「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
明治36年、できたばかりの東京・日比谷公園で開かれる「公園裁判」。謎の“原告”に、ミッション・スクール同窓の5人の“被告”。その一人・元屋夏雄の妻は、夫の過去を尋ねて、彼らの青春時代を辿っていく。【「BOOK」データベースの商品解説】
明治26年の雨の夜、澤田夫婦は忽然と消えた。その10年後、当時の教え子・元屋夏雄に届いた葉書には、「公園裁判が開かれます」と書かれていた。裁かれる事件は何なのか? あの頃、何があったのか?【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
早瀬 乱
- 略歴
- 〈早瀬乱〉1963年大阪府生まれ。法政大学文学部英文学科卒業。「レテの支流」で日本ホラー小説大賞長編賞佳作、「三年坂 火の夢」で江戸川乱歩賞を受賞。他の著書に「サロメ後継」がある。
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
時代の雰囲気以外はなにもない、って云う感じ。魅力ある人間を出してよ!
2007/12/19 19:36
5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸川乱歩賞受賞『三年坂 火の夢』が結構読めたんで、あっさり手を出したんですが、物語としては受賞作のほうが面白かったかな、とは思います。基本的に、この人には魅力的な人物造形っていうのは無理かな、とも思うんです。そのかわり、といってはなんですが、時代の雰囲気といったものの描き方はたいしたもの。最近の乱歩賞作家には珍しい。むしろ松本清張賞のほうが合っていたんじゃないか、なんて思います。
時代は明治36年、できたばかりの東京・日比谷公園で開かれるという「公園裁判」、そこに被告として招かれたのが元屋夏雄、高嶋富三郎、隈野礼次郎、田部猪一郎、横川鷹彦の5人です。彼らに全く心当たりが無い、という設定もあるのでしょうが、不器用な早瀬は、そういった選択をしませんでした。
まず、5人、夏雄、富三郎、礼次郎、猪一郎、鷹彦は10年前、同じミッション・スクールに行っていました。そして同じ女性に想いを寄せていたのです。その相手というのが澤田リョウ、彼らの学校の講師であった澤田伸太郎の妻です。そして心当たり、というのが、10年前に澤田夫妻が失踪しているということ。
元屋夏雄はすでに結婚していますが、彼はその「公園裁判」のことも含めて妻であるナツに語ろうとはしません。彼女は夫が書いたし小説を元に、過去に何があったかを探るのですが・・・
出版社の案内には
謎の“原告”に、ミッション・スクール同窓の5人の“被告”。
その1人・元屋夏雄の妻は、夫の過去を尋ねて、彼らの青春時代を辿っていく。
キーパーソン高橋鍍金が、再び登場。
とあります。キーパーソン高橋鍍金、それって誰?と思います。相変わらず、時代の雰囲気はよく出ています。そして前作同様、魅力的な人間が登場しません。無論、印象的な人間はいます。でも、総じて登場人物たちの暗さ、身勝手さが心に残るだけで、好ましいとはとても言えません。夏雄もですが、本来同情されるはずのセツですら、かわいそう、という感じではない。
謎もですが解決篇も安直。告発ですら、とってつけたよう。主人公たちに正義が感じられない、それがいけないのでしょう。『三年坂 火の夢』もそうでした。明治時代はいやな暗い時代でした。江戸時代にはない冥さがあった。それだけが伝わって来ます。司馬遼太郎の薩長ヨイショではないだけマシではありますが、山田風太郎の明治ものの切れ味には及びもつかない。時代だけ書けたって、肝心の人間や物語が面白くないとねえ・・・
以下データ篇です。
目次ですが
無名氏による序文「日本の公園小史」
序 章 澤田氏の追憶
第一章 セツの日記
第二章 夏雄の私小説
第三章 セツの裁判記録1
第四章 夏雄の手紙
第五章 セツの裁判記録2
終 章 元屋家の今
となっています。簡単な登場人物メモをつけておけば
澤田伸太郎:「恋愛論」で一躍名をあげた詩人。学校の講師などをするが明治26年には結婚生活同様、破綻をきたしていて、妻と失踪。
澤田リョウ:伸太郎の妻で、夫より四つ年下。商家の娘。明治24年に駆け落ち同然で結婚。失踪前後には単なる浮気妻と化していた感があります。
真下史郎:戦前戦後どころか今も日本の運動部などによくいるタイプの軍人。
真下良和:「公園裁判」の原告だそうですが、影は薄いです。
元屋夏雄:商事会社勤務の文学青年。
セツ:夏雄の妻で、結婚して五年になります。長男 秋輔、次男 冬樹と二人の子供の母親。
モト:セツの女学校時代からの友人。
高嶋富三郎:通称トミー。アメリカ帰りの日本人で、夏雄たちの学校に入学してきます。
隈野礼次郎:今は出版社に勤務していますが、影は薄いです。
田部猪一郎:政治家志望で、一時は秘書なども勤めたそうです。
横川鷹彦:ミッション系の学校を出て、今は牧師。でも存在感はありません。
早瀬は以上の人たちをメインに置きましたが、印象に残ったのはナツの友人・トモではないでしょうか。ナツは現在の自分の人生に不満タラタラで、何かというと金持ちであるトモに頼っていきます。でも、プライドだけは高くて、心のそこでトモを軽蔑しています。そんな厭な女を友だちとして受け入れているトモ、彼女だけが真人間という気がします。
多田和博の装幀も決して上手くいっているとは思えません。PPS通信社の写真もイマイチ。