないとはよく言われることであるが、本当の頂上を極めた人はいたって謙虚である。グリーンスパンもそのひとりだろう。
本書では、米国経済についての記述が当然多くなるが、中国、インド、ロシアといった、急激な経済成長を遂げている国についての分析が鋭い。FRB前議長が、こうした国の内情に精通しているのは当然なのかもしれないが、その肩書きを考えれば、傾聴に値するものがある。
3カ国とも市場経済に参入してきたおかげで、世界経済に好影響を与えているが、各国の弱点に言及することも忘れない。中国では農村部から都市部への人口移動の制限、インドは民主主義と言いながら官僚的手続きが極めて煩瑣であること、ロシアはエネルギー部門をどんどん国有化していってしまったことなど。
グリーンスパンが一貫して述べているのは、市場による調整、古い言葉を用いれば「神の見えざる手」への全幅の信頼である。市場に任せれば、少々の揺らぎもやがては収まり、自立的な回復に向かうとしている。
もっとも、本書が印刷に回されたあとにサブプライムローン問題が表面化しているので、これについてもあてはまるかどうか定かでない。しかし、ここ数十年ではなく、もっと長期的視野で世界経済を見たとき、規制の少ない国ほど、経済的に成功を収めており、その筆頭は米国ということになる。
規制をとき、自由に競争できるようにすれば、全体としては発展を遂げることを繰り返し例証している。
ただし、グリーンスパンの目には経済成長にともなう影の部分へのまなざしが弱いと感じられる。米国には目をつむりたくなるような影の部分がついて回るものだ。職務上、大局的な動きをとらえることにとどまるのはやむを得ないかもしれないが・・・。
それにしても、FRBが果たせる役割の範囲は狭いという書きぶりは、FRBに寄せる期待の大きさからすれば、読者を驚かせるものがある。それほどに、今日の世界経済は肥大化し、流動性資金が巨額になっているのだ。日本や中国が大量に米国債売却する事態になっても一時的な影響にとどまる、という見方にはあっけにとられてしまう。つまるところ、米国が規制のない、自由競争で、法の支配の行き届いた国である限り、代わりの買い手は現れるという見方である。
これほど、市場の調整能力に信頼を寄せてしまうとFRBの出る幕はなさそうに思えるが、グリーンスパンによれば、インフレ懸念が生じたときの金融引き締めはやらなくてはならいという。議会を説得できなければ、ポピュリズム勢力によって、金利引き下げの圧力、いや恫喝さえ起きてくる。これだけはFRBでなくしてはできないという。経済成長に悪影響を及ぼすのはなんといってもインフレだという確認が出来る。
FRBの力に限りがあるとすれば、可能な限りオーラをまとい自分を大きく見せる以外にFRBの力の行使はない。在任中、明瞭でない議会証言から、解釈が判然とせず、みんな魔法にかかったようになっていたが、そうしなくては、FRBへの信頼が失墜したのだ。「マエストロ(名指揮者)」とは、自分の実際の発言以上に、効果を持たせた議長への絶妙な描写であろう。
議長職を退任しての、本書での歯切れの良さは、読者に意外な感じを与える。イラク戦争が石油に関わる戦争であるとした箇所は、米国でも物議を醸したようだ。もともとこれだけ透徹した目を持っていた人である。本質をずばり見抜いていても不思議ではない。最終章の、未来を占うところだけでも読む価値ありの書であろう。
ちなみに日本に関する記述はわずかしかない。ほとんど存在感がないのである。それが実情である。
それにしても、注目の分厚い書ながらすらすら読むことができた。
紙の本
より良い社会を求めるための実験は続けなくてはならないだろう
2009/02/06 22:49
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
上巻の回顧録調から打って変わって、下巻では著者から見た世界経済の現在と未来が語られている。まずは日本や欧州、中南米など、世界経済のキーとなるような国の経済政策のこれまでの傾向について語り、エネルギー問題や高齢化問題など、今後の世界経済の大きな課題の原因を、新自由主義的な視点から分析している。日本の経済政策に対する分析や、アメリカの教育問題に関する分析など、かなり率直に思ったことを語っているように見受けられる。
ただ、大きな課題設定としては適切だとは思うのだが、その解決は全て新自由主義によるのが適切だと言う単純さは、心霊現象の原因は全てプラズマだ、という思想に似た危うさを感じる。確かに、経済は市場を無視して成立するものではないが、市場は非常に大きな力には容易に屈するものである。市場はその過程において正しいかもしれないけれど、結果が最善とは限らないと思う。
物理学では、古典力学で大きな物体の動きが説明できるようになり、量子力学により非常に小さな物体の動きが確率論的に予測できるようになった。そして古典力学は量子力学の近似として説明できることも分かった。つまり、非常に小さな原子の動きも、それが寄り集まって出来た星の動きも、根本的には同じ理論で説明できるわけだ。この理由の一つは、同じ種類の原子は全く同じ性質を持つことにあると思う。つまり、どの原子を選んでも、種類が同じならば挙動は同じなのだ。
一方、経済学は人間の行動を予測する学問だ。そして経済の構成要素たる人間はそれぞれ異なる。このことが予測を難しくしている。確かに大部分の人は同じ状況では同じように行動を取るかもしれない。しかし、他人より儲けようと思い実行できる人は他人と違う行動を取る。これが経済学が理論として完成し得ない理由の気がする。
さらに問題なのは、大金持ちの経済に対する影響力は、普通の人たちの経済行動をほとんど無視できるほど大きいということだろう。こう考えると、経済における人の集団は必ずしも均質とはいえず、寡数の大資本家の影響によって左右されることもありうるだろう。だから、市場が全体にとって最善の結果をもたらすわけではないと思うのだ。
市場は確かに正しい。しかし、正しくない行動をする人にも最良の結果をもたらすために、より良い経済政策のあり方を探す姿勢は失わない方が良いだろう。
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自身の経験から予測する今後の世界経済と米国の地位についての記述が中心。
上巻同様金利の動向に注意を払っているところがデフレ時代に生きたものとしては
新鮮な視点だった。
キーワード「オランダ病」
米国の保険制度、中等教育の貧困は懸念されるが逆に言えばそれくらいしか弱みがない。
民主主義が新自由主義にNOを突きつける可能性を低く見すぎている。
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経済を安定的に成長させるには、インフレを抑え、物価を安定させることが必要。
政府が市場を規制することで、健全な成長が妨げられる。
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下巻は、50年に及ぶ筆者のエコノミストとしての「学習」から得た
知見について述べられている。
資本主義経済が如何に優れたシステムであるか、
経済のみでなく社会全体の不均衡状態に対して如何にこのシステムが
「神の見えざる手」によって調整されるのか?
FRB議長という行政部門にありながら、彼が政府の力でなく市場の力
をより信頼していることが読み取れる。
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さてさて、FRBの元議長のアラン・グリーンスパンの本の
紹介です。
知らない人のためにいくつか解説を入れます。
FRB=アメリカの中央銀行です。英語ではFEDっていう事が多いような印象です。
グリーンスパン=マエストロ(名指揮者、巨匠)と呼ばれ、その一言一言が
経済を動かすと言われていた方です。
そんなグリーンスパンさんが議長を退いてから
経済やその他の事に関して振り返っています。
英語の本の訳って適当な事が多くてあまり好きでは
ないことが多いのですが、この本は訳がまずよかったですね。
それと、大統領と議会の関係、大統領の気質、その他
政治的なものの経済に与える影響から
その他もろもろのところまで非常に詳しく説明が
あって良かったと思っています。
金融に興味がある人、金融業界に進む人一回読んでみると
良いと思います。重いけどw
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世界経済の司令塔として活躍したグリーンスパン前FRB議長が、資本主義や金利についての「哲学」をあますところなく述べる。また、中国の未来、広がる格差、エネルギー危機など重要なテーマを論じ、今後の世界を予測する。(TRC MARCより)
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「オランダ病」:天然資源が豊富でその輸出に頼っていると、その国の通貨が強くなり他の輸出産業は競争力が低下して経済発展が進まない。
フェビアン協会:資本主義の破壊ではなく抑制を目標にして社会民主主義の基礎を築いた。
オランダ病への処方箋:自国通貨を売って外国通貨を買い、市場主導による自国通貨の上昇に対抗する。しかし、これによりマネタリー・ベースが拡大 しそのために通貨供給量の伸び率が上昇してインフレリスクが高まる。
経済的ポピュリズム:第二次大戦後、ブラジルやアルゼンチン、チリ、ペルーで何度も失敗を重ねてきたが、新世代の指導者は歴史から学ばず引き続き ポピュリズム的な単純な解決策に訴えようとしている。
市場機能:個々の市場は複雑に絡み合っているため、ひとつの不均衡を封じ込めると意図せず別の不均衡を次々と引き起こすことになる。 例)ガソリン価格に上限を設ければ供給が不足し長蛇の列ができる。
所得集中の主因:イノベーションと競争の急速な拡大による。技術の進歩に適応できる人材の供給が不足して、スキルの低い人材に対して相対的に上昇 した。
イノベーションのペース:生産性の伸び率は価格の下落率に反映される。つまり、ハイテク製品価格の下落のペースが鈍化しているのは先端技術を応用して生産性の伸びを加速する機会が低下していることを表す。
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難しい。再読しないと。
今後の世界経済・金融市場についての分析。
2030年、世界各国はどうなっているのか?
今、何をしないといけないのか?
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おすすめ度:90点
世界経済の司令塔として活躍したグリーンスパン前FRB議長の初の著作の下巻。
本書では、「新しいグローバル経済を理解するための概念的な枠組み」を提示している。
啓蒙主義者による資本主義の思想の確立から、現代の経済に関する主要な論点をつぎつぎに取り上げている。
特に興味深かったのは「第25章 未来を占う」。
現在の金融市場は、「世界中がネットワークで結ばれ、24時間の取引が可能になるなかで、派生商品やCDO(債務担保証券)などの複雑な商品が増えて、金融商品、地理、時間の枠を超えてリスクを分散できるようになった」と論じているのは注目される。
「(金融市場が麻痺した時期は例外として)市場は、どの時間にもどの日にもスムーズに調整」され、「アダム・スミスの言葉を借りれば『国際的な見えざる手』に導かれているようだ」という。
そして、「市場は巨大化し、複雑になり、動きが速くなっているので、二十世紀型の監督や規制では対応できなくなっている。」「とりわけ優秀な市場参加者ですら、その全貌を理解できない」とする。
そこで、氏は「危機を防ぐためにもっとも有効な対策は、最大限に市場の柔軟性を維持すること」「主要な市場参加者が自由に動けるようにすることである」と論じている。
ジョン・ロックなどの啓蒙思想、アダム・スミスらが発見した人間行動の基本原理は、いまなお市場の生産的な力の働きを司っているのである。
「財産権や個人の権利が効率的に保護されていれば、不確実性が低下し、物質的な豊かさをもたしうるリスク・テークと行動を取る余地が大きくなる。」
「自由市場、財産権、法の支配の拡大が、経済的豊かさにつながらなかった例や、中央計画の強化よって経済的豊かさが増した例は見当たらない。
しかしながら、繁栄を持続するには、法の支配は必要条件であっても十分条件ではない。
文化や教育、地理がそれぞれに重要な役割を果たす。」
資本主義は文字通り「主義」である。資本主義は経済に関する事実である以上に、追求すべき理想なのだ。
そして、「その根源は人間の重要な側面にある」のである。
グリーンスパン氏が将来に対して極めて楽観的なのは、「適応力こそが、人間の本性であり、」「この事実があるからこそ」だといえる。
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訳者がいいのか、この手の本としてはかなり読みやすい方だと思う。
FRB議長を長年務めたグリーンスパンの回顧録。
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下巻は米国を中心とした世界経済の現状と今後の分析に充てられている。目立つのは「創造的破壊」という単語の頻出ぶりで、本人も認めるようにある程度荒々しい、自由な資本主義を信奉しているためなのかもしれない。こうした世界では陳腐化してリターンの低い資本がリターンの高い先端技術に投資されなおすことで社会が発展してゆく。賃金統制や物価統制などの介入は歪みをもたらすだけだとして忌避している。米国の負債が多いことについてはよく議論のまとになっているが、これは金融の発達により、リスクを高めることなく負債を増やせるようになったためで、資産も同じように増加している限りは心配ないという。むしろリスクプレミアムが低くなっていることの方を懸念しているようだが???原油については価格の高騰とは言っても、先物の買いであり、これはまだ産出されていない原油の所有者が先進国に移っただけだとしてあまり危険視していないようだ。インフレはもはや世界的に見られなくなってきており、これは東側諸国をはじめとする新たな労働力の供給による部分が大きい経済の舵取りをする者としては、低インフレ率こそが持続的な成長、繁栄を約束するという信念に基づいて行動しており、目先の景気のために利下げを望む政府とは全く意見が異なる。このへんは日本の状況も同じで、FRBに対してもやはり議会からの圧力は強いそうだ今後については労働時間の伸びが0.5%、生産性が2%弱で実質成長率は2.5% 程度というのが先進国の成長率の限界であろう。インフレ圧力、ポピュリズムの台頭が予想され、FRBがこれに(必要な利上げで?)対処しきれない場合、国債の利回りは2030年には二桁をうかがう展開になるだろう。また、リスク・スプレッドと株式のプレミアムは大幅に拡大し、株の利回りは大幅に高まり、不動産市況は低下する。■市場はウォール街でいう「安眠できる水準」を超えて保有株の時価が変動するのに耐えようとする者に対して、プレミアムを支払う。
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上巻の回顧録調から打って変わって、下巻では著者から見た世界経済の現在と未来が語られている。まずは日本や欧州、中南米など、世界経済のキーとなるような国の経済政策のこれまでの傾向について語り、エネルギー問題や高齢化問題など、今後の世界経済の大きな課題の原因を、新自由主義的な視点から分析している。日本の経済政策に対する分析や、アメリカの教育問題に関する分析など、かなり率直に思ったことを語っているように見受けられる。
ただ、大きな課題設定としては適切だとは思うのだが、その解決は全て新自由主義によるのが適切だと言う単純さは、心霊現象の原因は全てプラズマだ、という思想に似た危うさを感じる。確かに、経済は市場を無視して成立するものではないが、市場は非常に大きな力には容易に屈するものである。市場はその過程において正しいかもしれないけれど、結果が最善とは限らないと思う。
物理学では、古典力学で大きな物体の動きが説明できるようになり、量子力学により非常に小さな物体の動きが確率論的に予測できるようになった。そして古典力学は量子力学の近似として説明できることも分かった。つまり、非常に小さな原子の動きも、それが寄り集まって出来た星の動きも、根本的には同じ理論で説明できるわけだ。この理由の一つは、同じ種類の原子は全く同じ性質を持つことにあると思う。つまり、どの原子を選んでも、種類が同じならば挙動は同じなのだ。
一方、経済学は人間の行動を予測する学問だ。そして経済の構成要素たる人間はそれぞれ異なる。このことが予測を難しくしている。確かに大部分の人は同じ状況では同じように行動を取るかもしれない。しかし、他人より儲けようと思い実行できる人は他人と違う行動を取る。これが経済学が理論として完成し得ない理由の気がする。
さらに問題なのは、大金持ちの経済に対する影響力は、普通の人たちの経済行動をほとんど無視できるほど大きいということだろう。こう考えると、経済における人の集団は必ずしも均質とはいえず、寡数の大資本家の影響によって左右されることもありうるだろう。だから、市場が全体にとって最善の結果をもたらすわけではないと思うのだ。
市場は確かに正しい。しかし、正しくない行動をする人にも最良の結果をもたらすために、より良い経済政策のあり方を探す姿勢は失わない方が良いだろう。
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これを自伝とするべきかは難しい。各地域・国の経済・社会の分析はためになるが、やはり経済危機を招いた認識ではあるだろう。
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中央計画経済(社会主義)もはや経済体制として信頼できない。かたや、自由主義型の資本主義経済がグローバル化して勝利したとも到底いえない。たとえ物質的な豊かさが向上し、過去二世紀において6倍に増えた地球の人口を支えられるようになったとしても、資本主義は依然として受け入れがたいものがある。
資本主義は安定や確実性を求める人間の欲求と衝突する。また資本主義の成果の配分は不公平だと感じ、競争においての原動力は人々に不安を呼び起こす。不安を感じる要因のひとつには、常に失業する恐れがつきまとうことにある。競争により現状、生活様式が大きく変化することで心地よさが奪われることにある(参照P26~)